◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/10/01 http://dndi.jp/

10月の、それぞれの肖像

 〜古川勇二氏、亀山秀雄氏、武田芳明氏、新創刊「フジサンケイビジネスア イ」、NHK「だんだん」、橋本正洋氏、野依良治氏、武田健二氏、そして6年目 のDNDメルマガ〜

DNDメディア局の出口です。いつの間にか、朝夕が冷え込んでめっきり晩秋 を感じさせています。白い空から霧雨が落ちてきそうで、なんとなくひと肌が 恋しくなるのもこの季節の趣です。とっぷり日が暮れると、ぬる燗の「美少 年」なんかでひとりちびりちびりっていうのもいいかもしれません。


今日から10月。今年も残すところ3ケ月、そして年度の折り返し点で下 半期のスタートとなります。さて、心機一転、これから新天地での一歩を踏み 出した人もいるかもしれません。また、ここから一気に勝負をかける、という 方も企業も多いと思います。


古川勇二さん。東京農工大学大学院教授で技術経営研究科長が退職し、この 日、厚生労働省所管の能力開発総合大学の校長として新たなスタートを切りま した。振り返れば、在任期間の5年半にわたって、本業の機械工学専攻の研究 室でMEMS分野の研究と教育にその情熱を向ける一方、東京農工大学のMOTの創 設、運営、あるいはMOT協議会やMOT学会の設立など、わが国のイノベーション を促進する新たな人材群の育成を目指す、技術経営学の体系化、専任教員のレ ベルアップ、大学院の認証評価の導入など現場からの仕組み作りに幅広く尽く されました。


また、TAMA活性化協議会の会長という立場から地域の発展と企業間の連携を 意図する産業クラスターの先進的モデルを作り上げたのも評価されるところで す。その成果や経験から経済産業省の産業クラスター研究会の座長を務め、今 日のクラスター政策の指針をまとめられました。また、韓国や中国などへのア ドバイザーとして国際的にも活躍の場を広げていました。


毎年6月の京都での産学官連携推進会議では、連続して地域活性化と中小企 業の役割という難しいテーマの座長を務めていました。驚かされるのは、座長 役ながら、そのパネルの終了と同時に、自ら持ち込んだパソコンにその議論の 要旨を的確にまとめ、そして論点と課題を浮かび上がらせるという離れ技をや ってのけていたことでした。その現場を何度も目にしていました。


ご存知の通り、DNDでは「技術経営立国の指標」を連載し、モノづくりの視 点から貴重な提言をされていました。まあ、なにより誰彼を区別しない、普段 着のままのお優しい人柄で、多くの幅広いファン層を形成していました。


今度は、政府の方針で、廃止の方向が打ち出されている能力開発総合大学の 校長として、これまた難しい判断が求められるポジションですね。わが国の技 術立国を担う学生が4000人在籍し、その教育と将来の新たな設計に取り組む、 という。古川先生が校長だから、もう安心かも知れません。


しかし、もうこれ以上、無理なさらずに用意された私立大学の条件のいいポ ジションで、余生を静かに満喫した方がいいのでは…と言う声もあるらしいの ですが、どこまでいっても現場主義に徹するのですね。ひとつでも社会のため に役に立つなら、その労苦を惜しまないという姿勢のようです。古川先生の今 後のご活躍をお祈りしたいと思います。まあ、いろんな局面で、ご協力は惜し みません。


東京農工大学にはMOTの特任教授として研究科に在籍することになります。 古川先生の後任の研究科長には、これまで古川先生をサポートしてきた亀山秀 雄教授が就任しました。亀山先生は、自ら大学発ベンチャーを立ち上げている 起業家教授でもあります。今後の活躍をおおいに期待したいものです。


本日の新聞を見ていたら、古川先生の人事発令のほか、京都大学総長に松本 紘理事・副学長が、九州大学の総長には有川節夫理事・副学長が、それぞれ正 式に就任されました。いずれも総長選考会議で内定し、任期は26年9月30日。 また、秋篠宮さまがこの日付で、東京農業大学の客員教 授に就任されることが宮内庁から発表されていました。家禽類のご専門で1996 年には皇族として初の理学博士号を取得されています。


新聞社の人事異動では、知人でかつては調査報道に徹した巨悪を断つ事件記 者、粘りの取材で数々のスクープを重ねた毎日新聞社の武田芳明氏が、西部本 社編集局長兼福岡本部長から、北海道支社長に栄転されましたね。僕の故郷な ので、DNDのユーザーで北海道在住の皆様、どうぞ、毎日新聞をよろしく、と いうところでしょうか。新聞を購読してください。これは昔のライバルへの餞 別みたいなものでしょうか。


新聞といえば、産経新聞グループの産業情報紙「フジサンケイビジネスア イ」が1日から紙面を刷新し、新たに横書きタブロイド版でスタートしました。 その特徴をウェブから読むと、国際的な大手情報メディアの米ブルームバーグ 社と連携し、金融、海外ニュースを強化した総合ビジネス金融紙の新創刊とい う位置づけで、ブルームバーグにとっては日本で初の本格的な活字媒体への進 出となる、という。


フロント面は産経グループが発信する「ビジネスアイ」、バックフロントは ブルームバーグの「グローバル・ファイナンス」という2つの顔を持つ新メデ ィアで、創刊のこの日の紙面は、「米国発世界恐慌を阻止せよ」との見出しで、 金融危機の世界的は連鎖の動向を圧倒的なボリュウームで特集していました。 ブルンバーグの紙面は、欧州中央銀行(ECB)のゴンザレス・パラモ理事の講 演を取り上げて、ECBと各国政府は 金融市場を守るために行動する、というEC Bが危機回避の救世主になることを印象づけていました。中面では、金融安定 化法案の否決の動揺ぶりを「宙に浮くカンフル剤73兆円」の見出しで、生々し い現地のルポを掲載していました。また、誰もが不意打ちを食らった格好の法 案否決の裏事情について、米国はまさに選挙シーズン、再選を目指す多くの議 員は、法案にノーを突きつけるよう電話で求めてきた地元有権者の圧倒的な反 対の声に翻弄された、と伝えていました。


選挙が近い、という内向きの政治事情で、金融危機が世界の経済を脅かした ということでしょうか。新創刊のビジネス総合金融紙にとって、いまの世界恐 慌の懸念は、まさに稼ぎ時かもしれませんね。時流に流されず、本質を見抜い た分析記事を期待したいものです。


それというのも、世界恐慌を生んだ1929年のウォール街の崩壊の、とくに当 時の9月から11月ごろの株価の乱高下の様相は、あまりに今日の動向と酷似し ていることに気づきます。いわば、メディアが何を伝えたか、というところの 教訓もあって一部投資家側に立った利益誘導の記事も数多くあったと指摘され ています。


この1ケ月以上に及ぶ、米国発金融危機の動きをウォッチしてみると、日本 時間でいうと、夜から翌朝にかけてニューヨーク市場が開く米国の株価に連動 して東証の株価が反応している。米国の株が急落すれば、急落、反発すれば反 発する、というシーソーゲームを繰り返しつつ、全体として大幅な下落傾向に あります。で、メディアもその動向を夕刊で、朝刊でそれぞれ伝えていますが、 その無尽蔵のニュースを単にフォローするだけでいいのか、どうか。締め切り に追われ、それほどの解釈や検証も加えないままに流す記事があまりに多い。 その事象に一憂する新聞社の慌てぶりが、その紙面から垣間見えてきます。


社説をみれば、米国に対して「米政府と議会は世界経済への責任を自覚し、 修正案づくりに出直し協議を急がねばならない」って指摘しているメディアも あるけれど、この論調は、果たして誰に対して発信しているのだろうか、伝え る相手を見誤っていないか、とも思ってしまいます。


いま、ラジオから国会の代表質問が流れてきます。激烈なやり取りです。も う一度、日本の凄さを再認識し、胸を張って新経済成長戦略を進めていけばい いのでしょう。いま、解散・総選挙を急ぐ状況にない、という新総理、麻生太 郎氏の認識は間違っていない気がしますが、やはり11月9日ごろになるのでし ょうね。政権交代をかけた民主党の、麻生総理への徹底抗戦の姿勢は、なかな か凄みが感じられました。


また、自民党幹事長の細田博之さんが、熱の入った代表質問のおしまいに、 地元島根県出雲地方の方言で「ありがとう」の意味の「だんだん」を紹介して いました。いい響きの言葉ですね。神無月、しかし出雲は神様が集まるから神 在月なのですね。


今週29日から同名のNHKの連続テレビ小説が、スタートしました。離れ離れ に暮らす双子の「まなかな」さん、島根県・松江の宍道湖周辺と京都・祇園が 舞台です。もう初回から縁結びのクライマックスが展開されていました。これ はヒットの予感です。毎朝見逃したら、なんだか見るまで落ち着かないくらい 楽しみな、久々の連続ドラマの始まりです。


DNDの連載で、「NEDO戦略の核心」を担うNEDO企画調整部長の橋本正洋さん から、こんなお知らせが飛び込んできました。それによると橋本さんが昨日9 月30日、東京大学工学部3号館会議室で、小宮山宏総長名による工学博士(社 会人課程博士)の学位記を授与された、そうです。学位論文の題名は「ネット ワーク分析によるナショナル・イノベーション・システムの研究」です。


橋本さんは、「学位論文の検討過程でイノベーション及びイノベーション政 策について、深く思考できたことは私にとって非常にありがたいこと」といい、 これを出発点として、さらに日本のイノベーション創成を推進するため、一身 を賭して参りたいとの決意を伝えています。論文の一部は、日本知財学会誌最 新号(http://www.ipaj.org/selling/pdf/Vol.5No.1.pdf)に採択、掲載され ており、来春出版の一橋ビジネスレビューに投稿論文として採択される予定、 という。いやあ、おめでとうございます。このメルマガに間に合ってよかった 〜。


これはスタートじゃなくて昨日30日に終えた日経の「私の履歴書」は、理化 学研究所理事長の野依良治さんでした。29回の最終回は、これまでの自らの歩 みという人に、チャンスに、そして研究に恵まれた野依さんの華麗な足跡の真 摯な記述とは趣を異にし、「極端な競争主義から協調主義に移行せずして、人 類の存続も保証の限りではない。今こそ二十世紀の軍事的、経済的統合ではな い『文化的統治』が必要だ」と訴えていました。


そして、「現代、なにゆえに日本の国際的存在感が薄いのか」と自問し、わ が国は国柄をより明確に定め、日本人の価値、思想の正当性をグローバルに発 信、流布して理解を求めなければならない、とその行く末の有り様を示唆し、 「新しい世紀のふさわしい展望をもち、他の国々と手を携え、広く人類社会に 貢献する国をつくろうではないか。すべての世代の奮起を期待している」と万 感の思いを込めた、格調高いメッセージを伝えていました。


この1ケ月、とても楽しい思いをさせていただきました。先日、理事でお世 話になっている武田健二氏を和光の理化学研究所に訪ね、いま日本の存在価値 が世界から注目されつつあることを聞くに及んで、日本の、日本人の価値の再 考を急がねばならないという気分にさせられました。それにしても、その広大 で落ち着きのある敷地を散策してみると、緑豊かな自然の美しさに心を奪われ てしまいました。新総理の麻生さんも行ってみるといいのに…。春、沿道の古 株のサクラはきっと鮮やかな花を咲かせることでしょう。


武田先生にはこの8日夕刻、埼玉県のチャレンジ・ベンチャー交流サロンで ご講演をしていただきます。ご関心がある方は、ご一報ください。


さて、DNDメルマガは、この10月でちょうどスタートからまる6年が経ちまし た。毎週水曜日の配信で、もうすぐ300回を数えることになりますが、今日の 閉塞した状況は、これまで経験したことがない未曾有の経済危機に直面してい る、というのが実感です。内患外禍(ないかんがいか)、今後も大学発ベンチ ャーの動向をしっかりフォローしながら、その時事片片、その世界のリアルな 姿を切り取っていきますので、よろしくお願いいたします。



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