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百寿研究のフロンティア:沖縄からの報告2

DND事務局の出口です。百歳、その長きを生きた老人の事を英語では、「ce ntury」(一世紀)を生き抜いたという意味から、「centenarian」(センテナリア ン)と呼んでいるが、これに匹敵する日本語が見あたらない。99歳を「白寿」と いい広辞苑にもある。その理屈なら、祝って喜ぶ「寿」を冠して「百寿」として はどうだろうか〜。


世界一長寿の沖縄といわれたその昔から、自ら命名した「百寿研究」に没頭し、 沖縄の健康長寿の秘訣を科学的なデータを基に浮き彫りにした医学博士で琉球大 学名誉教授の鈴木信さん、ずっと沖縄に関わってきてちょうど今年で30年、その 72才の説く珠玉のメッセージは、沖縄の言葉でククルルデーイチ、その意味は、 「心こそ第1なれ」でした。


ふと目をそらすと、その存在が消え入りそうなくらい謙虚な人という印象でし た。なんとしてもその愚直で懸命な鈴木博士を紹介したい、そういう思いはこの 一週間、少しも揺らぐことはありませんでした。


やや軽率だった民主議員の爆弾メールの真贋に注目が集まって責任問題(しか し、こんなミスが起きてしまうというのはホント情けない)に発展したり、その 騒動の対極にある、ニッポン唯一の金メダルに輝いた荒川静香さんの氷上のレイ バック、イナバウワーの美技(ホント、綺麗でした)の余韻に浸ったり、なんとも 題材が豊富な今週は、予告通り、先般の沖縄健康産業クラスターフォーラムで講 演に立っていた鈴木さんの「百寿研究」の報告にフォーカスしました。


それというのも新聞、週刊誌などのマスコミが、それなりに適切で確かな取材 をしてくれていたためか、あえてここで取り上げるべき筋ではない、と思いまし た。


で、その鈴木さん。横浜生まれ。慶応義塾大学医学部卒後、同医学部助手から 厚生技官医療職(国立東京第二病院)、メルボルン大学付属王立病院心臓科で臨床 研修を経て、当時の日本医師会会長、武見太郎さんらの薦めで、昭和51年に琉球 大学保健学部付属病院助教授として着任、その病院長に国立東京第二病院や慶応 大学医学部などで親しくしていた先輩格の植村操さん、ご一緒に琉球大学の医学 部開設(56年)に奔走していたようです。


それ以来、医学部教授から沖縄国際大学教授、退官後も琉球大学名誉教授、沖 縄セントラル病院など勤務する傍ら、自ら立ち上げた沖縄長寿科学研究センター を切り盛りする今日まで、「沖縄百寿研究」の中心的存在にあり、いまブームの 健康産業クラスターに対しては、以前から「民間が学の分野の長寿研究と連携し て健康産業を興しながら健康長寿を目指す新しい形のツーリズムのモデル構築を 急ぐ」というのを持論としていました。


そこで鈴木さんがカナダ人二人の老年医学研究者らと沖縄の百寿者の食事や生 活慣習を調査し、精神的な生き方や適切な運動の生活スタイルのあり方まで詳細 に研究し、その長寿健康の科学的証拠に基づいた疫学的、統計学的要因が何かを 分析した「沖縄プログラム」を英語版で著していました。


その本がやがて大きな反響を呼び、全米でベストセラー入りしたのに続き、ニ ュージーランド、オランダ、トルコ、韓国、中国、ブラジルでも出版されたとい うから凄い。「長寿健康研究のバイブル」との高い評価も受けていました。日本 語では、逆に遅れて04年夏に「オキナワ式食生活革命」(飛鳥新社)と改題して 「沖縄プログラム」の一部が出版されました。


「目から鱗が落ちるような実証性のあるデータが提供されている」と、あの元 気な聖路加国際病院の名誉院長、日野原重明さんが本書の冒頭に推薦の言葉を寄 せ、巻末に32料理の沖縄レシピが用意されていました。


興味深いのは、その03年2月に、百寿者のライフスタイルを体験するという趣 旨で実施した7泊8日の「オキナワライフ体験セミナー」。ヨモギやゴーヤーな ど抗酸化成分の豊富な野菜などの沖縄伝統の料理に加え、独自に開発した長寿メ ニューも用意し、よく指摘される地域との連携の「ゆいまーる」(助け合い)の慣 習の実践や体を動かす効率的な運動も取り入れていたようです。


このプログラムを体験することで参加の「前と後」の血液中の活性度の変化を 科学的に検証するというリサーチツーリズムの新しい手法が注目され、多くのマ スコミに取り上げられました。しかし、鈴木さんはこの構想を2000年に、旅行業 者、宿泊業者、交通機関、エンターテイメント産業、エステ、スポーツ、医師、 大学などを有機的に連携していく、そういう総合的な新産業クラスターの形成を プログラムを行政関係に訴えましたが、「興味も示さず、なんら目を向けること はなかった」と悔やんでいました。が、近年の産学官連携の機運が高まって健康 産業クラスターが話題になってきたことを受けて、「ようやく、自分の考えに時 代がついてきた」と感無量の面持ちでした。


会場に入り口で販売していた鈴木さんの、もう一冊の著書が「データで見る百 歳の科学」(大修館書店)。これも大変な仕事量です。調査開始の1976年から6年 間を前期調査、1987年から1996年を後期調査として沖縄県在住の349人の百寿者 の調査を進め、とんでもないデータを集めて分析していました。なかでも長寿と いっても寝たきりなどの長寿者とは違い、自立した成功長寿者と呼ぶ健康な百寿 者の特質を浮かびあがらせることに成功していました。


どんな特質かというと、ざっと分かりやすい表現から引用すると、若い時から 働きはマメで信仰心に厚く、気楽でのんびり。食事はトーフやゴーヤーとポーク などの食材、それに豚足などを煮込むというような調理法。腹8分から腹6分。 体格は小柄で痩せ型、決して肥満型は長生きしない。百寿でのプロポーズ、そん な元気も重要。歌や踊り。カルシウムや鉄分の摂取量が高いのは、若年時代から の硬度のある沖縄の水、主農業のキビづくり、その黒糖を汁に溶かして飲むなど の習慣が貢献している‐などの記述が目立ちます。


その一方、豚肉を食べていながらそれらの疾患発症や死亡が極めてすくないと う沖縄パラドックスの一面を血清脂質の測定から判断して、総コレステロールは 動脈硬化の危険因子としてポピュラーですが、その結果、聡コレステロールが低 いだけでなく悪玉コレステロールも低く、善玉コレステロールまで低かった、と いう驚きの結果に対して、「百寿者は脂質が不足し栄養的にも低下していること ころに原因があるかもしれない」ーと推測し、脂質にも遺伝的なコントロールが ある程度見られるようだとし、そのため、コレステロール低い人が生き残った可 能性が高いとの結論も導き出していました。


ところで悪玉コレステロール悪玉たる所以は、過酸化状態になって血管の老化 を進行させるが、場合によっては発ガン作用を招くからです。では、その過酸化 脂質を多く含む食品は、オムライス、カレーライス、サンドイッチ、焼きソバ、 スパゲッティ、目玉焼き、ハンバーグ、ハムサンド、餃子(あ〜あ、なんと、こ れらみんな好物だ〜)、トースト、クリームスープなどであるーという。これら の食品の頭文字を取って「オカアサンヤスメ、ハハキトク」と五島雄一郎名誉教 授の標語を引用していました。ハハキトクだって、面白いね。


いやあ、これはホンの一部ですから、どうぞ鈴木さんの著書をお手にとって参 考にしてください。で、鈴木さんの講演の〆は、今年9月14、15両日、宜野湾市 の沖縄コンベンションホールなどで開催の「第47回日本人間ドック学会学術大 会」並びに「第1回国際人間ドック会議」のPRでした。総勢7000人の参加者を 見込むというから、これは大変な観光産業誘致となります。沖縄初の開催で、同 学会評議員で学術委員長を務める、という。そして学会の会長は、奈良昌治先生 だと教えてくれました。


ひょっとして前に足利日赤病院院長では‥とお聞きすると、「そう、そうで す」と鈴木さん。いやあ、奇遇ですね。今から20年前の赴任先が足利市(栃木県) で、奈良先生が「ドクター・ナラの成人病診察室」(北泉社)を出版した時に記 者として取材し、懇意にさせていただいた記憶があります、って言うと、「そう ですか、今週、上京して奈良会長に会いますので、その時、出口さんのことをお 伝えします」と話してくださいました。いつもながら不思議なことがあるもので すね。装丁は、奈良先生の顔をイラストで描いた黄色い表紙の本でした。いまも 棚においてあり、薬を飲むより水を飲めーの格言は、奈良先生の教えでした。


不思議といえば、「重粒子線治療への期待〜」の前回のメルマガについて、ウ エルネス・フロンティア・センターの山下正幸さんから、こんな丁寧な感想の メールを戴きました。


「今回、今井賢一先生をまず、ご推薦させていただき、また、群馬大学の予算 も決まったこのタイミングで重粒子線の専門家、平尾先生、吉川先生をお招きで きたのは、偶然ではないかもしれません」と前置きして、その重粒子線治療施設 普及への思いを綴って「それでも、沖縄に今でも執拗にこだわっているのは、沖 縄は、"いのち"というもの、"長寿"というものに対し、日本人全体が忘れようと している文化を大事に持っていると確信しているからです」と沖縄に重粒子線治 療施設の誘致に賭ける思いを吐露し、そして当日のフォーラムを以下のように振 り返っていました。その一部を紹介します。


「考えてみたら、平尾泰男先生のふるさとも兵庫県です。過日のフォーラムの 開催は16日で、偶然、神戸空港開港日です。代読挨拶された沖縄担当大臣の小池 百合子氏も兵庫県出身です。そして、沖縄にサミットを独自の政治決断で誘致し た、小渕恵三元首相のふるさとが群馬県で、群馬大学に重粒子線施設設置予算が 決まった直後、そのサミット会場(万国津梁館)で開催のフォーラムにて、重粒 子線の紹介をすることができました。小渕氏は、最後は順天堂大学病院で亡くな れましたが、私自身、現在、その順天堂大学医学部で本件プロジェクトを医学論 文にしようとしています」


「さらに、大学院大学を尋常でない熱意で沖縄に誘致した、尾身幸次衆議院議 員も群馬県選出、大学院大学事務局長は放医研出身の三木義郎氏です。尾身先生 は一橋大学OBで、今井先生、今回の仕掛け人の内閣府の滝本参事官も私も同じ一 橋大卒。そして、一橋大は、神戸大学と姉妹校(三商大)。兵庫県(神戸)、群 馬、一橋大学と、何か不気味に因縁めいたものがあります。実は、神様が私たち を使って誘導しているのかもしれません」。


いやあ、なかなか熱い思いの人です。 そして、最後には、「出口局長には、 産学連携ではなく、『産学+心+志』連携ということで、引き続きご支援ご指導 をお願いしたいと思います。簡単ですが、挨拶まで。」とありました。


こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いいたします。また、前回ご紹介した平尾 先生からは、お褒めのメールと、「医学博士ではなく理学博士」などいくつかの ご指摘をいただきました。さっそく、DNDメルマガ164回のバックナンバーで 加筆、訂正しました。


さて本日は静岡県浜松市へ。「新たな地域イノベーションを目指して〜産学官 連携でパワーアップする浜松の企業〜」と題した静岡大学主催、中小企業基盤整 備機構共催、それに静岡銀行、浜松信用金庫、三菱UFJキャピタル、浜松市、 浜松商工会議所、浜松地域テクノポリス推進機構が後援する、広域的新事業支援 ネットワークのシンポジウムが開催され、そのパネラーとして参加します。


もう事前に、仕切り役の静岡大学イノベーション共同研究センター助教授の林 正浩さんらと打ち合わせ済みです。経済産業省からは、大学連携推進課課長補佐 の白井基晴さん、中小企業基盤整備機構からは関東支部中小企業・ベンチャー総 合支援センター長の野村秀貴さんらが、それぞれ基調講演などを行う予定です。 開会は、静岡大学から岡本尚道同センター長、閉会はやはり静岡大学副学長で学 術情報担当理事の石井仁さんが登壇する予定です。




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