DNDメディア局の出口です。澄んだ青空の下で、少し風を感じると、やや気 持ちが落ち着いてきます。ここ1週間、なんともおだやかな秋晴れに恵まれま した。予報では明日から列島は数日間、雨模様。この季節の雨は細く冷たく、 そして静かなので、いろいろ考え事をするにはいいのかもしれません。
それにしても、まあ、どん底の世界金融の危機で、あっちもこっちも不景気 の嵐が吹き荒れ始めました。投資意欲は急速に減退し、年末に向かうXmas商戦 の期待も一気にしぼんで、なんだか気が滅入りそうです。
ほぼひと月前のリーマン・ショックが招いた世界同時株暴落が激震とすれば、 このところの経済の減速、そして低迷、受難の連鎖は、まるで大津波が押し寄 せたかのようです。遠い、それも縁の薄い米国ウォール街の一時のサブプライ ム・パニックと思っていたら、それが津波のように猛スピードで何もかも呑み 込んで、ついにわれわれのすぐ足元を脅かしている。
NHKニュースでは昨晩、自動車の減産で派遣労働者の"契約打ち切り"の深刻 な現実を映し出していました。いつも弱者にしわ寄せがくる、と女性キャス ターはため息交じりでした。また本日の朝日1面トップは企画「金融危機」の シリーズで、アイスランドの超インフレの実情を「明日からどうなるか。通貨 下落が続き、失業は増え、物価は上昇し、給料はカット…」と伝え、「最も幸 せだった国」の暗転の様をルポしていました。
では、どうするのか。この閉塞状況の本質と実態を探って、次に向かう処方 がもとめられているのかもしれません。朝日新聞は、その辺のところをよく承 知で、この17日朝刊から『経済危機の行方 世界は』を開始し、有識者らのイ ンタビューで「世界に波及した経済危機の本質をどうとらえるのか、これから どうなるのか」を探る、という。
東大経済学部教授の岩井克人さんの「資本主義はなぜ、不安定なのか」の答 えとして喝破した「投機」の意味は十分に説得力があったし、今回の金融危機 の本質をうまく浮かび上がらせていました。19日のハーバード大学名誉教授、 入江昭さんのグローバルな依存体制の分析と、そこから派生する金融の自由化、 国境を超える人の往来、あるいは逆説的な言い方をすれば、相対的に国家の基 盤が弱まり、政府の役割は低下した、と断じ「一国にグローバル経済の統治の 責任を持たせるのには無理がある」という認識からの提言「金融版WHO構想」 は、なるほどと思わせる論説でした。これには異論も、当然、反論もあること は承知しているつもりです。
いずれにしても、この危機の連鎖によって、この先どんな試練に立ち向かう ことになるのか。何が起きても不思議じゃない事態が迫っているような気がし てなりません。そして、世界経済の、その制度の、それらを統治する市場万能 主義の、その仕組みがガラガラと音を立てて崩れ始めているのは間違いなさそ うです。これはある意味、歴史的な転換点であり、おおいなる変革のチャンス かもしれませんね。
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◇大学発ベンチャーのニュースリリースをDNDiNNで!
さて、ご存じでしょうか、大学発ベンチャーがどこの大学・地域から、どの ような魅力的なベンチャーが生まれているのか―は、DNDサイトの「大学発ベ ンチャー企業情報DB」でご覧になれます。その最新情報にはざっと現在800社 が登録されています。そこで、それぞれのベンチャーがどんな活動をしている か、その実態は?という疑問に答えるのが、この10月8日からスタートしたベ ンチャーのニュースリリースを掲載し配信する「DNDiNN」の役割です。すでに 2週間で20本近い情報がアップされています。
本日アップしたのは、北大発バイオベンチャーの(株)「イーベック」(土 井尚人代表取締役社長、札幌市)が、独の世界的製薬会社「ベーリンガーイン ゲルハイム」(本社・ドイツ、インゲルハイム)と締結した5,500万ユーロ (約88億円)に及ぶ大規模なライセンス契約のニュースでした。
それによると、契約の主な内容は、イーベックが独自に開発した治療用完全 ヒト抗体プログラムの、その一つについての契約で、これによってベーリン ガーインゲルハイムはこの抗体に関するプログラムの扱いについて、全世界で の開発および商業化(製品化)の独占権を取得することになる、という。イー ベックが手にする対価は、約88億円に及ぶ前払い金および開発ステージに応じ たマイルストーンペイメントのほか、発売後は販売実績に応じたロイヤリティ をも得ることになる、というから、凄い。
どんな技術なのか、といえば、これはリリースやイーベックのそのHPに詳細 がアップされていますので、ご覧になってください。少し触れると、これまで の治療用抗体といえば、マウス抗体からスタートした複雑な遺伝子組み換えに よるものでした。いわば疑似的なヒト抗体といえるもので、副作用が完全に排 除できない、という難題を抱えていました。が、イーベックは、ヒト体内での Bリンパ球から、画期的な完全なヒト抗体を作成する技術を確立していた、と いう。その抗体にはいくつかあって、HPには、 GM-CSF抗体、サイトメガロ ウイルス抗体、ミッドカイン抗体の3つが列記されていました。
また、この技術はその他の関連の特許に頼らない独自の技術であるため、製 薬会社各社の要望に応じたヒト抗体の作製を可能にしたという。この技術開発 には、経済産業省及び、NEDOの助成が下支えをしていたのですね。
イーベックは、北海道大学の遺伝子病制御研究所の高田賢蔵教授(イーベッ ク代表取締役会長)が蓄積してきたEBウイルス研究の成果をベースに2003年1 月に設立されました。北海道ベンチャーキャピタル代表の松田一敬さんによると、88億円といえば、北海道のバイオ産業の売上高(昨年度ベース)の約3割にあたり、道内のライセンス契約としては過去最大の規模になる、という。それにしても、わが国の大学発のバイオベンチャーの将来に一条の光明が差し込んできたようです。そこで、88億円の評価の算定根拠、それに国内の製薬会社とのライセンス契約でなくてなぜ、ドイツだったのか、その辺をもっと詳しくお聞きしたいものです。
契約はドイツで9月29日、ニュースリリースのアップは10月2日、翌日3日に は地元北海道新聞に取り上げられました。また、理化学研究所理事長の野依良 治さんが「基礎研究からイノベーション創出」をテーマに開会の基調講演を行 ったパシフィコ横浜で開催のBioJapan2008で、急きょその16日に、「イーベッ ク、ビッグファーマへの技術導入成功の鍵」と題した講演が設定され、参加者 らの話題になっていたようです。
なお、「ベーリンガーインゲルハイム」社は、1885年創業で世界トップ企業 20にランクされる製薬企業の一つで、2007年度の売上高は約110億ユーロ(約1 兆7,700億円)という。日本法人があって、我が国のその高い技術成果をリ サーチしているのですね。
大学発ベンチャーの新たなEXITは、そのひとつとしてバイオ系は欧米の大企 業とのアライアンスにある、と喝破されていたのは、先日お邪魔した東京大学 の教授で産学連携本部の事業化推進部長の各務茂夫さんでした。どうも、この ところその拠点、産学連携プラザの活動に注目していたら、脇役の東京大学特 任准教授の白石敬仁さんが、「やはり、人ですよね」とその成功の秘訣をさり げなく指摘していました。
その東大の産学連携本部主催の「起業・大学発ベンチャーセミナー」が11月 20日に開催される、という案内がいまタイミングよく飛び込んできました。数 えてこれで今年5回目、規模は小さいけれど極めて意義は大きい、と思います。
さて、皆様、大学発ベンチャーの起業情報をはじめ、特許、製品、アライア ンス、表彰などニュースリリース関係の情報をDNDiNNまで遠慮なくお送りくだ さい。サイトにアップし、定期的にメルマガでも取り上げていきます。
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◇連載は、先ほど届いたばかりの経済産業省の石黒憲彦さん執筆の好評連載 『志本主義のススメ』の第120回「続・既視感のある風景と時代思の変化」で す。石黒さんは、招かれた講演でこんな風にアドバイスしているそうです。
「こういう時だからこそ、足元の情勢に狼狽えず、中長期的に何をなすこと が競争力を高めるのか考えるべきではないか。当面の売上減に備えることは不 可欠だが、今回の不況が自らの構造問題というよりは外的ショックに起因して いる以上、体力を落とすリストラなどは避けて、むしろ次の景気回復の波に備 える攻めの投資をすべきだ。例えば投機マネーが去って資源高に一服感がある からこそ、次の高騰に備えて、コスト競争力を高めて資源高や円高に打ち克つ ための省エネ投資や付加価値を上げるための研究開発の増額を行うべきではな いか。」と。
◇塩沢文朗さんの連載『原点回帰の旅』の第41回「肥後の石橋と地方の力」で す。そのタイトルにふさわしく、熊本県下益城(しもましき)郡美里町という 町を訪れるところから始まります。その地に阿蘇神社の末社、佐俣阿蘇神社が ありそこが実は、神職の3男として生まれた塩沢さんのご尊父の生家で、この たびの訪問は、昨年97歳で逝った伯父で、ご尊父の長兄の1年祭に出席するた めでした。彼の地での追憶と感慨、どうぞ、塩沢さんの原点回帰の旅に少しお 付き合いください。
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◆中国経済産業局の次世代産業課特許室に籍を置く高城(たかじょう)幸治さ んから、この10月からインターネットを通じて動画配信する『もうけの花道』 Webサイトをスタートした、という連絡が入りました。このツールで、中 小・ベンチャー企業の方々に活用してもらって、知的財産の経営戦略として役 立てたいという。内容は、中国5県を中心に経営戦略の成功事例や、大学、研 究所、企業の驚きの新技術、知財活用の裏に隠された失敗などを、分かりやす く紹介していますーついては、DNDサイトにリンクを張っていただけないか、 という相談です。さっそく、九州経済産業局の松田一也さんが孤軍奮闘で運営 する「産学連携道場」の下に置くことにしました。「もうけの花道」って、そ のネーミングがストレートで気に入りました(笑)。
「もうけの花道」
http://www.mouke.tv/
◆さて、待ちに待った、信州は松本の、おそばで有名な奈川(ながわ)地区で 開催される、健光ツーリズムがいよいよ明日、本番です。松本市新産業連携担 当の堀洋一さんからパンフレットや地図などが送られてきましたし、宿泊予定 の「ヒュッテ不思議童子」のオーナーからは、ご丁寧なお手紙と案内が入った 封書が届きました。
写真で拝見すると、標高1400bの奈川高原の陽の差し込める一角に、そ の瀟洒なペンションがありました。青く高い空、小川のせせらぎと野鳥のさえ ずり、広く開けた窓から、穂高連峰と乗鞍岳の堂々たる北アルプスの峰々が一 望できる、という。なんと、なんと、心躍る光景が目に浮かんできます。ペン ションにお礼の電話を入れると、気の良さそうなオーナーさんの快活で明るい 声が響いてきました。
白樺峠のタカ渡り、太極拳、朝晩5回の検診などなど、そのいずれも楽しみ です。予報では、雨。それもいいじゃないですか〜。旅の報告はまた後日いた しますね。では、行ってきま〜す。