◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2005/10/05 http://dndi.jp/

第2フェーズの産学官連携

DND事務局の出口です。それは遥か遠い昔のようで、もう後戻りできなくな りました。ふりむくのは、ちょっと怖い。どっちに進むか、その先が見えてこな いから、ただ夢中で目前のハードルをひとつひとつ越えてきた感じがします。走 りながら打つDNDメルマガは、この10月でまる3年を迎えました。


 「その気になったら3年では短く、5年続けねば見えるものも見えてこないだ ろう。いかにスピード時代でも、一事に精通し、その道のベテランになるには、 少なくとも10年はかかると腹を据えるべきである」という昨日4日の日経夕刊 の1面の、作家、佐江衆一さんのコラムは、安易な己の自負を木っ端微塵に打ち 砕いてくれました。まだまだ道半ばのようです。


 読み返すと、冷や汗がでてきます。それでも幸運なのはこの3年余りで様変わ りした産学官連携を取り巻く動向を、そのスタート前夜からつぶさにウオッチし てきたという事実です。


 日本知財学会、大学発バイオベンチャー協会、NPO産学連携推進機構、CI C東京・関西、UNITT(産学連携実務者会議)、弁理士知財支援ネット、弁 護士知財ネット、産学官連携コーディネート会議、コラボ産学官、秋葉原クロス フィールド、丸の内アカデミック・スイーツ、知財本部、TLO、産学官連携サ ミット、産学官連携推進会議、日本バイオベンチャー大賞、NPOつぐみつくば、 NPO産学連携学会、東京MOT6大学連合、産学連携研究会、大学「知」のE XPOイノベーション・ジャパン、あるいは大学発ベンチャー1112社‥。


 その組織や団体、ネットワークを切り盛りする推進役の顔が浮かんできます。 いずれもこの数年の間に新規に設立された関係団体、会議の一例です。DNDも そのひとつです。が、提唱者の経済産業省大臣官房総務課長の石黒憲彦さんらの 着眼には、感心させられます。


 それぞれが自立的な回転を始め、それによって最新の研究成果や先進事例が 次々と溢れるように生まれ、そして最早それらの多くを俯瞰して全体を掌握する のが難しくなってきているほど、産学官連携のうねりは、全国規模のブームとな ってきています。  


 そこでDNDの産学官連携情報や企画連載をクリックすれば、産学官連携の推 移と関係組織の系譜、あるいは中心的に活躍されている人たちの様子が浮かび上 がってきます。大学発ベンチャーの企業情報も550社、どこの地域からどんな 大学のベンチャーが設立されたかが、分かります。そんなサービスも用意してい ます。


 このメルマガのバックナンバーもその歴史の一端を綴ってきました。情報満載 で、その蓄積は膨大なボリュームになります。それらの情報が、インターネット のウェブ上に放出され、いつでもどこからでも検索可能なのだから、自分がいう のも何ですが、その媒体力は頼もしい。


 いままでなら、忘れ去られる人と人の連携のちょっといい話や、それらの人の エピソードが、メルマガで取り上げることによって後世長らくその様子が伝えら れるメリットは計り知れない。そのつもりで、文中に多くの人の肩書と名前を入 れ、講演のタイトルや内容を細かく掲載してきました。


 先の大学「知」のEXPO、「イノベーション・ジャパン2005」は、3日 間、300の出展と3万人の来場者を越えて盛況でした。が、どこの新聞を開い ても記事が見当たりません。知り合いの新聞記者に取材を要請すると、主催が日 経BPだからといって腰が引けていましたし、主催の関連媒体では、東京テレビ (12ch)が放映していたものしか目に止まりませんでした。せめて小宮山宏 東京大学総長、古川勇二東京農工大学大学院教授らの講演やフォーラムは、フォ ローしておくべき内容でした。


 新聞が扱わないのは、なぜなのか、ニュース価値がないからなのか、各新聞社 に情報が伝わっていないのか、あるいは新聞社サイドの問題なのか、ここはじっ くり睨みを利かせなくてはならない重要な課題ですね。


 さて、産学連携の地域展開について、2から3紹介します。


 猛暑の夏。三重県・鳥羽市は、三島由紀夫の『潮騒』の舞台となった神島での 産学官連携のモデルをメルマガで取り上げました。すると、週刊誌「AERA」 編集部から原稿依頼が舞い込んで、糖尿病患者への癒しの旅のプログラム作成と 患者らの対応にあたった三重大学の医学部付属病院の医師・住田安弘さん、発案 者で同病院の栄養主任、岩田加寿子さん、それに運動指導にあたる教育学部助教 授で日本オリンピック委員会の陸上強化スタッフの杉田正明さんらの活躍ぶりを 現地のルポをまじえて紹介しました。


 大変な反響がありました。鳥羽市のまちづくり課の山下正樹係長によると、全 国から電話や問い合わせが殺到し、東京・首都圏をカバーする人気のFM放送J −waveが放送し、地元テレビやラジオからの取材へと繋がっていったそうです。 3回目のツアーは11月18日から3日間の予定で、昨日から募集を始めていま す。


 発端は、三重大学創造開発センターの菅原洋一助教授でした。もっと言えば、 産学連携コーディネータの松井純さんが橋渡しをしてくれていました。メルマガ でちょっと紹介すると、それなりの反響があって媒体が連鎖するというのは、


 産学官連携には、ニュース素材がいっぱい詰まっているということの証と思い ます。地域には、地域なりの特性があって、それを活かすには、今、大学の動き に期待が高まってきていて、大学側も昨年4月の国立大学法人化の移行に伴って、 社会へ、地域へと流れているように映ります。


 そんな動向を捉えて、産学官連携の第2フェーズへ、そして地域へ〜とのメッ セージを伝え、新たな方向性を示唆しているのは、わが国の知的財産戦略を先導 する内閣官房の荒井寿光さんでした。


 先のイノベーション・ジャパン2005でのフォーラムで、「知的財産と産学 官連携」をテーマにスピーチしていましたが、きっちり60分、私見との断りを 入れて産学官連携の新しい段階の事例を紹介していました。


 第2フェーズに突入したという、その意味を知的財産が「取得」から「活用」 へ、「大企業」から「地域」へ、「中小企業」へ、さらに「国内」から「国際」 へと変化している、と説明していましたが、そう言ったすぐ後で、ニュアンスを 変えて、「大企業」から、加えて「地域」へと、その「加えて」を付け加えて、 いずれにもという複合的で重層的に広がる、産学官連携の構造的側面を強調して いました。AかBか、あるいはAからBという風に決め付けずに、Aに加えてB −とするところが、荒井さんの見識です。


 地域のモデルとして紹介したのは、以下のふたつ。


 「イカを活かす」とは、しゃれではなく北海道函館の特産のイカを素材に生き たままパック詰めする鮮度保持技術、イカの墨をプリント用インクに利用する技 術、イカの目玉成分の化粧品に利用する技術などの開発を、北海道大学、公立は こだて未来大学、函館高専、地元の水産会社や肥料会社、それに道立工業技術セ ンター、水産試験場が産学官共同で進めている、という。産学連携ウオッチャー としては、是非一度、現地確認が必要です。


 次は津軽海峡を南下して、青森のホタテ。ローカルな潮の香りがぷんぷんする ところがたまらない。八戸工業大学工学部がホタテ貝を有効利用したシックハウ ス対応の健康内装材を横浜市のベンチャー企業「チャフローズコーポレーショ ン」と共同で開発、製品化成功した‐というから凄い。また、水虫の治療薬の特 許化にも乗り出しており、アメリカに特許出願中。「いやあ、それで初めてアメ リカ人にも水虫がいるということをしりました」と荒井さん。


 ポイントを抑えて笑わして、会場の空気をつかむのがうまい。6日は産学連携 学会の学術シンポで前法政大学総長の清成忠男さんらとゲストスピーチ、パネル 討論に参加、翌7日にも大学発バイオベンチャー協会の総会の席でもスピーチさ れる予定です。


 人気の知財戦略の語り部は、どんな場所でも肩の力を抜いて励ましてくれるか ら、その周辺はいつも明るく、みんなが集まってくるのかもしれません。大学連 携推進課長の中西宏典さんは「荒井さんが居てくれると安心ですね。凄い人で す」と絶賛していました。ここ数年、ずっと拝聴していますが、スピーチ内容は、 会場の聴衆に応じてバリエーションを持たせているようです。地域での具体的な 取組みに言及したのは、知っている限り初めてでした。いよいよ第2フェーズへ というメッセージは、あるいは覚悟の宣言なのかもしれません。


 余談ですが聞くと、荒井さんは長野県中野市の出身です。信州人の気概、勤勉 で好奇心旺盛、そして人と人をつなぐ善意の人柄‥その特性から産学官連携のス テージにふさわしいのかもしれない。産学連携学会の初代会長で九州大学教授の 湯本長伯さんは、小布施の出身です。名古屋に本社を構えるEM総合ネットの宮 澤敏夫社長は上田市、日本のモノづくりを支える日本科学機器団体連合会の技術 委員長で、先月、産学連携研究会を立ち上げた下平武さんは飯山市でした。


 その下平さん、イノベーション・ジャパンの会場でご挨拶した際、科学技術振 興機構(JST)の理事である北澤宏一さんの学識、キャリアに触れて、「出口 さん、知っていたほうがいいですよ」とアドバイスしてくれていました。数日後、 下平さんから北澤氏著の「科学技術者のみた日本・経済の夢」(丸善)が送られ てきました。日本の科学者が果たすべき地球ネットワークの夢、その実現への思 いが伝わってくる内容でした。


 同封に、「北澤氏は田舎の中学の後輩という縁でお付き合いしています」と添 え書きがありました。下平さん、北澤さんの故郷、飯山市は、荒井さんの中野市 と近い。略歴をのぞくと、荒井さんは早生まれですが、北澤さんとはどうも同年 代のようです。1966年、北澤さんは東京大学理学部卒、荒井さんは東京大学 法学部卒、1996年に北澤さんが東京大学工学部教授として、ご専門の超伝導 科学技術賞、日本応用磁気学会論文賞を受賞していた時期に、荒井さんは旧通産 省キャリアとして活躍し特許庁長官に就任していました。


 信州の知的人材輩出の背景には、一体何があるのか、興味が尽きません。長 野県、恐るべし‐です。



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