◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/11/07 http://dndi.jp/

ジャスダック新市場NEOへの期待度

 〜大学発ベンチャーに好機到来となるか、どうか?〜

DND事務局の出口です。大学発ベンチャーをめぐる環境に少し風がでてきた ようです。これがグーンと勢いづいてこの閉塞状況を打ち破ってくれればいいの ですが、それが上昇気流を誘う追い風となるのか、落ち葉を散らす木枯らしで終 わるのか、さて、どうでしょうか、素人ながら期待を込めつつこの動きに着目し てみました。


大学発ベンチャーなど先端の技術系企業をターゲットにジャスダック証券取引 所が設立した新市場NEO(ネオ)。いよいよこの13日、マイクロソフト出身の技 術者らが2001年に設立した通信ソフトウエア開発の「株式会社ユビキタス」(本 社・新宿区、川内雅彦社長)が新規上場を果たす、そうです。NEO市場上場の第1 号となるわけで、その宣伝効果も大きいかもしれませんね。


絶好調の任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンド―DS」のソフトに組み込んだ無線 LAN通信機能の開発で急成長し、ビジネスモデルは主に半導体メーカーへのソフ トの提供だという。しかし、まあ、こんな売れている名前をよくも独占できたも のですね。


直近の会社概要によると、社名の通りユビキタスネットワーク時代を見越して Smart 、Small、Sharp、Softwareの4つのSを事業方針とし、「小さく」、「軽 く」、そして「速い」というのが特徴で、例えば安価なハードで通信機能を構築 したいというニーズとハイビジョン放送などのコンテンツを配信・伝送する高速 の通信機能を搭載したいというニーズの双方を最適化するシステムをすべて自社 で構築し、製品化しているのだそうだ。


資本金2億5500万円、従業員16人(9月30日現在)で、こちらの内容もSサイズ ですね。が、会長に営業畑の中山佳久氏、専務に技術の鈴木仁志氏、主要株主の 末松亜斗夢氏はかつてのCEOでいずれも創業メンバーという。技術力に加えて、 この辺のキャリアのバランスも強みでしょうか。これからテイクオフなのでしょ う。


そしてNEOの新規上場が続きます。ジャスダック証券取引所はこの2日、オンラ インゲームの決済に利用されるインターネット専用の電子マネーを提供する「株 式会社ウェブマネー」(本社・港区浜松町、溝口龍也社長)の新規上場を承認し た、と発表しました。上場日は12月6日です。


会社の経緯をみると、ウェブマネーの設立は1988年で、1999年に株式会社アイ フォーから電子マネー事業の営業譲受けを実施し、電子マネーの発行や電子決済 システムの提供を開始しました。2003年に会員サービス「WebMoney PREMIUM」の 提供を開始、コンテンツ製作会社のフェイスは親会社になるという。資本金1億4 00万円、従業員37人(9月30日現在)。


●期待される新市場NEOは、過去の実績は問わない。
 いやはやスピード感があります。ユビキタスの次は、ウェブマネーですか、銘 柄がいま風で、社会の成熟度に呼応した技術の成果が結実しているようですね。 このところのIPO市場は新規上場企業の初値が公募価格を割り込んでやや深刻な 状態のようですが、このユビキタスやウェブマネーの評判は株主の顔ぶれもしっ かりしていて評判は上々のようです。まあ、これは門外漢の僕のコメントですか らアテになりませんが…。さて、市場関係者や投資家サイドからの反応は極めて 冷静で、実際、フタを開けてみないと分からない面も多いようです。今後、この 勢いで次々と上場ラッシュが続いていくことを期待しましょう。


さて、その新市場のNEOは、この閉塞感漂うこの時期に一体どんなコンセプト で何を目指そうとしているのでしょう。ウェブからいくつかの答えを探してみま した。すると、次の二つの意味があるという。


「New Entrepreneurs' Opportunity」(新しい、起業家達の、機会)で、新 しい起業家が、成長可能性のある新技術、あるいは新たなビジネスモデルによる 事業展開のための機会を提供し、起業家がコーポレート・ガバナンスなど企業実 態に関する情報提供の機会となることを期待する。そして、もうひとつが「New Evaluation Opportunity」(新しい、評価、機会)で、投資者が企業を評価す る上において重要な会社情報を質・量ともに充実させて十分な企業評価に基づく 投資機会を確保することを目指す、という。


少し抽象的表現で一般的にはわかりにくい説明かもしれません。つまり、上場 企業には従来の適時開示に加え、経営計画や事業推進の進ちょく状況を説明する マイルストーン開示を義務付けて、投資家に向けたIR広報活動の強化を求めてい るのが大きな特徴のひとつになっている、らしい。


さて、本題の大学発ベンチャーにとって新市場NEOは、どのような風を起こし てくれるのでしょうか。数えて1590社のその大半がバイオであり情報通信であり、 先進的な環境関連などの先端技術系ベンチャーですので、これらは新市場NEOに ぴったり、上場申請の道が開けるのではないか、そんな期待を抱きながらチャン スがあったら誰かに聞いてみたい、と念じていました。


するとどうでしょう。タイミングよく、大学発バイオベンチャー協会(会長・ 水島裕氏)の第5回総会で、ゲストに呼ばれたのがジャスダック証券取引所の代 表執行役社長の筒井高志さんで、「新市場NEOとバイオベンチャー」というテー マで講演するという。勇んでその1日午後、東京の皇居近くのパレスホテルに飛 んでいきました。


その前にちょっといい話をひとつ。会場では、名古屋大学医学部教授で同協会 副会長の上田実さんが、満面笑みで迎えてくれました。そうでしょう、上田さん がもう10年も前から働きかけてきた再生医療が、技術提供先の大学発ベンチャー J-TEC「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」(愛知県・蒲郡市、小澤洋 介社長)で、やっと実現するのですから〜。


J-TECが先月30日に自家培養表皮「ジェイス」の製造承認を取得し、そして今 後全国の大学病院などと契約を結び、保険の適用などの手続きを経て具体的な治 療現場でこの製品が役立てられることになります。凄いことですね。社長の小澤 さんも感激のスピーチでした。ここまでくるのに8年8ケ月、すでに50億円の投資 という。


ウェブによると、患者ご自身の細胞から作製した培養表皮ですから、移植して も免疫拒絶されることなく自己の皮膚となり、培養表皮は、当初、重症熱傷患者 の救命の目的で使用されてきましたが、速やかに傷を閉鎖できる優れた能力、ま たメラノサイトを含むため色素性皮膚疾患に対する有用性も明らかになっており、 瘢痕、白斑、母斑、潰瘍、採皮創など様々な疾患に積極的に適用されてきた歴史 があります、とその幅広い用途の説明がありました。


わが国初の快挙という。フォローの風を受けて、ここもやっとテイクオフの局 面ですね。社会貢献もさることながら、大いにこれから売上を伸ばしてほしいも のです。再生医療について、上田さんはDNDサイトで「大学発バイオベンチャー起業成功の秘訣」という連載をされていました。ドラマチックです。どうぞ、ご覧になってください。


●大学発バイオベンチャー協会総会で、ジャスダック筒井社長が講演
 ちょっと脇道にそれましたが、そうです、大学発バイオベンチャー協会の総会 です。メインゲストの筒井さんの登場です。モデレーターは、アンジェスMG創業 者で大阪大学医学部教授の森下竜一さんでした。この協会の副会長であることは よく知られています。森下さんは筒井さんが大阪に勤務していた時代からの顔見 知りで、この新市場NEO を立ち上げた筒井さん、並びにNEO に強い期待を寄せて いるひとりした。


筒井さんはその経緯に触れ、2005年6月にジャスダックの社長に就任した当時 は、ちょっと日本に閉塞感が蔓延し、翌年のライブドア事件などで新興市場が信 頼感を失っていた。この状況をなんとか、打開するような新しいことをやってみ たい、と考えて、昨年12月ごろから合宿などをやって出てきたいくつかの提案の 中のひとつが、この新しい市場を創設ということでした。今年4月に制度要綱の 骨格を練り、5月にネーミングを賞金付きの募集を行い若手社員によるネット投 票などで約1500件の中からNEOを選んだ、という。


ジャスダックは現在980社、15兆円のマーケットですが、1000社という目標を 持っていました。次世代の新たな可能性に満ちた企業群を見出したいというのが 新市場の狙いでもあります。そしてどういう形で上場審査を行っていくか、と自 問しながらこんな大胆な考えを披瀝していました。


「これまでのように過去の実績は問いません。(上場申請に必要な書類で中核 的報告書の)二の部を要求しない。実績や収益より、将来の成長性にポイントを 置いています。そしてその会社固有の優れた技術や事業計画を重視し、経営者か らのインタビューも重視します。ただ、技術についてはきちんと評価していただ きますし、上場後のマイルストーン開示を重要視し、最低3年間の事業計画を出 してもらい、翌年もその次もという具合で3年間ごとの更新とコメントもお願い する。ご負担になるかもしれませんが、企業経営の立場からできる限り経営の透 明性を高め、投資家サイドの判断材料を積極的に市場に開示していただくことに なります」


●重視する技術評価、それにマイルストーン開示
 ふ〜む。過去の実績を問わないなんて大胆ですね。果たしてそんなことでうま くいくのだろうか、との疑問もわいてきますが上場候補の支援体制には、ジャス ダック経営者交流サービスやIR支援、IR向上サービスなどの徹底した支援体制を 構築しているようです。


技術評価もNEOの際立った特徴のひとつかもしれません。「技術評価アドバイ ザリー・コミッティー」を中核に据え、上場申請にあたっては、まず当該技術に ついての説明書類の提出を求め、そして必要に応じ独立した複数の有識者による 技術上の分析を行った評価の結果の提出も求める、という。そして次のステージ で、その技術評価アドバイザリー・コミッティーが技術の評価結果を示す書類を 基にさらに評価を行う、というから技術評価は、何より厳格なようです。


この評価のメンバーには、大手電機メーカーの会長、東北大学教授、大学元学 長ら産学連携や大学発ベンチャーに造詣のある有識者5人が就任されているよう です。が、ただあくまでこの評価を尊重するが、上場審査の最終的な判断はジャ スダックが行うことは当然です。


筒井さんは、「われわれの方から上場可能な企業を見つけて育て、そして健全 に守るという従来にないスタンスをとっていきます。市場は共有財産です。ひと つの企業のためにあるのではなく、誰にでも使ってもらいたい。市場の番人とい うのは公園の管理人のような存在ですから皆様が楽しいでもらえるような場所に したい。もちろん、ルールが必要です。このような厳しい時期に大変じゃない の?という声もありますが、それだからむしろこの時期に新市場を創る意義があ る」と、新市場創設の意義を熱っぽく語っていました。新市場NEOの立ち上げに は、経済産業省が「新興市場の活性化委員会」を立ち上げるなどひと役買った経 緯があるようです。


新市場NEOへの期待は、大学発バイオベンチャー協会サイドからも大きいもの があるようです。森下さんからの質問に筒井さんは、「これから月に1社以上は 上場に持っていきたい。これから申請があった場合、こうだ、ということではな くバイオ限らず、一番ふさわしいプロセス、そしてそういうケースを積み重ねて 進めていく。どうぞ、一緒に市場を創っていくという考えでご理解いただけるの ではないか〜」とやや慎重な発言でした。


※本日のコラムは以上です。いやはや、午後の「伝説の人」小沢一郎さんの記者 会見が気になってしょうがない。しかし、政治は一寸先が闇、そして政治マター は利害関係者が周辺に大勢いますので、誤解を生みますので今回は少し自重しま す。以下は、お知らせです。まず、主要な、そして身近なイベントの紹介です。 これらはいずれもDND産学連携情報に掲載されています。事前登録や参加申し込 みは、そちらでどうぞ。


●「インテレクチャル・カフェ国際シンポジウム」(経済産業省とOECDの共催) が明日8日午後13時から(9日まで)東京・大手町の経団連会館で開催されます。 どこか、馴染みの薄い新語「インテレクチャル・カフェ」ですが、「知識の融合 が生まれやすい場と環境」の意味で、元祖・インテレクチャル・カフェがDNDと いうことでしょうか(苦笑い)、かつては産業技術知識基盤構築事業という名前 でした。狙いは、いずれもイノベーションの促進であることは変わりありません。 まあ、どうぞ、会場に足を運んでみませんか。


キーノートスピーチは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんです。続く日米欧 のトークセッション、さらに欧州の事例報告には、NEDOのパリ事務所長、吉本豊 さんが登壇されます。懐かしいなあ、随分お世話になりましたから…。


そして休憩をはさんで「知識創造を誘発するクリエイティブ・オフィス」のセ ッションという流れです。きっと知識の融合をベースとした異業種の交流の必要 性、ネットワークからコミュニティの創出など、議論の俎上に乗るそれらの発言 に耳を澄ませば、きっとDNDで連載の経済産業省・石黒憲彦さんの「志本主義の ススメ」で説く「夢・志・仲間」に行き着くのだろう、とみているのですが、ど うでしょう。まあ、インテレクチュアル・カフェなる場の創造は、この数年全国 のあっちこっちでおびただしい数のネットワークが誕生しましたが、それらが正 念場を迎えている気がしますね。


●「科学技術と国家」(朝日新聞科学部創設50周年記念シンポジウム) は16日 午後14時から、東京・有楽町の朝日ホールで開催です。参加はハガキで申し込ん で抽選となりますが、もう締め切っています。その開催趣旨は、昭和基地開設や 初の人工衛星スプートニクの打ち上げなど、大きな科学ニュースが相次いだ1957 年、朝日新聞は科学部を発足させました。半世紀を経て、私たちの暮らしや社会 にますます影響を及ぼすようになっている科学技術について、有識者の講演やパ ネル討論を通して考える、という。


なるほど、科学部創設50年ですか。いまや科学技術の理解なしでは世の中が見 えないし、企業経営もおぼつかない現実がありますね。この手の企画は、ますま す重要度を増すでしょう。基調講演は、評論家の立花隆さん、シンポジウムには 立花さんに加えて、内閣特別顧問の黒川清さん、三菱重工業特別顧問の柘植綾夫 さん、公正取引委員会委員の後藤晃さん、衆議院議員の猪口邦子さん、司会が朝 日新聞論説委員の尾関章さん。ハガキで申し込んだら聴講券が届きました。なん だかこういうのって嬉しいものです。楽しみです。この日はメモをとらず静かに 拝聴しましょう。


●第3回チャレンジ・ベンチャー交流サロン(埼玉県創業・ベンチャー支援セン ター主催)は12月6日18時30分から同センターで(さいたま新都心駅の真ん前) 開催します。中小企業の経営者を対象に事業飛躍の秘訣をつかんでもらって実際 の経営現場に役立てようという趣旨で、ゲストにマザーズ上場のシステムインテ グレータ社長の梅田弘之さんを迎えて2時間、参加者からのアピールも入れて意 見交換します。定員20数名、参加者募集を開始しました。


http://www.biz-startup.pref.saitama.lg.jp/service/2007/venture_salon/19salon.html


なお、コーディネータは、昨年度から僕が努めておりますので、結構面白いですよ。エリアを問いませんのでご参加ください。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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