◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/04/16 http://dndi.jp/

"列島天引きパニック"

 〜黒川流『イノベーション思考法』に学べ〜

DNDメディア局の出口です。緑の風、植え込みのツツジ、庭のハナミズキが 淡い小ぶりの花をつけ始め、初夏の、輝く季節がめぐって、バス停で時間を待 つお年寄りの姿がめっきり増えてきました。しかし、様子がおかしい。独りご とをつぶやいている、顔から表情が消えている、目が虚ろ―どうしたのでしょ う、その丸めた孤独な背中が気にかかります。


年金から保険料を天引きする、75歳以上を対象にした「長寿(後期高齢者) 医療制度」。その天引き初日の15日は、支給された年金からどのくらい引き落 されているか、その金額を実際目にしたお年寄りらが負担の多さにあ然、不満 を爆発させて、役所の窓口に問い合わせたり、詰めかけたりと、いまなおその 混乱が続いているようです。


その保険料が天引きされたのは、ざっと832万人という。この4・15ショ ックで列島が揺れています。なぜ、こんな混乱が毎度毎度、起こるのか、政府 とか行政とかいうけれど、具体的にはどこの誰の問題なのか、あるいはこの制 度そのものに重大な欠陥があるのか、どうか、そこをはっきりさせなければ、 騒ぎの中で本質が見えなくなってしまいかねませんね。


制度導入の決定から2年の準備期間を設定し、昨年秋からはそれぞれの区や 市で説明会を開いてきたという。どうもその原因は、お年寄りの負担、保険料 額がちゃんと説明できていないところにあるらしい。保険証が届かない、誤っ て対象外からの徴収、余計に多く徴収するなどのほか、こんなことではもっと 大きなミスを侵しているかもしれない。


さて、どんな不満があるのか、従来の国民健康保険なら夫婦で16万2千円が2 5万1千円になり8万9千円も跳ね上がる、この負担増数万円はひどい、計算違い じゃないの、厚生年金は消えたまま、それを放置しておいて取り上げる方が先 というのは納得できない、順番が逆でしょう…本日の東京新聞社会面は、こん なお年寄りからの不満や戸惑いを記事にし、TBS系列のみのもんたさんの「朝 ズバッ!」でもさらにその辺に鋭く切り込んでいました。テレビには、質素に 暮らす老夫婦の、不安な表情を映しだしていました。


「戦前、戦中、戦後、一生懸命生きてきたけれど、この年になってこういう 仕打ちをうけるとは思わなかった。情けない気がしてきます」と、それを静か な口調で言うから、それが一層聞く者の胸を打つのかも知れません。


確かに、この真摯な世代が激動の昭和に生き、貧しいながら子息を大学に通 わせて、自らはモノづくりの最前線で懸命に汗を流し、いわば今日の日本の繁 栄を土台から築き、支えてきた功労の方々です。普段口数の少ないこのような お年寄りを悲しませる社会というのは、まともじゃない。


ちゃんと丁寧に説明すれば、理解してくれる世代でもあるのに、そこを端折 ったり、傲慢にもはぐらかしたりするから、火を噴いてしまうのだと思います。


何か最初、踏みつけておいて、持ち上げるみたいな話でね。姑息な感じがし ます〜石原慎太郎都知事は4月4日の定例記者会見で、後期高齢者医療制度の名 称を「長寿医療制度」に変えたやり方をそう批判していました。ご自身もその 制度に該当する75歳というが、その鋭い感性と舌鋒は、いまだ健在のようです。 その東京都は、急激な負担増を緩和するために独自に保険料の一部を公費で肩 代わりする措置を講じていました。その額17億円という。その結果、全国でも 一人当たりの負担増が最も低い金額になっているようです。これらを一体、ど う捉えればいいのか。都市部と地方圏の負担における格差是正という、仕組み はここでは脆くも崩れてしまった感じです。しかし、「老後の住処は東京」と いう伝説は今も生きているのですね。


「本音のコラム」というのが東京新聞の特報のページにあり、本日16日の朝 刊は、精神科医の斉藤学(さいとう・さとる)氏の寄稿でした。この医療制度 を「国家暴力」と決めつけて、厚生労働省が今年の3月になってもその内容を はっきりさせなかったこと、これはわざと隠していたというより、「行政官と して能力に欠けた人々が担当しているのだろう」と厳しく指摘する。そして、 年金役人や道路役人の無軌道ぶりを知った今、「我々にできることは、とりあ えず政権を交代させることではないか。それによって政官の癒着を断つ。ここ から始めなければならない」と強い姿勢を見せていました。


確かにね、政権交代なんて、それほどコラムで書いたからと言って何かが動 くようなものでもないような気がするが、斉藤氏の気持ちは分かります。が、 ちょいと僕のスタンスと違います。なんでも、政権交代が問題解決のカードに なるかといえば、それは疑問です。2006年当時の小泉改革を、単純に「強行採 決」という形だけで切り捨てては本質を見失ってしまう危険があります。


この制度の狙いは、医療費抑制にあったハズです。それも高齢世代と現役世 代の負担を明確にし、分かりやすい制度にする、という趣旨でした。地方の格 差是正という課題もあり、まず年々膨らむ高齢者の医療費の透明性を確保する という目的もありました。その理念は間違っていないでしょう。


 現在の国民医療費が33兆円、そのうち75歳以上の医療費が11兆円と、ちょう ど3分の1を占める額です。そして、2025年、団塊の世代680万人がその年齢に 達すると、その医療費はその世代だけで現在の2・3倍の25兆円になってしまう という予測があります。大変だ〜。さて、そこをどうする、という制度の課題 解決に向けた議論は、政権が代わっても避けて通れない問題です。


今回のこの制度を、社会的弱者いじめ、という主張は世論に受けがいい。が、 それだけでは問題解決にはなりません。どんな制度でもその運用の躓きで、制 度自体を不遇にしかねません。今回のこの混乱、4・15ショックは、もはや 4月パニックの様相です。これは選挙と絡んで、当分尾を引きそうです。長引 けば福田政権の命取りになる可能性もある、と指摘されています。


お年寄りをイジメたら、必ずその報いは選挙結果にでるからです。しかし、 政治とは、そこを覚悟して踏み込んでいかなければならない場合もある。それ も国民への周知徹底や手続きや運用方法がちゃんとできていれば、という前提 があってのことでしょう。


マクロ的視野の重要性は、この14日、KSP(かながわサイエンスパーク) で開催の第1回神奈川株式公開フォーラムで基調講演をされた一橋大学イノ ベーション研究センター教授の、それもいま時の人、米倉誠一郎さんでした。


「イノベーション:常識なんかぶっ飛ばせ」という挑発的なタイトルでした が、講演内容は、極めて常識的でした。いつもの、マイクを手に持って参加者 に近寄り、「どう?」と答えを求める米倉ゼミの講義スタイルは、会場をやや スリリングな雰囲気に包んでいました。舞台向かって左側の、僕の位置とは反 対側だから、と小市民的な心持で油断していると、目の前に…まあ、その模様 などは後日詳しく報告します。


そこで米倉さんが提示した問題は、国家予算84兆円、税収50兆円、借金830 兆円、利子だけで日本の税収が消えてしまう。この状況のプライマリーバラン スをどうとっていくか、増税をやった国は失敗する、という研究チームの例を 出して安易な増税に釘を差しつつ、システムや仕組みを変えていくことの重要 性でした。


しかし、いくら「問題解決型の手法」を制度として取り入れても運用の実務 に頭の不器用なお役人が関わっていたら、ザルで水をすくうようなものかもし れません。トラブル続きの社保庁の「ねんきん特別便」を例にとるまでもなく、 厚生労働省所管の問題は、まさにそれを担う、現場職員、それ相当の幹部らの 資質に起因しているケースがほとんどです。こうすればどういう問題が起こる か、その先が想定できない、起こりうる問題への対応に知恵がない、 ほんと不思議なほどです。では、どうすればいいのでしょうか?答えは、イノベーション、といってもその本質はどこにあるのか…。


内閣特別顧問の黒川清さんの近著『イノベーション思考法』(PHP新書) にその答えが出ています。「新しい価値観を生み出せる頭の使い方」と本の帯 に紹介文がありました。どうぞ、ご一読を。


また、今年で第7回を迎える産学官連携推進会議は6月14日、15日と日程が決 まり、参加者の募集が開始されました。その初日の午前のステージで基調講演 に立つのが、米倉誠一郎さんです。米倉さん、初登場かなあ、楽しみですね。


ステージ後ろに吊るされた「第7回産学官連携推進会議」の大看板を揶揄し て、「志が低い」と言い放つのでしょうか。「目指せ!グローバルトップワ ン」とか、何かその年のテーマにふさわしいメッセージがなきゃいけない、と いうことを指摘されるような気がします。


「科学技術による地域イノベーション」は、これもタイトルですが、この文 字からは何も響いてこない、という点では少し弱い。


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