◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/11/09 http://dndi.jp/

LOHAS(ロハス)的生活の誘惑

DND事務局の出口です。雲ひとつない秋晴れ、風がさわやかです。オフィスの ベランダから遠くを望むと、気持ちは、あの紅葉の奥日光〜そして露天風呂にの んびりひたって汗を流し、仕立てのいい藍の作務衣に着替えて冷たいソバを食す れば、それはこの上ない至福の時間となります。


 ソバは自分流だから磨きをかけなければなりません。昆布と鰹節でたっぷりダ シをとり、そして無農薬でしかも自前のダイコンを抜いて沢の水で泥を落とし、 すり降ろした辛味の汁、それに畑から取ったネギやミョウガ、シソを薬味にそえ れば、自分への極上のもてなしになるに違いない。ひんやりと風が心地よく空気 もおいしい、そしてとても気分が和らぎます。


 週末は、こんな生活に憧れますよね、これって、いま流行のロハス的生活とい うのでしょうか〜。


 「LOHAS」。いまさら〜もう遅いくらいの、3周遅れの先頭のようだ‐との陰 口を覚悟で、静かなブームから爆発的な社会現象へと変貌しつつあるロハス、あ るいはローハスとも呼ぶ、その周辺を意識してみると、いやはや、この文字、毎 日、目にしない日はない。


 ロハスは、米国で生まれたマーケッティングの造語です。Lifestyles Of He alth And Sustainabilityの略で、ココロと体と地球にやさしいライフスタイ ルのこと‐と前置きして、ロハスの大きな特徴は「持続可能性」という意味の S ustainabilityです。省エネ効果の高い製品を買う、環境問題に熱心な企業に投 資するといった行動をすることで、企業もロハスに取り組むことになります。地 球の環境や社会を持続可能性のあるものにしていくために、日々考え、情報を集 め、行動するのがロハスピープルの基本的なスタンスです、というのは「いきい きロハスライフ!」の著者のイデトシカズさん。朝日新聞の11月3日付けの別 冊特集「be」の「ロハス的生活のススメ」で、イデさんはそう解説していました。


 これはやっかいなことになりました。露天風呂に冷たいソバは、単なる道楽に 過ぎず、それをロハスと一緒にしてはいけない、と戸惑っていると、その半面、 無農薬で野菜を作り、汗を流して体を大切にしている‐という生活スタイルはど こかロハスに通じるところもあるように思えます。その「be」の7面には、國 田かおるさんが、その疑問にズバリ答えていました。


 大切なのは、ロハスに正解はないと知ることです。生活をほんの少し変えて、 健康で快適な生活を心がけることからはじめてみてください、というからちょっ と安心。例えば運動なら、ヨガ=ロハスではなく、「運動に興味がなかった自分 が身体を動かそうと思った」ということが重要。運動を通じて「自分を見直す機 会になっているか」、「健康に結びついているか」、「ウエアや競技が環境配慮 型か」といったことを考えることが、ロハス的なチェックポイントだという。な んだ〜これならかなりいけそうですよね。有用微生物のEMでせっせと畑を作り、 それに藍染の作務衣と手打ちソバなんて、いかにもロハス的スタイルにふさわし いじゃないですか、と、ひとり納得してしまいました。


 國田さんは、NPO法人ローハスクラブ主席研究員で、環境や社会問題を扱う立 場からラジオ出演や雑誌、セミナー講師として活躍しているという。へえ〜NPO 法人があるんだ、と思ってホームページを拝見すると、拠点がなんとDNDの秘密 基地と目と鼻の先にありました。なんか深みにはまりそうです。


 しかし、それにしてもロハスの新聞、雑誌などの露出は連続していて、ロハス 情報が席巻している印象を受けます。日経CNBCが人気番組のビジネストレンドで 「LOHASアカデミー」を紹介し、日経MJのこの夏のヒット番付では「大関」の格 付けをしていました。日経トレンディもひんぱんに取り上げています。 


 ロハスの火付けは、日経新聞の2002年9月21日付けの朝刊で掲載した、消費者 アドバイザーの大和田順子さんの「環境重視の生活 略語LOHAS」、「米消費者、 関連商品で起業」という米国事情のレポートがきっかけだったらしい。まあ、そ の他にもいろいろあるんでしょうけれど‥。


 さあ〜しかし、日経だけじゃない。経済誌の週刊「東洋経済」、続いて週刊 「エコノミスト」も「ロハスに生きる」を特集、月刊「BOAO」は「きれいは、今、 ローハスでつくられる!」、月刊「エル・ジャポン」は「おしゃれなロハス生 活」、30代女性をターゲットにした月刊誌「MYLOHAS」も創刊されています。


 朝日新聞グループも前述の別冊特集のほか、こちらは持ち前の取材力で読ませ ます。昨日発売の週刊朝日では、戦前の東大教授で日比谷公園を設計した林学者、 本多静六氏にスポットをあてて、没後53年、今こそLOHASな静六に学べ―の記事 は、担当した中村智志記者の丹念な取材力と筆力を感じさせる、出色の特集でし た。こういう行き届いた記事を読むと、体が軽くなります。良質の記事は、心の ビタミン剤になるようです。


 その明治の伝説の倹約家とロハスを重ねるところもとても面白く、余談ですが、 昭和27年1月に85歳の生涯の臨終の言葉が、「窓を開けよ、風を呼べ、火を呼 べ」だったそうです。


 この12月号で創刊1周年を迎えた最新号の月刊「AERA English」は、どーん と「街ごとLOHASボルダーライフ」を特集しています。ライターの斉藤真紀子さ んが、LOHASが古くから芽を吹き、街ごとロハス的日常が息づくアメリカはコロ ラド州ボルダーに飛んで、現地ルポ。動きのある生き生きした写真は、カメラの 千葉康由さんで、カラー10ページの大型企画でした。


 街を歩けば、食材が地元産でオーガニック(有機栽培)だから安全で健康で、 そして大地にやさしい「Local&Organic」の食生活を満喫し、環境にやさしく子 育てに理想の住まい、それを支えるのはボルダー市内のエネルギー効率が高い 「Co−housing」で、住民の強い参加意識が豊かなコミュニティを作り出してい るそうだ。そして、車通勤を止めて、街はバスシステムや「Bike Commuting」の 自転車専用道路を充実し、バイクでの経路、所要時間、それに消費カロリーを算 出するネット検索可能な道路マップが作られているそうだ。


 ここは伝統のコロラド大学ボルダー校をはじめ、大学や研究機関が集まる学園 都市としても知られ、住民の学歴が高く環境問題に取り組むサークル活動も活発 だという。昨日の日経の終面の「交遊抄」は、慶応義塾大学名誉教授の上原喜代 治さんが、かつての共同研究者で今回ノーベル物理学賞を受賞することになった 米国のジョン・ホール氏との、その研究生活の場がボルダーにある国立標準技術 研究所だった‐と懐かしんでいました。


 そんなロハスな街に住んでみたくなりますね。街起こしの原則がここにいっぱ い散らばっているような気がします。どこに金をかけるか、あるいは住民の意識 が街の姿を的確に映し出すのかもしれません。ロハス宣言都市‐なんてどこかが やりそうですね。しかし、ライターの斉藤さんが、LOHASについて聞くと、会う 人ごとに「ローハース?」と逆に聞き返された‐という。ロハス的生活が、すっ かり日常に溶け込んでしまっているようでした。


 もうひとつ、雑誌のなかでも本腰を入れて毎号特集を組んでいるのは、月刊 「ソトコト」です。LOHASを実践してますか?健康的で持続可能なライフスタイ ル、それがロハスという生き方です。今回は、森と音楽の特集―というコピーで、 12号は「Lohas/森の音楽」を前面に押し出しています。


 イベントも盛んで、先週は東京・神宮外苑でソトコトとFMのJ−WAVEと共催の ライブなどを中心にした「ロハス・コンテナ・ヴィレッジ」を開催していました。 そして新たな企画は、ヒト・モノ・コトの豊かなデザインを探求する「ロハスデ ザイン大賞2006」という顕彰制度まで飛び出してきました。それらの情報は、 有限責任中間法人ロハスクラブのホームページに掲載されていました。ロハスっ て何?の問いに答えた「Lohas/book」が月刊ソトコトと電通LOHASプロジェクト の共同企画で発売されたばかりです。


 ここまでくるといもうヒットを超えて一大ブームの気配ですね。そのロハスの 波は、ついに身近な周辺にまで及んでいます。知人で筑波出版会代表の花山亘さ んがプロデュースした出版企画「脱・亜健康宣言!」(発売元は丸善株式会社)、 もう来週中には書店に並ぶようですが、その帯に「生活を楽しむLOHASなあなた の新・養生訓!」とあります。本は、EMウエルネスセンター副センター長で医 学博士の柯淋(カヒン)さん、それにソトコト編集委員で元TBSの敏腕プロデュ サーの小谷章さんお二人の共著となっています。


 「亜健康」という概念を問う医学博士で、琉球大学教授でEMの開発者の比嘉照 夫さんの指導を受ける柯淋さんと小谷さんの強烈な異色のタッグは、ロハスブー ムにまた新たな話題を提供してくれそうです。


 しかし、どこで何がどう結びつくか、不思議です。静かでスローなロハスブー ムの陰で、ロハスを語りながら猛スピードで世の中を走り抜ける人たちの生き方 には、自戒も込めて同情を禁じ得ません。しかし、その一方で団塊の世代のNPO に動く人たち、静岡県のたぬき村の池田庭子さん、富山県・八尾町でアイ・フ ィール・ファインを主宰するアロマセラピストの長谷川由美さんらは、環境、 オーガニック、教育、それにコミュニティという共通に掲げるテーマからしても、 その生き方にしても、すでにロハスなスタイルを確立されていることに気がつき ます。もう、それは自然と流れていく、新たな時代の方向を暗示しているのかも しれません。


 話は変りますが、本といえば、前回のメルマガへの感想は、かなりの反響を嬉 しく拝受した中に、神奈川県厚木市にある学校法人ソニー学園、湘北短期大学の 学長の山田敏之さんから「私も大の落語ファンで文楽、志ん生には目がありませ ん。いまだにこういう古い噺家のことばかり語るのは、『文志ん爺』と若い人か ら疎まれそうですがしかたありません。近々そんな落語狂のたわごとを書いた 『役に立つ落語―ソニー・エンジンニアが名人芸から学んだこと―』を新潮社か ら出すことになりました」という近況の報告がありました。今月25日の発売だそ うです。


 それはとても楽しみです。さて、名人芸とかけてエンジニアと解く、そのココ ロは?う〜む、もっと(MOT)も高座(講座)の経験がモノを言う!ってのは‥ 失礼しました。今度、山田さんにも聞いてみよう。


 これも奇遇ですが、高知工科大学教授から大阪市立大学に転籍された前田昇さ んは、山田さん同様、ソニー出身でした。米国ソニー企画担当副社長、欧州ソ ニー戦略担当ディレクターを歴任された異色キャリアの持ち主で、つい先日、そ の前田さんとは初対面ながら、いきなり「出口さんは落語評もやるんですね」と メルマガの話題になり、同じソニーつながりで山田さんの本のことを話題にさせ ていただきました。


 その夜、前田さんから贈呈された書籍は発売元がやはり丸善で「ベンチャーと 技術経営」のMOTテキストでした。「日本型MOTのあるべき姿を具体的に提示す る」と力強く、編集委員長に一橋大学大学院教授で国際企業戦略の本質を問う野 中郁次郎さん、前田さんと富士通総研の安部忠彦さんが責任編集に携わっていま した。


 前田さんとはご専門のスピンオフ革命に議論が白熱し、こっそり「どうかして 博士号を取得しておくべきですよ」と耳打ちされました。ありがたいお言葉、こ れから週末はロハス的生活を考えて一茶庵風のソバ打ちをやろうとしているのに、 ちょっと気持ちがぐらついてしまいました。


 そこを踏ん張って、今週末は、紅葉の奥日光へ飛んで、熊笹をいっぱい刈り取 ってきます。何をするって?それを天日干しで乾燥させて煮出して、歯周病の予 防に効果があるといわれる熊笹エキスを作ることにしているんです。面白そうで しょう。忌まわしい糖尿病と歯周病、字の形がどことなく似ているばかりではな く、どうも相関があるらしい。医学の本には、糖尿病の専門医と歯科医の双方の 連携が必要と指摘されていながら、現実はちょっとそんな気配がみられないのは 残念です。


 自然の野山を歩いて汗を流し、腰をかがめて熊笹を獲る‐それだけでも健康的 な響きが感じられます。心地よい生活を大切にしたい‐振り返れば、今年はいま までの自分とはまったく別人のようでした。まず1月の禁煙は継続中、4月から朝 晩の散歩、それに、南高梅を購入して梅干と梅酒づくり、塩ラッキョを漬け込ん で、青森のニンニクを醤油漬けにし、その一部を味噌漬けにし、この秋は、利平 栗を剥いて渋皮煮を大鍋いっぱい作りました。


 指先やツメの間が痛くて我慢できないくらいなのですが、これが実は、最後ま でやり遂げないと納得がいかないから、途中で止められない。狭いダイニングで、 大小様々な広口ビンがいくつも並び、あれからじっくり熟成の時を静かに刻んで いる‐と思うとなぜか、心が豊かになってきます。時間がたって保存が効いて旨 味が増すなら、ひょっとして内のあれも漬け込めば‥冗談です、そんなことをし たら怪談です。怖い怖い〜。


 こんなデジタルな日常から少し距離を置いて、やれば面倒で平凡な手作業に長 らく無心になれる、なんともその感覚が新鮮です。どうか、皆様のロハス的快感 も伝えてください。


※さて、本日の石黒憲彦さんの連載企画「志本主義のススメ」第27回は、「優良 企業の経営者はカリスマ経営者か」(1)です。本文中の「九徳の逆」の説明が とても面白く、人物評の参考になります。春からコンスタントに毎週続けて27回、 いよいよ佳境に入り、文章にリズムがでてきて、筆の走りが一段と冴えわたって いるようです。ご堪能ください。一押しです。また、大学発ベンチャーIPO100社 の連載を担当している野村證券の平尾敏さんの連載は、誰もが気にしてきた「大 学発ベンチャーの経済効果」の難題に切り込んでおります。データ処理が巧みな 力作です。ご感想をお待ちしています。


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