DNDメデイア局の出口です。民主党の小沢一郎代表は、やがて追い詰められ て辞めざるをえないのでしょうか。その発言が、強気一辺倒から神妙なトーン に変化してきたのは、世論を意識した戦術転換なのかもしれません。40年のキ ャリアと威信をかけた悲願の政権奪取、その夢の前に立ちふさがる最後の政敵 から、どう逃れられるか。小沢代表の進退は、今後の政治の流れを変えること になるかも知れません。
政界を揺るがす「違法献金」疑惑は、いま視界ゼロのタイトロープ、次はど っちに転ぶか、与野党のいずれも捜査の展開を固唾をのんで見守る、という極 めて緊迫した状況が続いています。その成り行き次第では、政局の風向きがガ ラリと変わるからです。
小沢代表の会計責任者で第一公設秘書の逮捕から一週間余り。新聞各紙は社 会部を中心に多くの記者を投入して総力戦です。連日、それも朝夕刊、西松建 設と小沢代表の資金管理団体「陸山会」との政治献金の流れの全容解明にその 紙面の多くを費やし、「献金はダム受注目的」、「建設4社も迂回献金か」 (朝日)などとその問題の核心に迫っています。
現場は、持久戦覚悟で、これからが体力勝負です。次の逮捕者をめぐる、そ の捜査状況と記事出稿は、熾烈な戦いになるハズです。どなたかが、「検察当 局の(マスコミへの)リークは目に余るものがある。世論操作がある」との理 由から検事総長の証人喚問を検討する、という考えを示したそうですが、これ は全くの的外れ。それこそ、言論封鎖の懸念があります。考えれば、どの記事 がリークで、そうじゃないか、そんな分別は困難ですし、メディアの現場をま ったく知らないということの裏返しに聞こえます。
地検特捜部の幹部周辺を嗅ぎまわって記事ができるというほど取材は単純で はありません。捜査担当の中枢のところは入れないし、会うことすら困難なの ですから。取材範囲は、検察だけじゃありません。ゼネコン、談合関係者や内 部密告者からの情報、それに足で稼いだ事実の断片や、これまでの信頼のスジ からもたらされたヒントを重ねて、ある一定の推理と事実の突き合わせという、 まるでジグゾーパズルのような作業を繰り返すのです。それも締め切り時間に 追われ、各社の動きを睨みながらの綱渡りとなります。せっかく準備しても陽 の目を見ないことだって少なくないのです。予定していた記事が他社に先をこ されるという痛い目にも遭います。
情報の漏えいこそが、地検といわず捜査当局にとって致命傷となるので、情 報の管理は徹底しています。なかなか漏れてこないその壁を突いていくのです から、余程の情報ルートをもっているか、信頼があるか、なのです。当局だっ て、新聞各社の動きをチェックしているに違いありません。
「今日にも逮捕」なんて書き飛ばして核心を握る容疑者に"逃亡される"危険 もあるわけです。新聞は、各紙連日一面トップを飾ってすこぶる活発に特ダネ、 自社ダネを連発しているように思えます。が、この先の筋書きが一向に見えて こないのはどういう訳でしょう。
または、今回の捜査状況について、「検察のこんな酷い捜査は前代未聞、何 をやっているのか」という厳しい批判の声も聞こえてきます。その問題の輪郭 を、東京地検特捜部のOBで弁護士、桐蔭横浜大学大学院教授の郷原信郎さんが テレビ番組に出て、やや抑え気味に指摘をしていました。
テレビ朝日の討論番組「サンデープロジェクト」で、司会者の田原総一郎さ んが「あんな、いきなりの逮捕はない、だから(地検特捜部は)何を考えてい るのか、検察ファッショじゃないか、と。今回の逮捕劇は相当おかしいと思う。 何か、モノを握っていないと危なくてできない。ところで郷原さんは何を握っ ていると思いますか、検察は?」と、いつもの挑発的なものの言い方で迫るの です。
首をかしげながら郷原さんは、「そこは私には想像できませんね。(何か握 っている)そう考えるのが検察の常識だとは思いますが、それはちょっと、想 像できませんね」と言葉を選んで、明言を避けるのです。
スタジオに居合わせた評論家やジャーナリストから質問が飛んで、要するに、 公設秘書が逮捕された容疑が、政治資金規正法の虚偽記載という微罪で、それ も形式的なもの。この罪の軽さに比べて、これほどまで政局にダメージを与え たリスクを考えると、これで終息するなら茶番だし、東京地検特捜部の威信が 問われることになる、というのが地検特捜部への批判の要旨でした。
そこでスタジオのやり取りは錯綜します。焦点は小沢代表に捜査が向かうの か、その容疑は口利きで利益を得ることを罰したあっせん利得処罰法なのか、 本当にそれはありうるのかは、それははなはだ疑問と意見もあって、政治資金 規正法で定める会計責任者が有罪ならば、その政治団体の代表も責任が及ぶ、 と指摘する議員の発言に対して、郷原さんが珍しく自ら口をはさみ、一般の企 業の場合は選任または監督なので監督責任だけで責任がとれるのです。しかし、 政治資金規正法の場合は、「選任及び監督」となる。そのため、両方に過失が なければならない。選任に過失があるという場合は、最初からまともにやれな いような人を選んだということを立証しないといかんわけです、と、その罰則 の適用の難しさを丁寧に説明するのです。
また、西松建設のダミーといわれる政治団体については、政治資金規正法で は、資金の拠出者が必ずしも寄付者とは限らない、また資金の拠出者を寄付者 として書くということを(政治資金規正法で)要求していないし、罰則の適用 対象もあいまいなのだから、逆に「どこにでも(捜査が)入っていける、非常 に危険な(法律な)のです」と指摘し、赴任の長崎地検当時からさんざん検討 しましたが、「それは使えません」と、郷原さんは語気を強めていました。
流石の田原さん、そこで「検察は何を考えているのか、こんな乱暴な事をし て…」と再び、郷原さんにその真意について探りを入れるのです。
「ウ〜ム、だから常識的に考えると、他に何かあるのじゃないかと思いたい ですね」と含みをもった発言に終始するのです。この辺のニュアンスを私の印 象で言うと、何にもないのに、どうしてこんな危険な捜査に踏み切ったのか、 という地検特捜部への痛烈な批判と読み取れました。
知り合いのジャーナリストにその辺を聞いてみると、いやあ、考えられない 捜査です、と郷原さんと同様の感想を持つ。そして、どうもいきなりの捜査で ずいぶん批判が渦巻いてしまって、その勢いで自民党への捜査を匂わして民主 とのバランスをとってみたり、もうすでに明るみにでているダムの話を誇大に 印象づけたり、と新聞へのリークや世論を味方につけることにやっき、という 感じですね、と冷ややかでした。
それでは、小沢代表が3月4日に臨んだ記者会見での発言、「強制捜査は普通 の従来のやり方を超えた異常な手法、政治的にも法律的にも不公正な国家権力、 検察権力の行使だ」という訴えが、まことに正論という見方ができます。
しかし、こんな検察批判の空気を一掃したのが、今週月曜日のTBS朝のみの もんたさんの「朝ズバッ!」に出演した評論家の立花隆さんでした。田中角栄 金脈問題を糾弾した事情通の立花さんが、この小沢代表をめぐる"金権体質"に ついて独自の論評を加え、小沢代表を田中角栄の秘蔵っ子としてその金権体質 をそっくり引き継いでいる、と糾弾していました。テーマは「ロッキード事件 から33年、どうする政治とカネ」。
あの独特の言い回しで、ズバッと鋭い評論を続けました。「西松が効果ゼロ のことに金を使うことはありえない。その効果は、金を出す側はちゃんと知っ ています。金を受け取る側も口には出さないが、お互いにわかっている関係が あり、そういうあやしい空気というのがある」と指摘し、「小沢のあの逃げ口 上は、逃げ口上でしか考えられないから、世間の人はほとんど信用できないと いう風に思うのです」と手厳しい。
そして、みのさんが小沢代表のこんな弁明を読み上げて、立花さんに意見を
求めていました。
「寄付は、政治団体からの寄付なので、事務的に受けたと思います。このお
金はどういうお金ですかということは一般社会でもせっかくの好意に対して詮
索することはあり得ないのです」(小沢氏)。
みのさん、「この主張は(法的に)通りますか?」と聞くと、「ある程度は 通りますね。形式を踏んでいますからね。ただ、形式だけではヤバイというの が今の状況でしょう。国民の目からみてどうなのか。国民がそうは受け取らな い。つまり、この逃げ口上を逃げ口上としか思わないし、そういう小沢の弁明 をそのまま受け取る人が少ないという結果が世論調査をみてもそうです。だけ ども、やめるかどうかという点で微妙にわかれる」と立花さん。
政権交代を目前に崖っぷちの小沢代表VS難しい捜査の突破口を探る東京地検 特捜部。なにより次の逮捕いかんにかかっているような気がします。次も小沢 代表周辺に及べば、民主内部から小沢代表の早期辞任を求める声があがるでし ょう。今以上に世論も厳しい目をむけてきます。自民周辺に捜査が及ぶとなる と、一時的には双方痛み分けだが、与党の政権内部が浮足立ってしまうかもし れません。
しかし、それ以上の動きがないとするなら、悩ましいのは東京地検特捜部と いうことです。その逆風を、どういう筋書きではね返すことができるか、その 推移を見守るしかありません。しかし、いま視界ゼロ、依然と手探り状態が続 いているようです。
最後に、テレビコメンテーターで、いつも感心させられる作家の吉永みち子 さんのコメントをご紹介します。テレビ朝日の朝の番組でした。
「国民がなぜ納得していないのか、その根源に政治家の方々が迫っていない
と思う。(法に)のっとってやっている、という(釈明を)聞いていて思うの
は、この言葉をどれほど聞いたことでしょうか。でも、それっていままでの政
治とカネの問題をより巧妙にして、それにのっとっているだけではないのか、
と。だから土壌としては、政治につながっている問題なのです。
だから、相手のエラーと考えるのも間違っているし、これがどこまで及ばな
いか、というところで判断するのも間違いだし、国民の批判の声が大きければ
動くし、でなければこのままで行こうか、という姿勢が両方(与野党)に見え
てくることに対して、私たちはさらに深い失望を政治に覚えているということ
を深く受け止めてもらいたい」と。
以上
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◇連載は、経済産業省の石黒憲彦さんが、『志本主義のススメ』129回で「DND 登録ユーザー10,000人突破のお祝いを綴ってくれました。タイトルは文字通り 「祝一万人突破」。石黒さん、ありがとうございます。
石黒さんは、今回は、このサイト発足に関わった立場から経緯や思いなどを 綴ります、として、DND事業の発端、経緯、そのスタート時にお世話になった 方々の紹介から、DNDになぜ、私が関わるようになってそしていま現在、苦し い台所事情の中で踏ん張り続けているか、を振り返ってくれています。
うれしいやら、恥ずかしいやら…。思いだせば、クライマックスは2003年2 月、新聞社からの出向期間2年が突如、新聞社側の事情で1年になって"帰還命 令"がだされてしまいます。その時、石黒さんに説得され、私も重大な決意を することになるのです。まさに、その時、歴史は…なのです。帰還命令が出さ れず、2年の任期を全うさせてくれれば、会社を早期退職する理由はなかった かもしれません。そうなれば、このDNDはどうなったのかしら…。
当時、ある先輩から、アドバイスを受けていました。世の中、損得だけで選 んじゃいけない。岐路にたったら、あえて難しい道を選ぶ方がよい、というの です。それから6年です。
◇もう一つは、黒川清氏の「学術の風」のコラム。珍しく、ビジュアルな作り となっています。オホーツクの大自然、流氷、そして飛来する、強く高貴なワ シの雄姿、いやあ、圧倒的なパノラマを見るようです。
以下は、最新の黒川先生のブログです。素晴らしい写真です。騒々しく堕ち た政治の醜聞から一時、心を解き放って、こういう雄大な自然の営みに心をあ ずけるのも意味あることかもしれません。オホーツク周辺は、高校時代を入れ て4年間過ごした私の第二の故郷です。
http://www.kiyoshikurokawa.com/jp/2009/03/post-e865.html