DNDメディア局の出口です。やや、何か微妙に、世界の空気が変わりつつあ るのは、緑の初夏の訪れのせいばかりではないらしい。下落の速度が急激だっ た世界経済の長く暗いトンネルの先に、ひとすじの光が薄ぼんやりと見えてい るのではないか。それならとそれほどの根拠もないのですが、ここは先走って 「復調宣言」を打ち鳴らしても、それほどの責めを受けることにはならないで しょう。
ここ数日、企業の09年3月期の深刻な決算の最終赤字が発表になっています。 が、新年度に入って1ケ月ちょっと、政府の追加の補正予算への期待もあって か、「下げ止まりから復調の兆し」が感じられます。東証1部上場400社の動向 を「明暗双方の材料が綱引している状態」(朝日新聞12日付)と、うまいこと を言う。
まあ、このメルマガを書くにあたって、一応、何人かにヒアリングを試みた のです。知り合いのアナリストに、ねぇ、やっと明るい兆しじゃない、ってさ ぐりを入れると、日経平均株価が半年ぶりに一時9500円台を回復という株価の ことなら単純に割安感から反発しただけでしょう、また下がる、とそっけない。 大学発ベンチャーに関わる経営者の一人は、とてもとても復調の兆し、なんて 言える状況じゃあない。VC(ベンチャーキャピタル)は総じて腰砕けで、昨年 からの資金難はさらに悪化し、なにひとつ克服できていない。倒産件数も多い でしょう、と憤然とした感じでした。
メディアに籍を置く知人は、米ゼネラル・モーターズ(GM)の破綻懸念や米 史上最悪の失業者の数字を基に、「新型インフルエンザのダメージもあって、 その考えは甘〜い」って一蹴されてしまいました。その指摘を裏付けるように 昼のNHKラジオは、GMの経営陣6人が自社株20万株を2900万円で売却していたこ とが発覚し、このためGM株が急落、終値が1株15セントと1933年以来76年ぶり の安値となったことを伝えていました。経営に携わる役員が見切りをつけた格 好で、政府の追加融資の決定を前に、いっそう破綻の可能性が高まった印象で した。ふ〜む、獅子身中の虫というか、組織の瓦解は、内部から起こるのです ね。
しかし、あれこれ探ると、いくつかその景気浮揚のきっかけとなる明るい材 料が目にとまります。
内閣府が12日発表した3月の景気動向指数(CI、2005年を100とする)は、数 か月先を示す先行指数が76.6と前月比で2.1上昇したという。この指数の改 善は6ケ月ぶりで、新聞は「下げ止まりの兆しがみられる」と内閣府の分析を 伝えていました。経済産業省がまとめた3月の鉱工業生産指数も前月比1.6上昇 とこれも6ケ月ぶりにプラスに転じました。昨年秋からの急激な減産で製造業 の在庫調整が進み、「生産や出荷動向に底入れの兆しが出てきたためだ」と日 経は解説していました。
その日経は、やはり本日の国際面で、「新興国株価回復広がる」の見出しで 「年初から上昇を続ける中国の上海株に加えて最近はインドやロシアで株価が 急回復」と伝え、過度な金融不安が後退し、投機資金が流入しているらしい。 が、その半面、最近の株価急伸への警戒感も指摘されている状況です。
これに呼応してそれほど急激な回復は見込めないものの、中国向け輸出など 明るい兆しが見えてきているという。その12日の朝日新聞によると、住友化学 の広瀬博社長は、「中国での家電製品の購買意欲は高まっている」と需要回復 への期待感を示し、液晶に使うフィルムの引き合いが増加し、この4月から台 湾、韓国の拠点での生産は1−2月が6−7割減だったものが今はフル稼働という。
また東証1部上場の10年3月期見通しについて、新光総合研究所の集計を見る と、決算発表済み400社の純損益の合計値は、09年3月期は81%の減益だったの が、10年3月期は50%の増益の見通しで、09年3月期で多額の計上を強いられた 株式の評価損が減る要因が大きい、と分析しています。
国内の状況は、どうか。薄型テレビやデジタルカメラなどデジタル家電の店 頭平均価格がこの3ケ月連続で上昇し、32型液晶テレビは昨年12月と同水準に まで持ち直し、「価格が底打ちの兆し」とは、12日付の日経新聞でした。
この15日から開始される省エネ家電の購入を促す「エコポイント制度」も追 い風になりそうです。「省エネラベル」で4つ星以上の基準を満たすエアコン、 冷蔵庫、テレビの3品目を柱に、4つ星がなくても基準と同等の性能がある商品 を一部含み、対象は約2000機種になるという。付与するポイントを機種ごとに 決め、地上デジタル放送対応のテレビは、最大で3万6千円のポイントが得られ る、として、本日の新聞は、エコポイントの一覧を表にして掲載していました。 この制度は2010年3月末までの時限措置で、貯めたポイントはその後も全国で 商品券として利用できる見通しという。
そしてエコといえば自動車産業、依然と厳しい状況には変わりないが、エコ カーへの買い替え促進で息を吹き返しているようです。朝日の経済コラム「経 済気象台」、見出しが不況脱出のキーワードとする「エキサイティングエコ」 で、「いくら補助しても消費者が反応しなければ効果は見込めないし、魅力的 なエコカーでなければ、販売拡大は望めない」として、斬新なデザインやス ポーティーな動力性能、高度な安全性能が求められる、と指摘していました。
が、ご承知の通り、09年度補正予算で買い替え補助のエコカー減税が盛り込 まれ、13年以上使用した車から一定の環境性能を持つ新車に乗り換えると、登 録車で25万円、軽自動車でその半額が補助されます。今年度から始まった自動 車取得税、重量税、自動車税を環境性能に応じて減免する制度は、3年間継続 されます。環境性能に優れた車への買い替え補助を厚くし、車から二酸化炭素 排出抑制を強化する、という施策は、世界不況の打開策として各国で導入が急 がれているようです。
その結果なのでしょう、各社の受注の好調ぶりや新車投入計画から見て、今 年度の環境対応車の国内の乗用車販売台数に占める比率は1割を超え、販売台 数で22万台を超える可能性が高まってきたという。この11日に明らかになった 4月の新車販売ランキングでは、ホンダの新型ハイブリッド車「インサイト」 が初の首位になり、ホンダは国内販売台数が前年度比5倍、そしてトヨタも5割 増の見通しで、やや出遅れ感の日産は、10年秋から電気自動車(EV)の生産を 開始する計画です。低迷する乗用車販売を環境対応車が下支えしそうな勢いだ という。
では、金融危機の震源地、米国の事情はどうか。米銀行19のストレステスト (健全性審査)が終了し、当面の金融不安懸念は遠のいたものの、S &P500種 の株価指数が先週末までに1938年以来となる8週連続の上昇を記録、米株式相 場の上昇が続いている、という。市場には反転の兆候が現れ、異常な高値に逆 に警鐘を鳴らす声が上がり始めている、とBloombergは伝えていました。
加えて、世界トップの輸出を誇るイタリアのアルマーニ社などの家具メー カーでは、6ケ月に及ぶ低迷期を抜けて需要が回復し始めているという。4月27 日までミラノで開催の世界最大規模のインテリア・家具の国際見本市で、イタ リア家具工業連合会のロザリオ・メッシーナ会長は「3月になって回復が見え てきた」と語ったそうです。また、バーゼルの国際決済銀行(BIS)本部で開 催の主要国の中央銀行の総裁会議は11日、「世界景気が下げ止まりつつある」 との見方で一致(日経)、議長役の欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、 欧米の一部の大手金融機関の業績が回復したことに触れて、「成長率は下がっ ているが、すでに好転しているものもある」と述べて、金融市場での信用不安 がやや収まったとの」見方を示したのです。
景気の明るい材料を拾うと、なんだか本当に景気が回復基調にある気分にな ってきませんか。大和総研シニアエコノミストの熊谷亮丸氏は、「急激な減産 の反動や政府の経済対策効果で目先の景気は底入れ感が出てくる公算が大きい が、(略)米国が回復に向かう2010年度後半ぐらいにならないと、本格回復の 道筋も見えてこないだろう」(日経)と見通しを語っていました。
さて、大学発ベンチャーの、とくにバイオなど上場企業のニュースリリース や関連記事を発信する、DNDiNNのコーナーをご存知でしょうか。昨年10月から DNDサイトのトップに常設し、早や6ケ月が過ぎ、ざっとそこに掲載されたニ ュースリリースはざっと120本以上に及び、月平均20本のペースとなっていま す。このコーナーのバックナンバーを見れば、どんな大学発ベンチャーがどの ような事業を展開しているかが、その多彩な活動がひと目で分かります。ご覧 になってください。凄い情報が満載です。
主な内訳は、「新商品・サービス」、それに「業務提携・M&A」がそれぞれ 29件。業務提携では、北海道大学発ベンチャーの株式会社「イーベック」(本 社・札幌、社長、土井尚人氏)が昨年10月、独自の完全ヒト抗体をドイツの製 薬会社に約5500万ユーロ−でライセンス契約を結んだことがアップされ、メル マガでも紹介して大きな反響を呼びました。最近では、大阪大学医学部教授で 創業者の森下竜一さんが取締役のアンジェスMGが森下仁丹と共同研究開発で締 結し、抗菌作用のある機能性ペプチドを応用した新製品を開発していくという リリースが取り上げられています。
森下さんと森下仁丹の関係は、なんのつながりがあるのか。森下さんのブロ グ(http://blog.m3.com/yomayoi/)を読むと、「学生時代からよく間違えられま したが、別に親戚でもない」そうです。
「新技術・特許」は最も多く40件余り、これも例えば、高分子ミセルナノ粒 子技術を基盤にがん治療薬の開発に特化する、ナノキャリア(本社・柏市、社 長CEO、中冨一郎氏)が、東京大学TLOからの独占的な実施権の許諾によってミ スプラチン誘導体ミセル(NC-6004)の物質特許を取得とか、名古屋大学教授 の上田実氏が深く関与した再生医療のフロントランナー、J-TEC「ジャパン・ ティッシュ・エンジニアリング」(本社・蒲郡市、社長、小澤洋介氏)が、自 家培養表皮の製品「ジェイス」を愛知医科大学病院へ提供し国内初の移植を行 ったことなどがアップされています。
J-TECが開発した製品は、平成19年10月に厚生労働省からヒト細胞組織利用 医療機器として承認された我が国で初の画期的なもので、重症熱傷患者に初め て提供されたのです。この他、自家培養皮膚の用途は広がると思うのですが、 その適用の範囲に制限があって、もうひとつ飛躍的なビジネスへの道を開くこ とにつながらない、というのは残念なことです。なんらかの規制緩和が求めら れるところです。実際、その治療の状況の詳細を取材しておかなければならな いと思いました。
関心が高い大学発ベンチャーの新規設立や株式上場(IPO)といえば、やや 低迷で5件でした。例えば、先月、千歳科学技術大学と日立系のベンチャーフ ァンド「ネクスト・ハンズオン・パートナーズ」が、教育システムの研究開発 を手掛けるシーイー・フォックス(本社・千歳市、社長、杉山康彦氏)を設立 したとか、ジャスダックNEOに東京大学関連のバイオベンチャー「テラ」(東 京都・新宿区、社長、矢風Y一郎氏)が3月26日に上場したというものです。
テラは、がん免疫療法の一つである「樹状細胞ワクチン療法」を中心に、化 学療法(がん休眠療法)、放射線療法(低侵襲放射線療法)等を組み合わせる ことで、効率よくがんを攻撃することを目指すといい、その独自のがん治療技 術・ノウハウである「アイマックスがん治療(免疫最大化がん治療:Immune ma ximizing therapy for cancer)」を契約医療機関に提供するビジネスモデルで その業績も株価も順調です。(http://www.tella.jp/)
このメルマガをあつらえるのに久々にこのDNDiNNを読んでいたら、おやっと 思ったヘッドラインが目に留まりました。「業務提携/M&A」の項で、日付が 昨年10月7日でした。「新型インフルエンザDNAワクチンの開発販売権取得へ」 というアンジェスMGのリリースでした。北大の「イーベック」の完全ヒト抗体 の巨額アライアンスに目を奪われて、その隣のアンジェスMGのニュースを見逃 していたのかも知れません。
内容は、アンジェスMGが米国のVical社と同意書となるLOI(Letter of Inte nt)を締結し、新型インフルエンザDNAワクチンの国内の開発販売権を取得す る方向で合意した、というのです。なんといっても昨年の10月の締結ですから、 なかなか先見の明があるのですね。
新型インフルエンザのウイルスが同定されてからワクチンの製造に6ケ月か かるとされています。このため、いまからだと、季節性のインフルエンザワク チンの製造と重なって供給が思うように行かない懸念がでてきます。が、Vica lのインフルエンザDNAワクチンは製造期間が6−8週間と優位性があり、新型イ ンフルエンザへの対抗策になりうる、と期待されているのです。米国で実施さ れた第1相臨床試験の初期成績では、安全性が確認されており、強毒のH5N1亜 型インフルエンザウイルスに対する抗体産生が認められている、と当時のリ リースに書かれていました。さしずめ、今回の新型ウイルスはH1N1の弱毒型と いわれていますが、最新の情報によると、Vical社は、H1N1に関してUS NAVYと 提携し、「as quickly as possible」(可能な限り最速で)という表現で臨 床試験を行う、と発表しています。
その後のDNAワクチンの開発はどんな具合で進んでいるか、今回の新型イン フルエンザに対するDNAワクチンの効用はいかなるもので、その製造はどのよ うな段階にあるのか、今後、提携先のアンジェスMG同様、目が離せなくなりま したね。
しかし、現実はどうなっているか、といえば本日発売の週刊文春の特集「豚 インフルエンザ襲来 日本の重大欠陥」を読むと、そのワクチン製造に必要な 有精卵が絶対的に不足し、卵の供給体制以外にも不安があるという。現在、イ ンフルエンザワクチンを製造しているのは、阪大微生物研究所、北里研究所な どメーカー4つで、今回の新型インフルエンザに対応した卵を準備するのは大 変で、ワクチン製造のラインの増設も困難が伴う、と指摘、H5のパンデミック ワクチンはこの2年間で2000万人分を備蓄するが、国の備蓄目標は3千万人分、 それにワクチンの有効期限がおおよそ3年しかない。新型ワクチンの製造能力 を分散すれば、"本命"の強毒の鳥インフルエンザに対する備えが脆弱になると いう事態を招くのです。
誌面は、そこで、興味深い問題を指摘していました。そもそもなぜ、日本の 大手製薬会社はワクチン製造を行っていないのか、と。へぇ〜ですね。その理 由は、利益率が低いうえ、使わなかったワクチンが病院から問屋を通じて返却 されると、廃棄コストがかかり、回収率が2割を超えると赤字になる、と製薬 メーカーの関係者の談話を紹介していました。いやあ、製薬会社が独占してい るのか、と思っていましたが、実際は逆だったのですね。
そこで森下さんのブログを拝見すると、ワクチンの開発は昔の古いしきたり で決められたメーカーが行う「統制方式」が、今回の未曾有の危機で大きく門 戸が開放される見通しだという。厚生労働省は09年度の補正予算案にバイオと 先端医療研究開発関連予算が2000億円を超え、その目玉の一つが、新型インフ ルエンザワクチンの開発・生産体制の強化で、1279億円を投入するという見通 しを伝えていました。
そして、現在インフルエンザワクチンを製造している既存の4社以外の企業 へもワクチン製造の資金提供の道が開かれる見込みで、その効果と利便性の高 い「第3世代ワクチン」の開発にも資金を供給する計画も盛り込まれており、 「DNAワクチンへの注目度も上がりそう」と述べていました。
連休前から深刻な状況になっている新型インフルエンザ、先月25日のニュー スから20日余りで世界での感染者が5000人を突破し、こうしている間にも6000 人を超える懸念があり、世界的大流行の兆しです。わが国でも成田空港での徹 底した"水際作戦"でも防ぎきれず、その難しさをあらためて浮き彫りにしまし た。パンデミック阻止という世界注視のこの課題に大学発バイオベンチャーの アンジェスMGなどが実績を上げられることを期待したい。
さて、どうなることやら〜といえば、民主党の小沢一郎代表の電撃辞任表明 に伴う、後継の代表選挙。清新の岡田克也副代表か、洗練の鳩山由紀夫幹事長 か、16日に決まります。誰になっても挙党体制で一致団結して向かわないとい けない、という小沢代表の辞任メッセージの通りです。そして、この夏以降の 衆院選で、本当に政権交代が起こるのか、どうか。本命視されている鳩山さん の言動をみていると、党内に向けてしか、発言していないようにみえます。大 事なのは、党内じゃない気がします。
さて、小沢さんの辞任で影が薄くなったロシアの首相、プーチン氏。新聞は、 日本とロシアの原子力協定の締結などで合意し、エネルギーや環境、安全保障 といった分野で新たに協力を深める、ということですが、技術と資源の連携は、 両国の発展に不可欠と思います。が、プーチン氏の慎重な物言いと、その警戒 心をどう読むか。外交上手のロシアを甘く捉えちゃいけませんね。北方領土の 返還について7月のサミットで個別に議論することになったことですが、地元、 根室に4年過ごした経験からすれば、わが国政府の外交の非力さには言葉があ りません。期待していないから、地元には失望も落胆もないのです。さて、ど うなりますことやら…。