DNDメディア局の出口です。「原点回帰の旅」を執筆する塩沢文朗さんから、 最新のコラムが届き、さっそく本日アップしたのは、連載23回「雪、パレスチナ、 そして民族主義」でした。
さて、この題名から見て、民族紛争の本質に迫る難解な内容ならやや億劫だな あ、と思われる読者もいらっしゃることでしょう。ご心配無用、それは見事に裏 切られます。恐る恐る、添付のワード文章を開くと、雪の朝のスケッチと音楽か ら始まり、その巧みな文章構成にご自身の穏やかで真摯な心模様が描かれていま した。難しい問題を分かりやすく解く、それがコラムの真髄なのかもしれません。
〜このDNDで何を書こうか、最近、おかしいと感じることや、腹のたつことは いろいろあるけれど、ホットな話題を追って、いい加減な知識で評論のようなこ とを書くのは止めよう。できれば、皆さんのお役に立つようなことが書ければい い…と自問する塩沢さんの執筆姿勢は、編集長冥利というものですが、僕も見習 わなければなりません。
窓の外は降りしきる雪、暖の効いた書斎では松任谷由実の「Sugar Town はさ よならの町」が流れている。荒井由美時代からファンですから、この辺は、同世 代の共感ですね。
こんなに世相が騒がしい時には、おだやかでささやきかけるような文章が心に しみてきます。本日も朝から雪です。さっそく塩沢さんご推奨の『まんが パレ スチナ問題』(山井教雄、講談社現代新書No.1769)を読んでみたいと思いまし た。塩沢さんは、山井さんのあとがきから抜粋してこんな一節を紹介していまし た。
〜民族は、命をかけて戦い護るほど確固たる概念でもないし、崇高なものでもな い〜と。う〜む、考えさせられる言葉です。
実は、今回のメルマガは当初、大学発ベンチャー創出に全国トップクラスの成 果を出している神奈川県の取り組みを題材に考えていました。その発表の取材に 神奈川県の「かながわサイエンスパーク」(KSP)をお邪魔していたからです。 担当の県商工労働部産業活性課の新産業振興班からは、その都度報告会などのリ リースの掲載などの連絡が入り、以前からとても熱心な姿勢が伝わってきていま した。
経済産業省の調査による、大学発ベンチャー設立の都道府県レベルで神奈川県 は06年度(昨年9月発表)107社で、2位の大阪111社に僅差の3位という実績があ ります。これまで常に上位にランクされています。1位は東京の378社でした。神 奈川の秘策はどこにあるのか―。が、どうも、いまの荒れる天下の情勢には、ど うもこのテーマがふさわしいという実感が湧いてきません。そのため、これは次 回に回すことにしました。
そこで一から書き直ししようと、塩沢さんのように外の雪を眺めながら、世情 を揺るがす緊急の課題、これらの問題に切り込みたいと思います。塩沢さん風に 真似れば、音楽は、中村由利子さんのピアノ演奏の「Dear Green Field」など、 お気に入りの作曲家でバイオリニストのツルノリヒロさんの心地いい旋律が流れ ていますが、しかし、いつになっても気持ちが晴れない。遠くのラジオからは、 接戦が続くアメリカ大統領選での最大のヤマ場、スーパーチューズデーの予備選、 党員集会の開票速報が流れてきます。注目の民主党は、ヒラリーさんがカリフォ ルニア州を抑えるなど8州で、オバマ氏が11州とそれぞれ勝利するなど、白熱し ている、と伝えていました。ヒラリーさんの巧みなスピーチは感心しますが、あ のハイテンションの笑い方、大げさなジェスチャー、かん高い声のトーン、それ らが気になってしょうがない。この違和感がもうひとつ人気が爆発しない理由だ、 と友人が解説していました。選挙は、この程度でいいでしょう。
問題は、なんとも怪しいこの事件です。中国製冷凍ギョーザ事件から1週間が 経ちました。先週のメルマガ配信の後の発覚でした。スーパーから中国製の冷凍 食品が消え、中国での製造過程で混入したのではないかという疑念が強まってい ますが、原因がいまだ特定されず、中毒被害の影響が深刻化しています。
本日6日の新聞は、千葉、兵庫両県の被害者から検出された殺虫剤用の「メタ ミドホス」とは別の、有機リン系農薬成分「ジクロルボス」が福島県喜多方市で 市販された、やはり中国・天洋食品製の同じ冷凍ギョーザ「CO・OP手作り餃子」 から検出された、との日本生活協同組合連合会の発表を伝えていました。
新聞、テレビの連日のニュース報道、本日発売(関東エリア)の週刊誌はいず れも徹底取材の大車輪の様相です。「日中戦争に発展した毒入り餃子シンドロー ム」は週刊新潮、「毒は日本で入れられたと言い放つ中国幹部」、「メタミドホ スだからこれは対日テロだ」などの見出しを掲げています。週刊文春は、中国毒 入りギョーザ列島大パニックの特集で、「猛毒メタミドホスを入れたのは誰だ」 を現地ルポしていました。主に現象を追う新聞の慎重な記事に比べれば、週刊誌 はいずれも挑発的で衝撃的です。しかし、その週刊誌がセンセーショナルに感じ られないほど、誰かが食中毒の被害拡散を狙って猛毒を混入させた、という恣意 的な犯罪の臭いが日増しに強くなってきています。関係の各県警本部が殺人未遂 事件としての合同捜査本部を設置したということは、その疑惑を裏付けた格好で す。
千葉と兵庫で被害者を出した製品は、それぞれ横浜と大阪の港に陸揚げされた ことが輸送ルートの追跡で判明しています。この検出済みのメタミドホスの成分 や不純物、元素などを分析することで、さらにどこで製造された物かが特定され ます。中国産か、どうか、あるいは中国のどこの殺虫剤かまで特定できる、とい う。そこで横浜と大阪の港に荷揚げされた冷凍ギョーザのメタミドホスの混入物が一致すれば、陸揚げ以前の仕業ということになる、という。
今朝のTBS系列の情報番組、みのもんたさんの朝ズバッ!で、「薬物指紋」の 手法で薬物の生産地の特定が可能と解説していました。テラヘルツ波などで原産 地の特定が可能なのではなでしょうか。しかし、ギョーザの製造と包装のプロセスで誤って混入するというのは、もはや考えられない。
今回の中国製冷凍ギョーザ事件は、平成12年6月に起きた雪印製品の食中毒事 件の過失や、4ケ月ぶりで再開した伊勢名物、赤福の表示偽装などとは事件の本 質がまるで異なります。その原因が特定されていない段階から、なんとも残念な お詫び会見が目に余りますが、事件展開の推移や事件犯罪の核心をにらんだ合理 的な見通しを立てることも必要です。被害を未然に食い止める、そういう危険を 訴える、被害者を見舞うなどの姿勢は大事ですが、JTもCO・OPも被害者であると いう事実に少しは理解を示すべきかもしれません。
撤去したスーパーの冷凍食品はどうなるの、中国製品のボイコットは、どこに ダメージがあるの、パニック状態だから冷静に捉えられないのかもしれませんが、 ちょっと安易な気がします。「偽」の連鎖で、不祥事が発覚すると企業責任を問 う大合唱が起こり、メディアは闇雲に牙をむく、一種のメディアスクラムの弊害 が今回もパニックに火をつけた感じがします。
この事件のあおりで、JTが加ト吉を完全子会社化した後で、加ト吉株を日清食 品に49%譲渡し3社が冷凍食品事業を集約する、という事業統合の覚書は、ど うも吹っ飛んでしまったらしい。時代は一寸闇、何が起きても不思議じゃない、 このとばっちりで頭を抱えている人も少なくないのでしょうね。
これは、平成12年6月14日に発生した、大阪市に本社がある参天製薬本社に 「目薬にかせいソーダーを入れる」と脅し、現金要求の脅迫状を送りつけた事件 の対応を参考にすべきでしょうか。参天製薬は、脅しを公表し、目薬24品、250 万個の製品すべてをただちに回収するなどの対応をとっていました。異物混入の 包装の改善などで、製品の回収とあわせて10数億円の損失を出しましたが、その 企業の姿勢と対応に賞賛の声が集まったことはよく知られた事例です。
客観的事実をすみやかに公表する、今回のようにやはり、次々と新事実が明ら かになっていく、という展開が印象としてよくない。最悪です。JTやCO・OP、そ れに仲介の商社がこれまでにつかんだ事実は、小出しにしないで全部明らかにし なくてはなりません。処理と対応が後手に回り、被害を拡散したあの雪印の失態 は企業の危機管理の究極の反面教師です。果たして、これまでに毒を混入する ぞーという意味の脅迫、それに似た風評やメール投稿がなかったかどうか、この 手の犯罪のシグナルを見落としたり隠していたとしたら、逆にこれは企業存続に 関わる決定的なクライシスを招くことになります。そこが企業経営の一番の落と し穴でしょうね。自首するなら早い方が救われる〜。
少し、新聞などから事実関係をつかんでみましょう。「オイルのような臭いが して食べられない」、あるいは「異臭がする」という苦情と返品が、福島の喜多 方市、宮城県の仙台市の生協に昨年10月、11月相次いだため、店側は製品の回収 を行い、輸入元のJTフーズには詳細な調査、検査を要請していました。その時の 検査では、トルエン、ベンゼンなどの化学物質を検出したものの、「工場由来の ものではない」と判断し、輸入・販売を継続していた(6日付朝日新聞)という。
この時点で、工場の立ち入り調査、原因究明などの措置を講じていれば、と思 いますが、そうはなかなかいかないのが現実なのですね。振り返って、あの時に 対処していれば、ということになる。そして事態が拡散してくると、こういう対 応の甘さが、一気に問題視されるのはしょうがない。
日本政府の調査団が、中国河北省の石家荘市にある、冷凍ギョーザを製造する 天洋食品を視察しました。取材陣のカメラも入り、製造ラインや生産管理、衛生 保全体制について調査したらしい。これで異物混入のルートの解明、あるいは物 理的に、意図すればどこで混入させられるかのヒントは得られたかもしれません。
それより、ずっと気になっているのは、先日どこかのテレビで映していた現地 の労働者のインタビュー証言です。従業員一人が一日働いてギョーザを4000個詰 める、その苛酷な労働の報酬がわずか600円という。別の労働者は、昨年秋ごろ、 天洋食品の幹部が年齢44歳以上の労働者全員に対して突然、解雇を言い渡したの だ、とその横暴な経営手法に不満を訴えていました。
恨みを買う、天洋食品の労働条件、職場環境の実態はどうだったのか。この手 の労働争議は中国では日常茶飯事なのかもしれませんが、それが猛毒混入事件を 引き起こす原因との関わりがあるのか、どうか、そこに捜査のメスが入ってもお かしくはない。犯罪には必ず動機があるわけですから。
さて、中国毒入りギョーザ列島パニック、事件発覚の夜、近所のスーパーを回 ってみました。埼玉の某駅前の東武ストア(24時間営業)、ダイエー系列のマル エツ、ビッグA(24時間営業)では、天洋食品で製造の製品が置いていなかった のか、なんら変化が見られませんでした。そして1週間の昨日再びのぞいて見る と、東武は冷凍食品の売り場が半減し、問題視された各メーカーの関連製品でさ え撤去され、国内で生産されている製品すべてが半額セールの張り紙がありまし た。もともと、国内産の野菜や肉、それに無添加の商品にこだわり、それでいて 安売りのビッグAは、冷凍食品の売り場から1種類の製品を撤去しただけで、普段 とそれほど変わらない営業を続けていました。聞けば、それでも冷凍商品の買い 控えが進み影響は否定できないのだ、と店員の表情は渋い。
いつも指摘されていることですが、賢い消費者にならないといけない、という 警告かもしれません。いくら忙しいからといって安易に中国産の冷凍ギョーザに 手を出して、それで果たして満たされるのでしょうか。食文化を大切にしましょ う。
ひき肉にニラ、にんにく、きゃべつ、皮だって自前で練って、家族みんなでギ ョーザつくる、そういう平凡で幸せな家庭の風景が、なによりのごちそうである ことを考えていくべきですね。個人的には、餃子は大好きですがメタボが気にな るので、焼き餃子はご法度、一日1時間のウォーキングで消費されるカロリーは、 焼き餃子2個分に等しい、という恐るべきデータを耳にしてから、餃子を軽々に 口にできなくなりました。