◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2006/10/04 http://dndi.jp/

ノーベル賞!栄冠へ秘密の道のり

DND事務局の出口です。ノーベル賞発表の季節である。とりわけ文学賞は、 発表日からして直前でないとわからない。秘密のベールの向こうで誰が、どう選 んでいるのか。9月、選考の地であるスウェーデンのストックホルム市を訪ねた〜。



 「朝日新聞・由里幸子編集委員の取材力」


この時期のタイムリーな特集は、朝日新聞の本日(4日付)の朝刊で「ノーベ ル文学賞選考の地を訪ねて」(上)でした。取材は、編集委員の由里幸子さん。


〜栄冠へ秘密の道のり〜という興味をそそる見出し、川端康成、大江健三郎、 それに三島由紀夫、谷崎純一郎らの文学賞受賞者、候補者らの写真で凝ったコ ラージュは、末房赤彦さんの力作です。どれもこれも、いい仕事振りで、感じも 気分もいい。「最後は会員の投票で決める。1票差で受賞した人もいる。そして1 0月のある木曜日に発表する」というから、ひょっとして明日(木曜日)の (下)の続きには、受賞候補一覧、とりわけ日本人の作家の名前が登場している かもしれない。それが、選考のスウェーデン・アカデミーから発表があって、ぴ ったり当たったら、ドラマチックな読み物になるでしょうね、楽しみです。



 「ノーベル文学賞に村上春樹氏の期待」


その最も今、名前が注目されているのが、村上春樹氏(57)で、今年のフラン ツ・カフカ賞(チェコ)を受賞し、そしてアイルランドのマンスター文学セン ターから先ごろ、2006年のフランク・オコナー国際短編賞の受賞の発表があった ばかりで、国際的な文学賞をダブルで受賞する快挙となって周辺が慌しくなって いるのでは、と想像します。「オコナー」の選考委員会は、声明で村上氏が、 「常に誤解に直面している人間の困難な状況」を見事に描いている、という評価、 「散文小説の名匠による真に素晴らしい作品集」とたたえた、といい、受賞作は、 短編集「ブラインドウィロー、スリーピングウーマン」。タイトル作の「めくら やなぎと、眠る女」のほか、最近の作品「ハナレイ・ベイ」、「品川猿」など25 編を収録し、英国で出版された、とロンドン発の共同通信はそう伝えていました。



 「日本には常に目を向けている」と選考委員長の談話


由里編集委員は、文学の好みは主観的で、ノーベル賞も政治や地理的な配慮で 決まる、とよく言われ、アカディミー内部でも意見が対立する、などという裏事 情に触れながら、ノーベル委員会のペール・ベストベリィ委員長(72)の話を引用 していました。ベストベリィ委員長は、「作品本位」を強調し、そして「書かれ た場所や性別、人種は全く問わない。本の中身だけを追求する。ある国の作家が 3年連続受賞する事だってありえる。国ではなくて作家にあげるからだ」という。 候補者を秘密にするのは、「作家や出版社に期待を与えないため」だそうで、そ して、現代の世界文学の状況についての質問、といってその核心を突く、いくつ かの見通しを聞きだしていました。


日本の現在の作家については、「答えられない」としながらも、「でも、日本 には常に目を向けている。66年の川端康成も94年の大江健三郎も、翻訳作品をた くさん読んで決めた。安部公房氏がもし生きていたら受賞したかもしれない」と いう。ふ〜む、意味深長だ〜。


〜トーマス・マン、ヘミングウェー、ベケットらが受賞し世界最高の文学賞と して揺るぎないノーベル文学賞。受賞者の顔ぶれは栄光に満ちているが、時に波 が立つ〜というのは昨今の事情で、〜この夏、99年の受賞者ギュンター・グラス 氏が「ナチスの武装親衛隊」に入っていた事を明らかにした時、ノーベル文学賞 を返還せよという声も一部に起きた。ノーベル賞を運営するノーベル財団の立場 は、「取り消さないのが原則」で、ベストベリィ委員長は「彼の受賞を誰も残念 だとは思っていない」と話していることも詳しく記事にしていました。


また、今年のノーベル平和賞の受賞候補者リストに、中国が人権を弾圧してき たウイグル族の人権活動家、ラビア・カーディルさん(58)が載っていて、中国外 務省が、受賞者選考の委員会がある、ノルウェーの政府に外交関係の停滞を示唆 するなど牽制しており、10月13日(現地時間)の授賞発表まで激しい攻防が続きそ うだ(3日の産経新聞)と書いていました。ノルウェー政府は、「全く受け入れら れない。選考委は完全に政府から独立している」と一蹴した、ともいう。


中国から迫害されながらノーベル平和賞を受賞した人物にチベット仏教指導者 のダライ・ラマ14世(1989年)が知られている、と補足しています。



 日経連載の「ノーベル賞の巨人たち」


「ノーベル賞の巨人たち」の連載は、日本経済新聞の「経済教室」欄の「やさ しい経済学」です。本日は、その20回目、02年受賞のプリンストン大学教授のダ ニエル・カーネマン氏を紹介していました。96年に死去したA・トルベルスキー 氏とともに経済学と心理学を統合して「行動経済学」の基礎を確立し、人々の意 思決定に関して「プロスペクト理論」を提示した、という。例えば、この理論で は、百円得する場合の喜びよりも、百円損した場合の悔しさの方が大きいと考え る。そして、損得に関する人々の評価が,現状など判断の基準点から見て利得に 対してはリスク回避的(利益確定を優先)、損失に対してはリスク選好的(損失の 確定を嫌う)となっているという。一時、米国では異端扱いされがちだったらし い。しかし、この成果が結実し、それらの金融などに応用した「行動ファイナン ス」の分野も発展し、現在では、実験による理論の検証はひとつの潮流となって いる。テルアビブ生まれで、カリフォルニア大バークレー校で心理学博士号取得 した、という。ふ〜む、面白いですね。取材というか、記事の提供は、「エコノ ミクス研究会」の署名がありました。どういう研究会なのでしょうか。ここは経 済学賞を対象としていました。



 「日本初で、最もノーベル経済学賞に近い学者」


余談ですけれど、ノーベル記念経済学賞は、ノーベルの遺言にはない賞で、選 考の所管は、物理学・化学賞を決める王立科学アカデミーで、1969年に制定され、 第1回の受賞は、「経済動態モデルの開発とその応用」で、ノルウェーのR・フ リッシュ氏、オランダのJ・ティンベルヘン氏の共同受賞でした。受賞者は、ケ ネディー、ジョンソン大統領の下で特別経済顧問として活躍し日本人に馴染みの 深いP・A・サミュエルソン氏(70年受賞)、ロシア生まれで若くしてアメリカに 帰化しハーバード大学教授のS・グズネッツ氏らアメリカ人受賞者が目立って多 い。アジアでは初めてインドのセン氏が1989年に受賞、日本が唯一受賞していな い分野ですね。ああ、経済産業研究所前所長で、尊敬するスタンフォード大学名 誉教授の青木昌彦さんが、「日本人で最も経済学賞に近い学者」と言われていま すが‥。分野は違いますけれど、首都大学東京の学長、西澤潤一さんもその未踏 の光・テラヘルツ波分野のフロンティアとして世界的に著名ですね。


ノーベル賞、ご存知、アルフレッド・バルンハート・ノーベルさんの遺言に基 づいて1901年(明治34年)に始まりました。選考と授賞決定は、これもノーベルの 遺言(経済学賞は別)で決まっているんですね。王立科学アカデミーが物理学賞、 化学賞、経済学賞、スウェーデンのカロリンスカ研究所が生理学・医学賞、今年 はスタンフォード大学医学部のアンドリュー・Z・ファイア教授(47)とマサチ ューセッツ大学医学部のクレイグ・C・メロー教授(45)が共同で受賞しました。 授賞理由は、たんぱく質の合成を阻害する「RNA(リボ核酸)干渉の発見」で、 世界でも研究競争が激しい分野のだ、という。それで、文学賞がスウェーデン・ アカデミー、平和賞がノルウェー国会ノーベル委員会とそれぞれ分かれているん です。



 「THE WILL」:ノーベルの遺言


ノーベル賞の資格は、あくまで他薦、依頼を受けた人が極秘に推薦し、推薦の 締め切りは毎年それぞれの選考委員会に1月31日必着となっており、これを8ケ月 かけて選考し、10月に入ってから順次発表され、半ばにはすべて出揃う、という。 これは、分厚いノーベル賞名鑑からの引用です。全受賞者とその功績が一挙掲載 されています。読んでも面白い。


1ページ目は、ノーベル賞のアルバム風で、写真嫌いだったというノーベルの 数少ない中年のころの写真と晩年の肖像画、サン・レモのノーベルの実験室、さ っぱりとしています。ニューヨークのイースト・リバーの狭い水路のダイナマイ トによる爆破風景の絵、目が釘付けになったのが、「THE WILL」との表 題がある、ノーベルの遺言で、直筆のサインは、Paris November 27. 1895. の日付の右下に書かれていました。つづまった感じの独特の文字です。


ノーベル文学賞、川端康成の記念講演は「美しい日本の美」、大江健三郎氏の 記念講演は「あいまいな日本の私」というものでした。



 「日本学術会議会長に金澤一郎氏決まる」


さて、本日アップした東京農工大学大学院教授の古川勇二さんの「技術経営立 国の指標」は、この2日と3日に開催の日本学術会議総会で、金澤一郎氏が新会 長に選出されたことを紹介し、昨年、同会議の基本体制と方針を抜本的に改正し、 そしてこの一年、新体制を定着すべく大変なご努力をされた前会長の黒川清先生 がこの9月で70歳になられ同会議の定年に至ったため、今回その残余期間の会 長職の選出となった‐と、その経緯と潔い黒川氏の身の処し方に触れていました。 どうぞ、ご一読ください。



 「黒川イズムと学術の風」


それで、黒川清さんのHPとDNDのサイトが蜜にリンクし、近々にDND上 から黒川さんのコラムが読むことが可能になります。メッセージ性に溢れて、若 者をエンカレッジする、清新な黒川イズム、それを「学術の風」とタイトルをつ けました。乞う、ご期待です。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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