◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/09/19 http://dndi.jp/

荏胡麻のルーツ"知ったかぶり"

    〜α−リノレン酸の効用を生かす新たなビジネス展開は、さて〜

DND事務局の出口です。いやあ、なんとも自然の猛威には言葉を失ってしまいます。増水で川が氾濫し、街は濁流に浸かっていました。総雨量300ミリ、ここ数日東北地方を襲った記録的な雨で、3人が行方不明になり、のどかな田園風景は泥の沼に一変、穂が実り収穫を待つばかりの農作物は、無残にも泥水に埋まっていました。ふ〜む、ため息がでてきそうです。


「いやいやぁ〜気の毒ですね、本当に農業は大変だ」と今朝のTBS系列の人気番組「朝ズバッ!」で司会のみのもんたさんが表情を曇らせていましたが、なんとかこれらに救済の手はないのでしょうか。岩手県の郊外で泥水に埋まった田んぼを前に、ご老人が、「(米が)獲れないわけでねぇとは思うが、みんなゴミやドロになってダメだと思うなあ」と困惑していました。また、秋田の養鶏場では名産の比内地鶏が一万数千羽水死した、という。比内地鶏ってご存知でしょう、肉質の食感や香ばしい皮、それにまろやかなスープ、たまりませんね。関東では100g600円前後もするので、ちょっと手が出ません。ああ、これも残念な話ですね。養鶏業者の落胆ぶりは想像に難くありません。


まあ、これから次々と雨による被害が報告されるでしょう。ほんと、天候に左右される農業は、利幅は薄いし足は早いし、あるいは豊作でも逆に値段が下がるし、作業が大変なわりには報われることが少ない。漁業だって、水揚げが本格化しているサンマは市場価格がやや高めで1キロ90円というが、重油代が1回の漁で140万円というから、こっちもほんとこれで採算が合うのか、どうか、現場から悲鳴が漏れてくるようです。


これは僕が、エゴマ栽培に接したささやかな体験です。


土をいじって肥料をやり、丹念に土壌を改良し、種を撒いて成長を待つ。そしてあくまで自然栽培にこだわるから、片道200キロに及ぶ福島県の阿武隈山麓まで週1回は車で走り、その夏場の炎天下、雑草を取って水をやり、そしてやっと収穫という、この時期つい先日に、台風9号が襲って…。


「いやあ、吹きあげる風にあおられて横倒しになって被害がでましたが、生命力強いからきっとそこから茎を起こしてちゃんと実をつけてくれるでしょう。そう期待しています。ハッハッハ〜」。


農業には、雨の日も風の日もへこたれない逞しさ、それに何が起こっても大丈夫という明るさが、備わっていなければやっていけないのかもしれません。


矢島繁さん、58歳。新潟県長岡市の出身で、一時期、ジャーナリストを志して大宅荘一マスコミ塾に通うのですが、早稲田大学卒業後は大手の食品会社に就職し、その後脱サラを経て、現在(有)モリシゲ物産の社長。約8年前からその福島の山で、荏胡麻(エゴマ)を栽培し、エゴマの商品の製造、販売を手掛けていらっしゃる。


〜今なぜ、エゴマなのでしょうか?荏胡麻には現代人に不足がちなα−リノレン酸が豊富に含まれており、食から健康を守ることを社是とし、あくまで無農薬の安心できる商品の提供に努めている、という。そんな趣旨のコメントが矢島さんのサイトに掲載されています。


エゴマは、胡麻という名前を冠にしていながら実は胡麻ではなく、エゴマはシソ科で、主成分がそのα−リノレン酸で、それが体の中に入ると、すぐに悪玉コレステロールのLDLや中性脂肪を減らして血圧を下げるとされる、EPA (エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサン酸)に変わる、という優れものらしい。その地域で呼び名がそれぞれあって、エゴマの他、エゴ、エタネ、エグサ、ジュウネ、アブラエと変わるようです。


エゴマの実を圧搾して取り出す油が、脂肪を減らすのだという。ふ〜む、みのさんの健康番組なんかでよく耳にするDHAって、青身魚やマグロの目玉などに多く含まれているとは知っていたが、シソ科のエゴマに大量に含まれているとは〜。エゴマといえば、焼肉屋さんやキムチの店で、荏胡麻の葉をキムチに漬けたものを食べたことがあります。あの独特の薬草の風味、苦く香ばしい感じは、一種のハーブのような涼感があって僕の嗜好には合っています。


凄いなあ〜。初対面の矢島さんの話を聞いて、もうたちまち感激していました。なんでも面白がって、そして世話を焼いてしまうんですね、良いのか、悪いのか、ハッハッハ〜です。


矢島さんとの出会いは、埼玉県主催のチャレンジ・ベンチャー交流サロンでした。矢島さんが受講生の一人として参加したことがきっかけです。さっそく荏胡麻油、荏胡麻入りの胡麻豆腐、荏胡麻味噌、焙煎したエゴマの実など箱詰め10セットを格安で購入し、知人らに配って試してみました。反応は家内の両親からすぐにありました。我が家でも使ってみました。確かに…。


その後、何度かお会いして詳しくお聞きすると、全国に販路を設けて順調に売上を伸ばしているが、自然栽培に凝るため、手当てする畑の面積が限られて原材料が品薄状態で注文があっても商品が間に合わない、という。なんだか、もったいないねぇ。もっと畑を増やせばいいのではないか、と、一応コーディネータなのですから、ボランティアで丁寧に土壌づくりを基本に無農薬の自然栽培にこだわる知人に紹介しました。無農薬でエゴマを栽培してくれませんか?と〜。それから1年が経ちました。


長野県は上田市の南西、信州の鎌倉と呼ばれる塩田平の周辺に、その畑はありました。予定の二反畝、約600坪の段々畑に青々とエゴマがおおい茂っていました。台風9号が去った先々週、台風の影響はほんの少しでした。根元の茎は3aもあって太く背丈は1.5bにも成長し、茎の先端に3〜4aの穂が白い花をつけていました。いやあ、休耕地を丹念に掘り起こして種を撒き、芽が出て葉を伸ばしてきたら繰り返し雑草を刈ってきたようです。そして、この畑にエゴマを植えて世話をしていたのが、長野業平さん、33歳でした。身長180aを超える屈強な体格の持ち主です。長野に住む長野さんは、宮崎県出身で純朴な人柄ですが、山口大学工学部卒の微生物の研究がご専門でした。彼、ひとりで今本業のキノコ栽培の合間に作業をしてきた、という。お疲れ様です。


いやあ、これも凄い。その日、長野入りを予定していた矢島さんは、福島の阿武隈の畑が心配でキャンセルしていたため、そしてその翌週16日昼に再び、上田に乗り込んできました。駅で待っていたのは、長野さん、そしてその上司にあたるイーエム総合ネット社長の宮沢敏夫さんでした。


遠く懐深い浅間山を望み、近くに旅情の千曲川、歴史と文学に彩られたこの街に涼風が吹きぬけて、とっても清々しい感じがしました。信州はいいところですね。もっと書きたいのですが、ここ周辺はDNDで「原点回帰の旅」を連載中の塩沢文朗さんのご母堂の生家がある故郷で、第10回の「信州の風景」、第6回の「本籍地の危機」の2回にわたって綴られていますので、ここは塩沢さんにお譲りして僕は控えます。ここ上田はそして宮沢さんの生まれ故郷でもあるんですね。


その前日土曜日の日本経済新聞の朝刊、その別冊「NIKKEIプラス1」の看板の「何でもランキング」特集は、僕らの上田詣でを予期していたかのように、お勧めの取り寄せそば―でした。その10位の中に信州のそばが4店舗入っていました。堂々の1位は、「モチのような食感の発芽そば」を売り物にする上田市内の「おお西」でした。ウ〜ン、我慢ができません。宮沢さんに無理を言って、そのNO.1の店に急ぎました。白壁に漆喰の渋い建屋の店前になぜか、兵馬俑の等身大の埴輪がひとつ置かれていました。座敷やテーブル席はほぼ満杯でした。やっと奥のテーブル席につくことができましたが、ザルそばに野菜てんぷらを食して店を出る頃は、客が店先に行列を作っていました。これも余興、旅の楽しみのひとつですね。信州のそばで僕がお気に入りは、「しぼりそば」というもので、辛味大根、またはネズミ大根を下ろした汁に味噌をタレにして食すそばですが、これが旨い。


さて、僕は2度目のエゴマ畑の訪問です。いやあ、驚きました。たった1週間で、エゴマの穂先が10〜12aに成長しその穂の回りにびっしり白い小さな花を咲かせていました。足もとにキリギリスが跳ね、大きなコオロギが無数に這っていました。エゴマの師匠格の矢島さんは、これは凄い、立派、台風の影響もまったくなく生育は素晴しい。やはり微生物、イーエム技術の成果でしょうか、と驚きを隠せぬ様子でした。


「油も葉も種も丸ごと健康の素」というタイトルのエゴマの本(古澤典夫監修、日本エゴマの会編)のコピーの数ページを矢島さんから戴いて、読んでみると、ここまで成長させるのも至難ですが、ここからさらにひと山、ふた山あるんですね。エゴマの実の収穫は、花が落ちてから27日前後で、遅くとも10月下旬ごろになる、という。このころ雨が続くとせっかく豊作になったエゴマは次々と地面に落ちて、収穫が3日遅れただけで収量は半減してしまいます。雨にぬれた状態で収穫すると、実が腐ったりカビが生えたりします〜とあり、エゴマ栽培では収穫時の天候が収量に大きな影響を与える、という。このため、リスクを分散する必要があり、種の蒔く時期を畑によって変える、というのも知恵のひとつ、と教えていました。


収穫は、根元から草刈り機で刈るのですが、実が弾けるのを回避するために曇りの日か、朝夕の湿度の高い時間帯を選ぶのがいいらしい。刈り取りは手作業となり、1反 で獲れるエゴマの実は130キロ程度という。ふ〜む、ではここの畑ではざっと2反畝で通常は260キロとなるが、成長が良好なので300キロからひょっとして400キロ分も可能かもしれない、と太鼓判を押されて、長野さんも宮澤さんも嬉しそうでした。


しかし、広い土地を手当てして種を撒いて刈り取りまで世話をして、さて、そこでこの収穫に対する報酬は一体どのくらいになるのでしょうか。その平均的な相場、エゴマの実1キロあたり―の値段を耳にした時、僕は少し腰を抜かしそうになりました。エゴマの小さい粒を10キロ集めても埼玉の大宮駅から上田駅往復の新幹線代に届かない。農業で収入を得る事の難しさをあらためて痛感してしまいました。帰りに、タッパーいっぱいにエゴマの葉を取って、そして家で軽くお塩でもんでそれを、市販のキムチが入った広口のカメに漬けこんでみました。この葉っぱを捨てちゃもったいないでしょう。


葉っぱの二次利用、あるいはエゴマの成分を抽出した付加価値の高いアグリビジネスの商品開発を考えなければなりません。その理由は、なんだか苦労が多い、天候次第の"神頼み"で終わっては、長続きはしないような気がするし、なんとしても山口大学工学部卒という長野さんの学識を役立たせてあげたい、と心底思っているからです。


が、矢島さんと話しているうち、不思議な気分になってきました。荏胡麻の出典や、荏胡麻を食する山間地域の際立った特徴を列記すれば、秋田は鳥海山麓、福島、宮城が阿武隈山地、会津盆地、栃木は栗山村、群馬が吾妻、奥利根、新潟が古志、長野が安曇平や佐久平、岐阜が飛騨高冷地、愛知が奥三河、奈良が十津川郷…という具合で、どうもその点と線を辿って行くと、なにかしら荏胡麻の文化的背景が浮かび上がってくる、そんなミステリアスな荏胡麻のルーツに心が奪われそうです。


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さて、今回のメルマガは以上です。以下は、先日のイノベーション・ジャパン2007で12日に開催のシンポジウム「イノベーション立国の実現に向けて」に関して、先週の金曜日にメルマガを配信しましたが、ご講演された内閣特別顧問の黒川清さん、アンジェスMG創業者で阪大医学部教授の森下竜一さんがそれぞれ、ご自分のブログで感想を綴っています。しかし、あの時、壇上でサイバーレーザー社の関田仁志さんがご報告中に、なにやら黒川さんと森下さんがひそひそ話をしていた理由が、これでよく分かりました(笑い)。いまとなっては、こういうブログやインターネットによる情報発信力は、新聞などの紙媒体を遥かに凌駕している感がありますね。だって新聞にこれらのニュースがあまり目に留まりませんし、残りませんね、分かりきっていることですが〜。


※黒川清さんのブログ
http://www.kiyoshikurokawa.com/jp/2007/09/2007_62a6.html


※森下竜一さんのブログ 世迷い独り言
http://blog.m3.com/yomayoi/20070912/1


記憶を記録に!DNDメディア塾
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