DND事務局の出口です。奥日光の山の林道は、もうカラマツの新緑が芽吹いて いる頃でしょう。ささっと風が走って空があやしくなれば、パラッパラッて落ち る雨の前触れです。ああ、なんとも梅雨入りが待ち遠しい。どうもこの季節のま ぶしい強い光が苦手らしく、どうも憂鬱で気が重い。街の風景がどんより澱んで いるのは、黄砂のせいばかりではないかもしれません。
さて、その脱出法のひとつは、こまめに水分を取って少しでも歩き出すことで す。そして気分の良い人と会うことです。妙な人では逆効果ですから注意しなく てはなりません。
梶谷誠さん。前電気通信大学学長で、信州大学監事、そして創立3周年を迎え た産学官+金の地域連携の拠点、コラボ産学官の理事長です。29日は、東京・江 戸川区船堀にあるコラボ産学官プラザで午前に総会、午後から講演や学長8人に よるフォーラムが開催されました。いくつもの議題をさくっと短時間に切り上げ て議長席を降りた梶谷さん、にこやかに会場に笑顔を向けていました。勢いある コラボ産学官のスピィディーな展開は、地場に、地域に、中小企業に、地方大学 にと、多くの信頼の連携を地道に積み重ねた成果であることは言うまでもありま せんが、公平無私のトップの姿勢も見逃せません。
群馬大学の理事に就任した山田照雄さんから昼の休憩時間に携帯に電話があり、 いまコラボの6階に学長といます、というので伺うと、紅白のリボンがお似合い のダンディーな鈴木守さん、群馬大学長が明るい表情で応対してくれました。そ こで7月の日程を調整していると、そのそばで梶谷さんが、デジタルニューデ ィール研究所は、群馬大学と一緒の6階(コラボ産学官の)に入居し、今度出口 さんに常任理事をお願いしました、と紹介してくれました。鈴木さんも、そうで すか、それは、それは〜って…なんだか嬉しそうでした。なんと晴れやかな方た ちなのでしょう。笑顔が輝いていました。初対面の山田さん、距離を置いてその 様子を見守っていました。クールですね。
記念のフォーラムは、コラボ事務局長の江原秀敏さんの名調子の司会でスター トしました。会場に全国から300人近い来場者を数え、大学関係者は100人を超え ています、と江原さん。ここで梶谷さんの説明を要約しながら、コラボ産学官の いくつか際立った成果をご紹介しましょう。
コラボ産学官は会員数が262、コラボ産学官プラザに入居の特別正会員は、北 から北見工業大学、北海道工業大学、弘前大学、山形大学VBL、デジタルハリウ ッド大学、群馬大学、信州大学、岐阜大学、富山大学、三重大学、長崎大学、大 分大学の12大学、それに運営支援機関という立場でJSTやDNDなど4つの法人が入 居しています。入居していないものの法人正会員となっている大学が、室蘭工業 大学、秋田県立大学、長岡技術科学大学、福井大学、電気通信大学、中央大学、 埼玉大学、島根大学、香川大学、熊本大学、崇城大学の11大学(5月30日現在)、 それにキャンパスクリエイト、新潟TLO、宮崎TLO、民間企業が会場を提供し、コ ラボ産学官のサポーターである、朝日信用金庫、ジャフコ、アフアック、エヌ・ アイ・エフSMBCベンチャーズなど201社を数えています。それに個人会員24、賛 助会員が、こういう協力する会社はちゃんと列記した方がいいですよね。で、三 好内国特許事務所、信金キャピタル、東京鋲兼の3社というのが主な内訳です。 どうぞ、ご関心のある方は、DNDサイトの右下にコラボ産学官のバナーが張って おりますので、そこからお問い合わせください。私も常任理事ですので、仲介は いといません(笑い)。
で、相次いで全国各地にコラボ産学官の支部が結成されています。青森支部、 埼玉支部、熊本支部、千葉支部などです。どんどん広がっているんですね。特筆 すべきは、昨年7月に立ち上げた"コラボファンド"です。運営支援機関のエヌ・ アイ・エフSMBCベンチャーズ(山村信一社長)と共同の、産学官連携で生みださ れた企業に限定する、本格的な産学官ベンチャーファンドです。規模は25億6千 万円、大学発ベンチャーは勿論、対象となります。梶谷さんは、どしどしご応募 ください、と呼びかけていました。
投資には審査委員会を招集し、厳正に決めている、という。これまでに7社 (1社あたり5000万円規模)に投資しています。配布資料によると、投資先は、 小型ロボット開発の(株)アプライド・マイクロシステム(東京都調布市、電気 通信大学発ベンチャー)、創薬ベンチャーの(株)イミュノフロンティア(三重 県津市、三重大学医学部教授のがんワクチンの研究成果がベース)、がん診断支 援システム開発などの(株)クラーロ(青森県弘前市、弘前大学との共同研究で 開発)、画期的なスクリュー型の回転翼を持つ風車開発の(株)メカロ秋田(秋 田県潟上市、秋田県立大学、足利工業大学と共同研究で開発)、DDSベンチャー の(株)ASPION(徳島県徳島市、九州大学が研究開発した製剤技術を事業化)、 がん領域に特化したCROや創薬ベンチャーのテムリック(東京都港区、京都大学 のシーズをベースとした創薬事業)、そしてこれも創薬ベンチャーの(株)UM Nファーマ(秋田県秋田市、秋田大学、徳島大学、東京大学などのシーズがベー ス)です。うむ、コラボらしい地方圏のベンチャー企業が目立っています。これ らの投資は地元新聞などにも大きく取り上げられています。これは、やや低迷が 懸念される地方の活性化の起爆剤になるかもしれませんね。梶谷さんは、「地方 がもっともっと元気になっていただきたい」との期待を語っていました。
しかし、そのフォーラム、冒頭の梶谷さんのあいさつは、当初の5分を延長し て10分に延長、そう断って臨んだ梶谷さんの表情からは、にこやかな笑顔が消え ていました。各種議論がかまびすしい大学改革、その中でも懸案の国立大学運営 交付金をめぐる配分方法について、先に出た異例ともいえる財務省の試算をやり 玉に上げて、東京大学が現行の2倍、逆に10%しか配分されない大学もでてくる、 これじゃ、美しい日本どころか、悲しい日本という状況が起こってくるのではな いか、と語気を強めていました。
この財務省の試算は、研究内容や成果によって配分される科学研究費補助金 (科研費)の実績などをベースに独自の特別研究経費で数字を出していました。 それによると、国立大学法人87校のうち、85%にあたる74校で交付金が減額、増 額は13校。読売新聞で運営交付金の再配分増減率が掲載されていました。が、こ れでは地方大学が「抹殺される」という声があちこちから起こっており、倒産" の憂き目に合うのは必至です。これがすんなり通ることはないでしょうけれど、 従来の学生数や教員数、設備などに連動して配分されている現状には多くの疑問 もでていることは事実ですね。
それは、政府の経済財政諮問会議で民間議員から国立大学への国の運営交付金 の配分「競争原理の導入」の提言などでも「大学の努力と成果に応じたものにす べき」との指摘があり、これに対しては、国立大学協会が先月11日に文部科学大 臣に「国際化や教育実績等についての評価を導入し、すでに限界に近い基盤経費 総枠をさらに削って競争的資金に回すといった考え方は、実態を無視している」 と指摘し、競争原理の導入中止の要望を申し入れていました。なんだか、大変な 雲行きです。イノベーション25戦略の政策作成のプロセスでも当然議論されてい たようです。
こんな現状を憂いて、梶谷さんは、このルールでは例えば、徒競争で1から5位 になったら、こんどはクラス対抗のリレーでは強い順にスタートするようなもの だ、とその不公平ぶりを指摘していました。そして、もっと根本的な問題、例え ば、いかに地方の特色を出しながら地域に貢献していくか、そういう日本全体の 長期ビジョンに基づいて評価すべきではないか、と訴え、会場から大きな拍手を 浴びていました。
この日の基調講演は、「21世紀の大学改革と地域」と題し、大学の役割と地域 貢献などについて話をする予定の文部科学省高等教育局長の清水潔さんは国会対 応でやむなく欠席されました。代役に登壇したのが、いま売れっ子で高等教育局 の高等教育政策室長の鈴木敏之さん、いやあ、見事にその任を果たしたようです。 大学改革に関する最近の政府の教育再生会議や経済財政諮問会議、総合科学技術 会議、イノベーション25戦略会議、アジア・ゲートウェイ戦略会議、そして規制 改革会議の6つの会議の提言や議論の推移を一覧にしてわかりやすく解説を加え ていました。これらを6月に閣議決定される政府の「骨太の方針」に盛り込む、 という流れですから、これはこれで大変な調整が必要なのでしょうね。
余談ですが、イノベーション25戦略会議の最終とりまとめの経緯は、本日アッ プした黒川清さんのコラム「イノベーション25最終段階へ。」などを読むと、 その御苦労のほどが伝わってきます。
では、大学改革に関する鈴木さんのコメントをいくつかご紹介します。再生会 議の場でこんな議論があります、と前置きして、「器と水」の例を取り上げてい ました。日本の教育費に占めるGDPの国際比較で、日本は支出が少ないって言 われている一方、歳出を削減せよ、という議論もあって財政面では温度差があり ます。そこで、器と水〜器は大学の仕組みやシステム、水は資金ということです が、壊れた器に水(お金)を入れるより、器(大学のシステム)を修復する方が 先ではないか、という議論のようで、そこでその論理を崩して基盤的経費の措置 を訴えるべき大学の先生が説明すると、なんというか上品というかオブラートに 包むような言い回しになって、その意に反して結果的には、やはり器が壊れてい るという風に誤解されてしまう―という意味のことを説明していました。なんだ かわかるような気がしますね。
梶谷さんの財務省の運営交付金の再配分をめぐる試算には、どういう発想なの か、困惑している、と率直に語り、まあ大学がどのような経済効果をもたらすの か、このような数値で大学を評価するのはいかがなものか、と思うが数字を示さ ないと理解されない点を強調し、先に文部科学省が発表した「地方大学の経済効 果」のシミレーションの内幕を語っていました。
これもこの27日付の読売新聞に掲載されていましたので若干引用します。それ によると、地方の国立大学が消費や雇用を通じて、1大学あたり年間400億円から 700億円の経済波及効果を地域に及ぼしている、というものです。この調査は、 附属病院を持つ総合大学の弘前、群馬、三重、それに山口の4大学を対象として います。群馬大学のケースでは、学生数7017人、教職員数2949人で飲食やアパー ト賃借料などで176億円、研究資材の購入や大学の消費を合わせると総額は393億 円となり、農林水産業などの間接的な効果も加えるとその経済効果は597億円、 弘前大は406億円、三重大は428億円、山口大は667億円と試算され、雇用者数は 各大学とも県全体の約1%を占めていた、という。
凄い計算ですね。明らかに財務省VS文部科学省の構図です。この試算につい て弘前商工会議所は、「大学は役所、自衛隊とならぶ"主要企業"」と述べ、「も し大学がなくなれば、若者がいなくなって街から活気が消え、経済面以外の影響 ははかりしれない」という。財務省は、「国際的な競争力をつけるため、全国に 散らばっているヒト・カネを集約化すべき」という考えだ、と新聞は伝えていま した。ふ〜む、難しい問題だ〜。大学改革で感じるのは、教授昇進の評価、それ にその仕組みですよね。まあ、イノベーション25戦略の最終とりまとめで、黒川 さんが口を酸っぱく繰り返した「出る杭を育てる」の論理は、大学の教官の昇進 の世界に是非、導入して見せてほしいものですね。少し観点が違うかもしれませ んけれど…。
さてフォーラムは、経済産業省の産業技術環境局長の小島康壽さんが国際競争 力強化や少子高齢化克服にはイノベーションが起爆となる、と前置きして、研究 開発と産学官連携に太い横串を刺し、市場と研究の双方向のつながり、異分野の 融合を進める、イノベーション・スーパーハイウェー構想を分かりやすく説明し ながら、少し反応が薄い地方大学との連携を密にしていきたいと抱負を語り、コ ラボの今後の活躍に期待を寄せていました。大事なポイントながら、時間がない。 来賓の挨拶ですからしょうがないですね。公務で欠席の知的財産戦略推進事務局 長の小川洋さんの代役で内閣官房の内閣参事官の中川健朗さんは「知識なくして イノベーションなし」、「真の連携こそが力を生む」、そして「地域の力が国を 世界を元気にする」の3つのメッセージを熱く伝えていました。
そこで、いよいよメーンの学長によるパネルディスカッションが午後15時過ぎ から始まりました。テーマは、梶谷さんの冒頭のあいさつにあったように、「大 学がどう変わり。どう変わろうとしているのか?大学の生き残りをかけた連携戦 略を問う」でした。北見工大の常本秀幸さん、弘前大の遠藤正彦さん、群馬大の 鈴木守さん、長岡技術科学大の小島陽さん、信州大の小宮山淳さん、三重大の豊 田長康さん、大分大の羽野忠さん、崇城大の中山峰男さんら8学長、モデレータ は、仕掛け人の梶谷さんでした。さて、どんな火花を散らしたのでしょうか。会 場からも意見があったでしょう。そして夕刻の懇親会はどのような雰囲気だった でしょう。
残念ながら学長フォーラム開会の直前に別件があって先に失礼して会場を泣く 泣くあとにせざるを得ませんでした。コラボ産学官の総会はこれで3回目、メル マガもそのくらいは書いていると思います。今回も長くなりました。