◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/05/21 http://dndi.jp/

「衆志成城、抗震救災」

 〜四川大地震、その苦難を乗り越えて〜

DNDメディア局の出口です。残る最後の一人まで諦めないで…そんな気迫が 伝わってきます。黙々と汗を流す中国兵士らの姿、その必死の救出劇が連日、 テレビ画面に映し出されてきます。きょう21日の朝は、発電所の男性職員が17 9時間ぶり、そして60歳過ぎの女性はなんと195時間ぶり救出された、という驚 きの朗報が飛び込んできました。凄いことですね。72時間が生存の限界とされ ているのにまさに奇跡の生還、刻一刻、まさに時間との戦いで、それはいまこ の瞬間も続けられているのです。


その生死を隔てたものは何だったのか、教訓のひとつは、やはり水でした。 大敵は脱水症状だったのですね。それに長い間、崩壊した家屋の下敷きで体が 圧迫されるとクラッシュ症候群という症状に襲われるのも危険といわれていま す。なにより、「生きる」という強い生への執念が大切なのではないか、と思 いました。


12日の地震発生からもう9日目です。しかし、一向に余震は鎮まる気配が なく、逆に地震災害の過酷なニュースは緊迫を増しています。大勢の患者でご った返す医療の現場は混乱し、それで手が十分に回らないといって誰を責めら れるでしょう。


日中30度の暑さによる感染症の不安、衛生面がにわかに取りざたされていま す。いまなお頻発する震度5以上の余震、道路復旧の作業員200人以上が土砂流 に巻き込まれたという一報も入りました。崩落した土砂で川が堰き止められた 地震ダムは、決壊の危険が迫る。山々に亀裂が入り土砂崩れの恐れで住民一万 人が避難した、とも伝えられています。こんな二次災害が、危険の姿を変えて 次から次と襲ってくる…。


避難住民は500万人、けが人が24万5千人、死亡や不明、それに生き埋 めによる犠牲者が7万人、これが日々数を増しているのだからやりきれません。 どうやってこれらの数字を集計しているのでしょう、中国政府の専門機関が人 海戦術で情報集めに動いているのかもしれません、それにしても膨大な作業で だと思います。各国の報道陣への取材許可や情報提供はスムーズに流れている ように見受けられます。が、現実はもっと激しいやりとりがあって当然です。 これまでの閉鎖的な体質から脱皮した背景には、北京五輪を夏に控えて国際社 会への順応という解釈もあるようです。が、そんな意図を勘ぐるより、この狂 瀾怒涛の中で精一杯、それ以上によくやっている、と賞賛の声を送りたいもの です。


涙ながらの懸命の救出作業、道なき道を進む寸断された村落の捜索、泥まみ れのインフラの復旧作業、悪臭の中での消毒作業、敬虔な遺体収容に心を砕く 救急隊員、遺族への身元確認の誘導、押し寄せる患者の治療、避難住民の不満 や批難を浴びながらの食糧や水の補給、食事の炊き出し、避難する子供らのた めの臨時の学校再開、仮設テントの提供など生活の確保、そして情報収集など など、地震直後も大変だったが、今に求められる作業量は数百倍に膨らんでい るのではないか、と思われます。


未曾有の中国・四川大地震、その地震の規模を示すM(マグニチュード)は、 これまでのM7.8からM8に修正されました。被災者総計1000万人、懸念材料は、 いまだその被害の全容が掌握しにくい状況にある、ということでしょうか。


例えば、阪神淡路大震災の20倍の規模とも指摘されます。その地震の規模を 言うのですが、比較にならないのが果てしなく広大な被害エリアです。ひんぱ んに名前がでてくる震源地に近い?川県は、正式には、アバ・チベット族チャ ン族自治州の?川県、山岳をまたぎ、数十万の村落に夥しい数の少数民族が居 住しているというから、その実態は容易につかめるものではないようです。急 勾配の山道が寸断されてしまって救援の手が入りきれていない実情もある。悲 しみを誘うのは、学校の倒壊による中学や高校の生徒多数が、ガレキの下敷き になって絶望感を深めていることでした。?川県や北川県を除いた学校の倒壊 件数は6900校に及び、数千人の子供たちが犠牲になっている模様だというから、 う〜む、切ない。


震える恐怖に向って、怯まぬ中国国民の姿を見て、やはりDNDメルマガでも 見過ごすことができませんでした。昨夜は、頑張れ、隣国・中国!という表現 が適切かどうか、DND連載「中国のイノベーション」を担当する張輝さんに確 かめてみました。すると、中国語に訳すれば「中国、加油!」や「中国、挺 住!」になる、と教えてくれました。


そして、テレビ画面でチラッと目にした不確かな4文字、「抗震救人」はど ういう意味か、と問えば、中国ではよく「抗震救災」を使うが、これは中国語 としても意味が通じ、「抗震救人」となれば、人/命を一番大切にするという 点をより強調しているようにも感じられます、と指摘してくれました。きっと、 「抗震救災」を「抗震救人」と見間違えたのかも知れませんが、それで意味が 読み取れるのですね。いま、中国でよく使われている言葉は「衆志成城、抗震 救災」(皆同じ意志を持てばお城になる、そして災害と戦おう)です、と張さ ん。


何があっても、どんな状況であっても、この惨状から逃げ出すわけにはいか ない。急成長と繁栄の新生・中国、北京五輪を夏に控えて湧き上がった祝賀 ムードは、一瞬にして砕け散ってしまった印象を与えていますが、きっとこの 難局を乗り越えて、晴れやかな開会式を堂々と迎えることでしょう。そう信じ ています。


ところで、被害の大きかった震源地のブン(さんずいに文)川県は、三国の時 代はブン山、『三国志』に登場する中心的リーダー、劉備が治めた三国のひと つ、蜀の舞台です。こんな有名なエピソードがあります。


苦境に陥っていた劉備は、曹操軍の急迫で逃げなければならないのだが、人 臣が続々と劉備の後を追ってきた。その数、数十万人。劉備は難民を逃がすた めに関羽に舟を用意させた。部下の一人は、「舟で行かなければならないのは、 われわれの方です。曹操に追いつかれたら、ひとたまりもありません」と、劉 備の温情をなじるように言った。


が、劉備は、「大きな仕事をおこなうには、人がもっとも大切だ。いま、こ れだけの人がわたしを慕ってきているのに、見捨てて行けようか」と答えてい る。人を信じ、自分に厳しい人だけが言える言葉である。


私は『三国志』のなかで、この部分が一番好きだ。読むたびに泣ける、と心 情を吐露しているのは、中国歴史小説の第一人者で、人気作家の宮城谷昌光氏 で、それは彼の『中国古典の言語録』(文春文庫36P-37P)にでてきます。


続いて…。
「天の機緘(きかん)は測られず、抑えて伸ばし、伸ばして抑える。皆これ 英雄を播弄(はろう)し、豪傑を?倒するところなり。君子はただこれ逆に来 たれば順に受け、安きに居りて危うきを思う。天もまたその技倆を用うるとこ ろなし」。


訳せば…。
〜機緘とは荘子のいう「機心」または「機会」に近い意味であろう。「たくら み」ということである。天のたくらみは人間では予測も推測もできない。英雄 も豪傑も天によっていいようにもてあそばれてしまう。君子というものは、運 命が逆にくれば、これをさからわずに受けとめ、安楽な日にあっては、万一の 危機にそなえるものである。そうすれば、巧知にたけた天でも、その腕まえを ためしようがなくなるというものだ〜。


これも宮城谷氏の『歴史の活力』(文春文庫143P-144P)の「災害時に明ら かになる人間の器」からの引用で、出典は、愛読者が多い中国古典の『菜根 譚』でした。


天のたくらみを鎮める、そんな術があるのだろうか。「安きに居て危うきを 思う」とは賢人の習い、危機管理の究極の哲学だと思いますね。さて、温家宝 首相は現地にいち早く入って「百倍の努力を」と訴えました。軍の兵士も消防 隊も、みんな必死で、そして胡錦濤国家主席、続いて李克強副首相も相次いで 現地に入りし、中国政府、それに党の総力を挙げてこの難局を乗り切ろうとす る強い意志が感じられます。なんとしてもこの苦境を明日の希望へとつないで くれることをせつに祈らざるをえません。


「抗震救人」。頑張れ、隣国・中国!
 もうひとつ、過酷な条件下での取材陣の奮闘がつづいています。NHKなど 日本のテレビのクルー、それに新聞各社の多くの記者らの活躍ぶりです。これ は、朝日新聞と日経新聞、それに読売新聞の3社連携のニュースポータルサイ ト「新s」に掲載されているその日の当番の編集長の独白です。


15日読売:
〜犠牲者はどこまで増えるのでしょう。四川大地震の死者は1万5千人に迫り、 生き埋め情報はその何倍にものぼります。発生から3日目、救援活動が本格化 しましたが、ついに住民が輸送トラックから水や食料を奪う事態も起きました。 1面ルポが生々しく伝えています。あらゆる物が不足し、救出劇の陰で繰り返 される悲鳴、むごい光景。読売記者団は険しい山道を何十キロも歩き、兵士の 妨害に耐え、渾身の取材を続けています。(早)


16日読売:
〜自転車と徒歩で9時間近くかけて震源地に近づき、記者が目にしたのは「死 の街」でした。四川大地震は被災者の生存率の分岐点とされる72時間が過ぎ、 被害はさらに拡大しています。死者は5万人を超すだろうと中国政府も認め、 要請を受けた日本の救援隊第1陣が中国入り、時間との闘いに加わります。 (喜)


19日朝日:
 〜中国四川省の大地震から1週間。記者たちは余震、雨、暑さ、腐臭のなか、 難航する救出、山から下りてくる被災者の困窮、助かった方のドラマを追い続 けています。死者3万人余、生き埋め約9500人。過酷な数字が増え続けま す。本日も1面、「時時刻刻」、社会面の4ページにわたり報告しました。 (陽)


きっと体力に自信のある若手記者が現地入りし、風呂も食事も満足にとれな い悪条件の下、それに2次災害の危険と向き合いながら連日朝夕の締め切り時 間に追われていることでしょう。16日の読売の「自転車と徒歩で9時間、震源 地付近で記者が目にしたのは死の街でした」との数行の報告は驚きでした。


記者たちがどんな思いで記事を送っているのか、その辺の事情が少しつかめ たようです。読んでいて、なんだか目頭が熱くなるのを抑えきれません。そっ ちも頑張れ!です、ね。


     【お知らせ】
※連載1は、「中国のイノベーション」を担当する、張輝さんの「第16回つ いに、成都への携帯電話がつながった」です。いま、ちょうど14時40分に原稿 が入りました。どうぞ、緊迫のドキュメントをお読みください。張さんから日 本の国際緊急援助隊の活躍などに感謝のメッセージも綴られていました。


※連載2は、塩沢文朗さんの「原点回帰の旅」は31回、「伯林にて」のその 2回目「標準化人材教育とは何か、について考えさせられた旅」です。文字通 り、塩沢さんには旅の風景がよく似合います。が、内容は、タイトルのあるよ うに国際規格づくりの合意形成ルールに関する課題と、英語力など人材育成に 関して、実務教育よりむしろ、構想力や判断力などの能力を養う教育がより重 要と論じています。日本の大学教育にも通じる、提言でした。詳しくは本文を お読みください。写真付きです。


※連載3は、経済産業省の石黒憲彦さんの「志本主義のススメ」は109回、 「武士道と世間」で、「日本人の平等意識は思想信条として筋金入り」と喝破 し、聖火リレーにおける中国人留学生らの応援とそれをめぐる中国国内の反応 に触れ、中国人と日本人の違いについて言及しています。どうぞ、ご覧くださ い。


※ワシントン在住の国際特許弁護士、服部健一さんの人気のコラムは次週にな ります。どうぞ、その番街編を期待してください。


※話題のニュースは、ご覧になりましたでしょうか、昨日の夕刊フジ一面の総 選挙「地獄のシミュレーション」。日本政治総合研究所所長で、国際教養大学 教授の白鳥令氏の試算で、特徴は自民支持層から民主党に流れる割合を、福田 政権の支持率との関連で読み解いています。支持率25%で1%、18%で2%、ひ とケタで3%と推計し、その結果、最悪で自民184議席、民主238議席と予測し ています。そして政権交代の可能性をも示唆しています。


政治の統計手法を駆使しての選挙予測で白鳥氏は、その先駆けであり第一人 者ですので、この大胆予測は精度が高い。前回、自民が惨敗した参院選の結果 も、それはすでに小泉政権の自民絶頂時に見抜いていました。



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