DND事務局の出口です。実直、温和、そんなに格好はよくはないけれど、その 澄んだ眼差しで人を包み込むんですね。その表情に、職人風のいぶし銀の深みを たたえるから、そこに居る、という存在そのものに価値があるのでしょう。
裏表がない。だから、心の奥が透けて見えるらしく、誰でも安心して相談を持 ちかけるのかもしれません。いまそんな彼がタクトを握る創業支援NO.1の埼玉 に熱い視線が向けられています。
島村道雄さん。埼玉県創業・ベンチャー支援センター所長です。やっぱ、埼玉 の確かな成果の裏には、こんな大番頭がど〜んと控えているんですね。所長歴4 年目に突入したこの4月、同一ポジションでの嬉しい昇格、周囲の多くが祝福し 起業家のみんなも喜んでいました。新聞も大きく取り上げていました。
埼玉県入庁から35年の多くは、地域の振興、とくに中小企業育成に軸足を置 いてきたようですから、そのキャリアが大いに実っているんですね。国際交流ボ ランティアの活動に従事し、保護司として地域への目配りも日々怠りがない、と いう。う〜む、偉いなぁ。
創業支援やネットワーク構築の中核を担うとすれば、短期間にとくにトップの 人事をいじってはいけませんね。人が変わると、やり方を変えようとするから、 いいものも潰すこともある。往々にして引き継ぎがうまくいかないからネット ワークが寸断される、という弊害が起こります。しかし、埼玉は、その辺の行政 組織のネックを知悉し、適正な対応を随所にみせているようです。
「創業するなら埼玉」。この座りのいいキャッチがすっかり浸透し、金融機関 や産学官の連携もスムーズに動いて、故郷・埼玉が生んだ実業家、渋沢栄一の冠 をつけた企業支援のベンチャードリーム賞の制定や各種施策がヒットし、この数 年で創業件数541件(3月末)、相談者が1万人突破と全国有数の中小・ベン チャー立県に躍り出た印象を与えています。
●「新都心ビジネス交流プラザ」明日19日記念式典
ええっ、なぜ、埼玉〜!って思うでしょう。そうじゃないんです。この4月か
ら島村さんが所長のセンターは、JR埼京線北与野駅前に新設の「新都心ビジネス
交流プラザ」の3、4階に移り、同じ3階フロアーには産学連携支援センター、
5−9階が大型インキュベーションオフィス「mio新都心」、さらに10階には
埼玉中小企業家同友会が入居、ざっとこれら民間団体とも相互に連携、交流しな
がら"渋沢スピリット"の新拠点形成に花を添えることになったわけで、さらに創
業・ベンチャー支援が加速し、いよいよ関東の雄、埼玉が中小・ベンチャー立県
の宣言通り、日本一の起業文化を創り上げるスタートを切ったからです。都心に
近く、埼玉の印象はやや控え目。近隣にはベンチャー王国・神奈川県がややリー
ドしているから、その首都圏で勝ち名乗りを上げるには容易じゃない。が、ぐっ
と動き出しましたよ、埼玉が…。明日19日、その式典が、上田清司知事らの出
席で行われます。
いやはや、全国に飛び回って、あっちこっちの事情に目移りしていたら、灯台 下暗し。実は、地元埼玉に30年近くも世話になりながら、夜寝るために帰ると いう埼玉都民でした。しかし、いやっどっこい、この1年、島村さんとの縁で、 いま埼玉がどんな状況にあって、どんな経営者がどう動こうとしているかが、よ 〜く見えてきました。
起業家精神が渦巻いて、巷間、どんどん地元の企業のIPOや海外進出など出口 戦略がかまびすしいから、いまIPO予備軍が列をなしていますぞ〜。
●「地域力は発信力」そして「広報は経営だ」
地域力は、発信力というのは、もはや常識、僕の専売特許なのですが、それに
は異論がないでしょう。地域の企業もブランドも風景も歴史も、知られなかった
ら存在しないことと一緒…そこは、松下幸之助さんの受け売りです。
が、その地域のモチベーションをあらゆるツールを使って世界に発信しましょ う―という考えで、個人的に全国各地でメディア塾をやり始めているんです。発 信する技術、タイミング、そしてあるレベルのコンテンツを生み、発信し続ける、 という研鑽が必要になってきます。特にネット時代は、その極め技や経験が重要 ですね。
なんて思っていたら、埼玉は、上田知事が先頭に立って、広報戦略を意識した 施策を打ち出しているんですね。成果を客観的な数字で評価する、あるいは政策 の結果を目に見える形で表わすなどの手法は斬新で、全国1のメディア戦略を打 ち出した知事でしょう。県の施策が何件、どんな風にマスコミに取り上げられた のか、新聞の掲載率も表にする、そんな「広報は経営だ」という知事の考えも徹 底しています。
「創業件数は順調に増加、3年以内に上場企業を輩出したい」というメッセー ジと一緒に、島村さんを紹介した大きな記事が先週13日付の日経新聞の埼玉・ 首都圏版に掲載されていました。島村さんも自らが情報源となってメディアに登 場し、県の実績や施策をPRしているんです。破格の扱いで、写真も晴れやかで した。
●「予想経済成長率 全国1位」
埼玉の記事の切り抜きを見ていると、上田知事がプレゼンに立っているキャプ
ションに、「予想経済成長率 全国1位」という挑戦的な文章がありました。そ
んな統計ありました?でもいいじゃないですか、将来、どこで起業するか、それ
は人口が急増し、マーケットが拡大しているエリアの方が業種によっては優位に
なるかもしれない。
中央と地方の格差が指摘され、その活性化策が全国で動き始めていますが、個 別の問題を最大公約数的な施策で切り抜けようとする、そういうのでは成果は期 待できないでしょう。しかし、埼玉は、ピンポイント、個別の対応を推進してい るんですね。誰が?そうです、島村さんのような、アイディアがシナプスのよう に瞬時に伝達していく、猛スピードで情報が走る、成果の出る生きた施策は、個 人の知恵や力量によることが多い。
新聞報道では、16日発表の総務省の推計人口では、埼玉県の人口はまた増え て、707万人(0.24%増)になったそうです。地元に住んでわかるのですが、俄 然、分譲住宅やマンション建設のラッシュが続いています。戸建住宅の受注は半 年待ちという工務店もでているほど。加えて、鉄道が延び、新駅が予定される大 型開発が僕の地元でふたつ、もう広大な原野が一気に開発の対象として浮上し、 周辺を活気づけています。まるで、シミュレーションゲームの「シムシティー」 のようだ。ちょっと古いかなあ。まあ、「予想経済成長率全国1位」を実感する 昨今です。DNDを埼玉に移そうかなあ、って、本気で考えています。
●人気の「チャレンジ・ベンチャー交流サロン」IPO予備軍続々
さて、島村さんが狙う、株式上場(IPO)企業を1社でも多く創出しよう、とい
う趣旨でスタートした月1回程度開催の「チャレンジ・ベンチャー交流サロン」
は、昨年度実施し、県内から毎回抽選で選ばれた、20人前後の中小中堅企業の社
長さんを集めた席に上場企業の経営者を招いて、夕刻6時から約3時間弱、みっち
り濃密なサロンを繰り広げてきました。そこのコーディネーターとして参加しま
した。面白かったなあ。
仲間がいっぱい増えました。技術力を誇る電子機器製造の「ニッポー」の2代 目、若槻憲一さん、不動産業のトータル戦略に長けた「アズ企画設計」の松本俊 人さん、医療・健康機器開発で世界に飛ぶ、「ICST」の横井博之さん、やは り医療・健康機器開発の「ライフ」の古川誠さん…これはほんの一部ですが、き っと次世代の中核企業に育っていくに違いない。
また上場企業のゲストも多彩でした。地元埼玉出身を例に挙げると、通販業界 で100億円以上の経常利益をたたき出す東証1部の「ベルーナ」社長の安野清さん。 徹底した攻めの経営で、トライ&エラーのチャレンジャー。「3回失敗してそこ からつかむものが本物」という失敗から学ぶが持論でした。
その過程で人材育成を飛躍させているんです。いま化粧品が順調で、80億円規 模、それに健康食品分野にも進出し、2社の上場はすでに視野に入っているよう です。なんだか、やすやすと上場するように感じられます。女子ゴルフのベルー ナ杯も全国区になってきました。
その逆張りが、資産(土地、建物)の有効活用に関する企画、調査、それに医 療介護施設の運営で躍進する「三光ソフラン」(ヘラクレス上場)社長の高橋誠 一さんでした。元はお米やの2代目、大学を卒業してから大手電気メーカーに内 定していたものの、親に泣かれて米屋を継いで、ざっと走って県内1番のお米や に発展させたが、「いつまでたっても2代目」というレッテルが嫌で、不動産業 に転進、苦労もあったが、アイディア社長のひらめきが冴えて、「金持ち大家さ ん」という相続税対策ビジネスが大当たり、昨年は関連のメディカル・ケア・ サービスをセントレックスに上場、ご存じの「アパマン」の提案者で株主でした。 全国にある賃貸管理ビジネス協会や(財)日本賃貸住宅管理協会などの会長を務 めているんです。凄いでしょう。
で、その逆張りというのは、成功の条件、それもいち早く成功する方法とは、 成功している人のマネを100%行えばいい、それを「2番手商法」と自ら名付けて いるんです。しかし、高橋さんの2番手商法の極意を聞かないと、効き目がない らしい。
もっといっぱい面白く、ためになる話が満載でした。M&Aを戦略のひとつに 位置づける調剤薬局のチェーン展開に走る「ウエルシア関東」の社長、鈴木孝之 さんは、春日部市でたった1軒の薬局からのスタートでしたね。いま年商1000億 円、店舗数250件をターゲットに入っています。奇運、幸運が随所に現れるの は不思議でした。サロンの後の懇親で、糖尿病と歯周病の因果関係、歯周菌が悪 さしてインスリンの量を抑制している、という話をじっと聞いていました。どこ にいってもビジネスが頭から離れないようでした。
第1回は、常識に絶えず疑問をもつアカデミアな研究者で、医師の(株)新日 本科学(東証マザー)社長の永田良一さん、「創意と工夫、それに情熱」、ある いは「地球環境保全を指向し、革新的製品を創造する」綜研化学(株)社長の中 島幹さん、中島さんの講演の際は、手土産持参の上田知事が参加し、最後まで会 場に残ってくれていましたね。中島さんから丁寧なお手紙を頂戴しました。ペン 字の奇麗な文字でした。
今年に入って、「志」がモットのファーストエスコの社長の筒見憲三さん、困 難に陥った時の原点は、「なんのために起業したのか?」を問った、という体験 は重みがありました。比較.コムの若い社長の渡邉哲男さんは、上場前後の株主 との対応やベンチャーキャピタルとの付き合い方は、リアルで大変ためになりま したね。
上場局面で判断しなければならないこと、その注意事項、M&Aの秘訣、そし て成功のカギ、ここがポイントという点を詳細に具体的に、先輩格の上場の経営 者から次世代の経営者へ"口伝"されていました。経営者の皆さんは案外、孤独な ようで、こういうサロンの2次会は、意外に盛り上がるんですね。なんか、いい 仲間ができそうです。
どうですか、埼玉の魅力を少しは感じ取ってもらえましたでしょうか?
さて、お知らせやサイトのトップにバナーを張りましたが、第6回産学官連携 推進会議は今年、6月16日(土)、17日(日)の両日、京都で開催します。その 参加を募集しております。どうぞ、早めのお申込みをしてください。京都で皆様 とお会いできることを楽しみにしております。あれからも6年経つんですね。
本日は以上でございます。