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科学技術10大ニュースの関心度

DND事務局の出口です。眩いくらい白いTシャツに清涼感が漂い、筋肉質の 上半身に短く刈り上げたその青年のヘアスタイルが、より精悍な印象を与えてい ました。それも指折り数えれば、なんとほぼ50年前、もう遥か遠い昔の、アメリ カは国立衛生研究所(NHI)の部長時代の貴重な1枚のスナップから、ほとば しるようなエネルギーが伝わってきました。


 よほどの強運か、恵まれた才能か、あるいは伸びやかな大志か、どのひとつが 欠けても、このような屈託のない表情にはそうはお目にかかれない。その写真、 1枚1枚、回を追うごとに洗練された老いを刻む、その見事な表情は、確かな人生 遍歴の証明のようでした。


 早石修さん。誰もがよく知る、国際的な生化学者です。86歳。走馬灯のように その断片が次から次と甦るのでしょうか。飾らない文章が読みやすく、筆が冴え、 その勢いに微塵の衰えも見られないのは、その毎回のコラムにワクワクするよう な珠玉のエピソードが弾けるようで、それと歩んできた晴れの舞台を垣間見せて くれる、メモリアルなスナップ写真の効果が出ているのかもしれません。


 「私の履歴書」。日本経済新聞にいま連載中の早石さんの半生は、回を重ねて 終盤の29回目。そこでどんなメッセージを綴ってくれるのか、という期待より早 石さんの毎日続く語りが、直に幕となると思えば、とても寂しい気持ちになって しまうほど、内容が濃い。「睡眠の不思議」と題した本日は、「眠る脳と眠らせ る脳」の睡眠の謎の核心に触れ、いまでは世界の学会で支持されているとはいえ、 当時は「ホルモンのような化学物質が睡眠を調節しているという考えは、あまり に奇想天外だった」と述懐していました。


 後段に、道しるべになった恩師、古武弥四郎先生の言葉。「一燈を掲げて暗夜 を恐るるなかれ、一燈に頼れ」。1949年、京都大学の医化学講堂での生まれて始 めての学会発表を思い起こし、緊張して発表を終えると、「恩師の古武弥四郎先 生が絶賛してくれたのがつい昨日のことのようだった」と書いていました。早石 さんの胸にはいつも恩師の笑顔が輝いているようです。恩を忘れない〜。偉大な 功績の陰にきっと恩師の存在を口にする人が少なくないですね。


 カリフォルニア生まれ、大阪帝国大学医学部卒、ワシントン大学医学部助教授、 京大、阪大そして東大教授と請われ、大阪医科大学学長など歴任。いまや常識だ が生物が取り込んだ物質に酸素を直接結び付ける酵素がある、という「酸素添加 酵素の研究」から「呼吸生理学の新分野を開拓した研究」は生化学史上不滅の業 績と称えられています。大阪バイオサイエンス研究所の設立、設計は故・丹下健三氏に直接依頼した、という経過も書かれていました。受賞は、朝日賞、日本学士院、文化勲章などの他、ニューヨーク科学アカディミー生化学賞、スペイン、イスラエル、チェコ、ニューオリンズ、イタリア、ルイジアナ州立大学など書ききれません。


 26回の「最終講義」の項は、先日の26日付けでした。63歳にして第二の母校、 京都大学を去る日、それも23年前の26日でした。退官記念の最終講義の演題は、 「失敗は成功のもと」で、京都大学在任中に経験した「4つの失敗談を上げて、 諦めずに敗因を突き止めて成功に導いた例を振り返った。若い人にこそ、聴いて もらいたかった」と語り、その当時の記憶を再現していました。


 「何でや」と疑うことが発見の出発点になる。教科書に載っていないことを調 べるのが科学である‐。それを伝えたかった、という。京大時代の生化学の講義 を振り返っては、最初に取り上げた病気の話しが、レッシュ・ナイハン症候群で した。


 「知的障害の子どもの手足に麻痺が起きて、自分の指や唇を食いちぎり、組織 が腐る病気だ。この一見複雑な病気は、尿酸の代謝にかかわるたった一つの酵素 の遺伝子の異常によって起きる。マイケル・レッシュという医学生とウィリア ム・ナイハンという若い生化学者の成果だった」と解説して、患者の写真を見せ ながら学生に次のようなメッセージを吹き込んでいたようです。


 「生化学は化学式の羅列でも試験管の中の学問でもない。病気に苦しむ患者を 救うことが本来の使命ではないか」。


 早石さんのような日本人の生き様は、誇りですね。21回の「早石道場」の項で は、38歳で教授は異例中の異例、大変な抜擢でした。で、さっそく米国で洗礼を 受けたランチセミナーを開催するなど、7人から始まった教室はすぐに50人を超 え、後の阪大、東大を含めると130人を超える大学教授が誕生する、という。早 石杯のゴルフコンペもいい話でしたし、「かつて15ぐらいだったハンディは86歳 のいまは30を超えてしまった。それでもゴルフは楽しい」と言い切っていました。 門下の生化学者らの紹介は、人国記風でした。多くのノーベル賞候補を輩出した のも大きな勲章です。早石門下は、多士済々、そのひとりひとりの交遊や思い出 話しは、その全部が温かい。


 さて次は、年度末にふさわしい話題をひとつ。今年度の科学技術ニュースに関 するランキングです。この一年、私たちの回りでは、新しい発見、新しい技術の 開発、未知への挑戦など科学のニュースがたくさんありました。2005年は事件、 事故、災害の多い一年でもありました。それらのことから、私たちはどのような ことを学んだのでしょうか〜。


 こんな問いかけで、専門家へのアンケートを基にNHK教育の人気番組「サイ エンスZERO」(毎週土曜日、再放送あり)が選んだ2005年度科学10大ニュー ス。番組に出演のゲスト、それにスタジオのレギュラー陣を含めた27人が、印象 に残った科学ニュースを各自3つ筒選んで、ランキングした、という。


     なかなかの魅力は、キャスターの眞鍋かをりさん、愛媛県出身で横浜国立大学 卒のブログの女王。この2年間、この番組を通して「最先端の科学こそ、生活に 密着していて身近に感じるものだということを学んだ」というから感心します。 ナビゲータ役は、熊倉悟アナウンサー、大学時代(東北大学工学部応用物理学科 卒)、は、超伝導の実験をしていました。番組では、子供の頃の「なぜ?どうし て?」のココロを呼び醒まし、科学の世界の不思議やオドロキに迫っていきたい、 という。


 この日のコメンテータは、東京大学大学院情報学環助教授の佐倉統さん、「科 学は生活、生活は科学、日々の生活のひとコマが科学や技術とこんな風に結びつ いているんだというのを少しでも実感してほしい」というコメントも好感がもて ました。


 さっそくランキング。9位が4つ。
【9位:JR福知山線脱線事故】
 昨年4月25日、死者が107人、ケガをした人は555人にのぼる鉄道事故としては JR史上最悪の惨事。運転手は電車の遅れを取り戻そうと、制限速度が時速70キ ロのカーブにブレーキをかけずに110キロ以上のスピードで進入、先頭車両がバ ランスを崩し片車輪だけで走行し横転、マンションに激突。事故の背景には、利 便性を追究し過密になった運行ダイヤがあった、という。



【9位:世界初顔面の移植手術】
 2月6日記者会見、犬にかまれ鼻や口の一部を失う大けがをしたフランス女性が、 脳死状態の人から皮膚などをもらい世界初の移植手術に成功した、という。



【9位:写真フィルムの製造縮小】
 デジタル製品の普及に伴いカメラ業界でフィルムからデジタルへの経営移行が 続き、今年に入り老舗ブランドがカメラフィルム事業からの相次ぐ撤退、縮小を 発表していました。



【9位:第10惑星発見?】
 2005年の夏、アメリカ天文学者らが新しい天体を発見。2003UB313と名付け られた天体が第10惑星ではないかと発表されました。これは、太陽系の最も外側 にある、めい王星のさらに外側を回る細長い楕円形をしており太陽と最も離れた 時の距離は、太陽・地球間の距離のおよそ97倍、その大きさは直系3000キロ、23 90キロのめい王星より大きい天体ということで太陽系の第10惑星にならないか、 と提案がだされた、という。しかし、専門家から異論がでていました。東京・三 鷹市にある国立天文台、そこの惑星科学が専門の渡部潤一助教授は、番組の中で 「これは第10惑星とはいえない。1930年にめい王星が見つかった時、天文学者が、 観測技術が少し劣っていたために地球より大きな天体だと誤まって判断してしま った。いま我々は、めい王星が地球より小さいということを知っていますし、め い王星を惑星と呼んだ反省から惑星と呼ぶにはためらいがある」と解説していま した。



【6位:活躍!野口宇宙飛行士】
 昨年7月26日、2年半ぶりにスペースシャトル・ディスカバリー号打ち上げで野 口聡一さんが大活躍しまた。5日目、NASA史上初の宇宙空間での船外修理に 挑戦、ハッチを空けた光景は、背後に青く輝く地球が見えていました。NASA は、安全性の問題が解決される7月まで延期、4年後の2010年には後継機の完成を 目指している、という。



【6位:愛・地球博開催】
 「自然の叡智」をテーマとして3月25日開幕。121カ国と4国際機関が参加。環 境と科学技術が調和した未来社会のあり方を考えようという21世紀初の国際博覧 会。世界をリードする日本の最先端のロボットが登場、漫才ロボット、番犬ロボ ット、水陸両用ヘビ型ロボットなどが紹介されました。会期中の185日間に2200 万人が来場しました。



【6位:インド洋大津波から1年】
 2004年2月26日、インドネシア、タイ、スリランカ、インドなど巨大地震と津 波の被害はインド洋周辺の数カ国に及び、この災害の死者は18万人を超え、行方 が分からないままの人が4万9000人に上っていました。


 この津波のニュースを選んだ専門家としてコメントを寄せた津波災害が専門の 東北大学大学院研究科工学教授、今村文彦さんは「インド洋大津波から1年が経 ちましたが、被害が大きかったバンダアチェでは依然、手付かずのところも多く、 強度の足りない住宅が建設されたりするなど、強い街づくりどころか脆弱性が高 まっています。日本は、アジア地域でのインターネットを使った津波教育、ラジ オでの啓蒙活動など地道な援助を続けています」と現状を報告していました。


  さて、ここで上位に入る前に、10大ニュースのランキングには入らなかった 番外編は、以下の3つ。「量子テレポーテーション」、「発見!抗老化ホルモ ン」、「巨大耐震実験装置」。そのひとつは〜。



 【番外編:発見!抗老化ホルモン】
 これも若き日本の研究者。凄い研究があるものです。昨年、老化を抑え寿命を 伸ばす働きのある抗老化ホルモンが世界で初めて同定されました。老化に対抗す るクロトーホルモン。テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター助教授 の黒尾誠さんのグループが行った研究です。黒尾さんは、人の老化に良く似た症 状を持つマウスの研究を行ってきました。そして、マウスから老化のスピードを コントロールする働きを持つクロトーホルモンを発見したのです。血液中の糖が 増えると、インスリンがこれを感知して細胞に働きかけ糖が取り込まれます。こ の時、インスリンが働きすぎると糖が細胞の中に必要以上に取り込まれて活性酸 素が増えてしまい、細胞の老化を進めてしまうと考えられています。しかし、ク ロトーホルモンが働くとインスリンの働きが抑えられ、糖が細胞内に必要以上に 取り込まれなくなるのです。こうしてクロトーホルモンは老化を抑えると考えら れるのです。普通のマウスの平均寿命が2歳前後なのに対して、このクロトーホ ルモンが2倍あるマウスの寿命は3歳、人に換算して120歳の誕生日を元気に迎え ることができました。このクロトーホルモンは老化を抑える薬として利用できる のではないかと期待されています」。


 糖尿病患者には、凄くわかりやすい。薬に頼っていては危険なんですね。納得 しました。


さて、後半戦、いよいよ上位。
【5位:ディープインパクト】
 2005年1月12日、米航空宇宙局(NASA)の宇宙探査機ディープインパクト が打ち上げられました。目指すのは、テンペル第1すい星、地球から月までの距 離の1000倍以上を旅していきます。そのすい星は太陽の周りを、楕円軌道を描い て回っています。地球に最も近づいた時を狙って探査機は接近し、インパクター という装置を衝突させる計画です。6ケ月後の7月4日午後2時52分24秒(日本時 間)、人類史上初めて、すい星との衝突(ディープインパクト)の実験が成功し ました。ディープインパクトは、衝突のシーンを撮影し、NASAに送信。写真 には、衝突する瞬間に噴出したものとみられる破片の雲が、すい星の下の部分で 明るく輝いていました。 科学者は、ガスとホコリの雲が沈めば、凍りついた核 の内部を観察できるものと期待している、という。



【4位:鳥インフルエンザ】
 国内外で鳥インフルエンザに関わるニュースが相次ぎました。茨城県の養鶏場 では鳥インフルエンザH5N2型の感染が確認され鳥インフルエンザにかかった と見られる326万羽余りのニワトリが処分されています。また、中国や東南アジ アでは毒性の強いH5N1型の流行が続いたほか、インドでも発見されました。 さらにヨーロッパ諸国でも同じ型の鳥インフルエンザが見つかり、今年に入って から被害はさらに拡大しています。一方、鳥インフルエンザへの研究も進んでい ます。1918年に大流行し死者が4000万人に上ったスペイン風邪も鳥インフル エンザの変種によるものということが、わかってきました。


 現在、WHO(世界保健機関)は、世界各地にセンターを設置し、人への感染 を防ぐため、インフルエンザウイルスの流行を監視し、拡大防止に懸命になって います。H5N1型のインフルエンザへの人用ワクチンの臨床試験が国立感染症 研究所で始まっています。



  【3位:ハリケーン被害と地球温暖化】
 昨年8月、カトリーナと名付けられた巨大ハリケーンが米国南部に上陸し、死 者1400人以上、被害総額は最大15兆円にもなり、アメリカの災害史上、最悪の 被害をもたらしました。専門家の中には、このハリケーンの巨大化など異常気象 が地球温暖化による海水温度の上昇が影響しているのではないか、と指摘する声 が上がっています。


 ケビン・トレンバース博士(アメリカ大気研究センター)は「海水温上昇の半 分は、地球温暖化が原因です。北大西洋だけではなく、太平洋でもインド洋でも 海水温が上がっています。ひとつの場所の現象ならともかく、世界的に起こって いることを考えると地球規模で起こっている温暖化抜きには考えられない」と指 摘していました。



【2位:はやぶさの挑戦】
 宇宙航空研究開発機構の探査機はやぶさが、地球から3億キロ離れた小惑星・ イトカワへ着陸、その岩石サンプルを地球に持ち帰ろう‐という世界初の試みに 挑戦しました。3年後の昨年11月26日午後7時、比較的ゴツゴツした障害の少ない ミューゼスの海に着陸。しかし、危険を察知するプログラムが作動して岩石のサ ンプルの採取が困難視されているが、着地時に探査機の回収カプセルにサンプル の砂塵が入ったわずかな可能性に期待をつないでいる。はやぶさは、2010年6月 に地球に帰還する予定。



  【1位:論文ねつ造事件】
 ソウル大学の黄禹錫(ファン・ウソク)教授が2005年5月。世界で初めてヒト のクローン胚からES細胞をつくったと発表して注目を集めたが、昨年12月、一 連の論文でデータをねつ造していたとの疑惑が浮上。ソウル大学の調査委員会は、 ねつ造の事実があったとの結果を報告した。


 発端は、 韓国のバイオ研究者のインターネットサイトで、「論文ねつ造の証 拠を掴んだ」という告発の書き込みに対して、瞬く間にその指摘に同意する数多 くの書き込みが寄せられていました。今年1月、ソウル大学はES細胞はひとつ も存在していなかった‐と結論付けていました。 識者のコメントを紹介します。


 千葉大学医学部教授の寺澤捷年さんは「学問研究の性善説が揺らいだ」とショ ックを隠しきれない様子。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター長の竹 市雅俊さんは「科学者の名誉欲や成果主義の中でのプレッシャーなどについて考 えるよい機会であった」と、日本でも同様に起こりうる事件であることを示唆、 長岡科学技術大学助教授の木村哲也さんは「研究のために多額の金が必要になり、 研究成果が多額の金を生む。科学が巨大化し科学と金との関係が変化してきてい る象徴だと感じる」と、想像を超えるような科学技術周辺の変化を端的に浮かび 上がらせていました。


 番組のコメンテータで東京大学助教授の佐倉さんは、「韓国の場合も政府が多 額の予算を組み込んでバックアップし、患者団体からの大きな援助もあって、社 会全体で動いていったようなところがある。逆に言うと、それだけ社会の中に科 学技術が密接に組み込まれている状況なので、社会の側でもどういう風に科学技 術の研究をどう制御するか、を考える必要がある」と話していました。


 今回は、科学技術関連でした。最後に日経サイエンス最新号「2006・05号」の 「超の世界」の巻頭インタビューで、東京大学名誉教授でテクノサーチ(株)代 表取締役社長の柳田博明さんが「技術と人間」について以下のような話を紹介し ていました。


 「工学者の使命のひとつは、一見難しく見える技術を解きほぐしていく論理 (学問体系)をつくっていくことです。これを忘れてはいけません。また市民の 方もある程度の努力が必要ですね。読み・書き・算盤と同じように、技術につい てある程度の知識を身につけるという『技術リテラシー』は現代社会を生きる私 たちの必然でしょう」。


 科学技術。これは最早、ごく一部の研究者らの専売特許ではなくなったらしい。 もう日常生活から、その意味するところを抜きには生きてはいけない。苦手だが、 科学技術的ライフスタイルへの転換が求められているようです。




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