DNDメディア局の出口です。師走の寒空の下、いまから職探し、その心境が 痛く身にしみてきます。減産、縮小、撤退、下落、閉鎖、赤字…世界中からも っぱら経済危機を伝えるニュースが秒刻みで流れてきます。ふ〜む、あんまり 悲観的になってはならないのですが、これは、ひょっとして1929年のウォール 街の崩壊が招いた、史上最大の経済的破綻の状況と、なにやらよく似た様相を 呈し始めているように思えてなりません。
当時も、もう次から次に押し寄せるニュースの種は無尽蔵で、その影響が無 数の人々に及んでやがて恐ろしい大不況へと変転し、避けようにも避けられな い事態にいつのまにか追い込まれてしまっていたのです。
で、ホンダのF1のマシーンがサーキットから姿を消す、というニュースには 言葉を失いましたが、続いて今度は、ようやく復活のソニーが暗転、液晶テレ ビなどエレクトロニクス事業で一部の工場閉鎖と従業員1万6千以上のリストラ を断行するという記事は、新聞各紙1面トップの扱いでした。
ホンダ、ソニー、それにトヨタといえば、世界に誇る我が国のトップ企業で す。リーマンショックの9月中旬ごろは、日本にとっては、金融危機の影響は それほどでもない、って楽観視していたら、この11月に入ってでしょうか、販 売不振、円高による業績悪化で一気に失速してしまった。そして、不穏なのは その先行きが見えない、その実態がつかめきれない、という不透明な状況にあ るからです。いま、金融危機の黒い影が砂塵を巻き上げて産業界を吹き飛ばし ている、そんな風に見えるのです。
街では、消費が冷えてどこも乱売の安売りセールで客の呼び込みに必死です。 景気悪化に解雇やリストラが追い打ちをかけ、理不尽な抜き打ちの派遣切り、 新卒の内定取り消しなど、雇用状況が一段と深刻化しています。新たに職を失 った人の数が10万人に及び、さらに急増しそうな雲行きです。その政府の対応 は、それに対してスピード感に乏しく、「なんだか掛け声ばかりのようだ」と 指摘する読売テレビの解説委員・辛坊治郎さんのコメントがより説得力をもっ ていました。政治の力って、こんなご時世の時こそ発揮されるべきです。が、それほど信用されないのですね。せめて逆にブレーキをかけちゃいけません。
いつでもどんな時でも涼しい顔で、ご専門の空論をこねくりまわして遊戯に ふける人がいる、人の痛みがわからない、と、こんな風になってしまう。
さて、もうひとつの米国の事情。
破綻の米国ビッグスリーをめぐる政府支援の一連のやり取りを横目に見なが ら、公的資金を投入しても、そもそも再生は可能なのかねぇ、なんだか統制経 済へ移行したようで、アメリカがアメリカじゃなくなっていく、という知人の 指摘に頷いていたら、政府に公約した人員削減案が監視付で予想以上に厳しく、 それが足かせとなって、今度は米国経済のリセッション(景気後退)をより一 層深める恐れがある、との指摘が出始めているというから、なかなかうまくい かないものですね。
たとえば、GM、フォード、クライスラーの自動車メーカー3社への救済が成 功しても部品メーカーや販売会社は言うに及ばず、輸送を担ってきた鉄道、自 動車の広告に支えられてきたテレビ局などが痛手を被るのは避けられない(9 日付フジサンケイビジネスi.のブルームバーグ45面から)らしい。
自動車の次は、米有力新聞の破綻。
米国メディア大手のトリビューン社が、経営悪化のために週内にも破産申請 に踏み切る可能性が高い、と米国の主要メディアが7日、一斉に伝えていまし たが、8日、破産法11条適用を申請しました。年内の債務利払いに必要な10億 ドル(約930億円)の調達が困難な状況で、負債額は129億ドルと1兆円を超え る巨額。トリビューン社といえば、有力紙ロサンゼルス・タイムズやシカゴ・ トリビューンなど新聞12紙、テレビ局23局、福留選手が所属するシカゴ・カブ スなどを傘下におさめる全米を代表するメディアグループです。
破綻危機の理由は、やはりねぇ、部数の低迷と広告収入の減少で、人員やコ スト削減、資産の売却などによって再建を図ってきたのだが、この度の金融危 機が追い打ちをかけた格好です。これまでも経営不振が続き、地元の投資家で 富豪のサム・ゼル氏からの買収提案を受け入れて昨年、身売りしたばかりでし た。
読売新聞によると、9月には、ニューヨークで創刊7年目のサンが廃刊に追い 込まれ、ボストンの名門紙クリスチャン・サイエンス・モニターは来年4月か らの新聞発行をネットに変える。ニューヨーク・タイムズ紙は11月下旬、資金 確保のため株式配当を75%近く減額する方針を発表した、と、米国新聞メディ ア受難の様相です。
ところで、トリビューンと聞いて、ひょっとして…と急ぎ、雑誌や専門誌に 書いた記事ファイルを探していました。すると、あった、あった、ありました 〜。
それは、経営コンサルの専門誌に掲載した特別寄稿「マルチメディア時代の 新聞経営−どうなる電子新聞」という拙文です。1994年7月号というから、イ ンターネットがこの世の中に動き始める直前のことです。当時、新聞社の総合 企画室という戦略部署にいて、その年の4月に「電子新聞研究会」を立ち上げ ていたころです。専務直属の組織で、東京、大阪から若手11人を選抜して発足 していました。産経新聞のメディア戦略の小さな一歩だったのです。
「21世紀の新聞が、どのように変わっていくのか、そのために今、何をしな ければならないか」というのが主題でした。この電子新聞研究会については、 その年の1月に朝日が「マルチメディアの研究会」、読売が2月に「マルチメデ ィア研究会」、毎日が3月に「マルチメディア委員会」、日経が4月に「マルチ メディア研究開発委員会」をそれぞれ発足させていました。やはり、共通の関 心事は、紙に印刷した宅配新聞に代わる「電子新聞」の発行を視野に入れてい たことは確かでした。電子って、いま考えると凄いネーミングですね。
ネット、いわゆるWWWのインターネットがクローズアップされる直前の動き でしたから、インターネット夜明け前、という感じだったでしょうか。研究会 の事務局を預かる立場で、先行の朝日新聞から取材を受けたことも憶えていま す。
その研究会の暮れの提言が、社長以下役員会で了承され、翌年、専門の組織 「電子メディア室」が編集局内に新設されました。そこからインターネット事 業がスタートすることになるわけです。私といえば、この4月の研究会発足に 先立つ、その2月に社長から、わが社のマルチメディアの対応を考えるように ―という指示があり、そこで欧米の電子新聞の動向を調査し、レポートにまと め、その結果としての研究会の立ち上げでした。ドメインの取得やサーバーの 購入もやっていましたね。当時、サーバーは1台400万円もしたものです。
Yahooの検索は、縦一列にURLが並んでいました。電話回線を使ったいわゆる ダイヤルアップで、接続しているとその分だけ電話料金が加算され、気がつく と翌月の電話料に目を丸くしていました。回線が途中でよく寸断していました。 今、思うと、実に劣悪なネット環境でした。
そんなころです。その調査の過程で、当時、話題をさらっていたのが、トリ ビューン社の電子新聞でした。1992年5月、アメリカ全土で利用可能な最初の ローカル・オンライン・ニュース・サービス「シカゴ・オンライン」をスター トさせていたのでした。こんな風に破産してしまうとは、これをどう考えれば いいのでしょう。
次に登場していたのが、ナイト・リッダー社がサンノゼで始めた「マーキュ リー・センター」第2号でした。いずれもパソコン通信を使ったオンライン・ ニュースで、例えばパソコン画面で「ニュース」の項目を引くと、見出しが表 示され、そこから欲しい記事を選ぶ。記事にはコード番号がついており、この 番号で記事の関連情報も取り出せる、という仕組みでした。
また、「チャット・ルーム」という機能もあり、そこで編集部の人と対話が できる、というのは斬新でした。これには、なり済ましも暗躍していて犯罪の 温床になる、とサーバーコップが警戒の目を光らせ始めていました。そのナイ ト・リッダー社のサンノゼ・マーキュリーは業界第2位のメジャーでしたが、2 年前にすでに身売りされています。
ナイト・リッダー社といえば、未来の新聞を考える情報デザイン研究所のロ ジャー・フィドラー所長が有名で、電子新聞の可能性を伝える権威として活躍 していました。彼は、当時、「紙の新聞と情報端末で読む電子新聞は、10年以 内に同じ割合になる」と豪語していたものです。それに呼応していたのが、20 00年までに全米の学校、図書館、病院、企業、家庭を光ファイバーやケーブル で結ぶ高度なネットワークの「情報スーパーハイウエー構想」で、総額1000億 ドルを投じる、というもので、沸き立っていた感じがあります。
フィドラーさんは、自由競争が進む米国では電子新聞の購読料(検索料)が 劇的に下がって今の新聞並みの価格になるはず、通信の規制が強い日本では、 世界の大きな流れから取り残されるかもしれない、と警告し、それに刺激され て、日本でも次世代通信網整備計画が急がれ、各種の実験が動き出していまし た。京阪奈の学研都市でビデオのオンデマンド風の実験も視察にきました。大 分の情報ネットワークは先進的でした。
その5月には、電気通信審議会の答申で、「20世紀のモノ、エネルギーの時 代から情報・知識の時代へとパラダイムの変化が進みつつあり、21世紀の知的 社会では、情報・知識が社会的・経済的資産として自由に創造、流通、共有さ れることが重要である」として、高度な情報通信基盤は21世紀の知的社会を支 える社会資本となる、とマルチメディア時代への移行を明確に打ち出していた のです。その普及の要が、まず高速で大容量の光ファイバーで、次に通信料金 の見直し、そして低価格の家庭用端末の開発―という具合でした。いまでいう、 回線が定額制で使い放題のサービスと5万円のパソコンの登場ということにな るでしょうか。
なんといっても当時のパソコン普及率は、92年のデータで全米9200万世帯の うち、パソコンを所有していたのは2500万世帯の約27%、95年には35%という 程度でした。日本といえば、年間250万〜300万台の出荷量が確認されていた程 度で、それがオフィスでの買い替え需要か、一般家庭での個人需要かが定かじ ゃありませんでした。全世帯の数%という状況でした。そんな状況でパソコン 通信といってもピーンときません、でしょう。
そんな電子新聞事始めでした。トリビューン社が、「シカゴ・オンライン」 を全米で、世界で一番早くスタートさせながら、2年後の94年に登場する「ネ ットスケープナビゲーター」という爆発的なインターネットブームで、やがて 新聞媒体もろとも駆逐されてしまう、とは、なんだか激変するメディアの興亡 の、その歴史的皮肉を感じてしまいます。
なぜ、メディアの旗手、その新聞が、この多メディア時代に生き残れなくな っているのか。マルチメディアといってもその大容量の回線を通じて飛び交う コンテンツ、その情報が勝負を分ける、と信じられてきました。いまだにそう 思い込んでいる新聞幹部が少なくありません。だから、メディア本部という専 門の部隊を組織しても、そのヒエラルヒーの頂点に担当の役員、次に役員待遇 の本部長、編集長、複数の副編集長、数が多い部長群という階段を作る弊害は、 上に行くほどネットを理解していないという実態でした。だから現場がやりた い、と思った面白い考えが反映されないのです。要は、これが儲かるか、儲か らないかーを判断する、というのがそのポジションの経営哲学で、現場のクリ エーターらの邪魔になってもその事業を引っ張ることはできない、のです。
しかも、新聞以外にどんなメディアが登場しても、それを最後に取り仕切る のが新聞という思い上がりがわざわいし、ネット時代にふさわしいビジネスモ デルの構築を最初から捨ててしまったのではないか、と思います。ネットビジ ネスは、それはコンテンツが基本だが、それよりも、ある種の仕組みを作る、 というところの方がよりビジネスとして重要だったのですね。
それを思うと、新聞社のメディア路線の組織を分散し、年次や役職という次 元を取り払って、20代から30代のクリエーター重視の組織に変えることから始 めるべきでしょう。情報の呪縛からいかに解き放つか、そこが肝心なような気 がします。まだ、いろいろこれについては考えがあるのですが、この辺にして おきましょう。
自動車、新聞、その次が大学。
なんとここにきて、そのモデルとされた米国の一流大学の基金の運用で「か つてない損失」が生じ、大学基金の財政をひっ迫させる恐れがある、という事 態を招いているそうだ。
これには私も腰を抜かしそうになりました。このところ頻繁に紹介している、 フジサンケイビジネスi.のブルームバーグの記事で、その5日付の「ハーバー ド大学も投げ売り」は、ハーバード大学など米国の有名大学がプライベートエ クイティ(PE、未公開株)投資ファンドの持ち分を手放しており、企業買収を 手掛ける世界有数の投資会社を圧迫している、というショッキングなニュース が飛び込んできました。
大学基金の運用。それを米国に見習うという動きがここ数年、わが国でも加 速していました。このニュースは、大学の財務担当にしてみれば、その意味で 衝撃的だったようです。
記事によると、ハーバード大学などの大学基金は、今年、リターン(投資収 益率)の低下に苦しんでいるほか、ファンドの資産確定時に追加の評価損に直 面する恐れがあるのだそうだ。ハーバード大学のドルー・ファウスト学長は、 学生や教職員にあてた手紙で、うまく分散されているファンドであっても大き な損失を被っている、としたうえで、「ハーバード大学は前例のない損失に備 え、財政逼迫に対処する必要性がある」との見方を明らかにしていました。な んとも率直な説明です。
う〜む、これまでの報告では、その運用にはプロの目利きが専属で対処し、 年間その基金運用の利益だけでも1000億円規模という、涎がこぼれそうなもの でした。それが、ここにきて暗転し、深刻な状況に陥っているのです。米国の 大学基金は、それは相当の規模で、MIT、イェール、スタンフォード、テキサ ス、プリンストンの各大学は、それぞれ1兆円を超えているといわれますから、 どこもハーバード大学と同じような苦しい事情を抱えているのかも知れません。
その見通しによると、投資元の大学は、PE投資ファンドの流通市場での売却 規模が、今後1年の間に1000億ドル(約9兆3300億円)に増える可能性がある、 と分析する。中でも、369億ドルの規模の基金を持つハーバード大学は、米KKR や米マディソン・ディアボーン、英テラ・ファーマ・キャピタル・パートナー が運用するファンドの持ち分を少なくとも50%のディスカウント価格で売り出 す可能性があり、コロンビア大学やデューク大学などの基金が、PE投資ファン ドの持ち分を売却する中で、政府の救済を受けたAIGなど苦境に陥っている金 融機関は、こうした資産売却に追随しているという。
こんな風潮が、投資会社の保有資産の価値を低下させており、市場での値下 がりに拍車をかけ、さらに買い手が不安を募らせる、という悪循環に陥ってい るらしい。
我が国の大学の資産運用は、寄付金をベースにようやく緒についたばかりで す。東大は、小宮山宏総長の音頭で、創設130周年の節目を刻んだ昨年、その1 30億円の目標の東大基金が創設されました。米国の大学と比較したら、随分と 小さい額なような気がします。大学の寄付金などによる資産運用は、必要性は 十分わかっていても、なかなかリスクへの対応が十分ではないようです。
先般話題になった駒沢大学が154億円、慶応大学が274億円の損失を計上した ことが明るみにでて、大学関係に波紋を投げかけました。報道によると、スワ ップ取引という、デリバティブ商品で損失をだしている。急激な円高で含み損 がでたようです。この損失の責任は、誰がとるのか、という議論が先行し、経 理の実務責任者の追及という形になってしまうところが、まだまだ未熟なので すね。そういうことで賠償責任を求められたり、告発されたりしては、うっか り役職にも就けないということになってしまいます。投資は、リスクが伴う、 ということを共通の認識が得られないところは、あえて踏み込むべきでないで しょう。
いやあ、実際にある。これは大学ではないのですが、埼玉県東松山市の社会 福祉協議会の理事会が、破綻したリーマン・ブラザーズ発行の社債1億円分を 購入した責任を問う形で、前の事務局長ら市の職員3人に総額5千万円の損害賠 償を請求することを決定した、ということでちょっとした騒動になっています。 告発も検討しているというから穏やかじゃありません。
さて、気分をちょっと変えて、締めは東大総長の最後の講義です。
ふ〜む、ご就任から今日までの任期中、その講演のタイトルで示されたよう に自らが先頭に立ち、世界の知の頂点に向かって疾駆されました。特筆すべき は、その行動力と発信力だとおもいます。ご自身がニュースなる存在で、メデ ィアの露出はきわめて頻繁でした。比べる材料があるわけじゃないのですが、 歴代の総長のなかでも群を抜いていたのではないか、と思います。
「動け!日本」、「知の構造化」そして「課題先進国」などメッセージ性の 高い言葉で、グローバル化時代の日本の国際的役割を明確に打ち出す一方、ち ょっと触れましたが大学経営の基盤となる東大基金130億円の創設や海外拠点1 30ケ所の整備も新しい試みで、それらひとつひとつが新聞、雑誌、テレビ、そ れにウェブで取り上げられていました。これを広告費に換算すれば、数百億円 規模をはるかに超えるかもしれません。そして、国内外でのご講演やシンポジ ウムなどの130のイベントにも積極的で、「小宮山宏氏」という名前を知らな い人は、おそらく僕の周辺には一人もいない。
小宮山総長は5日、安田講堂に約1600人を超える研究者や学生を集め、東大入 学以来、45年間の化学工学の研究成果に加え、総長としての立場から、「一人 ひとりが勝手にやっていては大学と社会の距離がますます広がる」という危機 感を持ちながら取り組んだ改革について振り返った、と朝日新聞は伝えていま した。その講堂は溢れ返るほどの盛況で、講堂に入れなかった人は別会場のモ ニターで聴講したのですね。
凄かったようですね。そのわずか短いベタ記事からも十分にその熱気が伝わ ってきました。演題は、小宮山さんらしく「行動する大学」でした。この実行 委員長で前工学部長、知の構造化センター長の教授、松本洋一郎さんの名前で、 実は講演会の案内が届きました。何をさておいても駆けつけるべきでした。
小宮山さんの数多くある貴重な言葉の中で、ほんとうに巧いなあ、と感心し たのが、総長ご就任当時に訴えられた「本質を捉える知」(Insight)、「他 者を感じる力」(Sympathy)、そして、「先頭に立つ勇気」(Ambition)です。
このメルマガでは何回か取り上げています。いずれも7文字にきっちり納め られています。リズムがあり、それになんとも語呂と響きがいいでしょう。こ れを人材教育における"大学の不滅の三原則"って勝手に呼んで、あっちこっち で拝借させてもらっています。
このご講演で小宮山さんは、現在、そして今後の課題に環境や高齢化を挙げ て「ニーズがあるところに必ず学術は発達する。新産業を世界との連携でリー ドし、アクション(行動)するのが大学だ」と締めくくった、と記事にありま した。いやあ、見事なウイニングランの趣だったかもしれません。
小宮山さんとDNDは、間接的に工学部長時代からの面識なのですが、その表 情が年々、イキイキと輝いてみえるのはなぜでしょうか。こんな風に世界的視 野に立って志高く打ち込んでいけば、あのように瞳が澄んで清々としてくるも のなのですね。任期は来年3月末までですが、ご活躍に心からのエールを送り たいと思います。
小宮山さんの後任は先月27日の総長選挙で、濱田純一さん(東京大学理事・ 副学長、前東大大学院情報学環長・大学院学際情報学府長)が選出され、来年 4月から第29代総長にご就任の予定です。
◇ ◇ ◇
□コラムは「学術の風」の黒川清さんから「医療改革へ、また一言」。ご自身 には各種具体的な提言が満載の『大学病院革命』(日経BP)があるのはご存知 だと思います。医師で教授、内閣特別顧問も3代の総理に仕えたわけですから、 その発言は重い。特に最近の医療改革はめざましいとしながらも、どのような 政策に基づいて、どう行動を起こすかが重要と指摘し、中期的展望の必要性を 訴えるところで、「政府は近視眼的」とチクリ。そして、数々の提言を続ける 読売新聞の医療改革提言には、医師や医療改革の現場からも多くの反響が寄せ られたことを紹介しています。
また、最近は、米の有名科学誌「サイエンス」11月21日号の論説欄に、黒川 さんの「日本は世界に向いているか」(Opening Japan Up to the World)と 題した論説が掲載され、多くの反響を呼んでいます。JSTのサイエンス・ポー タルのレビューで編集長の小岩井忠道さんがその内容をコンパクトにまとめて 紹介しています。http://scienceportal.jp/
また本文は、以下からご覧になれます。
http://www.sciencemag.jp/science20081121_editorial_ojuttw/
□連載は塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」の44回は、前回に引き続いて「科学 技術予算の見方」Aです。これは塩沢さんのご専門の分野です。民間に転籍さ れた今も、いや、民間に移ってさらにその視点が鋭くなったのかもしれません が、その冒頭、「学技術関係予算を原資とする国及び地方公共団体が負担した 研究費配分の全体の姿を、もう一回見ておきましょう。次いで使い道、使われ 方、使い勝手などを見ていく」と書いています。どうぞ、前回と合わせてシ リーズで読みください。そのいくつかの問題点にも言及されています。
塩沢さんは、「題名の政府の文書によくある、表の論点だけを列記した科学 技術予算の解説とは別の姿が、読者に見えれば、少しは良かったと思いま す。」とコメントを寄せてくれました。どうぞ、ご感想もお寄せください。