◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/12/26 http://dndi.jp/

08年を振り返って

 〜TOYOTAの原点回帰に希望の光〜
 〜黒須新治郎氏率いる桧家住宅の秘策〜
 〜連載100回の石黒憲彦氏の慧眼〜
 〜比嘉照夫氏の新企画目白押し〜

DNDメディア局の出口です。その年をふり返って、総括するのにこんなに困 ったことはない。悩んで、迷って、何度も書き直して…本年最後のメルマガは ギリギリ、こんなに遅れてしまったのもその影響でした。


今の世相を追いかけていると、正直、疲労感がどっと襲ってくる。いくら目 を凝らしてのぞいても、それら狂騒の本質が少しも浮かびあがってこないから かもしれません。世の中の時空をひと跨ぎする実相が、捉えにくい。ひと言で、 さらっと言いあてる、というのが難しく、その入口付近でウロウロし、少し突 っ込むと迷路にはまって、そこから抜け出せないのです。いままさに五里霧中、 この経済危機からどう脱出するか、ピンチをチャンスに変える、そんな希望を どう見出したらいいのか。それらが新しい年の課題です。が、さて、歴史はそ のページに08年をどのように刻印するのでしょうか。


こんな年の瀬が押し詰まっての「TOYOTAショック」、列島に激震が走ってい ます。この3月期の2兆2703億円という空前の利益が吹っ飛んで、09年3月期は、 赤字転落の見通しだという。経済の問題では、一番後に起こった「TOYOTAクラ イシス」が、最重量級でした。この余震がまだおさまらない。ともかく自動車 が売れないのだから、売れる方策を考えないとTOYOTAの復活は描けないのか、 どうか。そういうことなら、依然、予断を許さない事態にある、ということで しょう。


この影響は、世の中小零細企業の隅々までジワリ深刻な打撃を与え、長野や 栃木の知人、友人の下請け工場が、にわかに閉鎖の危機に直面し、従業員を解 雇するか、どうかの切羽詰まった決断を迫られています。こういう状況下の経 営者は、夜も眠られない。従業員の家族の顔を思い浮かべると、解雇なんて安 易にできる相談じゃない。しかし…。


米国のビッグ3には、なにはともあれ米国政府からの救済の手が入りました。 ビッグ3を破綻させた方が、国民の負担は軽くて済む(朝日新聞26日朝刊、崖 っぷち「ビッグ3」)という指摘もありますが、我が国の自動車メーカーには、 いったいどんな救済の手が残されているのでしょう。救済が必要だ、という単 純な意味ではなく、世界で競争する我が国の企業にとって、政府とは、日本と は、いったいなんなのか、という疑問が湧いてきます。


日本国籍の企業は、税や支援策など政府の後ろ盾が乏しく、他の国の同業他 社と比べたら、同じ土俵でこれじゃあ、競争に勝てない、という声があるから です。香港やシンガポールに本社を移し、工場を中国、インドへ、という考え がまかり通ります。「日本切り」が囁かれています。まあ、このご時世に、ト ヨタ救済を声高に叫ぶ人は少ないでしょう、解雇された8万5千人を超える派遣 社員の雇用が先だ、というかもしれません。が、他の先進国が一様に救済に動 いているのに、日本はこのままでいいのでしょうか、これはトヨタに限らず、 世界を相手に戦う、わが国のモノづくり系のハイテク企業は、科学技術創造立 国とか、イノベーション戦略とかいっているわりには、現実は、なんだか、ほ とんど梯子を外されてしまったままだ。おかしい、ねぇ。


朝日新聞によると、TOYOTAの次期社長で創業家出身の豊田章男副社長は、25 日の新車発表会で、こんなことを述べたそうだ。


「この先も厳しい市場環境が見込まれる。私たちがやらなければならないの は、目の前の一台一台を大切に積み重ねることだ。いま一度原点に立ち返り、 お客様の方向を向いて商品をつくる」と。


これからは「原点回帰」だという。若い豊田さんの腕の見せ所にしては、や や問題の根が深すぎる。しんどい役回りだが、逃げるわけにはいかないのでし ょうね。迷ったら原点、です。なんのためモノを作って売っているのか、ここ なのでしょうね。


ここ数年、トヨタは「上昇気流に乗って販売世界一」を視野に入れ、世界首 位に君臨するGM超えを目指してきました。大型ピックアップトラックに勝負を 挑み、利益が大きい高級車「レクサス」の輸出も増やし、トヨタの販売計画は、 凄い勢いでした。01年度の519万台から07年度は868万台へ。今年度は、980万 台の目標でした。が、896万台止まりで、といってもこれも空前の販売台数な のだが、100万台分の余分な生産能力を抱えてしまった、という。


米国に輸出の高級車が、荷揚げされる港湾の駐車場に溢れ、売れていないの に次々と荷揚げされるから、駐車場の確保が間に合わない、という混乱ぶりが 今朝のNHKテレビで放映されていました。


そして、トヨタは、ビッグ3とともに金融バブルに巻き込まれてしまった。 「大型車や高級車がたくさん売れたのは、ローンなしでは買えないお客が買っ ていたためで、いったん金融危機になると買い手は消えた」(朝日新聞)のだ と解説しています。なんども耳にし、文字にしてきた「お客さま主義」が、原 点なのですね。やはり、豊田さんの反省の弁が、ズシンときます。


□黒須新治郎氏率いる桧家住宅の秘策
 余談ですが、例えば、埼玉県加須市に本社を構え、快進撃を続ける、注文住 宅の「桧家住宅」は、このご時世で今期26%もの増益で、売上も200億円を突 破しました。70近くを数える展示場での接客が、とても大事だということです。 現場で、どうお客様と向かい合うか、そこはテクニックじゃなく、心からの接 客態度が、営業成績に結びつくらしい。「桧家住宅」の戦略については、あら ためてたっぷりご紹介したいと思っていますが、その評判は、今指摘した多様 化するお客の志向性を読み取る、ということに加えて、中間マージンを排除し、 高品質でリーズナブルなビジネスモデルを構築し、ガラス張りの価格の公開、 それにきめ細かい省エネ技術の採用や万全の強度や耐震性を重視し、「100年 愛される家づくり」をモットに1都6県を中心に展開しています。


社長の、黒須新治郎さんは、まあ、有言実行の人で、創業20年目で昨年上場 を果たし、さらに次の戦略に着々手を打って、この半年で50億円規模の積極的 投資を行っています。「いまがチャンスなのだ」という。


黒須さんとは、先般、埼玉県のチャレンジベンチャー交流サロンでご講演を していただいたのがご縁なのですが、その飾らない、実直な人柄が、社員や取 引先の企業にしっかり支持を受けているのですね。交流サロンの若手のメン バーは、すっかり黒須さんの心意気に魅了されていました。人の心をムギュっ て掴み取ってしまう、特技があるらしい。「何事も人」というのが口癖です。 その通りですね。お陰で、まだそんなに日が経っていないのに、黒須さん、常 務の加藤進久さんとは、もう長年のお付き合いのような親しさを感じています。 もっと書きたいことがいっぱいあるのですが、この辺にしておきましょう。


自動車の販売台数の急激な伸び、その収縮による破綻の悪夢は、1929年の世 界恐慌でも経験していました。データによると、その20年前の1909年、世界初 の大量生産車を発売することになるフォードの生産台数は、1万660台でした。 10年後の1919年のアメリカの道路には、670万台の車が走っていた。その10年 後の1929年には、なんとそれが2700万台を突破するのです。1927年の12月2日 は、新車のフォードのA型車をひとめ見ようと、ニューヨークの展示場に100万 人が押し掛けたといわれます。この景気は、そこをピークにウォール街の崩壊 であっという間に吹き飛び、深刻な不況を迎えることになった(『アメリカの 死んだ日』常盤新平氏訳)という。なんだか、歴史は繰り返すのですね。


さて、50回近い08年のDNDメルマガを読み返すと、気になるのは新年最初か ら新聞メディアの論調を拾って「多極化世界で沈む国の悪夢」(1月16日号) という不気味な見出しをつけていたことでした。気が滅入ってしまうほど悲壮 的で、「息を堪えて綴る記者らの緊迫感が伝わってきます」と書いていました。 サブプライム損失で資本不足の危機にある、米大手銀行のシティーグループと 米大手証券会社のメリルリンチの増資関連の動きを伝えていました。


2月に入ったら、「中国製冷凍ギョーザ事件」(2月6日号)と、食品不正の 連鎖を取り上げました。中国は、夏の北京五輪を目前に四川大地震が起こりま した。そこで、「衆志成城、抗震救災」〜四川大地震、その苦難を乗り越えて 〜(5月21日号)で、「残る最後の一人まで諦めないで…そんな気迫が伝わっ てきます。黙々と汗を流す中国兵士らの姿、その必死の救出劇が連日、テレビ 画面に映し出されてきます。きょう21日の朝は、発電所の男性職員が17 9時間 ぶり、そして60歳過ぎの女性はなんと195時間ぶり救出された、という驚きの 朗報が飛び込んできました。凄いことですね。72時間が生存の限界とされてい るのにまさに奇跡の生還、刻一刻、まさに時間との戦いで、それはいまこの瞬 間も続けられているのです」という必死の救出劇は、多くの感動を呼び起こし ました。


6月、7月の話題は、洞爺湖サミットでした。「洞爺湖サミット直前、現地ル ポ」〜洞爺湖のNEDO実証モデルのアピール度〜(7月3日号)、ゼロエミッショ ンハウスの開所式などに主催のNEDOの企画調整部長、橋本正洋さんとご一緒し、 その現地のルポでした。


夏の一押しは、「大恐慌の足音が響く」(8月27日号)で、銀行の貸し渋り のささいな動きから、株価の暴落、連鎖的破綻、世界経済は金融パニックを逃 れられるか、との「Newsweek」(7月30日号)の特集や、NHKのクローズアップ 現代「グローバル・インフレの衝撃」(8月26日放映)を取り上げて、いまま さに世界危機の瀬戸際にある、ことを伝えていました。9月は、これの続報で 「泥沼の米国金融の危機一髪」(9月18日号)で、サブタイトルが、「リーマ ン・ショック」に「AIGサプライズ」、その次は?と、米国発の金融危機が世 界を襲う、ことの見通しを書いていました。10月に入っても「足元揺らぐ危機 連鎖の本質と手探りの処方」(10月15日号)とフォローし、12月は先週の「経 済破綻の米国事情」(12月17日号)で、米国のメディア大手、トリビューン社 の破綻、米国ハーバード大学の基金運用で巨額損失の恐れーを伝えました。い やあ、これほど多く経済問題を取り上げた、というのは、いまさらながら驚き です。無我夢中で、その本質に立ち向かったといえるかもしれません。実際は、 それでどれだけ本質に迫ることができたか、といえば、やや疑問符がついてし まいます。これから、来年も何か、予想しないことが起こりうるのか、徐々に 政府の政策が効果を発揮して、徐々に回復に向かうのか、どうか。当分、目が 離せません。ベンチャーといっても市場が安定しないと株式上場もままなりま せんし、バイオ系のベンチャーの資金調達だって思うようにいかない。大学発 ベンチャーの株式上場の凍結という動き、あるいは経営が困難なって閉鎖に追 い込まれるケースも増えているそうです。こちらも、これまでのような右肩上 がりの企業数の増加は難しくなるでしょう。こちらも原点に立ち返って、なん のためにベンチャーを企業するのか、を考えるいい機会かもしれません。また、 順調に業績を伸ばしている大学発ベンチャーの成功要因を分析し、しっかり共 有することも肝心です。


大学発ベンチャー関連では、今年話題の一番は、北海道発ベンチャーのイー ベック(土井尚人社長)が開発したヒト抗体の独占販売権をドイツの製薬会社 「ベーリンガーインゲルハイム」に5500万ユーロ−で付与する契約の成功でし た。これは、「アライアンス戦略のEXIT考」〜「大企業と争わない」:HCMの 土井社長に学〜(11月26日号)で取り上げました。ともすれば、新たな市場を 独自で切り開く、という考えに陥りがちですが、それはそれ、新たに大企業と のアライアンスを先行して事業のEXITを組み立てる、というビジネスモデルが 成功への近道、という指摘でした。


大学発ベンチャーで話題は、聖マリアンナ医科大学発の「ナノエッグ」。こ れは「夢の卵『ナノエッグ』の世界戦略」〜大学発ベンチャー創出NO.1県・ 「かながわ」の秘策〜(2月27日)に取り上げました。ナノエッグはすっかり メジャーになりました。これからが楽しみです。


相変わらず、っていっても変わらなければマンネリになってしまうのですが、 東奔西走の08年でした。遅い北国の春は5月、「津軽の夢・人・桜」〜初めて の弘前訪問便り〜(5月8日号)。弘前の伝統の美しい街に思い入れたっぷりに 綴りました。弘前城のお堀に垂れる桜の枝先が、幾重にも重なって、風が吹く 度にふわっと花が散り、水面に大量の桃色の花筏、夜の提灯の明りに照らされ ていました。今年も行きたい、です。


夏は、「幻想とロマンの奥出雲物語」〜斐伊川の悠久の流れ、心豊かな奥出 雲の人のリズム〜(7月23日号)は、ニッポー社長の若槻憲一さんのお招きで、 彼の工場がある奥出雲に行ってきた時のルポでした。まだ、いっていないとこ ろがあるので、次回は、タタラと足立美術館にもじっくり腰を据えてみてみた い。だんだんの里は、人の魂の故郷です。


極めつけは、信州大学の松岡浩仁さんのご紹介で足を運んだ信州・松本奈川 の健光ツーリズムでした。峠の里・奈川は、白樺峠のタカの渡りで知られてい ました。美しい峠の里・奈川に結ぶ夢(前篇11月5日号・後編11月12日号)を2 週連続で取り上げました。何枚かの写真もアップしました。後編の号が、記念 のメルマガ300号でした。


弘前、奥出雲、それに松本の奈川、いまはすっかり冬景色でしょうか。日本 の四季の美しさを引き立たせていたのは、その風景もさることながら、そこに 住む、誇り高い人たちの控え目な姿でした。この場を借りで、皆様に心から、 感謝の気持ちを申し添えたいと思います。ありがとうございました。


この連載で、コンスタントに的確な論文を発信してくださる、経済産業省の 石黒憲彦さんの「志本主義のススメ」が新年1月で節目の100回を迎えていまし た。100回目は「変わるものと変わらぬもの」でした。その中で、「気懸りな こと」として、派遣社員、請負社員のスキルが磨かれない状況を憂いながら、 この下層の構造的問題を指摘していました。いまさらながら、その鋭い先読み の慧眼に感服です。いまDNDで最も視聴率、いやあ、アクセス数を稼いでいる コラムというのもうなずけます。今度は、私が気掛かりなのは、ご公務が年ま たぎの感があって、これまでのようなコンスタントな原稿執筆が可能か、どう か。なんとしてもご継続をお祈りするばかりです。


[お知らせ] DNDは、経済産業省から独立して3年目に入ります。新しい年は、 早々に登録ユーザー会員10000人を迎える見通しです。さらにサイトの充実を 図っていく考えですが、運営母体のDND研究所の経営基盤を確かなものにする ために、サイトのバナー広告、DNDメールマガジンの有料PR、号外、アンケー トなど種々のCMを展開していきます。どうぞ、上記の趣旨をご理解くださり、 ご協賛等のご協力、ご紹介も合わせてお願いする所存でございます。


◇なお、新年からは、全国の大学学長(総長)から、「夢・志・仲間」のメ ッセージがシリーズで登場します。いま大学は何を目指しているのか、学長か ら教育、研究、社会貢献などについて若い人にご自身の思いを伝えてもらう、 メッセージ性の高い企画でございます。発信力のある原稿をお待ちしています。


◇連載企画は、新たに名桜大学教授、比嘉照夫氏の「比嘉照夫氏の緊急提言  甦れ!食と健康と地球環境」がスタートします。
 食の安心、安全が揺らぎ健康への影響が懸念されています。また地球環境か らは悲鳴が上がっています。そこで、いまこそ、「環境問題の解決は健康問題 にいきつく」と喝破され、沖縄発のEM技術の開発者で数々の成功事例を世界 各国で生みだされている、名桜大学国際EM技術研究所教授の比嘉氏から、E M技術の現場力をご紹介してもらいながら、人類を救う処方について提言して もらう、という企画でございます。どうぞ、ご期待ください。


それでは、皆様、風邪にご留意くださり、よいお年をお迎えください。


□連載は、「原点回帰の旅」は、塩沢文朗さんの45回目「クリスマスの頃」と 題した素敵なエッセーです。この時期にふさわしい歳末点描です。クリスマス ツリー、カード、年賀状…。そして未曾有の不況が早く底を打ち、新しい光に 満ちてきますように、との願いが込められていました。


□もうひとつの連載は、「中国のイノベーション」の張輝さん。第22回目は 「写真で見る北京のいま」です。天安門付近の「国家大劇場」。見事なスケー ル感です。京津高速線は、屋根にソーラー電池を備え、時速335キロのスピー ドをクリアする、という。凄いね。北京の銀座「王府井」のイルミネーション の夜景です。最後に張さんから、新年に向けての熱いメッセージが寄せられて います。



記憶を記録に!DNDメディア塾
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