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記憶の中の昭和

DND事務局の出口です。みんな走って、ゴムを捻ってプロペラを回して飛ぶ、 懐かしの組み立て飛行機を追いかける。飛行機は、グ〜ンと風にのって夕焼けの 空へ舞い上がり、上空から、人々の往来で埃っぽい街が映し出されていました〜 ああ、貧しいけれど夢があった昭和30年代の郷愁、その冒頭のシーンから目頭が 熱くなってくるようでした。


 「人々の記憶の中の昭和を創りだしたい」−話題の映画「ALWAYS三丁目 の夕日」の気鋭の監督、山崎貴さんの仕掛け通りに、あの頃にタイムスリップし ていました。3分に1度の頻度で胸が詰まり、暮色のスクリーンは終始ぼやけてみ えました。


 僕も友達も父も母も車も汽車も空も雲も街も社会も時代も‥みんな急いで走り 抜けようとしていた昭和33年代をモチーフに、当時の東京のシンボル、朱の東京 タワーが徐々に鉄骨の土台から組み上がっていく様子が、戦後の復興の象徴とし て描かれていました。


 ほのぼのする西岸良平さんの人気漫画「三丁目の夕日」(小学館)の映画化で した。三輪車のミゼットが走り、テレビが家庭に入り冷蔵庫が届く。それらの新 しい生活の風景は、きっともっと幸せな明日を約束しているようでした。


 力道山、月光仮面、怪人二十面相などテレビ草々期のヒーローも巷間、溢れか えっていました。東京の四季折々の、そのノスタルジックな街の風景を演出する CG画像の冴えは、リアルですっかり騙されてしまいました。


 一番心を揺さぶられたのは、母親に捨てられて、父親も判然としない須賀健太 君演じる淳之介の心の扉が、主演の小説家役の吉岡秀隆さんとの一緒の生活で、 ようやく開いたかと思った矢先に、不意に現れた金満家の父親らしき人に引き戻 される‐という場面で、そのやり取りは、いやあ、泣かせてくれました。ほどよ いじれったさで、目出度い結末が大きな感動を呼ぶことになります。


 劇場で、淳之介と同年代の観客の男の子が、「あ〜あ、良かった。いい映画だ ったね〜」と素直な喜びを口にしていました。きっと、淳之介をわが身に置き換 えて見ていたから、ずっとハラハラしていたに違いない。この50過ぎの僕だって 実は、その子と同じ目線でした。その結末にまた涙‥。


 両親の離婚、引き裂かれる兄妹、そして一家離散‥その悲しさの塊(かたま り)は、子供ながらにそれを友達仲間に知られまいとする幼い心の奥に潜むらし い。しかし、それがどんなに大きなストレスとなって襲ってきても、耐えて弱音 なんか吐きません。実際は、その悲しみの度合いがまだ理解できないのかもしれ ないが、ともかくそこからは逃れられないし、叫んでもどうにもならないことを 認識すると、それが日常となり、顔から表情が消えてしまう。


 俳優の仲代達矢さんが、日本経済新聞の「私の履歴書」にそんな悲しみいっぱ いの少年時代の体験を思い起こしながら、その赤裸々な半生を綴っていました。 役者だから情の機微を手繰り寄せて読み手のツボを抑えて、ぐいぐい仲代ワール ドに引き込んでしまう。微妙な心の動きの場面こそ、そこはここぞとばかりに丁 寧に息をつめて、そしてその魂を文字に調えていく。舞台演出の魔術師は、眩い ほどのストーリーテラーでした。


その文章のくだりは、こんな具合でした。


「一度も遠足には行かなかった。運動会にも出ていない。おかずたっぷり入った 弁当を持ってくる同級生たちの前で、ご飯だけの弁当箱を開く勇気はなかった。 津田沼のときに懲りている。病気を理由に学校を休み、人目を避けて日暮れを待 った」(27回「学童疎開」)。


「母は、あの人が新しいお父さんだよ、と言う。だが、弁護士には別の家庭があ る。母がどう言おうと、父親とは思えなかった。(略)弁護士が週に何回かやっ てくる。そのたびに私は目も合わさずに外に出た。雨の日も風の日も弁護士が帰 って行くのを、することもなく待っていた。母親が自分から遠ざかっていく。母 を奪われ居場所もなくした」(28回「空襲の下で」)。


「仕事が終わって夕暮れどきに学校に向かう。入れ違いに下校する昼間の生徒と 顔を合わせるのが嫌でならなかった。彼らの視線が自分に向けられているような 気がして、遠回りの道を歩いた」(29回「定時制高校」)。


いやあ、仲代さんのあの憂いのある瞳とぬくもりは、孤独という漆黒の闇を行き 来した少年時代の勲章なのかもしれません。日暮れを待つ、あるいは遠回りの道 を歩く、そういう人の心模様を、あるいは佇まいの理由を知悉しているらしい。 他者を感じる力が強いのかもしれない。


 連載は、こういった不遇な時代を描きながらも本筋は、なんといっても愛妻の 恭子さんの思い出語りに紙面を割いていました。日記や遺書、それらを通じてな んども恭子さんを紹介していながら、肝心の「お別れ」の場面がなかなかでてこ ないのをいぶかりながら、読み飛ばしたかもしれない、いやいや、あえて触れら れないのかもしれない‐と勝手に思い込んでいたら、クライマックスは連載の最 終回に訪れました。限られた行数、その紙面には、書き足せば何冊にもなる沢山 の追憶の中から選りすぐった、そして骨身を削るように磨きをかけた珠玉の文章 が納められていました。


 世田谷の自宅に完成した無名塾の稽古場、その「仲代劇場」の劇場開きは、恭 子さんの死去の2年前でした。恭子さんの挨拶は、「私たちここでお葬式をいた したいと考えています」というものだったそうです。タイトルは「あの日から」 でした。読むと、優しい眼をそそぐ遺影に向かって、朗読のように太く静かな語 り口が耳元に響いてくるようでした。


 もう有名な能登演劇堂での追悼公演は、山本周五郎原作、恭子さんの最後の脚 本となった「いのちぼうにふろう物語」。それは小林正樹監督作品「いのちぼう にふろう」のために書いた映画シナリオの舞台化だったそうだ。江戸・深川の一 膳飯屋は、密貿易が裏の稼業ときて無頼の徒たちが転がり込んできた奉公人の純 愛に心を打たれ、命がけで恋を成就させようとする物語でした。仲代さんの30回 の連載、その履歴からも切ないほどの昭和の記憶が蘇ってくるようでした。


 もうひとつ。銀座博品館劇場では、ファンの小松政夫さんが芸能生活40周年の 舞台があり、先月29日、今月1日の2回、得意のギャクを懐かしく感じながら、笑 いの渦に身を置いてきました。汗だくで恐れいるほど必死の舞台から、芸人の生 き様を垣間見た思いでした。初日より、数日後の舞台の方に勢いがありました。 数々のギャグ誕生の秘話をおかしく紹介していました。何が凄いといっても、 「小松の親分」を越えるギャグは、ない。いやあ〜やはり、傑作です。


 この人も茶の間に笑いを振り撒いた昭和の天才コメディアン、楽屋の王様と呼 ぶにふさわしい。福岡・博多の人は、移り気なのにずっとその持ち味を変えない ところがいい。


ソニー学園湘北短期大学学長で、先月25日発売の「役に立つ落語」(新潮社) の著者の山田敏之さん。それを楽しみながら読んで、読むというより山田さん と会話するような気分で読み進めていたら、昨日、注文の志ん生の全30席を集めた CD11巻が届きました。さっそく「らくだ」の一席を堪能しました。聴いて、 読んで、頷いて、聴いてそして読む〜これは、密かな楽しみになりそうです。

さ〜て、光陰矢の如し、戦後60年の節目は、昭和レトロの話題で持ちきりでし たが、懐かしく、温かい昭和が、実はどんどん遠のいていく。あの昭和はどこえ 消えたのだろうか、と周辺を見渡すと‐

 とめどなく広がる不安。こんどは栃木の小1女児受難。子供を救え。全通学路 に警戒警報。どこに悪魔がひそんでいるかわからぬ。とめどなく深まる不信。姉 歯系欠陥建物以外にも、強度不足の建築物は5年間に2700件、うち1450件が放置 されたままだ〜(素粒子から)。


朝日新聞夕刊のその名物コラムは、世間を震撼させているふたつの事件を、がばっと鷲掴みにし、ほんの数行で表現してくれていました。


 わが子を奪われた遺族らは、事件の本筋とは無関係な興味本位の記事に怯え、 連日押しかけるマスコミ取材に疲労困ぱいで、怒りと悲しみで夜も眠られないに 違いない。かつて栃木県足利市で起きた女児誘拐殺害事件の取材に走り回ってい ました。行方不明となったパチンコ店から死体遺棄場所をなんども行き来し、周 辺の聞き込みに寝食を忘れていました。しかし、自戒を込めて言うと、続報記事 で、鈍器で頭を殴打とか、顔面に殴られた形跡とか、胃の中を解剖など‐って、 書く側が被害者の立場を考えているのだろうかと、疑いたくなります。仕打ちの ような残忍な記事でしょ。こういう記事は読みたくはないなあ〜。黒い乗用車と か、白いワゴン車とか、コンビニの防犯カメラとか、そんな捜査の手の内を公に してどういう意味があるのだろうか?新聞の事件報道は、もっと慎重になって欲 しい。


 耐震データの偽装事件、これは建設業、コンサル、建築士、それに検査機関を も巻き込んだ、未曾有の詐欺事件の様相を呈してきています。50万円以下の罰金 という交通のスピード違反じゃあるまいし、そんな建築基準法違反では済まされ るわけはない。それで金儲したほんのひと握りの連中の、その破綻の影響で被害 が拡散し、その実態がつかめないくらいですから、悪質この上ない。早急な政府 の取り組みはひとまず評価するとして、この手の悪党は、絶対に許してはならな い。


 それにしても、振込み詐欺やリフォーム詐欺、それに新手のデート商法による 悪質な宝石販売といい、偽装といえば、国産牛の表示偽装、医師免許偽装、パス ポート偽装など、それが紳士面して跋扈しているようです。よく観察すると、金 に目がくらんで人を陥れる、そういう輩が徒党を組んで、いわゆる悪のネット ワークを形成して増殖し続けているから、要注意です。


 人間不信になってしまいますが、いろんな方が交流する産学官連携のステージ では、名刺交換する機会が少なくありません。これも要注意です。参加者の名簿 なんか配られると、「先日の○○会でお会いした」と言って先物取引の勧誘の電 話がひんぱんにかかってきます。


 残念ながらこれが、私たちの今のニッポンの現実です。近隣の互助精神が息づ く昭和の記憶は平成の幻想と化しているようですから、悲しいけれど悪を見抜く、 そういう警戒心が必要となってきています。


※さて、お知らせにも掲載しましたが、来週12日は午後14時から、東京・ビル7 階丸ビルホールを会場に、九州大学助教授で全国的な知的ネットワークを主宰す るWINWINの五十嵐伸吾さんがプロデュースするシンポジウム「起業立国: "ベンチャーハビタット"創生のための処方箋」が開催されます。


 DNDサイトで出色の「志本主義のススメ」を連載する経済産業省大臣官房総 務課長の石黒憲彦さんが、いまの立場になって久々の登壇ですから、楽しみです。 どうぞ、セミナー・イベント情報から参加のお申込をしてください。僕も会場に います。これも案内の通りですが、大阪では、明日9日夕刻から、探し出せ!夢 と誇り!「大学発ベンチャーと研究人材のマッチングフォーラム」が予定されて います。近畿経済局、NPOバイオビジネスステーションなどの主催です。大阪 も燃えてますね。行きたいけれど〜。


 大学発ベンチャー関係ではもうひとつ。21日に福岡で午前10時半からアクロス 福岡で、大学発ベンチャー特集の「第74回フクオカベンチャーマーケット」が開 催されます。九州大学、山口大学、北九州市立大学、九州工業大学発のベンチ ャーが登場します。


 そうそう、10日土曜日は、東京大学特任教授の妹尾堅一郎さんがプロデュース する秋葉原のダイビルで、「ツクバ系でいこう。筑波大学発ベンチャーの飛躍の ために」をタイトルに、「筑波大メンターの会」(仮称)の設立を兼ねたキック オフフォーラムが開催されます。要は、筑波大学知財本部の上原健一さん。ツク バ系VSアキバ系という括りは、馴染むかどうかは別として、ユニークな試みで す。つくばエクスプレスの開業で、アキバ発ツクバ系企画が目立っています。


 あとなんか、忘れているような気がするんですけれど‥。あっ、産総研のベン チャー開発戦略研究センター主催の第4回シンポジウム「イノベーションとベン チャー創出〜公的支援によるスタートアップスは成功できるか〜」の大事なシン ポがいま、まさに開催中。いやあ〜急がなくては‥。いつもこれなんですよね。 僕にとっては魔の水曜日なんです。




記憶を記録に!DNDメディア塾
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