DNDメディア局の出口です。〜あなたもスティーブ・ジョブズなれる、とそんな挑発的なアドバイスをその著『ウェブ時代5つの定理』で梅田望夫さんがおっしゃるので、いまさらでもないのですが初心に戻って、未来を開く生きた言葉をフォローしていると、主にイノベーションについてのスティーブ・ジョブズの思考プロセスや考えるヒントが、その本に多く見つかりました。
ご存知かと思いますが、最近話題の『Inside Steve's Brain』という新刊です。著者は元新聞記者のLeander Kahney氏で『The Cult of Mac』の本も出版し賞を取っているので、もうスティーブ・ジョブズの人間像に肉薄しているひとりなのでしょう。ちょぃと解釈を加えれば、MacからiPod、そしてiPhoneと進化を遂げるアップルの創業者で現CEO、そのイノベーターには、その人格にふさわしい腕利きのライターが存在している、ということかもしれません。
栄光と挫折、その屈辱の解雇から不死鳥のごとくグローバルな舞台に躍り出た、その魅惑の彼の半生にはいくつもの学ぶべき教訓が、披瀝されていることに気が付きます。不確実な未来に向かっていくうえで、いかようにも対応できるよう徹底して学び続ける意志を持つ、そんなことも指摘しています。きっとそういう姿勢の、志の高い人のそばには、もうひとりのスティーブ・ジョブズがついていてくれている、そんな気になってしまいますね。それが、い い意味でCult呼ばわりされる所以なのかもしれません。
『Inside Steve's Brain』。モノトーンの表紙は、彼のシルエットの横顔があしらわれています。直訳すれば、『スティーブの頭脳の中』となるが、彼が体験的に会得したプロダクツの開発の要諦や人間組織のあり様、目指すべきビジネスのターゲットなど、その彼の思考や流儀がメッセージとして、エピソードとして詳細に掘り下げられています。まあ、彼の閃き(ひらめき)とでもいうのでしょうか、無理に訳さなくたっていいじゃない、という声も聞こえてきそうですが、まあ、そこは今後の邦訳を待ちましょう。
実は、最近まで知りませんでした。この本は先日夜、東京・八丁堀にある長崎ちゃんぽんの店で、DNDスタート時の支援メンバーで現在、カフェスタ(株)の代表取締役社長、CEOの工藤純平さんと合流し、その際、僕に「読みましたか?」と差し出してくれたものでした。なんだかタイトルが気に入ってすすめられるまま、鞄に仕舞込みました。
それは確か2002年の秋でした。彼は、DNDのコンテンツ充実のひとつとしてDNDメルマガの発行を提案し、それには署名が肝心、つまり誰が発行しているのか、それを明確にすべきと主張していました。DND事務局の出口です―という書き出しも彼のアイデアでした。いまや全国区!?のメルマガも当時、20代の彼の提案を素直に受け入れたから、今につながっているだと彼には感謝しています。
先日はその工藤ちゃんが音頭をとって、経済産業研究所に在籍していた当時のDND事務局関係者、いわば"出口組"の総会を久しぶりに開催しました。数えれば14人。番頭は、日本事務器から出向の高林貞明さん、重鎮で、いまなお要的な存在です。それに現在テレウェイヴ市場調査の部長で成長著しい葛巻岳さん、さらにデザイナーで、もはやDNDで経費が出せない現状にもかかわらず出世払いで奉仕してくれている杉山一期さん、同じくシステム構築を支援してくれている玉川竹春さん…感謝しきれません。
あれから6年。そこでもう5人が起業しあるいは社長になっています。新聞社時代の後輩の深田晋爾さんは日工フォーラムの編集長に就任していました。彼は独身ですが、結婚したのが3人、二世も3人を数えました。
いつまでもわいわいやっていました。みんな元気で、なんといっても若いからこれからが楽しみです。人生まんざらでもない、としみじみ思いましたね。うれしい宴会でした。いつかきちんと紹介しますが、若い人には心を砕いてチャンスを与えていけばいい、そして理屈はどうでもいいから、腹いっぱい飯を食べさせることです、といのが若手育成の僕のやり方でした。さて、余談がながくなってしまいましが、本題のスティーブ・ジョブズの言葉をいくつか紹介します。
その1:
Part of the process is Apple's overall corporate strategy : What makerts does it target, and how does it target them?
「プロセスの一部がアップル社の総合的な企業戦略です。どのマーケットをターゲットに絞るのか、そしてどのようにそれらを狙うのか」。
その2:
Part of it is about being creative, and always learning. part of it is about being flexible, and a willingness to ditch long-held notions, and a lot of it is about being customer-centric.
「そして創造的で、かつ常に学習しなければいけません。柔軟でなければならないし、固定概念を積極的に捨て去る事もその一部です。そしてその多くは顧客中心に関するものです」。
上記の引用は、『Inside Steve's Brain』の第6章「Inventive Spirit: Where does the innovation come from?」からです。イノベーションはどこからもたらされるのか?その答えの一つとしてこう記述されています。
その3:
He continued, "But innovation comes from people meeting up in the hallways or calling each other at 10:30 at night with a new idea, or because they realized something that shoots holes in how we've been thinking about a problem.
〜廊下ですれ違う人、ひらめいたアイデアを伝えようと夜遅く電話をかけてくる人々〜ということになるらしい。
なるほど、やはり「人」でした。またスティーブ・ジョブズのイノベーションに関するメッセージとしては、1998年11月9日の「フォーチュン誌」に載ったコメントが有名です。これもその6章の最初のページに紹介されています。
その4:
"Innovation has nothing to do with how many R&D dollars you have.
When Apple came up with the Mac, IBM was spending at least 100 times more
on R&D. It's not about money. It's about the people you have, how you're
led, and how much you get it."-- Fortune, Nov. 9, 1998
「イノベーションは、研究開発費の額とは関係がない。アップル社がマックを開発した時、IBMは少なくとも私たちの100倍の金額を研究開発に投じていた。大事なのは金ではない。それは人材であり、それらの人材をいかに引っ張っていくか、そしてそれらをどれだけ抱えているかが、最も重要なところだ」
これらの中で最も刺激的に感じられたフレーズは〜
その2の「being customer-centric.」の、いわば、顧客主義とでもいうのでしょうか。そして、その3の「innovation comes from people」の「人材」の大切さでした。身近にそういう人物がいてくれたら、どんなに勇気づけられるでしょう。一級のアントレプレナーたちの名言に学ぶという姿勢の大切さは、梅田さんの本にも述べられている通りです。
またスティーブ・ジョブズの次のメッセージは、それは梅田さんが『ウェブ時代5つの定理』でも紹介し、常々若者への激励を忘れない内閣特別顧問の黒川清さんがブログに綴り、自らのご講演で繰り返し引用しています。それは、"Stay Hungry. Stay Foolish."で知られる2005年7月に行ったスタンフォード大学の卒業生向けのスピーチの一節です。
その5:
Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma ― which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.
〜あなたの心は、あなたが本当に何をしたいのかを知っている、だから、ただその心の命ずるままに従えばいい!それ以外のことは、二の次〜。
ほんとうですね。見栄を張ることや他人と比較することは無意味です。どんな状況に陥っても、諦める必要はないし、一時的にうまくいかなかったとしても自暴自棄になることなんてさらさらないわけです。上司のいうこと、それはあんまりあてになりませんから、さらりと上手にかわせばいい。まあ、スティーブ・ジョブズも嫌われ者で通っているらしいし、そんなことはどうでもいいのですが、iPodの成功ですら「まぐれ」という嫌味な批評もあるらしいので、他人の評価なんていい加減なものだ、と割り切って無視すればいい、ということでしょうね。人生なんて最後までわかりません。その気になって親しくなったタクシーの運転手に刺されてしまうという落とし穴が待ち受けているケースもあるのですから…。所詮、縁もゆかりもない運転手を信用するからいけないのです。でも、情けないですね。僕らの時は、運転手にチップをあげたくらいですよ。これもおまけの余談でした。