DND事務局の出口です。朝夕、どうも鬱陶しいのは、湿ってどんより澱んだ空 気のせいばかりではなさそうです。なんとも重苦しい。
福岡では、市職員の飲酒による追突事故で幼い3兄妹の命が奪われました。車 ごと転落した海中で、夫は立ち泳ぎしながら意識のないわが子二人を抱えて人工 呼吸を施し、気丈な妻は、「生きるけんね!」となんども叫んで、4度、海中に もぐった、という。リアルで壮絶な語りでした。
山口の徳山高専5年の女子学生が学校の研究室で殺害されました。容疑がかか る同級生の少年は行方不明となっています。北海道の稚内では、46歳の女性が自 宅で刺殺された事件は、その長男(16)が仲のよい友人(15)に30万円で殺害を 依頼していたという〜。
想像を超えるショッキングな犯罪が頻発し、少年による両親の殺害件数が急増 しています。今朝の朝日新聞によると、6月は奈良県で勉学に対する父親の厳し さを苦に男子高校生(当時16)が自宅に放火し、就寝中の母親と弟、妹を殺害し ました。1月には岩手でやはり男子高校生(同16)が実母を殴打し殺害、2月に は茨城で男子中学生(同15)が実母を、4月には北海道で男子高校生(同16)が 実母を殺害しようとした殺人未遂事件がおきている、と伝えていました。どうも 離婚や複雑な家庭の事情を指摘する人もいます。
が、普段の日常の生活ではみんな良い子だ、近所の人は証言しています。事件 後の少年らは、そのいつもの姿に戻り、「大変なことをしてしまった」と悔いる 日々、という。う〜む。突如、そんな凄惨な衝動に走る、その少年らの心の闇に 何が潜んでいたのか、あるいは、何が壊れて、どこが病んでいたのか、身近な人 が、その子らの発するシグナル、そういう微かな呼吸の乱れを感じ取るくらいの、 「絆」がほしい。自らが犯罪者となって、切ないくらいの何かを訴えている、そ んな心の叫びをも感じてしまいます。
さて、あのパロマ製の瞬間湯沸かし器による死亡事故多発の発覚から、「安 全」に注意を払っていたら、新聞や雑誌の切り抜きが、ざっとホリエモン事件と 同じくらいのボリュームになって溢れかえり、そのダメ押しが、昨日29日付けの 経済産業省の製品事故総点検の発表を伝える、新聞各紙の報道でした。
身近な製品の不具合や欠陥が原因で発生した12品目の製品別、年代別の死亡事 故の発生件数、事故の内容と経産省などの対策、その全容を浮き彫りにした格好 です。霞ヶ関、普段でも忙しいのに、短時間で、よくここまで仕上げたものです。 きっと、深夜遅くまで、あるいは冷房も効かない暑苦しい役所に泊り込んでの汗 だくの作業だった、と思います。
新聞報道はこれまでの各所轄に集められた製品事故の報告を集計、分析し、検 証した結果だ、という。その危険がいままだ身に迫っている、という一般家庭へ の注意喚起、そして緊急に業界全体の安全策を呼びかける警告にもなっていまし た。こういう記事が重要なんです。
いやあ、驚きました。ガス風呂釜では死者89人、パロマの瞬間湯沸かし器によ る死者21人以外に、ガス湯沸かし器の排気筒不良などで38人の死者が相次いでい ることが明らかになりました。ガスによる事故が、異常多発です。これじゃ、も うお年寄りの世帯ばかりか、一般家庭でもガスの使用は、「要注意」と警戒して、 ガス製品からオール電化への転換が加速するかもしれません。
「ガス危惧」を誤植と笑ってはいられない。詳細は伏せられていましたが、ガ ス風呂釜で死者89人という、そのお一人お一人の事情を追跡すれば、例えば、入 学祝いの直前だったり、身内の結婚式に出席する予定があったり、と、きっと悲 嘆のドラマがあったに違いない。「死者89人」という数字を掴んで、わかったつ もりになってはいけない。
まあ、それでも各紙の紙面を比べると、総力取材は、朝日新聞、それに読売新 聞でした。その扱いは、もう超1級の大事件並でした。朝日は、1面トップで全体 の概要、パロマの湯沸かし器の一酸化炭素中毒事故による原因分析の結果として、 「事故の危険がある同社の7機種は主要部品のコントロールボックスで早い段階 からはんだ割れが多発し、安全装置の不正改造も容易にできる『欠陥があった』 と結論付けた」と強調していました。ここがポイントですね。後半に書きますが、 翌日のパロマ本社での記者会見で広報担当の責任人者は、その「製品の欠陥」に 疑義を表明し、経産省に意見書を出す、と強気の構えのようです。この会社、な んかスッキリしないなあ〜。
2面の特報ワイド欄「時時刻刻」では、54年施行のガス事業法など製品安全4法 の経緯を「表」に現し、製品事故をめぐる一連の消費者施策に解説を加えていま した。また、経産省の縦割りの弊害にも触れながら、今後の同様の悲劇を防ぐ手 立てはあるのか〜と問い、PLオンブズマン会議からの被害防止の訴えや、東京 大学大学院の廣瀬久和教授(消費者法・民法)の「消費者保護第一に情報は直ち に伝えられるべきだ。製品に起因しないことがわかれば、企業の損失をある程度 補償する制度の検討も必要」という指摘も紹介していました。
社会面では、「生活に欠かせない道具が人の命を脅かす凶器になる」との書き 出しで、(経済産業省の)報告からは業者や行政の鈍さも透けて見える、と関係 機関の問題点も鋭く指摘していました。まあ、経産省は自ら、事故情報の収集・ 分析の体制に不備を認めて、当該責任二人の処分を発表し、二階経済産業大臣は 苦渋の表情で「経産省として大いに反省すべきと思っている」と語り、その責任 を認めていました。
読売は、やはり一面トップで、パロマに消費生活用製品安全法に基づいて、対 象製品の回収と点検を早急に行うよう緊急命令を出した経過や背景を詳述し、ガ ス供給者に加え新たにメーカーにも事故報告を義務付ける省令改正を行う方針を 伝えていました。
3面の解説欄「スキャナー」では、「製品安全行政に死角」との大きな見出し を掲げて、製品事故総点検の結果を「表」に、そして事故情報の流れを「図」で、 それぞれ分かりやすく紹介していました。
8面の経済面で、パロマへの製品回収の緊急命令の背景には「パロマの自主回 収がはかどらず事故の再発を防ぐ狙いがある」と説明し、社会面では、「誰が不 正改造 未解明」、「遺族、幕引き納得できぬ」との見出しでパロマ事故の核心 を突いていました。
他社の扱いでは、日本経済新聞は、「問われる販売後」の見出しで、後藤康浩 編集委員の署名入りの解説を載せていました。
その一部〜日本の製造業は「アフターセールス(販売後)」の保守・点検や顧 客対応を通じて、品質、技術情報から市場動向まで吸い上げてきた。だが、拡販 や製品改良に勢力を注ぐあまり、本来「販売後」に最も重視すべき製品の不良・ 不具合そのものへの対応がおろそかになった面は否定できない。(中略)企業が 考えるべきは、公表していなかった製品の不具合が発覚した際に受ける経営への 打撃だ。顧客の補償に加え、ブランドの棄損は企業の存亡にかかわる。企業の社 会的責任(CSR)への目が厳しくなっていることを考えれば、経産省の義務付 けを上回る対応が必要になる〜と指摘し、不祥事に対応する企業の迅速な社内体 制の構築にも言及していました。
一方、同じ面の別の記事では、「官の肥大化も」という小見出しで、「ただ、 事故報告を求める製品は『天文学的な数になる』(経産省)ため、いまのやり方 では対応しきれない。中小事業者や輸入業者がどこまで対応できるかも不明。安 全基準の強化が新規参入の障壁になるなど、新たな経済規制や『官』の肥大化に つながる恐れもある〜」と警告していました。
そうですよね、なんでも「官」が規制し統制していく流れは、好ましいことで はありません。天文学的数字、この規模の報告を逐一取ることを望んでいるのか しら。東京新聞は「監視行政へ大転換」と伝え、「企業の道徳観の低下」を嘆い ていました。その一方で、産経新聞は、「経産省、遅れる対応」と大見出しで独 自色を出していました。まあ、今回に限っていえば、一部の報道を除き、行政批 判に執着せずに「安全」対策に向けた真摯な取材姿勢が目立ったと思います。
それにしても世の中の、民間企業の、その製品の不具合によって起こる事故の 責任は、まず、どこにあるのか、そしてなぜ、事故がおきたのか、そのメカニズ ムを解明しなくては、その後の教訓になりません。
しかし、戦後一貫して変らないのが、メディアの官庁批判、攻撃の乱打でした。 何があってもなくても霞ヶ関が標的にされてきました。この悪しき流れは、そろ そろ変えていかないと、やがて事故の本質が見えにくくなります。
余談ですが、本日アップの経済産業省の大臣官房審議官、石黒憲彦さんの「志 本主義のススメ」の63回「中国・ベトナム見聞録@模造品市場」で、「役人叩 きの日本から役人天国の中国に行っていきなり愚痴混じりの余談になって‥」と 断りながら、「官舎は立派だとの批判」に触れて、「筆者がアメリカ赴任前に住 んでいた世田谷の官舎などは、あまりにボロで(中略)、息子が風呂に入ってい て突然腐食した水道管から水が吹き出し、それを手で押さえたら今度は別なとこ ろが破裂したというチャップリン喜劇のような本当の話があります。このサイト は国立大学の先生など公務員が多いので共感して頂ける方が多いと思いますが、 中国ならいざ知らず、日本の公務員でマスコミがいうように官舎が特権だなどと 思って喜んで入っている人など皆無じゃないでしょうかね。転勤がなければ、或 いはお金があれば、『自分の家を持ちたい』と皆思っているはずです」と、率直 な感想を述べています。勤務時間が長く多忙、職場環境は劣悪、一般企業のいわ ゆる接待・交際費は皆無、偉くなって慶弔関係は自腹、官舎はボロでそれで特権 との批判というのは、ちょっと気の毒です。
話を戻します。まあ、それも元新聞記者として、ついでにちょっと本音を言え ば、パロマ製品による事故が全国で多発している、というこの重大な社会問題の 実態を、なぜ、新聞記者として、これまで独自に突き止められなかったのか、そ れは残念なことですが、結果的にそれを野放しにしていたことにならないだろう か。
取材する側の、「怠慢」、「力量不足」、そして「問題意識の欠如」がその背 景にあったのではないか、と自戒すべきかもしれません。悔しいのは、パロマ事 故、北海道で15人、長野で2人、秋田で2人、それも同じ時期の冬場に集中する、 という点と線をつないで原因を突き止める、そういう調査報道の体制がなぜ取れ なかったのか、あるいはそれを得意とする新聞記者の「カン」が、なぜ、誰一人 働かなかったのか?という反省です。民事訴訟や刑事告発が起きて、遺族からの 悲痛な叫びがあったのに‥。警察が動かず、行政が機能しなかったら、それこそ 第3の砦、それこそがメディアの責任なのではないか、と思います。
「知りたいのは、誰が不正改造したのかだ。これまでパロマや経産省は何をや ってきたのか」という北海道帯広市で起きた事故で長女(20)を亡くした父(6 8)の怒りを受け止めるべきは、新聞社側も同様で、今後の再発防止の意味から も、このパロマ事故の核心が、決してうやむやにされることなく、事実の解明に 全力を挙げてくれることを期待したい。
「私が不正改造しました」という生の証言が得られれば、事件の全容解明に大 きく動くことになります。だが、製品の回収命令を受けたパロマ本社は、29日の 記者会見で、「製品に欠陥がないという主張に変りはない。経産省に意見書を出 すことも含めて検討したい」(伊藤栄一広報室長)と「製品の欠陥」をめぐって 対立の様相をみせていることを読売新聞は伝えていますが、なぜ、こんなに強気 なのか、その腹の内が読めません。パロマ側は、警視庁の捜査の壁を見通しての 対応なのか、どうか。この綱引きに、とんでもない結末が用意されているのかも しれません。
前回のメルマガでは、DNDユーザーから貴重なご意見を多数いただきました。 この場を借りて御礼申し上げます。いずれご紹介の場を持ちたいと思います。今 回のメルマガでも異論、反論、なんでもご意見をお寄せください。お待ちしてい ます。
最後に、先日、客員教授を務める東京農工大学大学院技術経営研究科で、「安 全」と「リスク」と題して3時間、講義しました。学生や社会人学生から活発な 意見がでて有意義でした。途中、飛び入りで、同教授で研究科長の古川勇二さん が、製品のミスを予めいくつも想定して安全策を講じる「フェイルセーフ」の設 計思想を紹介していました。この「フェイルセーフ」の概念を少し、突っ込んで みたいと思います。
パロマ工業の経済産業省への報告(平成20年7月)
経済産業省プレス発表
http://www.meti.go.jp/press/20080711005/20080711005.html