DNDメディア局の出口です。せっかくの舞台とはいえ、それは、わが子の名 前がアナウンスされた瞬間から、もう涙があふれて極まっていたのかもしれま せん。どんな境遇にあっても、諦めない。その母と子、家族の絆があるなら、 いつかその幸運の扉が開いて、夢は叶う、らしい。
♭落ちる涙は、積もることのない、まるで海雪…紅白歌合戦で、デビュー曲 の「海雪」を熱唱した人気の演歌歌手、ジェロさん。アメリカから久々にかけ つけてきた母親の晴美さんが、客席で終始人目をはばからず涙をぬぐっていま した。祖母の顔をプリントしたシャツ姿のジェロさんは、歌い終わって深く一 礼しゆっくり頭を上げると、唇をふるわせて懸命に嗚咽をこらえていました。 二人の表情がテレビで交互に映し出されたシーンは感動的で、いまでも目に焼 きついています。
ジェロさんは、ヒップホップ系のファッションという演歌に似合わぬ出で立 ち、それにコンピューターエンジニア、あるいは日系3世というキャリアも、 なにもかも異色の登場です。まだデビューして一年も経たないのに、レコード 大賞では最優秀新人賞などを受賞し、一気にスターダムにのし上がってきまし た。確かに、うまい。
プロの歌手に歌がうまい、って言っちゃ失礼ですね。ほんと、それほど好き じゃなかった演歌が、このところ、のびやかで純な氷川きよしさん、ジェロさ んら実力派の登場によってつい引き込まれてしまいます。カバー曲の美空ひば りさんの「越後獅子の唄」、石川さゆりさんの「津軽海峡冬景色」、そしてジ ェロさんお気に入りの坂本冬美さんの「夜桜お七」など、その演歌の心が、 切々として胸に迫ってくるのです。
なぜ、こんなに日本人の心を揺さぶるのか、母子の熱い涙にいったい何があ ったのか、その訳が気掛かりでした。が、先日のNHK朝のニュースを見ていた ら、紅白は、二人にとって悲願の舞台だった、とそのいきさつを幼いころのお 宝映像を盛り込んで紹介していました。
5歳の頃、カラオケでマイクを持つジェロさんが、なんと、美空ひばりの 「ひばりの花売娘」を歌っていました。
♭花を召しませランララン 愛の紅ばら恋の花 もゆる心のささやきが… それをやさしく、艶っぽく、ひばりさんを真似る透き通った声で、可愛らしく 歌っているじゃありませんか。そのホームビデオは、祖母の多喜子さん、そし て晴美さんらが歌う姿もとらえていました。多喜子さんが、演歌好きで、ジェ ロさんに教え込んでいたのですね。お上手ね、って祖母にほめられるのがうれ しくて、ジェロさんの歌に熱が入っていくのです。
戦後、横浜で、祖母は黒人のアメリカ兵と結婚します。が、国際結婚が珍し い時代、悲しいことに周囲から心ないイジメを受けることになり、晴美さんは 13歳で逃げるようにアメリカに渡り、それ以来、「日本のことは心の奥にしま い込んで暮らしてきた」(NHKの番組から)という。なんだか、これも辛い話 ですね。
アメリカでは、祖母と母が、部屋のカラオケで演歌を歌い、遠い故郷に思い をはせていたようです。その姿をみながら、ジェロさんは、将来、大きくなっ たら日本で演歌歌手になって二人を喜ばせたいと思うようになり、紅白出場を 約束し、日本に渡ったのだという。米国の名門、ピッツバーグ大学卒業後、コ ンピューターエンジニアへの期待があったのだが、2003年に来日、2ケ月目で、 和歌山県で開催のNHKの「のど自慢大会」に出場し、合格するのですね。その 時の歌が「夜桜お七」でした。
それから苦節5年、スカウトの目に留まり、2年のボイストレーニングなどを 経てついに満を持したように昨年2月、歌手デビューしました。ジェロさんが、 振り返ってこういいます。
お母さんは日本が好きですが、でも、日本はお母さんのことを好きになって くれなかったかもしれない。お母さんには、(日本で)夢があったのだと思う。 そのお母さんの代わりに、僕が自分の夢をみせてやりたい、と。
ジェロさん、偉いねぇ。母を受け入れなかった日本で成功することで、親孝 行をしたい、というのですから、そのジェロさんの生き方そのものが感動を呼 び、それが演歌の極み、日本の心となるのかもしれません。
そういう母に贈る、その思いを吹き込んだ歌が、最近、NHKの「みんなのう た」で流れています。ご存知でしょうか。「晴れ舞台」です。母への思いを作 詞家に伝え、特別に書いてもらったのだという。作詞・作曲は、中村中さん。 中村さんといえば、性同一障害を告白し、一昨年の初出場の紅白では紅組から 女性として「友達の詩」を歌いました。中村さんも女手ひとつで育ててくれた 母親への思いを胸に秘めているのですね。その「晴れ舞台」の歌詞で、お互い 通じ合うところがあるのかもしれません。
「晴れ舞台」。この曲のメロディーを聴いて歌詞をなぞると、ジェロさんの 紅白の舞台での感動的なシーンがまざまざと思い起こされます。13歳でアメリ カに帰ったまま、それ以来、口をつぐんで日本を封印した、その理由を彼は、 子供ながらにしっかりとまぶたに焼き付けているのです。
その歌詞の、いくつかのシーンが印象的です。
〜昔話をねだっても、「忘れたわ」としか言わなくなった母ちゃん、でも、 おいらは知っている。灯りもつけずにオイオイと夜泣きするのを…とか、擦り 切れるほど繰り返し聞いた美空ひばりの「越後獅子の歌」、母ちゃんは、おい らの歌だけが「宝物だよ」と笑ってくれるから、おいらもくよくよしちゃいら れない…とか、そして、ライトを浴びて呼ばれる名前は、母ちゃんにもらった 名前だよ。忘れちまった昔の代わりに夢をみせてあげたい、もうじき幕が開く よ、おいらの姿、見ててください…とか。
「晴れ舞台」は、ジェロさんが、母親のそばで感じた母の夢だったのかもし れませんね。母が喜ぶから、っていう優しい思いは、国境を、人種を、時代を も超える、尊いことのように思えてきました。
幾度となく、理不尽なイジメにほんろうされ、打ちひしがれヤケになったけ れど、それなのに愚痴をこぼさず耐えて、そして努力して悲しみを越えた先に、 こんな眩しいほどのステージが用意されているとは、思いもよらぬことだった のではないでしょうか。祖母、母、そしてジェロさんと続く3代の矜持、それ は演歌でつなぐ日本の心なのかもしれません。
もうひとつの「晴れ舞台」。黒人初の米国大統領に就任したバラク・オバマ 氏の就任式は、まさに圧巻で世紀の晴れ舞台となりましたね。きっとアフリカ とアメリカのふたつの大陸をまたぐ父と母、オバマ氏が2歳の時に家を出て以 来、その姿をみせることがなかった父も、育ての親代わりの祖父母もみんな仲 よくそろって天国から見守っていたことでしょう。
オバマ氏は、この歴史的な舞台で、まず、米国の抱える課題の深刻な現実の 認識を示し、「今日、ここに集まったのは、不安を持つためでなく希望を持つ ためで、対立でなく団結です」と述べ、そして「What is required of us is a new era of responsibility!」というフレーズで、私たちに今求められるの は新しい時代の責任感です。と訴えました。それは国民ひとりひとりが国や世 界に対して義務を負い、義務を喜んで受け入れる事です。と強調していました。
なお、NHKは、「日本人の心を歌いたい」−演歌歌手ジェロの1年−を2月27 日(金)夜10時から、放映する予定です。これも楽しみですね。
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■学長からのメッセージは、東京工業大学の伊賀健一学長から、「新しいパラ ダイムを拓くのは−知技志−」です。大学は、「知の砦として、社会が突きつ けられた課題の解決につながる新しい価値を生み出していかなくてはならな い」とし、それが「我が国の発展を学術、人材育成でリードしていく大学の存 在理由」と喝破しております。
また、新しい産業のパラダイムシフトの進展は、「それは、感性での勝負で す。例えばディスプレー,その精緻さと美の感覚は日本のものであり,実現す る技術はここにありというわけです。ベンチャーも今は厳しい状況でしょうが、 今にチャンスが来ます」と希望の一端を伝えています。
そして、「東工大が動く 世界が変わる」をキャッチフレーズに、「これま での伝統と実績を糧として、さらなる飛躍をはかるべく、国際的に活躍できる 人材と社会的課題の解決に挑戦し、理工系の知により我が国の発展を先導す る」と断じていました。東京工業大学は、大学発ベンチャー設立で常時トップ 10入りを果たし、19年度は累計でみると52社で全国9位、単年度は7社で堂々の 2位に入りました。最近では、ベンチャーとしての水準を満たす東工大学発ベ ンチャーに付与する「認定書」は、50社余りに達しているそうです。今後の展 開に着目です。
■連載は、経済産業省の石黒憲彦さんの「志本主義のススメ」は第126回の 「経済はナショナリズムで動く」です。冒頭、産業構造課課長補佐の中野剛志 氏の著書「経済はナショナリズムで動く」(PHP研究所2008年)を舞台回しに、 その論文の骨子を主に、経済ナショナリズムの主たる関心は、「ステイトそれ 自体の利益の追求ではなく、ネイションあるいは国民国家の利益の追求にあ る」というのが彼(中野氏)の立場で、また、「経済ナショナリズムは、保護 貿易と産業政策を主張し、自由貿易を否定するもの」と考えるのが二つ目の誤 りであり、イギリス・サッチャー政権やアメリカ・レーガン政権で「経済自由 主義を自称する者の多くが、実は経済ナショナリスト」であり、「経済ナショ ナリストは、国力増強に貢献するとみなされるかぎり、自由主義的政策を含む あらゆる種類の経済政策を採用する」と、石黒さん流に解説を加えていました。
さらに、深く突っ込んで、「国民国家とナショナリズム、そして経済の相互 作用、本当の国力はなにか、国力を強化できる経済ナショナリズムの政策とは 何か」などについての考察も展開している、という。
続いて、中野さんがまとめたという、20日就任のオバマ大統領の米国再生・ 再投資計画を踏まえて下院民主党が15日に発表した2年間で8,250億ドルと いう景気対策の中身を整理して紹介していました。これは重要です。
■連載は、米国特許弁護士の服部健一さんの「日米特許最前線」の第44回は 「100年に一度の大不況」。服部さんは、今般の世界を覆う、金融危機、経済不 況の烈風は、長い歴史を参考にせよ!と提案、世界と日本の2000年の経済発展 しからすれば、「今回のサブプライムという金融問題で、世界や日本経済が突 然今になって下降していくとは、とても考え難い」と断じ、もう一つの歴史の 教訓は、1974年頃の最初のオイルショックである、今回のサブプライムショッ クはあの世界を震撼させたオイルショック以来の衝撃という感じがする、と前 置きし、その当時の事の対応にあたった大臣官房企画室の顔ぶれとその仔細な 取り組みをドキュメント風に紹介していました。
〜私は通産省(現 経産省)の大臣官房企画室という日本経済のビジョンを作 る室に所属していた。室長に福川伸次氏(のち事務次官)、総括班長に吉田文毅 氏(のち特許庁長官)、班長に伊佐山建志氏(のち特許庁長官)、そして更に、堺 屋太一氏が本名の池口小太郎という名で若手官僚として働いていたそうそうた る室だった。この企画室が通産省を総動員して石油危機対策に当り、当時の中 曽根大臣や田中首相にレポートを作っていたのである、というインサイダーレ ポートに仕上がっています。
■連載は、名桜大学教授の比嘉照夫教授の緊急提言「甦れ!食と健康と地球環 境」の第2回「自然に即した生き方の重要性」です。要旨は、「DNAやRNAの科 学的な取り組みは今後も積極的に進める必要がありますが、お金が目標で競争 する研究システムでは現今の自己破壊的な状況に陥り、自然に即した生き方を 定義することは容易ではありませんが、『原因と結果および調和の法則』と同 時に自然界における『蘇生と崩壊の原理』も極めつつ総体的な対応が基本とな ることを忘れてはなりません」と訴え、後段の≪20世紀医学の最大の功績は生 活習慣病の発見である≫の章では、「せっかくならば性格習慣病も同時に発表 してもらったら、なお効果的であったと思っています。逆説的にいえば病気の 大半は生活習慣とその人の性格習慣が重なって発生するからです。そのような ことは今では誰でも知っている常識ですが、その常識を実行に移すことは容易 ではありません」と指摘し、健康問題を考えると、食の安全性は、究極は食の 機能性にある、と喝破しております。
そして、「日々の食べ物が健康の維持に積極的に機能する素材でなければな らず居住環境を含めあらゆる環境が蘇生的なレベルが高くない限り本質的な解 決は困難ということになりますが、個人の責任で対応することは極々限られた 微々たるものです」と結び、EM(有用微生物群)にお特質とその利用について 書き添えています。どうぞ、本文をご覧ください。
※新年から連載やメッセージが盛りだくさんで、ワシントンの服部さんから はオバマ大統領就任式の熱い現場、ワシントンから久々の投稿でした。沖縄の 比嘉先生は、御好意で月1回の予定が月2回に、これからEMの事例が随所に登場 してくるかもしれません。DNDのアクセスNO.1の石黒さんは、緊迫の国会の予 算審議の動向を読みながらの執筆で、その辺の緊迫感が微妙に伝わってきます。 今後ともどうぞ、忌憚のない御意見をお待ちしております(DND編集長、出口 俊一)