◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2007/01/24 http://dndi.jp/

「納豆で減量」の捏造番組とメディアのリスク管理

DND事務局の出口です。魔は天界に棲む−その絶頂の時がなんでも危ないで すね。調子に乗って羽目を外してはいけない、という戒めです。「納豆で減量」 の番組をデッチ上げたフジテレビ系列の関西テレビは、その発覚からの一連の対 応は、そのメディアと呼ぶにはあまりにお粗末でした。どうしてこんなに不様な 醜態をさらし続けるのでしょうか〜。


ひとつの番組に、事実を捏造し、架空のデータを加え、無断で引用し、肝心な 点を隠蔽、そして学者の談話をすり替える、というテタラメぶりの真相や、こう した問題が起る背景についての調査が終わっていないのに、さっさと処分を決め るという異例の対応で、しかも、ファックス4枚を報道機関に送り、記者会見は 拒否、詰め寄る報道陣に「会見はいまのところ考えていない。理由は、いまのと ころ申し上げられない」と述べただけというから、飽れてものもいえない。


ピンチをどうチャンスに変えるか−これがある種のリスクマネージメント なのだが、そんなことは言葉でわかっていながら、いざ、という時には、その保 身に走って混乱するのですね。この関西テレビの場合は、そのやることのすべて が、情況を見誤っていました。もう、この局は、報道機関と呼ぶべき体質からほ ど遠い状態のようです。よーく、この教訓を憶えていてください。


それにしても情けない。捏造の放映から2週間ちょっと過ぎました。番組は、 単独スポンサーが降りてあっさり打ち切られることになってしまいましたが、こ の一連の動きを見ていると、テレビ業界が抱える視聴率至上主義や外注一辺倒の 深刻な構造的問題が指摘され、それに報道現場とは縁遠い経営陣らのお寒いメデ イアリテラシーが浮き彫りになってきました。きっかけは、週刊朝日でした。こ れはある意味、メディアの攻防戦が展開されており、守るフジサンケイグループ VSメディア連合軍という図式が見て取れます。産経新聞は、少し記事の扱いが 遠慮がちに映ります。フジテレビは沈黙〜。


さて、いくつか、関西テレビの事後処理の失態を考えてみましょうか。20日夕 刻の記者会見で、首脳陣が「事実ではない内容があった」と釈明していましたが、 これは番組の一部に問題があったかのような印象だし、社長ですら「チェック体 制に若干の不備があった」と答え、記者から「これが若干、なんですか」と詰め 寄られ発言が撤回されるという見苦しい場面をさらしていました。不祥事後のト ップの記者会見は、どれほど重要か、メディアの側に立つ首脳陣は肝に銘じてい なければならない。その「若干」という言い回しに、関西テレビが、この捏造問 題をどんな風に認識しているか、その正直な胸のうちを垣間見せた感じに映りま した。精悍でダンディーな社長、そんなにワルじゃなさそうですが‥。


1月7日(日)夜9時といえば、キムタク主演のTBS系列でスタートした 「華麗なる一族」にチャンネルを合わせていました。残念ながらその「捏造」の 現場を見逃していました。しかし、週刊朝日の記者は、違っていたのですね。


週刊誌の記者は、自宅のテレビの前でくつろいでいながらも番組のウソを見抜 いてしまうのでしょうか。いつでも臨戦態勢、気恥ずかしい感じの「ジャーナリ スト宣言」のCMが、今回の取材姿勢では、ウ〜ム、冴え渡っていましたね。捏 造とはいえ、その番組の反響は凄まじく放映直後から全国のスーパーの店頭から 納豆が消える異例の事態となっていたのですから、テレビ関係者にとっては、ま さに絶頂から突き落とされたように暗転、有頂天からどん底へ。それにしても週 刊朝日の破壊力は、並じゃありませんでした。他のメディアがこぞって追随した 影響も大きかったかもしれません。でも、まだ、道半ば〜。


難しい取材だったでしょうね。今日取材して明日の朝刊でスクープという日刊 紙と違い、週刊誌は取材から発売までに時間を要しますから、取材によって捏造 の裏づけが得られたとしても、発売日が来なければ陽の目は見ない。その間、ど こか別のメディアが嗅ぎつけて、週刊誌の発売前に出し抜く懸念だってあったわ けです。


テレビ放映という、いわばヨーイ、ドンという偶発的な発生モノで、週刊誌が 第一報の独占スクープというのは、極めて珍しい。テレビ局といっても報道機関 なのですから、取材相手は手強いでしょうし、取材の手の内を知らせることにな りかねない。逆に、取材を受ける側、関西テレビがこの事態をどう認識するか− のリスク管理やコンプライアンスが問われることになるのですが、その様子を点 検すると、そこでもしくじっているのですね。


週刊朝日にしてみれば、第1弾、「納豆ダイエットは本当に効くの?」という 記事は、軽いジャブで捏造の核心にまで取材が至っていませんでした。まあ、締 め切り時間が迫って生煮えの特集でした。しかし、今週の22日(月)発売の第 2弾は、なんと記者会見が20日(土)夕刻だから、会見を終えてからの取材、 編集、校了直前のドタバタは、大車輪だったでしょうけど、記者会見を突っ込ん でリアルな臨場感をもった出色の特集でした。


しかし、これも偶然、「あるある〜」の放映が日曜夜9時だから、番組を中止 するかどうか、の判断は記者会見を行なった、その20日夕刻がデッドラインだ ったのでしょうか。これはあくまで僕の推量ですが、テレビ側の番組変更のデッ トラインが、偶然、週刊朝日の締め切り間際、あるいは、校了時間だったのかも しれません。週刊朝日が店頭に並ぶのは首都圏エリアでは月曜日の夕刻ですから、 ギリギリ土曜の深夜には印刷に入らないと間に合わないのではないか。テレビ局 の記者会見が22日夕刻の設定であったら、週刊朝日の今週の第2弾は、少し霞ん でいたかもしれません。


週刊朝日にすれば、一般紙との遅れを最短の1日で済んだことになったわけで すね。どのメディアでも地方の一記者だって、その特ダネをつかむチャンスはあ ったし、テレビ側としても質問状を突きつけられ、再三にわたって取材を受けて いたですから、フジテレビ系列のいくつもの媒体で、先んじて書いてしまえば、 週刊朝日の独走を阻止することができた可能性もあった、ウ〜ム、なかったか、 微妙ですね。


いやはや、どっちにしてもメディアの攻防がリアルに伝わってくるようですが、 それにしても関西テレビは、捏造番組と同じレベルで、まったく無防備ですね。 まだガス事故で深刻な事態を招いたとはいえ、パロマの対応の方がしたたかで戦 略的です。


テレビメディア対応の問題点をもう少し、触れましょうか。放映から5日後の 12日に、週刊朝日の最初の取材に対して、関西テレビ側は「番組は信頼できる 情報・学説を元に構成・放送しております」と回答していました。皆さん、どう 受け止められます?


鈍感というか、このふてぶてしさは、どこからくるのでしょうか。奢り?傲 慢?この体質は、捏造番組と似て極めて深刻な問題をはらんでいるように感じて なりません。そして先週号の週刊朝日の記事の末尾にしっかり書かれていました。 「ご指摘の内容について現在、社内で確認を急いでいるところです」って言って もいいのじゃないかなあ〜。


続いて、週刊朝日側が提出した18日の質問状に対してテレビ関西側は、どう 対応したか、といえば、無視して19日の回答期限を守らず、しかも回答をしな いまま、20日の夕刻になってから急きょ、お詫び会見を開いてしまうのですね。


今週発売の週刊朝日では、「発掘!捏造あるある大事典!」〜本誌スクープ取材にビビって緊急会見!!という見出しで、関西テレビの千草宗一郎社長の会見の模様について、「もっともらしい対応をみせたが、その会見で配られた"捏造要旨"や関テレ幹部の発言内容はどれも、本誌の質問内容にほぼ沿ったものだった」というから、いやあ、逆に、質問状が関西テレビを最悪の事態から救った、 という見方もできるのではないか。どこに問題があって、なぜそれが捏造なのか、 週刊朝日の質問状が、その関西テレビの模範回答を示したともいえそうです。間 違いを指摘されたら、まず、それを指摘したメディアに事実関係を伝え、時間を置いて記者会見という手続きをとるのが、報道機関の真摯な責任の取り方と思います。無視するのですね。


番組のビデオはどこで入手するのでしょうか、それ専門の業者がいるのか、朝 日新聞社として24時間、あらゆる番組の録画を継続しているのだろうか。番組 そのものが、検証の動かぬ証拠ですから、それをテープが擦り切れるくらい再生 して、巻き戻して‥を繰り返し検証したことでしょう。そして、捏造の疑惑解明 の突破口は、なんとGoogleでの検索だったというから、メディアの変容を窺い 知るエピソードです。


週刊朝日によると、番組に登場したテンプル大学のショーツ教授が研究成果を 最近"新事実"として発表した、というその内容をヒントに、それをGoogleで何 度となく検索をかけた。そこで、研究論文のキーワードとなる「DHEA」、臨 床の56人の「56」、「fat(脂肪)」で検索すると、ようやくそれらしき研 究成果の論文1件にヒットした、という。僕も実際にやってみました。その一部 が以下の英文です。


Division of Geriatrics and Nutritional Science, Department of Medicine, Washington University School of Medicine, St Louis, Mo 63110, USA.


Effect of DHEA on abdominal fat and insulin action in elderly women and men: a randomized controlled trial.PARTICIPANTS: Fifty-six elderly perso ns (28 women and 28 men aged 71 [range, 65-78] years) with age-related d ecrease in DHEA level.


さて、さて、週刊朝日でもこんな英文の研究成果にあたったのでしょう。捏造 の一角が姿を見せた瞬間でした。論文の出典は、テンプル大学ではなく、ショー ツ教授でもありません。しかもこれはワシントン大学の教授と助教授の研究成果 で、男女28人ずつの調査でも対象の年齢が、65歳から78歳の高齢者で、新 事実といっても2004年11月とデータの日付もなにもかも変だ、という疑問が、捏 造だ、という確信に変わるのにそれほど時間はかかりません。それにしてもめち ゃくちゃな番組構成です。


週刊朝日は、ショーツ教授、実際の名前は、「Schwartz」なので、シュワルツ 教授と読んで、実際に電話で直撃したーという。その結果、もっと大胆な捏造の 実態が明らかにされるのですね。シュワルツさんが話している姿を映し、そして コメントを通訳が日本語で訳して流すのですが、それが真っ赤なウソ、でっち上 げでした。これは研究者への冒涜以外なにものでもありません。


週刊朝日は、「相手が外国人であるのをいいことに、自分たちの番組づくりに 都合の言いように、相手が言っていない事までデッチあげた」と自らの取材で立 証してみせていました。


まあ、このくらいにしましょうか。テレビというメディアは、スポンサーあっ ての番組制作だから、自ずと視聴率競争を稼ぐための演出に走り、刺激をどんど ん強める、というのは、今も昔も変わらない。評論家の大宅壮一さんの昭和30年 代前半のころのテレビメデイア評を読むと、例えば、早慶戦のテレビ中継を禁止 する事態となった番組名が、なんとも皮肉なネーミングで、「何でもやりまシ ョー」でした。もう50年前のことですが、このスタイルが、いまだに底流にある のかもしれません。


さて、もう一点。番組は、関西テレビから制作会社「日本テレワーク」に、そ こから9社の下請け会社に発注されて、ざっと総勢100人前後でチームを組んで番 組制作にあたっていた、という実態も問題視されています。本日の読売新聞朝刊 の解説面で、鈴木嘉一記者が外注の構造化を問題視し、「あいまいな責任体制、 他局でも起きる可能性」との見出しで言及していました。


取材の最前線の現場で、実際、どういう人が取材に動いているのでしょう。今 朝のテレビ朝日の情報番組スーパーモーニングでも、コメンテーターで作家の吉 永みち子さんは、金が絡んで、委託先から「こうして欲しい」という指示をうけたら、それは無理ですとは言えないし、デッチ上げでも演出でも何がなんでも形 をつけないと仕事がもらえなくなるから、なにがなんでもやってしまう体質にな っているのではないか、と、やはりそのテレビ番組の制作現場の構造的な問題を 指摘していました。まあ、この手のコメントでは、吉永さんが一番本質を突いて いますね。この業界も分けのわかんないおじさんも少なくないが、この人がいれ ば、安心です。


まあ、僕の目線は、どうしても若者に向うのですね。所詮、時間にせかされて 安い労賃で走り回る、外注先の孫受け社員が、責任を取らされて処分されるので しょうか、その一方で、例えば、表現が悪いが、コネかなんかで入社したテレビ 局員が偉そうに大手を振るって下請けをいじめている、これは、僕の好きな番組、 テレビ朝日系列の金曜夜の熱血ドラマ「特命係長只野仁」の話ですが、おかしな 構図ですね。


※お正月のお年玉の抽選は、DNDスタッフ立会いで、サイコロで厳正に行い すべての当選者が揃いました。当選者にはメールでお知らせしました。が、まだ 名前の公表の是非についての全員の確認が取れていません。商品は、さっそく発 送の手続きに入りますが、発表は来週にずれ込みそうです。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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