◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/11/21 http://dndi.jp/

世界初、京都大学山中教授の万能細胞成功を読む

 〜各紙の解説を比較〜

DND事務局の出口です。京都大学から世界級のどでかいニュースが飛び込ん できました。ヒトの皮フ細胞からあらゆる細胞に分化出来る万能細胞をつくるこ とに、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授が世界で初めて成功したという 論文が、20日の米科学誌「セル」(電子版)に発表されたーと今朝の各新聞一 面で報じていました。


なぜこの成功がノーベル賞含みの世界級なのか、人工多能性幹細胞(iPS細 胞)とは何か、今後再生医療にどんな道を開くのか、倫理的問題は、またはバイ オテクノロジーのビジネスの展開はなどなど、各紙の記事の解説や視点を見比べ てみてください。



【朝日新聞】
人の皮膚から万能細胞
京大教授ら再生医療へ前進


人の皮膚細胞などに複数の遺伝子を組み込み、各種の組織のもとになる万能細 胞(人工多能性幹細胞=iPS細胞)を作ることに、京都大・再生医科学研究所の 山中伸弥教授らが成功した。21日、米科学雑誌セル(電子版)に発表する。米ウ ィスコンシン大も同日、米科雑誌サイエンス(電子版)に同様の成果を発表する。 人間の体細胞から万能細胞ができたことで、臓器や組織を補う再生医療が現実味 を帯びてきた。


代表的な万能細胞の胚性幹(ES)細胞は、生命の萌芽である受精卵を壊して作 るので批判が根強い。山中教授と高橋和利助教らは昨年8月、マウスの皮膚の細 胞に四つの遺伝子を組み込み、世界で初めてiPS細胞を作製。受精卵を壊す必要 が無く、倫理問題が少ないとして注目された。


山中教授らは今回、成人の顔の皮膚の細胞や関節にある滑膜の細胞に、マウス の場合と同じ四つの遺伝子を導入。人やサルのES細胞の培養用の増殖因子を使っ たり、マウスより長く培養したりして、人間のiPS細胞を作るのに成功した。こ の細胞が神経細胞や心筋細胞、軟骨などへ分化できることも確認したという。


山中教授は「再生医療の実現にはまだ少し時間がかかるが、ねらった細胞に効 率よく分化させたり、安全性を高めたりして、臨床応用につなげたい」と話して いる。


一方、米ウィスコンシン大のチームは、山中教授らの4遺伝子のうち二つを別 の遺伝子にして、新生児の皮膚細胞からiPS細胞を作った。



[解説]
 研究と規制両立が課題


体細胞からつくるiPS細胞は、作製の際に受精卵を壊さなくてすむため、倫理 問題がつきまとう胚性幹(ES)細胞に取って代わるものとして世界的に注目され ている。患者自身の体細胞を使えば、移植での拒絶反応も回避できる。


クローン羊ドリーをつくったイアン・ウィルムット博士は山中教授の手法につ いて、「社会に受け入れられやすい方法」と高く評価。ES細胞作製のためのヒト クローン胚の研究から方針転換する意向を今月、英紙に語っているほどだ。


現時点では山中教授らも米チームも、導入した遺伝子ががんを引き起こしたり、 遺伝子の運び屋に使うウィルスが遺伝情報を書き換えたりといった不安が残る。 再生医療につなげるには、遺伝子治療の分野を含めた学際的な研究が必要となる。


一方、体細胞からあらゆる細胞ができることが示された以上、生殖細胞もつく り出せる可能性がある。男性の細胞から卵子ができたり、女性の遺伝情報を持つ 精子ができたりするかもしれない。


生殖細胞の遺伝子組み換えや、クローン人間づくりが禁止されているように、 iPS細胞の応用をめぐる線引きも必要だ。再生医療へ向けた研究を進めつつ、反 倫理的な研究にどう歯止めをかけるのか、議論が求められる。(竹石涼子)


***


【読売新聞】
ヒト皮膚から万能細胞
拒絶反応なし 臨床応用に道 京大チーム成功


人間の皮膚細胞から、さまざまな臓器・組織の細胞に成長する能力を秘めた「万 能細胞」を作ることに成功したと、京都大学の山中伸弥教授(幹細胞生物学)らの 研究チームが発表した。患者と遺伝情報が同じ細胞を作製でき、拒絶反応のない 移植医療の実現に向け、大きな前進となる成果だ。山中教授は「数年以内に臨床 応用可能」との見通しを示している。米科学誌「セル」電子版に20日掲載される。


山中教授らは、やはり万能細胞として知られる「胚性幹細胞(ES細胞)」の中で、 重要なはたらきをしている4個の遺伝子に着目。30歳代の白人女性の顔から採取 した皮膚細胞(研究用市販品)にウイルスを使ってこれらの遺伝子を組み込み約1 ヶ月培養したところ、ヒトES細胞と見かけが同じ細胞が出現した。


培養条件を変えることにより、この細胞が、神経細胞や心筋細胞などに変化で きる「万能性」を備えた「人工多能性幹細胞(iPS細胞)だと確認した。作製効率は 皮膚細胞5000個につき1個で、臨床応用するのに十分という。


これまで再生医療で脚光を浴びていたES細胞には(1)人間に成長する可能性が ある受精卵を壊して作るため、倫理的な批判を伴う(2)移植に使うと拒絶反応が避 けられないーという問題があった。クローン技術を利用するクローンES細胞を 使うと拒絶反応を回避できるが、材料となる卵子の確保が困難だ。iPS細胞な ら、これらの問題をすべて克服できる。


ただ、山中教授らが遺伝子の組み込みに利用したウイルスは、発がん性との関 連が指摘されているほか、組み込んだ遺伝子の一つはがん遺伝子だ。移植後にが ん化しないような工夫が課題として残る。


山中教授らは去年8月、同じ4遺伝子をマウスの皮膚細胞に組み込み、iPS細胞 作製に成功したと報告。人間でも可能かどうか実験していた。


米ウィスコンシン大のチームも人間の皮膚細胞からi PS細胞の作製に成功した と発表、こちらの成果は米科学誌「サイエンス」電子版に22日掲載される。方法 はほぼ同じだが、京大とは組み込んだ4遺伝子のうち2個が違うという。今後、万 能細胞を用いる再生医療は、iPS細胞を中心に展開していく可能性が高い。


岡野栄之・慶応大医学部教授(生理学)の話「非常に重要な成果だ。細胞移植医療 への応用が見えてきた。我々が行っている脊髄損傷患者への再生医療研究にも、 ヒトiPS細胞を利用したい。医療に応用するには、がん化の危険性を払しょくす ることが課題だ」



[解説]
 再生医療に革新的成果
 ヒト皮膚から万能細胞 課題解決「時間の問題」


人間の皮膚からiPS細胞を作製した山中伸弥・京大教授らの研究は、再生医療 に革新をもたらす成果だ。


パーキンソン病や糖尿病などの病気で、iPS細胞から変化させた細胞を移植す れば、症状の改善が期待できる。新薬の薬効や副作用の確認にも役立つ。


山中教授は今回の成果を「マラソンに例えると、ゴールが見えた段階」とし、 数年以内に医療現場での利用が始まると見通す。


しかし、課題も少なくない。一つは、今回の実験では遺伝子を組み込む際に、 発がんの恐れがある「レトロウイルス」を利用している点だ。また、組み込んだ 四つの遺伝子には、がん遺伝子の「c-Myc」も含まれる。iPS細胞から作った細 胞が移植後に目的以外の細胞に変化しない技術の開発も不可欠だ。


こうした課題について理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの西川伸 一副センター長は「解決は時間の問題」と楽観的だ。米ウィスコンシン大のチーム は、がん遺伝子を用いずに、iPS細胞を作製。山中教授も、レトロウイルス以 外で遺伝子を組み込む方法を検討している。iPSは理論上、精子や卵子に変化さ せられる。子孫に影響を与える生殖細胞の悪用を防ぐため、山中教授は「今後の iPS細胞研究はガラス張りにする必要がある」と強調する。


クローン羊ドリーを作った英エディンバラ大のウィルムット教授は、クローン ES細胞研究を断念し、iPS細胞研究に切り替えると英紙に表明した。世界的 な競争が激化しつつある。(科学部 木村達矢)


***


【毎日新聞】
ヒト皮膚から万能細胞
再生医療 本人の細胞で −京大など成功
 ヒトの皮膚細胞から、心筋細胞や神経細胞などさまざまな細胞に分化する能力 を持つ万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作りだすことに、日米二つ の研究チームが、それぞれ成功した。患者自身の遺伝子を持つ細胞を作り、治療 に利用することに道を開く技術。クローン胚から作る同様の能力を持つ胚性幹細 胞(ES細胞)と違い、作成に未受精卵を使うなどの倫理的問題を回避できる。拒 絶反応のない細胞移植治療などの再生医療や新薬開発など、幅広い応用に向けた 研究が加速しそうだ。


京都大などのチームが20日付の米科学誌「セル」電子版に発表。米ウィスコ ンシン大などのチームが22日付け米科学誌「サイエンス」電子版に発表する。


京大の山中伸弥教授と高橋和利助教らは、体細胞を胚の状態に戻し、さまざま な細胞に分化する能力をよみがえらせる「初期化」には四つの遺伝子が必要なこ とを発見し、昨年8月にマウスの皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功。これ を受け、世界の研究者がヒトのiPS細胞の開発を目指し、激しい競争を繰り広げ ていた。


山中教授らは、マウスでの4遺伝子と同様の働きをするヒトの4遺伝子を成人 の皮膚細胞に導入し、ヒトのiPS細胞を開発することに成功。この細胞が容器内 で拍動する心筋や神経などの各種細胞に分化することを確認した。iPS細胞をマ ウスに注入すると、さまざまな細胞や組織を含むこぶができ、多能性を持つこと が示された。


一方、ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、胎児や新生児の皮 膚細胞から、京大チームとは異なる組み合わせの4遺伝子を使い、iPS細胞を作 ることに成功した。


英紙によると、世界初の体細胞クローン動物、羊のドリーを誕生させた英国の イアン・ウィルムット博士は、今回の成果を受け、ヒトクローン胚研究を断念す る方針を決めたという。クローン胚由来のES細胞より、iPS細胞の方が治療には 有望と判断したためだ。


一方、初期化に使う4遺伝子にはがん遺伝子も含まれ、発がんなどの危険性が ある。今後は安全性の確保が研究の焦点となりそうだ。【須田桃子】



[解説]
 iPS細胞 倫理・安全面に課題 1人から精子・卵子 可能


日米の研究チームがヒトの人工多能性細胞(iPS細胞)作りに成功したことは、 再生医療の実用化などへ向けた画期的な成果で、「ノーベル賞級」との賛辞も寄 せられている。だが、安全面の課題は残り、1人の細胞から精子と卵子を作れる 可能性があるなど新たな倫理的問題もある。


患者自身の体細胞を使った多能性幹細胞を作る手法としてはこれまで、未受精 卵と体細胞を使ったクローン胚(はい)から胚性幹細胞(ES細胞)を作る研究が 先行してきた。しかし、多数の卵子を確保する難しさや、倫理的な問題を抱える。 ヒトでの成功例はまだない。04-05念には、韓国ソウル大学の黄禹錫(ファン・ ウソク)教授(当時)らがヒトの体細胞を使って作成に成功したとの論文を発表 したが、後に捏造(ねつぞう)が明らかになった。


今回の成果について、理化学研究所幹細胞研究グループの西川伸一ディレク ターは「患者の細胞を使った医薬品開発や病気の解明などの研究が可能になり、 これまでと全然違う成果が生まれる時代がくる。海外の研究者は皆、山中さんが ノーベル賞を取るだろうと評価している」と話す。


ただし、安全面での課題も残る。体細胞を「初期化」する際に使う遺伝子にが ん遺伝子が含まれることや、遺伝子を導入する際に使うレトロウィルスもがん化 を促す危険性があるからだ。


倫理面での問題も、100%回避されたわけではない。iPS細胞から生殖細胞 (精子・卵子)を作り出すことも理論上可能だからだ。山中教授は「生殖細胞の 分化誘導には早急なルール作りが必要だ」と話す。【須田桃子、永山悦子】


***


【産経新聞】
京大チーム成功
ヒトの皮膚から万能細胞


ヒトの皮膚細胞から、あらゆる細胞に分化できる『万能細胞』を作ることに、 京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが初めて成功した。ヒトの胚性幹細胞 (ES細胞)とほぼ同等の能力があり、受精卵を使わないため倫理的な問題も回避 できる。患者の皮膚から移植用の臓器を作れる可能性があり、拒絶反応のない新 たな再生医療の実現に道を開く画期的な成果だ。20日の米科学誌「セル」(電子 版)に発表した。


ES細胞は神経や筋肉、臓器などあらゆる細胞や組織に分化させることができ、 再生医療への応用が注目されてきた。しかし、生命の萌芽である受精卵や卵子を 壊して作るため、倫理的な問題が実用化研究に立ちはだかる厚い壁だった。


受精卵などの生殖細胞ではなく、皮膚などの体細胞からES細胞と同じ性質を 持つ万能細胞を作る研究で先陣を切ったのが、山中教授らの京大チーム.昨年、 マウスの皮膚細胞に万能性に関係する4つの遺伝子を導入して万能細胞の作成に 成功した。


山中教授らはマウスで成功した技術を応用して成人の皮膚細胞に4つの遺伝子 を導入し、ヒトの万能細胞を作ることに成功。「人工多能性幹細胞」(iPS細 胞)と改めて命名した。タンパク質を作る主要な遺伝子が、ヒトES細胞とほぼ 一致し、肝臓や心筋、神経、筋肉など約10種類の細胞に分化できることを確認し た。


米ウィスコンシン大などの研究チームも20日の米科学誌「サイエンス」(電子 版)に、胎児などの皮膚から作った類似の万能細胞を発表した。今回の成果は、 脊髄損傷や糖尿病、心臓病など多くの病気で再生医療への応用が期待される.患 者と同じ遺伝子を持つ臓器細胞をつくれるため、薬の効き目や副作用の診断など にも役立つ。


山中教授は「再生医療というマラソンのゴールが見えてきた。10年以内に実現 できるだろう。今後は研究体制の充実と適切なルールづくりが必要だ」と話して いる。



 倫理問題回避 夢の再生医療へ前進


京都大による皮膚由来のヒト万能細胞の開発は、夢の生成医療に向けた大きな 前進であり、医学・生物学における世界第一級の業績といえる。ES細胞につき まとう倫理的な問題を回避できる意義は大きく、再生医学の研究は一気に加速し そうだ。


開発成功は各国の研究者に衝撃を与えた。世界初の体細胞クローン羊「ド リー」の開発者は、京大チームの手法を評価してヒトクローン胚の研究を断念。 国内からは「ノーベル賞級」との声も聞かれ、日本の技術が再生医学の本命に浮 上する可能性も出てきた。


最大の課題は安全性の確保だ。万能細胞は作成過程でがんに関係する遺伝子や ウィルスを使っているため、現状では「発がんの危険性により臨床応用は難しい」 (中辻憲夫京大教授)。実用段階での激しい国際競争に日本が勝ち残るには、より 多くの研究機関が参入できる体制作りも重要になってくる。


一方、この万能細胞は精子や卵子も作れるため、自分と同じ遺伝子を持つ人間 を作ることも原理的に可能という。クローン人間と違って現時点では法規制の枠 組みがなく、新たな倫理問題を生じかねない。再生医療の実現を待ち望む多くの 患者の期待に応えるためにも、研究の透明性を確保するルールづくりが必要だ。 (長内洋介)


***


【日本経済新聞】
ヒトの皮膚から万能細胞


京都大学の山中伸弥教授らは、神経や筋肉など体の様々な細胞や組織に育つ新 型の「万能細胞を」、人の皮膚の細胞から作ることに世界で初めて成功した。マ ウスの細胞でも同様の万能細胞を作っていたが、人の細胞で成功したことで、患 者本人の細胞から移植用組織を作れる可能性が出てきた。こうした組織なら移植 しても拒絶反応は起きない。次世代医療である再生医療の本格的な実現につなが る画期的な成果だ。


科学技術振興機構との共同研究。米科学誌セル(電子版)に二十一日、論文を 発表する。


作製したのは「iPS細胞」。山中教授らは昨年八月にマウスの細胞をもとにiPS 細胞を作ることに成功。人の細胞でも作製できるか世界の研究者が注目していた。


研究チームは成人の皮膚の細胞に四種類の遺伝子を組み込んだ。一ヶ月ほど培 養すると、iPS細胞ができた。さらに実験を続けたところ、神経や筋肉、肝臓、 骨、膵臓(すいぞう)など約十種類の細胞に成長した。


一方、米ウィスコンシン大のチームも人間の皮膚の細胞に特殊な遺伝子を組み 込んで京大チームと同様の万能細胞を開発することに成功した。


▼万能細胞
 人体のあらゆる細胞や組織へと成長する能力を持つ細胞。代表格は胚(はい) 性幹細胞(ES細胞)。受精卵から成長前の細胞を取り出して作る。人では一九九 八年に米大学が初めて作製。ほかにクローン技術でES細胞を作る技術もあるが、 入手の難しい卵子が必要。皮膚で作ったのは今回が初めて。


▼再生医療
 様々な細胞に成長する特殊な細胞を培養して移植用の組織をつくり、病気や怪 我を治す先端医療。培養する細胞は、患者本人の骨髄などに含まれる細胞を利用 する場合と、万能細胞を使う場合がある。患者本人の細胞を利用するタイプは、 角膜の損傷などへの臨床応用が大学病院を中心に始まっている。



 新型万能細胞 拒絶反応無い移植へ前進 生命倫理など研究ルール課題


京都大学のチームがこれまでに無い画期的な万能細胞を開発した。様々な病気 の患者の体から細胞を採取してこの万能細胞を作り、さらに移植用の組織を作製 すれば移植しても拒絶反応が発生しないことになる。だが、作製の方法などを改 良して安全性の向上やコスト低減を目指す必要があるほか、乱用を防ぐ研究ルー ルを整備するなど、実用化までには克服すべき課題が多い。


再生医療は世界的に注目されている先端医療で、万能細胞のような医療材料が 必要。だが、万能細胞はまだ研究段階。現時点で有用なのは「胚(はい)性幹細 胞(ES細胞)」。様々な組織に育つ能力を持っているが、生命の萌芽である受精 卵を壊さないと作ることができない。


このため、生命倫理面での反発が根強く、米ブッシュ大統領は連邦予算を使っ た研究を制限している。日本でも研究に文部科学省による事前審査が必要となる など、厳しい規制がある。


クローン技術を応用して作った「クローンES細胞」も有力視されていたが、世 界最先端を走っていたと思われたソウル大学チームの研究成果が捏造と判明。人 の細胞ではまだ成功していない。一方、京大チームのiPS細胞は皮膚など患者の 体細胞から作ることが可能なので、研究者の間ではES細胞などよりも倫理上の ハードルが低いと考えられている。昨年、京大チームがマウスの細胞でiPS細胞 の作製に成功して以来、世界の研究者が人の細胞での成功を目指してしのぎを削 っていた。


京大チームの今回の成功によって、今後の再生医療の研究は世界的にiPS細胞 を中心に展開していくとの見方が強まっている。


だが、iPS細胞を患者の治療に使うには課題がある。技術的な課題は作製方法 の改良だ。京大チームは四種類の遺伝子を組み込む際にウィルスを使ったが、こ れががんの原因になる可能性がある。患者ごとにiPS細胞を作製するのにも現 段階ではコストと時間がかかる。


また、国が研究ルールを早急に整備する必要がある。iPS細胞からは精子や卵 子も作ることが理論的に可能だ。無精子症など不妊患者うを対象とする生殖補助 医療への可能性が広がる半面、人為的な生命の誕生にもつながりかねず、新たな 倫理問題となる可能性もはらんでいる。iPS細胞の研究が予想を上回る速さで進 んだ結果、国のルールつくりは追いついていないのが現状だ。



 発がんとの関連指摘も


理化学研究所の丹羽仁史チームリーダーの話
これまでマウスの研究成果を考えれば、人間での成功は順当といえる。ただ、治 療に応用するには安全性で問題がある。遺伝子導入に利用したウィルスや、導入 した遺伝子の一つは発がんとの関連が指摘されている。iPS細胞の研究には国の ルールが存在しない。緊急にルール作りのための議論を開始すべきだ。


***


京都大学ニュースリリース ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功 2007年11月21日 http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/documents/071121_11.htm


京都大学再生医科学研究所
山中研究室
http://www.frontier.kyoto-u.ac.jp/rc02/index-j.html


山中伸弥教授
昭和37年生まれ


略歴
昭和62年 神戸大学医学部 卒業
同 国立大阪病院 臨床研修医
平成 元年 同 修了
同 大阪市立大学大学院医学研究科 入学
平成 5年 同 修了
同 Gladstone Institute (USA) postdoctoral fellow
平成 7年 同 staff research investigator
平成 8年 日本学術振興会 特別研究員
同 大阪市立大学医学部 助手
平成11年 奈良先端科学技術大学院大学 遺伝子教育研究センター 助教授
平成15年 同 教授
平成16年 京都大学再生医科学研究所 教授


米科学誌「セル」電子版
http://www.cell.com/


「Induction of Pluripotent Stem Cells
from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors」


Kazutoshi Takahashi, Koji Tanabe, Mari Ohnuki, Megumi Narita,
Tomoko Ichisaka, Kiichiro Tomoda,and Shinya Yamanaka
http://images.cell.com/images/Edimages/Cell/IEPs/3661.pdf


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html

このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタルニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp