◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/06/27 http://dndi.jp/

大学発バイオベンチャーの真実と光明

   〜遺伝子治療薬、再生医療の先端テクノロジーの夜明け〜

DND事務局の出口です。なんと涙ぐましいことでしょう。気高い志と類稀な 知力、そして素敵な仲間がこの未踏の領域で、やっと一条の光明を見出したとい う、この彼らの勝ち名乗りにどのような讃辞を送ればよいのでしょうか。これは もう異端視というより迫害に近い扱いをされながら、それでもひるむことなく一 歩一歩着実に夢の実現に取り組んできた大学発バイオベンチャーの旗手らは、世 紀のイノベーターと後世は讃えるに違いない。


東京の虎ノ門パストラル新館6階はヴィオレの会議室。19日の15時の受け付け開始直 前に入りました。大学発バイオベンチャー協会主催のシンポジウムがこれから始 まります。もう設立から5年、その準備会からなぜか縁があって参加しており、 その都度、メルマガで取り上げてきましたからバイオなんてまるっきり遠い世界 なのに図々しく顔が大きい。


さっそく、事務局の大番頭役の西山利巳さん、スピンオフベンチャーでぐんぐ ん勢いを増す(株)東京CROの代表で協会の代表幹事なのですが、もうはちき れんばかりの笑顔で出迎えておりました。時間前に、(株)LTTバイオファー マ代表取締役会長、聖マリアンナ医科大学名誉教授、元参議院議員で同会長の水 島裕さん、アンジェスMG(株)の創業者で取締役、大阪大学大学院教授で、同 副会長の森下竜一さん、少し遅れて、再生医療分野のベンチャー草分けのJ−T ECを創設に関与し同社の技術顧問に入る一方、いくつものバイオベンチャーに 参画、東京大学医科学研究所教授兼ホームグラウンドの名古屋大学大学院医学研 究科教授で、副会長の上田実さん、役者が揃いました。


定刻に、用意した席はほぼ満杯。水島さんが、この日のテーマ「創薬型バイオ ベンチャーの明るい将来」を紹介し、ベンチャーですからすべてこうはいきませ ん。うまくいきそうなところがある、将来が明るいというところをお示しして第 2部の討論につなげます、と簡略にいつもながら無駄のない挨拶を披露していま した。なんだか、「明るい将来」というのにやや違和感を憶えるのは、昨今のバ イオベンチャーへの投資の冷え込みや、各種の逆風を思えばしかたがないことか もしれません。しかし、これはどこかムードが違うぞ〜。


登壇者は4つのバイオベンチャーから5人、「HGF遺伝子治療薬の治験の状 況」をアンジェスMGの森下さん、「レシチン化SOD臨床、特に間質性肺炎に 対する効果」(東邦大佐倉病院の報告を含む)をLTTバイオファーマー臨床開 発部長の村上雅弘さん、それに東邦大学医療センター佐倉病院助教の川島辰男さ ん、3つ目の「いくつかの感染症治療薬の臨床効果」をアリジェン(株)社長の 所源亮さん、そして注目の「自己細胞による再生医療」を(株)ジャパン・ティ ッシュ・エンジニアリング(J−TEC)社長の小澤洋介さんーでした。


トップは森下さん、HGF(肝細胞増殖因子)の結果が出てきましたのでご報 告しますが、まだ言えないことも多くて物足りないかもしれませんが、ご理解く ださいーって、いつものやわらかな口調ですが、表情が晴々しているためかなん だか輝いてみえましたね。


そのHGF、文字通り肝臓の細胞を増やす因子として阪大の中村敏一教授によ って発見され当初から肝臓の治療薬として研究されてきました。そして森下さん が次に、HGF遺伝子を投与することによって血管を新しく増やす治療法を1995 年に発明し特許を申請し、大手製薬会社による開発を期待していたが、これが世 界でも新しい領域であるため、画期的な遺伝子治療に進出する企業がなく1999年 12月に自ら起業した、という経緯がありました。


発明から苦節12年、起業から8年を経てこの14日、遺伝子治療薬の臨床試験の 結果を発表しました。治療の効果が確認され、重い副作用もでなかったーという。 これで、年度内に遺伝子治療薬の製造販売の承認申請を厚生労働省に出すことに なる、という。遺伝子治療薬は先進諸国では初めてという。


概略、こんなところですが、糖尿病などが原因で動脈硬化が進行し、足の血管 が壊死して切断を余儀なくされている閉塞性動脈硬化症の患者が、この遺伝子治 療薬によって足の切断を免れる治療に光明が差してきた、と評価されています。 この症状で足を切断する患者が年間日本で2万人、米国で20万人を数え、これ らの人が救われる日も近い。治療は足の局所の筋肉内注射で1回8ケ所、それを 2回行って効果があり、血管再生から潰瘍も改善し、ある患者は、車イスの生活 から半年後に小走りができるまで回復し、治療レベルから生活の質向上にまで改 善が認められた、という朗報が紹介されました。


このほかアンジェスMGでは、狭心症患者に対するHGF遺伝子治療に取り組 んでおり、バイパスや血管形成術に合わない狭心症患者への心筋内投与を試みる 試験に取り組んでいるという。あるいは、アトピー性皮膚炎に対する軟膏臨床研 究、イノベーティブな創薬といわれる、慢性関節リュウマチに効果が期待される 人工遺伝子(核酸)医薬の開発、経営基盤強化のための欧米企業とのアライアン ス提携の検討、あるいは子供の難病治療薬のムコ多糖症IV型治療薬を米国の企 業との提携で販売するなど、常に未踏の領域に取り組んで困難な治療の現場に光 をあてているんですね。ふ〜う、素晴しいことですね。教授で起業家、医師とい ういくつもの顔を持っているけれど、とてもヒューマニストであることは、普段 の言動から十分に感じるところです。


森下さんは「期待していた内容での満足度があり、有効性の想定はデザイン通 りで、結果はいずれも思っていたより良かった」と控えめな表現で、喜びを語っ ていました。


もうひとつは、J−TEC。再生医療製品の開発、製造、そして販売、わが国 で初めてその突破口が開かれようとしています。自家培養表皮がいよいよ、重症 熱傷患者への実用に向けてカウントダウンのようです。今年の秋口には製造販売 の承認申請に入るという。いやあ、2005年の優先審査から長らく待っての最終段 階、しかし、再生医療の自家培養表皮が医療機器とは驚きでしたね。そうなんだ。 これも我が国初の快挙です。


社長の小澤さん、その辺の苦労話をしてくれていました。保存と安全確保のた めの包装を一次、二次包装ときて落してもぐしゃってならない手当やパッケージ が求められました、という。特許や意匠を固め、次にロジステック、どうやって それを流通に乗せ、運ぶのか。そして、難題は価格らしい。ふ〜む。この培養表 皮に関する基本技術は、協会の副会長で名古屋大学教授の上田さんがハーバード 大学のHoward Green教授から直接指導を受け、さらにその細胞を譲り受けてきた んです。いわば、日本の再生医療の魁が、上田さんです。その辺の下りは、上田 さんがかつて担当してくださったDNDの連載「バイオベンチャー起業 成功の 秘訣」に詳しく書かれています。


少しその患者に移植する自家培養表皮について触れましょう。これは薄い膜の ようなシート状の組織で、そのほとんどが患者の細胞で構成されます。正常な皮 膚組織1平方aが3週間で1000倍を超える表皮を作り出すことが可能で、広範な 熱傷の治療にはきわめて有効で、多くの臨床試験で色素性皮膚疾患への有用性も 確認されており、実用がまたれるところだ、という。これも凄いなあ〜。


J−TECは、再生医療のトップランナーとしてこのほかに、膝や肘の関節異 常などの自家培養軟骨、そして自家培養角膜上皮の移植法をイタリアの専門ドク ターらと開発中という。


この日のシンポジウムには、内閣府からイノベーション特命室の丸山剛司政策 統括官、文部科学省、厚生労働省、それに経済産業省からバイオやライフサイエ ンス分野の第一線の課長が顔をそろえて意見交換をしていました。僕は、中挫し、 後ろ髪を引かれる思いで夕刻6時に会場を後にしていました。翌日20日用のメル マガの準備に追われていました。


革新的医薬、それに医療機器創出のための5ケ年戦略というのを関係省庁との 連携で概略をつくり、日本の成長の牽引役にしていこうーという段取りが、まだ 問題はあるが、いい雰囲気で進んでいる(水島会長)という。


 本日は以上です。前回予告しました、九州大学准教授の五十嵐伸吾さん主宰の WINWINのワークショップは、後日あらためてご報告します。これを書き終 えたのが20日夜10時半すぎです。翌日21日は早朝6時前のリムジンで成田に向か い、そうです、ロシアに飛びます。このメルマガが配信されている時は、きっと 目的のチュヴァシ共和国からモスクワに向かっているところと思います。いやあ、 疲れております。


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