DND事務局の出口です。白い薄雲が広がって雨は降ったり止んだり、関東近県は朝から残暑が和らいで、やっと一息という感じです。しかし、なんだか連続した記録的な真夏日もこんな風に急に終わってしまうのは、少し寂しい。北の野原では、秋草が咲き乱れて風に吹かれていました。西は、激しい雷雨が轟いているようです。
吹き消したように日暮るる花野かな 一茶
さて、準備していたテーマは、群馬大学と日本経済新聞主催の「切らずに治すがん治療―重粒子線がん治療が切り拓く未来―」という昨日のシンポジウムでした。いやあ、定員600人の日経ホールは満杯で、事前に1200人の参加申し込みがあったというから、がん治療をめぐる一般の方々の関心の高さを強く印象付けていました。重粒子線治療という我が国が誇る、がん治療の切り札についての記述は、2006年2月22日付のDNDメルマガ「重粒子線治療への期待」でその詳細を取り上げていますのでご参考にしてください。
群馬大学は前橋市内のキャンパスに着工中で基盤工事が終わり2009年に臨床試験を開始する、という。今回はそれをパスし、近く日経新聞の広告でその模様が掲載されたところのタイミングをみてご報告する予定です。日経新聞の前に詳細を書いてしまうと"営業妨害"になってはいけませんから…。でも、少し別の角度でちょっと触れましょう。
講演者のひとり、経済同友会終身幹事で前中小企業金融公庫総裁の水口弘一さんの発言の中で、群馬大学が地域に根差し、地球規模で考えるという鈴木守学長の挨拶を引き合いにしながら、Think globally Act locally−って言うじゃありませんか、本来は世界を考えながら具体的な行動は足元から…の意味なのでしょうが、僕の耳には、Act globallyって聞こえました。
で、水口さんの発言に少し驚いた次第です。ニュアンスが違っていたらごめんなさい―です。もう一点、水口さんは、野村証券出身で野村総合研究所の社長を歴任されていました。そこで中小企業金融公庫の総裁を拝命してそこから、あることに気づくんですね。
それが、いかにこれまで野村の一員として活動してきたのが上場企業のみで、それは全企業の0.3%、わずか0.3の大企業を相手に調査、分析を加えて日本経済を語っていた自分の不明を恥じた―と率直に語っていました。分かりやすい話でした。地方、地域の中小企業を知らないで日本経済は語れないーというのは卓見ですね。
ところで前段の世界規模で動くことの重要性は、実は、先日、内閣特別顧問の黒川清先生の執務室で打ち合わせしていた時に先生の口からも同様の指摘がありました。今は、Act globally Think locallyだと…。
その黒川先生は、いまヘルシンキで、 Mr Aho. who wrote the Aho Report on behalf of EU in January 2006.というメッセージが飛んできました。ふ〜む、Mr. Ahoですか、いつもglobalに活動されて、世界の要人と会っているんですね。この辺の様子は9月12日の東京国際フォーラムで「イノベーション立国実現に向けて」のシンポジウムでの御講演で、紹介されるかもしれません。楽しみですね。そして、本日のDNDサイトは、先生のコラムの英語バージョンを紹介しています。St. Petersburg, Mr. Deguchi and Don Quixote」。
少し僕のことにも触れられています。そして、最近ブログも始められました。http://kiyoshikurokawa.weblogs.jp/どうぞ、是非ご覧になってください。とても闊達で、世界の学術の窓からエキサイティングな風が吹き込んできます。
さて、本日の主題に話を移しましょう。それはとても見過ごすことのできない理不尽な殺人事件のことについてです。
愛知県名古屋市千草区の路上で見知らぬ男3人に殺害された会社員の磯谷利恵さん(31)の母親、富美子さん(56)が28日、愛知県警を通じて報道機関に出した手記が本日の新聞の各紙に掲載されていました。昨日の通夜、そして本日が告別式でした。なぜ、利恵が…という富美子さんの悔しさ、無念さ、そして犯人達への憤りが強く伝わってきます。見るからに明るくやさしい遺影の中の利恵さん、そしてあまりに身勝手な3人の容疑者、この落差が埋めきれません。
幼いころに父親を亡くし、市営住宅での母子二人暮らしという生活環境にあって、利恵さんが「家を建てて母を幸せにしてあげたい」という夢を持っていました。趣味の碁会所で知り合った彼氏とは結婚を前提にお付き合いして、浮き浮きするような毎日だったようです。が、悪夢は24日夜10時過ぎに襲いました。
それも自宅からわずか百メートル近くの路上で、突然車から声をかけられて立ち止った利恵さんは、ナイフを突き付けられて脅され、3人の男に車内に引きずり込まれました。そこからはとても書く気になれないほど残虐な行為にさらされてしまいます。粘着テープで目や鼻を塞がれ、ビニール袋をかぶせられた上に再びテープを巻かれ、そして用意していたハンマーで頭部や顔面を繰り返し殴打されたという。殴りつけられて回数は、50数回という。見も知らぬ、それに無抵抗な女性に、3人の男が殴り殺すーという犯行は、人間のすることじゃない。ケダモノ同然だ。
そして、現金7万円やキャッシュカードが盗まれ、遺体は岐阜県内の山林に捨てられていました。死因は、窒息死だったようです。
犯行に加わったのは、無職の川岸健治(40)、朝日新聞勧誘員の神田司(36)、そして無職、堀慶未(32)で、その後の捜査によると、犯罪目的の携帯専用のサイト「闇の職業安定所」で、川岸の書き込みで接点が生まれ、「女性から金を奪う」ことを目的に21日に豊川市内の駐車場で集まっていた。その時初めて顔を合わせていた。そこには、もう一人、無職、本堂裕一朗(29)=建造物侵入容疑で逮捕=が加わっていたという。
事件発覚は、川岸が「死刑になりたくない」と恐れて翌日25日の午後、警察に自ら通報した。しかし、この通報がなければ、第2、第3のおぞましい犯行が連続していた可能性があります。いやあ、これは極めて残虐で、これほど身勝手な犯罪も珍しい。彼らの素性、生い立ち、その闇のサイトに関わる動機や犯行までの経緯をもっと明らかにすべきです。サイトを取り締まるサイバーコップも必要ですね。それにしてもこの3人の情報が少なすぎませんか。彼らも人の子、親だったらどんな気持でしょう。
無職が多い中で唯一職業に就いていたのが、朝日新聞の販売店で働くセールススタッフの神田でした。朝日というのもショックです。「販売所」がセールスを委託した別の「セールス会社」の社員であるし、販売店やその関連会社の従業員の不祥事をその都度、新聞社の問題にしていてはどこの新聞社も身が持たないというのが実際でしょう。
しかし、うがった見方をすれば、新聞報道は一般の企業や各種公的団体に関わる、こういった事態には容赦なく牙をむいて糾弾する傾向がありますね。まあ、例えば悪いが、コムスンだってそうでしょう。これを同じコムスンと同列には扱えませんが、世間の感覚からすれば、新聞社の関連の不祥事はどうも身内に甘い傾向が見受けられます。少しバランスを欠いているのではないか。
インテリが作ってヤクザが売る−という昔よく指摘された新聞の構造的問題が、いまだに根深いことを浮き彫りにした感じです。
新聞に掲載された朝日新聞名古屋本社販売部のコメントは、「取引先である新聞販売所がセールスの業務を委託した会社の従業員がこのような事件を起こしたことは、大変遺憾です。今後このようなことがないよう、あらためて関係先に人事管理の徹底などを求めていきます」という内容(全文)でした。なんだか感情が抜けて、そっけない感じがしませんか。
「…従業員が」に至る、「…」が長い。たとえそれが事実でも「言い逃れ」っぽい。取引先の、そしてその先の業務を委託している従業員〜っていうところばかりが強調されています。これが世間で問題の核心、「ズレ」の部分かもしれません。自分たちにはあんまり関係ないところの従業員です〜って言い訳しているし、別会社の、さらにその業務委託のセールスマンだから、新聞社には、ほとんどまったく責任はない、という表明なのでしょうか。
が、責任があるとか、ないとかの次元の問題ではありません。ひとりの母親の悲しみをくみ取る文言がその広報のコメントに1行も入っていないというところは、とても理解に苦しみます。
茨城県では毎日新聞社の販売店のアルバイト(25)がスーパーの飲食コーナーで相席を求めた酒店の経営者(67)と口論になり、外に連れ出して暴行を加えて死亡させてこの27日に自首してきました。この事件で、毎日新聞東京本社代表室は、「取引先である販売店の従業員が逮捕され誠に遺憾です。販売店は本人をすでに解雇しましたが、人事管理を徹底するよう販売店を指導します」と。これもなんだか―です。名古屋の事件と同列に扱うわけにはいきませんが、それにしても新聞社の談話、ちょっとお粗末です。
まあ、こんな連中が新聞社の社名を名乗って、無防備な家庭の玄関口にまで平然と入り込んでくる、という事実に恐れを感じてしまうわけです。こういうセールススタッフの採用はどこが責任をもつのでしょうか。以前に薬物での逮捕歴があるとの指摘もあります。「販売所」、「セールス会社」の所長や社長はどのような釈明をしているか、まったく伝わってこない。
我が家にくる朝日のセールスマンは好青年ですが、たった一人の汚名がその業界全体の印象を悪くしてしまうのも事実です。
さて、締めくくりに、悲嘆の母親の手記を紹介します。マスコミ各社は、このコメントにどう答えていくのでしょうか。
マスコミの皆様へ
今の偽らざる気持ちをお伝えします。
なぜ、利恵が…
その時の娘の恐怖と痛みと苦しみを思うとき、居たたまれない気持ちで一杯になります。お母さん助けて、助けて!と叫んでいたに違いありません。あと少しで我が家にたどり着けたのに、と思うと本当に残念でなりません。
同時に行き場のない悔しさ、無念と、犯人達に対する憤りで胸が張り裂けそうです。何の落ち度も、関係もない娘に対して、あれほどの異常な行為を行った人間の存在を、私は認めることはできません。
絶対に、絶対に、許しません。
私と亡き娘の気持ちをどうか酌んでいただき、ご理解とご協力を賜りますよう、お願いいたします。
平成19年8月28日 磯谷富美子