DNDメディア局の出口です。イキイキとしたハリ、しっとりとした潤い、そし て上質な透明感、とくれば美肌効果をうたう化粧品のCMですが、ここで取り上げ るブランドは、画期的な技術開発の成果に基づいて誕生した大学発のMARIANNA (マリアンナ)、う〜む、この響きに気品が感じられませんか、使うほどに素肌 に秘めた自然の美しさを目覚めさせるのだ、という。
その株式会社「ナノエッグ」といえば、知る人ぞ知る、いま話題の大学発ベン チャーで、大学の「知」の活用から生まれた新規DDS(ドラッグ・デリバリー・ システム)技術など先端的な"Skin Science"のテクノロジーによって、皮膚の 自己治癒力を高める商品化に成功した、聖マリアンナ医科大学(神奈川県川崎市、 青木治人学長)のバイオベンチャーなのです。
その商品ブランドに大学の名前が付けられていますが、化粧品にとてもふさわ しいネーミングじゃないですか。その背景を探れば、大学運営のトップに確かな 理解者が存在しているのか、余程商品に自信があるのか、こんな芸当はなかなか できるものではありません。
創業は2006年でこの4月で丸2年です。やっと動き出したばかりなのに初年度か ら安定した黒字経営で、次々と打ち出す製品開発やビジネスモデルの展開など、 その鮮やかな手法に感嘆の声があがっています。
なんといってもその技術力なのでしょう。いち早くエステ大手のTBCグループ とエステ分野の独占契約、その他江崎グリコや複数の製薬メーカーなどあわせて 約10社と共同研究体制を確立し、化粧品から飲料・食品、それに製薬分野での技 術開発や業務提携が着々と進んでおり、第1期は売上7000万円、08年の売上は10 億円規模を見込み、当然ながら09年には株式上場を視野に海外にも販路を拡大し ていく考えです。異分野のエンジニア会社と連携し、スキンサイエンス分野で世 界のトップを目指す、というのですが、この会社の凄いところはまだまだたくさ んあるんです。
先日、神奈川県商工労働部産業活性課が主催する「かながわベンチャー・ステ ップUP!フォーラム」にお邪魔しました。神奈川県が産業の活性化の担い手とし て資金を支援する制度に採択された中から4つの大学発・大企業ベンチャーのプ ロジェクトが登場していました。
この制度は、神奈川県の担当者の意気込みにも支えられて全国屈指の事業創造 モデルとも評価されています。県レベルでの大学発ベンチャー創業全国NO.1の実 績の原動力のひとつとなっているのは確かでしょう。会場で新産業振興班の副主 幹の若本伸子さんらが周辺に絶えず気配りを見せながら動き回っていました。ど の人に聞いても神奈川県職員の、その評判は、すこぶるよろしい。
フォーラム会場のかながわサイエンスパーク(KSP)の西棟7階の会議室は、す でに大勢の人でぎっしり席が埋まっていました。空いているのは前列の講師席の すぐ後ろ、案内係の指示でそこに。「こんな大男が前の席に座ったら後方の目障 りになるのでは…」と自らの図体を気にしながら、少々背を丸めて静かにペンを 走らせることになります。
注目の「ナノエッグ」は、4番目のトリでした。発表は、代表取締役社長の大 竹秀彦さん、小柄で柔和なソフトタイプですが、20分少々の会社紹介は、鮮烈で した。確かに話が巧い、そして分かりやすい。が、やはり何をおいてもそのビジ ネス展開の狙いや戦略、そして夢や志、将来のビジョンなどそのコンテンツのど れを切り取っても素晴らしい。
スピーチの終了後の反応がよく、あまりの凄さに会場のあっちこっちからため 息が漏れるほどでした。大竹さんの前に名刺交換を申し出る参加者の列ができて いました。
いつまでも若く美しく、という女性の永遠の願望を叶えようと、その難問に切 り込んだのが、聖マリアンナ医科大難病治療研究センター(西岡久寿樹センター 長)の先端医薬開発部門DDS研究室長で当時助教授の五十嵐理慧さんでした。そ の後、五十嵐さんはナノエッグの共同創業者となる、DDS研究室の山口葉子さん と進めていた研究テーマの「皮膚再生のためのレチノイン酸ナノ粒子」の研究が 03年3月に、科学技術振興機構(JST)のプレベンチャーに採択されて研究が加速 し、世界で初の皮膚の再生技術を生んだという。
皮膚の表皮細胞は、角質など肌の表面から4つの層を構成し、その最下の基底 層で生まれた新しい細胞が上の層に移行して角質となり、後に垢となって剥がれ 落ちます。その生成から剥離というサイクルがターンオーバーといわれる新陳代 謝で、このNanoeggと呼ぶ新しい技術は、レチノイン酸と呼ばれるビタミンAの生 理活性体を直径15〜20ナノの無機質コーティングカプセル、つまり微細の球状に することに成功し、この球状つまりNanoeggによって皮膚への透過性が劇的に向 上し、さらにすばやくかつ安定的に表皮層に到達することを可能にした技術だ、 という。う〜む、この辺はにわか知識の知ったかぶり…。
もうひとつの技術がNANOCUBEという物理学の発想から生まれたジェル状の外用 基剤で、これまで不可能だった、高分子量の薬物や水溶性薬物を効率よく経皮吸 収させることに成功する。そして、皮膚の自己治癒力を引き出す、ホメオスタシ スの効果があることを確認した、という。これらふたつの画期的技術の成果は、 シミ、しわなどの化粧品としての利用を実現、商品化しています。さらににきび 治療の医薬品をはじめ、変形関節症、糖尿病の治療薬の開発、DDS医薬品、医薬 部外品など、その用途や領域は果てしない可能性を帯びてきています。特許出願 など知財戦略も万全で、多くの企業とのアライアンスをベースに幅広い戦略的提 携を構築しているようです。
大竹さんは、「赤ちゃんの肌があんな風にもちもちなのは、その代謝がいいと いうことです。シミなどは基底層のメラニン色素が堆積するのが原因で、新陳代 謝が活発に行われていない。この技術で加齢に従って長期化する皮膚の代謝日数 を縮めることが可能となりました。将来は、育毛にも役立てられるのではないか、 ここがなくならない間に商品化したいですねぇ」とやや気にかかる頭皮に手をや って笑いをとっていました。
実際にどんな商品になっているのか、しわ、シミ、それにくすみ、そばかすや 色素沈着などを改善する、新しいタイプのスキンケア製品が、昨年夏に発売した ナノキューブ配合のエイジングケア乳液の「MARIANNA」、120ミリリットル1本15 000円(税込)。発売と同時に口コミで人気が広がり、たちまち完売、そして今 年1月下旬にやっとその欠品状態から抜け出したところです。ウェブで購入可能 です。
エステ業界に関する独占的販売権を付与する提携のTBCグループとはすでに昨 年11月に共同開発で、2製品を商品化し販売しています。この3月14日には「MARI ANNA」の第2弾となる3つ商品が新たにラインアップに加わることになり、すでに 話題になっています。
資本金1750万円、従業員10数名、本社は聖マリアンナ医科大学内に置いていま す。代表取締役会長の五十嵐さんをはじめ、社員の半数以上は女性の研究者で、 多くが家に帰れば普通の主婦、夕刻5時すぎると子供を迎えに幼稚園に走る研究 者も少なくない。
この会社の特筆すべき組織や理念の特色は、このようにQOL向上のため、薬学、 物理学、経営、医学といったクロスボーダーの女性経営チームがコアになってい るという点、世界の子供にワクチンを!というアフリカや途上国への支援に商品 の売上の一部をNPOに寄付している点、そして理系人材育成に向けた科学的知見 や情報を積極的に教育機関に提供している点などなどで、女性らしい細やかさが 反映された商品づくり、そして仲の良い素敵なチームによる共同経営に取り組ん でいるところでしょうか。
もうひとつ、あえて評価を加えるなら、社長の大竹氏を送り込んだ聖マリアン ナ医科大学が中心となって設立したMPO株式会社の存在です。会社概要には、医 療の現場に内在する不満足、非効率性を打破し、良い薬・医療機器・治療方法を 育てることを目的として設立された、とある。そして知的財産管理、会社経営、 臨床開発、資金調達等の専門知識および専門家ネットワークを備え、『知』、 『材』を育成するための開発支援を行っているーというこの仕組みがうまく機能 しているようです。
役員構成の中には、聖マリアンナ医科大学理事長の明石勝也さん、センター長 の西岡さん、同医科大教授の中島利博さん、同医科大客員教授の清水初志さんら が名を連ねていました。そこの社長に大竹さんの名前もありました。二足のわら じなの大竹さんは、東大卒、米ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得、ペ イン・アンド・カンパニー、J.ウォルター・トンプソン社を経て2004年7月に 聖マリアンナ医科大学の大学発ベンチャー支援のMPOを設立し、社長に就任して いました。
こんなに短期間に鮮やかな上昇カーブを描くナノエッグ、空高くどこまで伸び ていくのでしょう。素晴らしく、大学発ベンチャーの勢いを感じさせてくれます。 いささか残念なのは、創業者で女性研究者の五十嵐さんや山口さんに取材ができ ていないことです。それはまた別の機会に譲ることにしましょう。それよりまず その製品を使ってみたいものです。
株式会社「ナノエッグ」の問い合わせは以下の通りです。
http://www.nanoegg.co.jp/
電話044−978−5231.
さて、ナノエッグで大半の紙面を割いてしまいました。が、この日登壇した会 社を紹介しましょう。トップバッターは、人の遺伝子をマップ化するという遺伝 子ネットワーク可視化技術をもつ慶応大学発ベンチャーの株式会社「アーティセ ル・システムズ」(中山洋一社長、本社・川崎市のかながわサイエンスパーク 内)で、発表者は、営業部長の大島英之さんでした。闊達で見事なプレゼンでし た。
続いて、元大手メーカー出身の本田八登三さんが社長の「アイ・シー・ジー ビ」。創業2年半。制御装置が古くなり寿命がきた機械をITによって技術伝承 させる、ことを狙う機械装置の解決型企業でした。「人を中心に、モノにもう一 度命を吹き込む」という。志が立派です。やっぱりモノづくりは産業の原点に据 えた方がいい。
そして、平成17年4月創業の「イーラムダネット株式会社」(本社・相模原市、 支社・富山県立大)、社長の菅田孝之さんがハイビジョン光LANシステム開発 とビジネス展望と題して説明しました。NTTアドバンステクノロジーなど主に NTTの関連会社のネットワークを使って、文部科学省の補助事業プロジェクト、 神奈川県の創出促進モデルプロジェクト、総務省の地域情報通信技術振興型研究 開発などに採択される実績がある、という。
そこで一番後回しになってしまいましたが、各ベンチャー発表の前に、主に半 導体や電子部品の調達をウェブ上で運営する株式会社チップワンストップ(本 社・横浜市)の社長、高乗正行さんが「創業からIPO」までと題した、自らの 華麗なるベンチャー成功の軌跡を披露していました。
半導体関連分野のeコマースでは我が国NO.1ベンチャーを自負し、それら をエンジニアにむけた「総合プラットフォーム」と呼び、ウェブサイトの登録会 員数は、約4万5千人と膨れ上がっている、という。確かで堅実な数字なのでし ょう。子会社によるメディア事業、顧客ニーズに対応したコンサルティングなど を同時進行で手掛けるうえ、今後の展開は「アジア市場にある」と明快でした。 スピーチは軽妙で早口でしたが、その分、勢いが感じられました。
『大学発ベンチャー関連メモ』
経済産業省の調査による、大学発ベンチャー設立の都道府県レベルで神奈川県
は06年度(昨年9月発表)107社で3位でした。2位の大阪府111社に僅差でした。
1位は東京の378社でした。県レベルで神奈川県は堂々の1位ということになります。