◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2008/01/09 http://dndi.jp/

「里山」は、地球異変の対極

      〜再生医療のJ-TEC株続伸の勢い〜

DNDメディア局の出口です。湿原に立ち込める白い霧がまばゆい黄金色に映 え、その輝く霧の中を二羽のコウノトリが優雅に羽を広げていました。一瞬降下 したかと思えば舞い上がって、宙で長い首を丸く反って連れの一羽を仰ぎ見るよ うな、なんとも微笑ましい器用な仕草が、つい幸せ絶頂の若いカップルを連想し てしまいました。


これは、新年早々のNHKスペシャル「世界里山紀行」のポーランド編「水辺 に響き合ういのち」(1月5日の再放送)の一場面です。外国なのに、どこか郷愁 のような懐かしさを覚えました。そして、親子兄弟の慈しみの深さを感じさせて くれました。家族みんなが体を使って汗を流していました。伝統的なクリスマス で祝う、自然の恵みへの感謝、家族がそれを分かち合っていました。


※コウノトリなどの映像です。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/070826/pic_10.html


舞台は、ポーランド北東部のビエブジャ・ナレフ湿地帯、そこは貴重な水鳥の 繁殖地です。湿原の周囲では、数千件の農家が酪農や畑作を営んで集落を守り、 自然と調和する営みが結果として越冬地からの渡り鳥や水鳥の繁殖に適した環境 を作り出している、という。


ナレーションが曲にのって静かに流れていました。四季の移り変わりを定点の アングルで撮るから、変化の様子が際立って鮮やかに見えました。そこにTV映像 ではうかがい知れない、執念と根気の巧みなカメラワークがあるに違いない。ど れほど多くのテープを編集したのでしょう。


〜長く厳しい冬、人も生き物たちも懸命に乗り切ります。3月末、風景が一変 する。森や畑の雪解け水が湿原に流れ込むと、一気に川があふれ東京23区に匹敵 する広さが湖と眺めを変えていきます。水位が2bもあがり、集落のすぐ際まで 水が押し寄せてきます。やがてその湿原は緑の大草原に変身します〜。


そこに南の越冬地から湿原にいち早くやってくるのがコウノトリでした。コウ ノトリは、家々に幸せを運んでくる、と伝えられています。人々が家の屋根や庭 の木に営巣のための大きな台をつくり、大切に見守っているんですね。


彼らの生活を支えているのは牧畜です。乳牛に適した、乳の量が多い外来のホ ルスタインを避けて、牛は伝統の丈夫で長生きするという、ポーランド赤ウシを 飼育していました。骨格はたくましく褐色の肌に艶がありました。人々は、牛を 駆って川を泳いで渡らせ、対岸の豊かに育った天然の草をたっぷりと食べさせて いました。1000年も前から続く、自然のリズムを利用した伝統の放牧だ、という。 ご覧になりましたか?


近くの川に馬を放ち、水遊びに興じる元気な子供たちの姿が映し出されました。 馬も牛と並んで大切な家畜です。馬の体に泥を塗るのは、体についた寄生虫を退 治するためだという。ナレーションは、「遊びの中で、自然と暮らしの知恵を身 につけていきます」と。これも感動的な映像でしたが、土遊びを知らない都心の 子供たちと重ねてみれば、豊かさってなんだろう―って考えさせられました。


いやあ、「まっすぐ真剣。」は、確かに凄い。こういう番組をコンスタントに 作り続ける姿勢に喝采ですね。いくら視聴率が取れるといっても、最近さらにひ どい「デカ盛り」、「メガフード」の下劣な番組に走る、どこかの局の社長さん に説明してもらいたい、「民放の品格はどこにあるのか」ということを…。まあ、 それはさておき、このNHKのこの番組の狙いはどこにあるのか、NHKのウェブサイ トをのぞいてみました。



●NHK「地球エコ2008」キャンペーン
 〜地球規模の環境破壊や資源の枯渇が問題となっている中で、自然と調和し共 存する「里山」の世界が見直されている。シリーズでは、世界各地の「里山」的 環境を訪ね、豊かな自然や人々の暮らしをみつめ、「共存の知恵」を探っていく、 という。


里山の自然と集落の豊かな営み、いまここにスポットが当たり始めているよう です。人々が代々にわたる長い年月を経て耕し育て、そして守り続けてきた里山、 これこそ地球異変の要因と対極にある、かけがえのない人類の財産かもしれませ ん。


「地球エコ2008」は今年のNHKのテーマでした。京都議定書のCO2削減義務 がスタートし、急激な温暖化や気候変動への施策が急務となり、そして今年7月 の北海道洞爺湖サミットは、わが国が議長国として大きな役割を果たさなければ なりません。21世紀最大の課題「温暖化」にNHKは総力をあげてキャンパン― を展開するという。もうお正月から録画したビデオが3本、「地球特派員スペシ ャル」はカーボンチャンスをテーマに「温暖化が世界経済を変える」でした。


〜2008年、激動する世界経済の動向を左右するのはCO2です。いまや"環境 を制する者が世界を制する"というのがビジネス界の常識。企業の価値は、温暖 化というカーボンリスクを回避し、それをカーボンチャンスに変えることができ るかどうかで決まっていきます―という。



●ジェームズ・ハンセン氏の「原因と解決策はわかっている」の至言
 新春のNHKBS「未来への提言」は温暖化の危機を題材にNASAゴダート宇宙研究 所所長の、ジェームズ・ハンセン氏の内容の濃いロングインタビューを放送しま した。翌日の再放送も拝見しました。ノートに全部メモをとる、という覚悟でず っと終日、見聞きしていましたから、家族にとっては迷惑だったかもしれません。 おとそ気分は吹っ飛んでしまっていました。


メディアでは朝日新聞が「環境元年」と銘打って連日、精力的な取材を続けて います。こまめな解説記事も見逃せません。環境異変、低炭素社会、排出権取引、 温暖化の脅威、環境政策、気候変動、京都議定書政府計画などなど、切り抜きは、 毎日の「穏やかな破局」、産経の「生き物異変」などのシリーズを加えるとすで に高さが10aを超えました。


本日の各紙も環境省の調査による、地球温暖化で日本の平均気温は21世紀末 には、20世紀末に比べて1.3〜4.7度上昇する、という試算結果を取り上げてい ました。これらテレビや新聞記事を読み砕いていくと、情報量の圧倒でまるで迷 路に嵌った感じで本筋が見えにくくなってきます。そのために、個人的には、以 下の3点、環境関連の記事からは、国内外の「データ」を重視し、次に法的措置 や施策などの「解決策」を比較、そして、「人の言動」という具合で整理してい ます。


そんな作業の中で、最も印象的だったのは、「未来への提言」でのジェーム ズ・ハンセン氏の言葉でした。どうしたら、この巨大な危機を乗り越えられるか、 という質問に対して、「原因と解決策はわかっています。これを社会に向けて伝 えていかなければならない」と訴えていました。そして、異変、その小さな変化 が、ある日突然、臨界点に達し巨大な変化を起こす、それをハンセンさんはTipp ing pointという。「温暖化は多くの生活基盤を破壊してしまう。危機を回避す る残された時間はない。あと数年以内にまったく違う道を歩まねばならない」と 警告していましたね。とても刺激的なメッセージでした。



●朝日新聞創刊130年事業「にほんの里100選」が楽しみ
 豊かな未来のためにーは、朝日の創刊130周年事業の標語のようです。「環 境」、「歴史」、「文化遺産」をキーワードにいろんな企画を展開するという。 そのひとつ、「息づく里 めぐみの里」という趣旨で、人々の暮らしによって育 まれてきた、すこやかで美しい里を全国から100カ所選ぶ「にほんの里100 選」の選定事業をスタートさせています。「景観」、「生物多様性」、「人の営 み」−の3つの条件を満たすそんな里を募集しています。応募のあった里の中か ら候補地を絞り込み、現地調査も行うという。選定委員長は、映画監督の山田洋 次さんです。


※応募要領は以下の通りです。
http://www.sato100.com/top.html
 「里」の文字の「田」の窓に里のイメージ写真が紹介されています。美しい日 本の姿です。



●関教授の年賀メールに「萩の島」の写真
 「里山」にすっかり心を奪われてしまったようです。eメールで一橋大学教授 の関満博さんから年賀状が届きました。そこにも「里山」が…。




年賀状には、「昨年は懸案の日本の中小企業の中国進出を総括した『メイド・ イン・チャイナ』と、日本の中山間地域問題に関わる『地方圏の産業振興と中山 間地域』という書籍を公刊することができ、この数年の重荷を下ろした気分で正 月を迎えています」という新刊のご案内と抱負、そして数枚の写真が添付されて いました。


夕暮れ迫る、冬の「萩の島」の静寂な佇まいを写したものでした。関教授のご 了解を得ましたので紹介いたします。新潟県柏崎市と十日町市に接した山間にあ る小さな集落で、かやぶき屋根の民家が田んぼをぐるり囲んで建っていて、環状 集落と呼ばれているらしい。やはりこの里を守り、大切にしてきた村人の息遣い が伝わってくるようです。山里の原風景という萩の島、この写真から何が見えま すか、そして何が聞こえてきますか―。


※新年、第1号のメルマガです。どうぞ、本年もよろしくご支援くださいます ようお願い申し上げます。連載は、「中国のイノベーション」を担当する張輝さ んの「温故創新、日中の掛け算関係の構築へ(上)」、「原点回帰の旅」の塩沢 文朗さんの「科学技術と国家−国というものについて−」です。視野がグローバ ルに向けられていて、新年にふさわしい大きなテーマと思います。内閣特別顧問 の黒川清さんの「学術の風」のコラムは、「日本はどこに」(元旦1日)、「St anford大学での講演」(2日)、そして「科学技術と国家政策」(3日)と三が 日連続の出稿でした。どうぞ、ご覧ください。


なお、1月4日付の内閣府人事で、総合科学技術会議議員に一橋大学大学院教 授の石倉洋子さんがご就任されました。東北大学大学院教授でDND馴染みの原山 優子さんとバトンタッチというところでしょうか。国際的な企業経営というご専 門のグローバル戦略、そして地域活性化のコアとなる産業クラスターの形成など のキャリアを存分に生かした実践的なご提言を期待しております。



●J-TECの株価年末から続伸の謎
 ※株価下落、原油価格高騰という不穏な経済の動向とは裏腹にDND Entrepren eur of the year 2007で、先端科学技術賞を射止めた「J−TEC」(ジャパ ン・ティッシュ・エンジニアリング、愛知県蒲郡市、小澤洋介社長)http://www.jpte.co.jp/の株価が高値更新を続けています。これは、いったい何がどうした のでしょうー。ご存知の通り昨年12月21日(金)にジャスダックNEOに上場 しました。が、初値が公募価格12万円を20%近く割り、やっぱりバイオの銘 柄は難しいーという風な落胆が関係者に広がっていました。


ところが、一部新聞の悲観的観測記事にも関わらず、翌週24日から連日1万 円台で急騰、28日は公募価格並みの12万円にまで押し上げていました。さて、 そこで新年1月4日の大発会、日経平均株価616円安の過去最大の下げ幅を記 録し波乱のスタートでしたが、J-TEC株は13万4千円と上昇、週明けの7日、 8日と続伸し、そして本日9日はなんと一時17万円を超える最高値をつけまし た。昨年21日の終値の倍です。DNDで何度かメルマガで取り上げてきましたか ら、株は持っていないのに12月21日の初値に多少関心と期待感を抱いて見守 っていました。


だって、J-TECが昨年10月末に自家培養表皮「ジェイス」の製造承認を取得し、 そして今後全国の大学病院などと契約を結び、保険の適用などの手続きを経て具 体的な治療現場でこの製品が役立てられることになるわけですし、患者ご自身の 細胞から作製した培養表皮ですから、移植しても免疫拒絶されることなく自己の 皮膚となる、わが国初の快挙ということを考えれば、公募価格割れという当初の 事態は、納得がいきませんでした。


J-TECの小澤社長やアンジェスMGの創業者である森下竜一さんらの、ベンチ ャー起業家の志は、なにより大切にしていかなければならない、というのはベン チャー支援を語る側の大事なスタンスですね。僕としては、もう覚悟に近い。ま あ、こう見ていくと、応援してきたベンチャーがIPOしたとしても楽観できない のですね、これからの業績や経営状態、それに日々の株価が気になってしまいま す。こりゃ、よほどタフじゃないと務まらないですね。


21日に実は、応援のつもりでわずかの株を購入していました。この株は、ど こまで行くのでしょう。その理由をどなたか解説してくれませんか?


記憶を記録に!DNDメディア塾
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