DNDメディア局の出口です。さて、この晴れのステージでどんなメッセージを 投げかけるのか―内閣特別顧問の黒川清さんが自らのブログで綴る「ダボスか ら」の連日の報告を読むと、その期待と不安が交錯する心模様が伝わってきます。 なんといっても8年連続の参加ですからその存在感を十分に発揮されて、そのVIP の裏舞台を支えていたのでしょうか。
■黒川さんのブログ http://www.kiyoshikurokawa.com/
世界のトップが集うダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)終盤の26日、 スピーチに立つ福田首相の動静を固唾をのんで見守っていたのは、黒川さんだけ ではなかったはずです。NHKテレビからその高鳴る心臓の鼓動が聞こえてきそう でしたね。
その評価はどうだったでしょう。首相が自分の言葉でそれも個人の立場で、自 らの心の叫びを世界に訴えて欲しい、誰かが戦略的に用意したお堅い原稿なんか、 読み飛ばしたっていいじゃないか、なんて思ったりします。せっかくの世界注視 のチャンスのなかで、もう一歩踏み込んだ、そういったインテリジェンスなキー ワードを紡ぎ出せなかったかどうか、なんだか惜しい、というのは僕の率直な感 想です。
スピーチそれ自体は、これを原稿として読めば、かなり突っ込んだ内容だった のではないか。2050年まで世界全体の温室効果ガス排出半減の処方として、「ポ スト京都」のフレームワーク、国際環境対策への技術移転、そして低炭素社会の 実現のためのイノベーション―の3つを提案し、公平性や透明性を確保しつつ排 出削減の国別総量目標を掲げて取り組む、と宣言しました。そして、日本は途上 国への100億ドル規模の新たな資金メカニズムの構築、環境・エネルギー分野の 研究開発に今後5年間で300億ドルの投資を確約しました。その裏付けとなる数字 を散りばめて具体的な取り組みを提示した、なかなかのスピーチでした。
まあ、迫力には欠けていたものの、それが逆に堅実でぶれの少ない福田さんの 手堅さがにじみ出ていて良かった、という声もあるようです。7年ぶり2度目の参 加となったわが国のトップが、国会の合間を縫って雪深いスイスの村へ専用機を 飛ばして行く、というそういう姿勢にまず敬意を表したいものです。もう少しカ フェでお茶でも、と思いますがなにせ緊迫のガソリン国会が控えていますから、 そんな時間的な余裕は与えてはくれない〜。
しかし、大いなる収穫はあったことでしょう。これできっと今夏7月に控えた 洞爺湖サミットの議長国としての我が国の地球温暖化対策に向けた決意や意気込 みが少しは理解されたのではないか、と思います。
しかし、まあ、新聞メディアからは、棒読みで何度も言葉を詰まらせた、との 論評もあって、ちょぃとケチをつけられていました。意地悪を言えば、じゃあ新 聞社の皆さん、あなたがたもトライしてみてはどう?各国のメディアの関係者ら もセッションの司会などに加わっていましたから。残念ながらというべきか、実 はおおよそ物書きはなぜか口ベタが多い。特に新聞記者はうまくない。身近には、 外国人を相手にスピーチなんて考えただけで足が竦んでしまう、という連中ばか りです。
考えれば、日本語ってスピーチには不利な言語なのでしょうか。英語のように 声が外に弾いていかない、どうにも発声が内にこもってしまいがちですから、よ ほど鍛練しないと大勢の聴衆をうならせる名スピーチとはなりにくい。しかし、 これからは堂々と英語でスピーチできる政治家の登場が待たれる、ということで しょうか。スピーチの教育も必要になってきます。
グローバル化の進展で、国際舞台で明確に自らの考えを主張し、他の国の人の 意見をも大切にする、いわば、内閣特別顧問の黒川清さんや一橋大学大学院教授 で総合科学技術会議議員の石倉洋子さんのような、"世界級キャリア"の登場が待 たれるということなのかもしれません。やっぱり英語、生きた英語が武器になる のですね。
■『世界級キャリアの作り方』http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492555595/
■石倉洋子さんのブログ http://www.yokoishikura.com/?m=20080127
ダボス会議は常連の黒川さんや石倉さんは、それぞれブログでダボス会議の興 味深い様子を連日報告されました。ダボス会議に参加された識者からの発信とい うのも新しいスタイルですね。
ところで「惜しい」という福田首相のスピーチに触れたことをもう少し詳しく 説明します。それはこんな場面でした。
福田首相のスピーチの終了後、コメンテーターのような立場で壇上に構える英 国の前首相、ブレア氏が福田さんに質問を向けました。クールアース(美しい 星)50の推進やアフリカ紛争解決に向けた支援など「ワクワクする提案でした。 が、洞爺湖サミットではどのような合意が得られそうか」という。
そこで、間髪を入れず、ぐっと彼らのハートを鷲づかみにする福田さんのフ レーズが欲しかった。例えば、世界の動向を知悉され、地球温暖化対策への取り 組みにリーダーシップをとっていらっしゃる、尊敬するブレアさんから、お褒め いただきとても感激で嬉しい。遠く、国会を抜け出してここまで来た甲斐があり ました。ぜひ、今後の取り組みには、ブレアさんのお知恵を拝借したい。力を貸 していただけませんか」っていう対応はどうか、やや冗漫でそれほどできはよく ありませんが、相手の心を打つことでしょう。
福田さんは、真面目ですからそんなお世辞はいえない。まあ、迎合しない、と いうのも福田さんのもうひとつの魅力なのですから、これはしょうがない。しか し、そんな場面で口をついて出た言葉が「各国のご意向をまとめる立場です。今 日明日何をするかも大事です。いまある優れた日本の環境技術をフルに使う、そ の技術を普及させるということが大事です」というような趣旨の、それも無難な、 いわばセールストークという感じだったでしょうか。
続いて、壇上に向かって左側の椅子に座る恰幅のジェントルマンが、ダボス会 議の創設者で慈善活動家としても知られる会長のクラウス・シュワブ氏でした。 ゆったりとした雰囲気で、福田首相のスピーチをねぎらいながら、こう質問した のです。
「個人的な質問で恐縮ですが、今年夏の洞爺湖サミットの議長国として、(そ れを開催した)10年後、世界の人々にどう記憶されたいと思いますか」。
う〜む。ここですね。なかなかのアプローチです。いやあ、ドキドキしてきま す。黒川さんのブログを読むと、このやり取りを最前列でご覧になっていたよう です。
皆様でしたら、どう答えますか。ここで福田首相は、なんなく丁寧な説明をさ れていた感じですが、記憶に残るメッセージは見当たりませんでした。いま考え れば、この質問はシュワブさんが会長として福田首相へのアシストだったような 気がします。それを受けてインテリジェンスなフレーズ、あるいは会場を沸かせ るユーモアがあれば―って、思ってしまいましたね。「政治家は言葉」という黒 川さんの指摘が、ズシンと響いてくるようです。
シュワブさんは、今回の会議を総括して「ある程度は楽観できる雰囲気を感じ た」(28日付朝日新聞)とコメントしていました。23日の初日冒頭から世界同時 株安やサブプライムローンの危機で景気にブレーキがかかる不透明な状況を反映 して、どうも暗雲が垂れこめていました。が、そこを呑み込んで、冷静にかつ人 を包み込むような応対が、シュワブさんの魅力らしい。それだからこのダボス会 議が1971年の設立時から38年の歳月を経て、実に参加者が10倍強の2500人にのぼ り、企業からの協賛を集め、各国首脳や政府要人、財界、政治家、著名なノーベ ル賞受賞の学者や有識者らが、毎年繰り返し集うのでしょう。
今年は「協調する変革の力」という共通テーマでした。本会議のほか分野別の セッションが233にも及んでいました。その他、非公開の会談、食事会も多く、 国際的な交渉の根回しをする側面もあり、その内外で、人と人のネットワーク、 それにコミュニケーションの場というのも、重要なファクターです、と一橋大学 教授の石倉さんがご自身のブログで書き込んでいました。
この会議では、どんな人が集まるのか、ざっと米国のライス国務長官、英国の ブレア前首相、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長、著名投資家のジョージ・ソ ロス氏、日本からは福田康夫首相をはじめ、甘利明経済産業相、鴨下一郎環境相、 奥田碩・内閣特別顧問、民主党から鳩山由紀夫幹事長らが顔をそろえていました。 黒川さんのブログには、多くの世界的著名な方々が登場しています。写真と一緒 にご覧になってください。例えば、NHK副会長にご就任の今井義典さん、NHK看板 のクローズアップ現代のキャスターで実力の国谷裕子さん、東大総長の小宮山宏 さん、京都大学教授でiPS細胞生成の技術開発の成功で一躍注目の山中伸弥さん、 ニュースになる話題の人が目白押しでした。
国谷さんは現地、真冬のダボスから「ヨーロッパの新しい風」をシリーズに、 人の生き方、働き方を変えるCo2管理社会、低炭素都市の挑戦―などダボス会場 での世界のトップへのインタビューを交えてルポしていました。いつも明快で颯 爽としています。毎日の収録と放映ですからどんなタイトロープ状態なのでしょ うか、テレビ画面からはその苦労の片鱗も見せませせん。
本日の朝日新聞2面の解説欄「ニュースがわからん」では、「ダボス会議とや らいったい何じゃ」を取り上げ、ダボス会議の趣旨や課題に触れ、さらに会議の 主要なテーマと参加者の名前を掲載していました。
その中で、僕が関心を強くしたのが福田首相とも会談した、アイルランド出身 で世界的人気のロックグループU2のボーカルのボノさんでした。ここはボノさん について少し語らないといけません。シンボルのサングラス姿で現れたボノさん が、福田首相にiPodを差し出す写真が新聞に掲載されていました。どんな曲が収 められてあったのでしょう。
ボノさんは、エイズ撲滅や貧困問題などアフリカ支援に取り組んでおり、世界 の首脳にその問題解決への支援を呼びかけているんですね。黒川さんのブログで は、国際協力機構(JICA)総裁の緒方貞子さんを尊敬するボノさんのことが綴ら れていました。
しかし、素晴らしいロックスターがいるものですね。彼の活動を調べると、ア フリカ支援は、1985年7月、アフリカ難民救済のためのチャリティー・ロッ ク・コンサート「ライブ・エイド」に参加し、その窮状を知ったところから始ま った、という。単に政治問題化した抗議行動ではなく、逆に政治家の懐に飛び込 んで直接訴える手法をとってきた、という。チャリティーで280億円もの金額を 観客から集めても、結局、政治家が動かないと貧困の構造は変わらない、という のが持論のようです。
そのボノさんのWeb(Bono)を拝見すると、福田首相との会談がアップされて いました。そして、そのタイトルと本文には、彼の強烈なメッセージが書き込ま れていました。2008年、日本は世界動向の中心にある、という。
Bono: Japan is at the Heart of World Affairs in 2008
■debt AUDS trade Africa:http://www.data.org/
熱狂のライブのステージ、背景の巨大スクリーンにはアフリカの国旗が映し出 されている。曲は、I wanna run ,I want to hide,I wanna tear down the wall s (僕は逃げ出したい、僕は隠れたい、僕を封じ込める壁を取り壊したい 〜)で始まる「Where the streets have no name」(約束の地)で、その曲の成 り立ちにアフリカが端緒だったようです。アフリカとロックを繋ぐものとは、い ったいなんでしょうか。
U2って知っている?DNDで洋楽に詳しいスタッフに聞くと、そりゃあ、当然で しょうという顔をする。ついでに評判のCDを頼むと、「U2 18SINGLES」を選んで くれました。そのアルバムのなかでどの曲がご推奨ですか、と聞くと、イギリス 人が選んだ最も好きな歌詞NO.1の「ONE」だという。
全18曲、順番に聴いていくと、ピーンとくる曲がありました。I'm not afraid of anything in this world(この世に恐れるなにものもない)というフレーズ で始まる「Stuck in a moment you can't get out of」でした。2001年のグラ ミー賞受賞で、全英ヒットチャート2位の曲です。訳せばなんというか、「君は その一瞬に捕らわれて、そこから抜け出せないんだ」〜だから、You've got to get yourself together−って励ますんですね。「しっかりしなきゃね」て。心 に響くやさしい歌が続きます。そのボノさん、わが国のライブでも3日間で12万 人の動員があった、と黒川さんがブログに書いていました。かつてTBS系列の夜 の筑紫哲也さんの番組にも生出演し、エイズ撲滅の支援を訴えていました。
さて、7月の洞爺湖サミットの前に、大きな国際イベントが横浜で開催されま す。5年に一度の第4回アフリカ開発会議(5月28日から30日)です。横浜 市では、中田市長を先頭にすでに緒方貞子さんを招いてのシンポや映画祭、展示 会や講座を展開しています。
5月の会議には、ノーベル平和賞受賞者で前ケニア副環境相、ワンガリ・マー タイさん、世界の貧困解消に向けた「国連ミレニアム・プロジェクト」で代表を 務めたジェフリー・サックス米コロンビア大教授、それにU2のボノさんらの参 加が決まっています。
雪深いダボスとはいえ、夏場はさわやかで風光明媚なリゾート地で人気がある ようです。5,000人のランナーが集う国際マラソンも開かれる。ぜひ、行ってみ たいなあ。まあ、とりあえず、5月には横浜でのアフリカ開発会議にそっと足を 運んでみましょう。ボノさんにひと目あいたい。DNDのオフィスは、いまボノ さんの曲が占拠しています。
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■本日のメインは、ボノさんでした。そして世間の話題は、北京五輪をかけた対 韓国とのアジア男子ハンドボールのやり直し予選、さてどうなりますことやら。 DNDに大学でハンドボール選手の経験があり、全日本エースの宮崎大輔選手と同 年代のスタッフがいますので、めっぽう関心が高い。昨日の女子の韓国戦を評し て、「日本のミスも目立ったが、守りが堅く強い。そのパワーとテクニックでは とてもかなわない相手でしたね」という。
■連載は、101回目の経済産業省の石黒憲彦さんは、今日の経済情勢を取り巻く、 一部評論家やメディアらの蒙昧を見事に喝破しています。これは大変読み応えが あります。どうぞ、ご覧ください。石黒さんのコラムは、黒川先生のイノベーシ ョン25の提言とともに、いくつかの大学の授業のサブ教材として利用されてい るようです。
そしてもうひとつ、ワシントンで特許弁護士をされる服部健一さんの「米国特 許最前線」36回目は、これも渾身のノンフィクションで、弁護士事務所分裂、そ して独立にまつわる4年間の闘争、そして勝利へと導いた服部さんのご体験が ベースになっております。ドラマの裏側にアメリカの訴訟社会の怖さが浮き彫り になっています。特に、弁護士同士の確執、相克ですから、勢い迫力が違います。
満を持して4年あまりの、リアルな現状をいま、ようやく封切りです。構成も 文章も確かです。これは小説になりそうですね。どうぞ、こちらは読む楽しみを 味わってください。そして、今、日本はいかに平和ボケというか、経済発展の恩 恵の中で安逸をむさぼっている姿が透けて見えてくるようです。
■本日は、かつて所属していた会社のOB会が開かれます。まあ、満50歳の決断、 早期退職制度の適用年齢で早く引退したため、一応OBなのですが、こういう会 に参加すると、まだ現役の先輩諸氏が年配の本物のOBに酒を注いで挨拶してい る姿に遭遇するんです。そういう時、後輩だけどOBの僕はどうするか〜悩まし いのですが、席には座らず料理にも手をつけず、ただにこやかにOB人たちの求 めに応じて水割りや焼酎のロックを作ります。会費は8000円。
浮世の義理とはいえ、これは欠かせない。まあ、いいか。夜の楽しみは、NH K深夜零時10分からの、男子ハンドボールの再放送、それも宮崎大輔のエアーシ ュートを見ることです。
もうアジアは中東と袂を分かって東アジアで独立した連盟を組織した方がよさ そうですね。がんばれ、ニッポン!