◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/01/24 http://dndi.jp/

「青い銀杏の会」と「扶氏医戒之略」の系譜

〜お年玉抽選発表&9000人目の登録者

DND事務局の出口です。快晴無風。川沿いのDNDオフィスには、まばゆい 光がやわらかに差し込んできます。暖冬ですね、里山の荒廃などで腹を空かした クマが冬眠を忘れて出没して、もう例年の倍の5113頭(18年末累計の環境省調 査)も捕獲されている、という。関東近県は、朝から青空が広がり、気温がグン グン上がって、4月上旬のポカポカ陽気です。 


こんな日は、ちょっと日常を飛び出して、せめて近くの公園でブランコにのっ て気の会う人とおしゃべりしながらランチでもいかがでしょうか。そんな余裕が ほしいですね。だって、もう春がそこまでやってきているのですから。


人間、男も女も、どんな境遇、どんな立場になろうとも、そのとき、その場を 楽しめなくては"達人"とはいえない−とのご託宣は、ファンの藤山直美さんらの 好演が毎朝ぐっとくるNHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」の原作者、田辺 聖子さんが、新幹線車内誌「ひととき」2月号の特集「美酒を醸す女たち」に寄 せたエッセイ「日本酒の楽しみ」の、ひとこまです。嬉しい時も、辛い時も、そ のどんな境遇〜というところが肝心です。


時代が、混迷を深めてどうも息苦しい。確執と相克〜こんな事を繰り返しやっ てもなんにも変わらないのに、世相は、あっちこっちで生臭い血祭り騒動が連続 しているからでしょうか、こんなエッセイに触れると、ホッとしてきます。


パロマ、不二家、日興、それにフジテレビ系列の関西テレビ‥世間から非難を 浴び汚名を着せられて、いまどん底に喘ぐ老舗企業や、絶望の淵に彷徨う人々‥ 身から出た錆とはいえ、どんな事情があってもその反社会的行為は問答無用です。 が、そんなところにだって、無念の涙で耐えている人々の存在を信じたい。まあ、 舌を出すペコちゃんの愛嬌も気の毒ですが、子供の頃、15円で買ったパラソル チョコレートの「コクッ!」という歯ごたえや、ママの味の「ミルキー」は、い つまでも忘れません。人心を一新して、一日も早い再チャレンジを祈りたい。


さて、この人に会うと、なんだか安らぎを憶えます。医師で、教授で、そして バイオベンチャーの起業家といえば〜その3足の草鞋で八面六臂の活躍は、ご存 知、アンジェスMG創業者の森下竜一さんです。近年の大学発ベンチャーの加速 もこの人の活動に負うところが大きい。最近、「世迷い独り言」というしゃれた タイトルでDoctor Bog(http://blog.m3.com/yomayoi/)を開設しました。そし て、この月曜日には、彼が設立し、理事長を務めるNPO法人「青い銀杏の会」 の第4回大会が開催されました。


で、新幹線に乗って、大阪大学吹田キャンパスの「銀杏会館」に森下さんを訪 ねてきました。どうやって会場まで行くのか、新大阪から地下鉄で千里中央駅で 下車し、もうそこからタクシーを飛ばしました。これが、正解でした。正門から だって、そこまで距離がありました。伸びやかなキャンパスは、広大で、それは もうひとつの街の様相を呈していました。そうです、初めて阪大に足を運びまし た。こんな環境だから、森下さんのようなベンチャラスで、イノベーティブな人 材が輩出するのですね。きっと‥。


量ではない質的な転換、連続ではない非連続、横並びの競争を超えた跳躍、現 在や過去の延長ではない未来創造‥‥‥そんなイノベーションを起こすことので きる人間、それをイノベーターと呼ぶ〜というのは、車中で読んだ発売間もない、 野中郁次郎さん、勝見明さん共著の「イノベーションの作法」(日本経済新聞出 版社)の一説です。リーダーの生き方から見た「成功の本質」に迫り、帯にはそ の要諦を4つ指摘していました。


「善いことをする気力」、「本質を見抜く直観力」、「共感を醸成する場づく りの力」、そして「ときには清濁あわせのむ政治力」とありました。4番目の 「政治力」は意外な感じがしましたが、なるほど、ですね。イノベーションの戦 略については一流の学者とジャーナリストの、呼吸のあった見事なセッションの 結末は、なんと映画や舞台で感動を呼んだ『ラ・マンチャの男』の「見果てぬ 夢」に行き着いていました。This my quest to follow the star‥。


「Quest」については、個人的には「使命感」って認識していたら、日本語で は「宿命(さだめ)」と訳し、「探求・探索」、あるいは「(中世騎士の)旅の 遍歴」との意味、と解説するのは、勝見さんでした。そして、その5つのアルフ ァベットで描くキーワードの中に、偶然、イノベーターたちの姿と重なることに 改めて感動を覚えた−とその素直な心情を吐露していました。


森下さんのQuest、その志は、どのようなものだったか!テーマは、最近のア ンケート調査でも大学発ベンチャーの一番の課題として浮上している「大学発 ベンチャーに求められる人材とは」でした。


人材が足りない。人材が欲しい。それは、どんな組織、団体のもっとも重要な 課題ですから、普遍的なテーマでしょうね。しかし、森下さんの信頼は、そのプ ログラムに如実に現れていました。


まず冒頭は、今後、新たな大学発ベンチャーを生む、阪大の先端的なプロジェ クト3つの発表、口火を切ったのは、大阪大学大学院薬学研究科教授の今西武さ んのプロジェクトでした。遺伝子発現解析やゲノム配列解析という新たなフェー ズに入って、「実用、用途に合致しビジネスにも展開されていくこと」と断じ、 新しい高性能の蛍光物質を開発し、遺伝子診断法を確立して技術移転をしながら ビジネスに繋げて行く、と起業に自信を見せていました。


続く2題は、大阪大学微生物病研究所の生田和良教授が開発した、近赤外分光 法の手法を駆使したウイルス感染症の素早い診断法の開発で、説明は、起業家の 上畑滋さんでした。非破壊・非侵襲性の検査法で、例えば、液体か固体かをサン プルに問わない、1秒という測定時間、消耗品がでない−などのメリットがある、 という。インフルエンザのワクチン製造品質の管理には最適で、インフルエンザ ウイルスを増殖するプロセスで、無精卵の分別、卵に細菌が混入するケースなど をそんな方法でチェックする、また献血血液や血液製剤の安全管理、従来時間と コストの削減に最適、という。いずれも来年度以降から順次、実用化を目指す、 という。


凄いでしょう。3番目は、大阪大学産業科学研究所助手の開發邦宏さん、若手 の研究者で、海外の留学経験から「常識にとらわれない柔軟な発想」の実体験を 紹介し、新たに緑茶カテキンを使ったウイルス感染阻害の研究へ進んで、天然型 カテキンを遥かに凌ぐ抗ウイルス分子を発掘した−という発想の転換から、シー ズ技術と社会的なインパクトの重要性、そして、大学発で起業するには、研究者 らのネットワークが大きな役割を担う、という趣旨の説明でした。若い人の熱意 は、新しい時代の扉を開いていくようです。


これらはホンの一例なのでしょう。そして続いて、阪大、神戸大、岡山大、そ して慶応大学の4つの大学発ベンチャーの(株)ビークル(本社・岡山リサーチ パークインキュベーションセンター)、プレゼンは日詰信吾さんでした。2002年 8月の設立で、なんとここの技術は、ピンポイントでデリバリーを可能にするバ イオナノカプセルの開発でした。遺伝子治療やテーラーメイド治療を実現する2 1世紀の最先端医療の道を拓くナノロボットのイメージかしら〜。酵母によっ てつくられたナノカプセルに遺伝子や薬剤を混合して封入、ヒト細胞を移植した マウスへ投与する、という。それが、肝臓のがん腫瘍の組織にくっついて発現し てくる−というけれど、よく分からない。パンフレットを読むと、バイオナノカ プセルは、生体内の特定の組織や臓器だけに到達するという特殊な機能を持つ。 副作用のまったくない安全な薬の開発につながる、というから、なんか凄いこと になっているんですね。少し、解説がちがうかもしれませんが、このくらいでご 容赦ください


ひときわ華やいだのは、(株)サンルイ・インターナショナルの代表取締役社 長、森田敦子さんでした。フィトテラピーという植物療法を研究し、嗅覚などの 香りのメカニズムの研究から、化粧品やオイル、抗菌消臭液などの商品開発、専 門学校での教育プログラム、健康補助食品、介護マッサージなど幅広いビジネス を展開する。そこで、専門知識を持った人材の確保にもっとも力を入れている、 という。ビジネスのラインナップ、ひとつの幹から枝を広げ、そこに咲いた花 (商品)数は、まあ、驚きです。女性特有の細やかな気配りが随所に光彩を放っ ていました。一度、リラクゼーションやトリートメントで、この少し冬枯れの頭 の毛をなんとかしてみようかなあ〜。


この後のプログラムは、大学発ベンチャーの支援機関の(株)プロネクサス、 三菱UFJ信託銀行大阪証券代行部、野村證券大阪企業金融部、大阪大学先端科学 イノベーションセンターなどから取り組みの紹介があり、休憩をはさんで、メー ンのパネルデッスカッションに。


パネラーは、大手製薬会社からスピンアウトして大学発ベンチャーのクリング ルファーマ(株)の代表取締役社長に転籍した岩谷邦夫さん、岩谷さんのなぜベ ンチャーか、率直な思い入れは、ちょっと感動的でした。経済産業省から、ロシ ア大使館勤務を終えて3年ぶりに戻った大学連携推進課長の吉澤雅隆さんは、す っかり場慣れした感じで弁舌が滑らかでした。そして、文部科学省からは基盤政 策課人材政策企画官の北尾善信さん、政策通で近年の国立法人をめぐる自立的な 経営手法への提言は、すこしドキッとさせられました。緊張感なのでしょうね。 モデレーターは、森下さん、やっぱ、言葉がやわらかで、会場からの質問の引き 出し方も、その対応も見事な差配ぶりでした。ベテランですね


少し、触れますね。森下さんから、なぜベンチャーなのか?とマイクを向けら れた岩谷さんの答えは、こうでした。(会社勤めの)経験のなかで実はベンチ ャー精神の土壌があって、年齢を重ねる内に、何か世のため人のためになる、ま ともなことをしてみたい気持ちになった。それが、本来(目指すべき)薬は、制 がん剤なんですね−という。議論は、ポスドク15000人規模のキャリアパスや雇 用問題に議論が及び、そこで岩谷さん、何が安泰か、という発想ではなく、どん な大手に就職したってリストラはあるし、それでは自分に不正直な生き方になっ てしまう。いま、自分が一番したいことは何か、仕事とは苦痛では成り立たない し、そうあってはいけませんね。ベンチャーは楽しいものです−という。吉澤さ んは、大学発ベンチャー調査の中間報告をいくつか紹介しながら、大学が淘汰の 時代に入り、この世の中、安泰なものはない。自分の強みをどう生かすか、そこ が厳しく問われています。自分がどういうところに役に立つのか、そこを見つめ、 伸ばしていって欲しい。企業のみなさんは、どうぞ、そこを評価して(ポスドク を)採用してください−と訴えていました。


で、北尾さん、国立大学法人の年間の予算は、1兆2000億円規模、そのうち毎 年170億円が削減されています。数字にして1%ちょっとですが、実は、この数 字は地方の国立大学が毎年1校ずつ潰れていっている計算になります−と前置き して、大学がその地位を確保し、品質を維持することが大きな問題で、大学が考 えていかなくてはならない直近の課題です−と述べていました。


真打に、経済産業省の産業技術環境局長の小島康壽さんがかけつけて、新しい 時代のキーワードとなっているイノベーションに言及、そこの経済産業省が提唱 する「イノベーション・スーパーハイウエー構想」と産学連携強化について講演 されました。森下さんのブログにコメントが掲載されています。


さて、青い銀杏の会は、大学発ベンチャーの直面する課題を相互の連携や強力 によって解決し、ノウハウや情報を共有しよう−という趣旨で設立し、当初は名 前の通り、大阪大学発ベンチャーが中心でしたが、昨年6月のNPO法人になっ て阪大から関西、そして全国へとそのネットワークのウイングを広げてきていま す。


この日の大会は、銀杏会館3階の阪急・三和ホールが会場でした。しかし、暖 房が故障し、ひんやり。森下さんが、「寒い会場を皆様の熱気で熱くしてくださ い」と笑いを誘う挨拶をしていました。前半の司会は、NEDOフェローOBで 理事、(株)サインポスト代表の黒川敦彦さんでした。会場には、NEDOフェ ローや若い人の姿が大勢いましたね。


休憩時間の途中、こっそり1階の医学資料室へ足を運んでみました。そこに阪 大の源流がひそかに息づいているようでした。大阪大学医学部の歴史は、先見性 を精神の軸とした緒方洪庵が開いた適塾が基礎となって、大村益次郎、福沢諭吉、 橋本左内ら近代日本を切り開いた傑出した人物を数多く輩出した、という。ドア のすぐ左にブロンズの坐像がスポットライトの中に浮か上がっていました。幾筋 に刻んだ額の皺、すっと伸びた鼻筋に大きな耳、目は物事の本質を見透かすよう に深い憂いをたたえていました。ぐるっとひと回り、Pavlov教授より贈られたイ ヌの胃液−パブロフのイヌのあれじゃないの!って驚き、その近くにある教授の スケッチ画は、あの稀代の漫画家・手塚治虫さんの直筆でした。濃い眉にロイド の丸メガネ、襟にマフラーっぽい。戻って帰ろう−として気になったのが、玄関 右の額、達筆でしかも朱の修正が入って生々しい原稿でした。


「扶氏医戒之略」と題した家訓、いえいえ、医学を志す者への教えのようです。 1、医の世に生活するは人のためのみ、をのれがためにあらずといふことを其医 の本質とす。安寧を思わず、冥利を顧みず、唯おのれを捨て、人を救わんことを 思ふべし‥。


説明によると、「扶氏」はベルリン大学医学部内科教授フーフェランド(1762 −1836)。彼の50年の臨床経験を集大成した著書をオランダ訳した、Enchiridio n medium(医学必携の意)、1838刊)をさらに緒方洪庵がこれを和訳して、扶氏 経験遺訓31冊を出版した。このオランダ本に「医師の義務」の項があり、この章 の抄訳を12箇条にまとめて、この「扶氏医戒之略」とした−とありました。


病人や患者の医療費に心を砕くことから、学術卓越し、言行厳格だとしても庶 民から信頼を得られなければ、そんな徳は意味がない−など、いわばその医者と いうプロフェッションとしての心得や資質を厳密に述べているんですね。立って 眺めているだけで、体が震えてくるようでした。森下さんの原点を垣間見た気分 でした。今度、やはり医師で教授のイノベーション25戦略会議座長の黒川清さ んにもその辺をお聞きしてみましょうか〜。


お年玉抽選発表。


【日光東照宮賞】日光東照宮晃陽苑1泊ペア宿泊券 名古屋大学のI・Hさん


【シントロピー賞】無農薬お米5キロ
 石井信雄さん(愛知県)河野勝泰さん(東京都)高下拡さん(茨城県)  生野やよいさん(北海道)野村精志さん(茨城県)―5名です。


【DNDユーザー登録9000人】
 東京都の今井貞子さんです。今井さんには、無農薬のお米5キロをお贈りしま す。お米の提供は、名古屋のEM総合ネットです。今井さんは、大阪ガスグループ の(株)KRI勤務で、受託研究・調査を行なっているそうです。


http://www.kri-inc.jp/


【喜びの声】「バイオ産業振興に係る調査研究を担当しており、ホームページに 登録させていただきました。また、(一応)先端技術の受託研究を行なっている 会社ということで、大学やベンチャー企業さんと連携することも多いので、 記載されている記事や情報は大変参考になります。今後とも、どうぞよろしくお 願いいたします」。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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