DND事務局の出口です。いつも恐縮ばかりして、言葉を選んで、控えめにし ながらも、この4月号でなんと通巻300号、編集長の野村幸男さんが、さらっと金 字塔を打ち立ててしまいました。タウン誌月刊「渡良瀬通信」(旧みにむ)。いつ 廃刊になってもおかしくない‐とささやかれ、いいふらされ、自虐的に吹聴して いた時期もありましたが、どっこい生きのびて、意外としぶとく、創刊から走り 続けて25年、1号1号の積み重ねの結果です。
取材エリアは、雑誌の名前の通り、栃木県・足利市、それに群馬県・桐生、太 田市を中心とした渡良瀬川流域の両毛地区です。県は違っていても絹織物で栄え た歴史的背景はよく似ていて、人の行き来は盛んで、交流は深い。東武伊勢崎線、 JR両毛線、国道50号線で結ばれています。そして、「〜するん?」、「〜して るみたいん」の語尾のトーンが上がる、言葉の癖、訛りは共通しています。なん か、この地域コミュニティを分断する行政区域の「壁」がなかなか低くならない。
創刊から4年目、通巻43号から、実は、産経新聞足利通信部の記者として、 当時の「みにむ」に連載「世相百話」を書き始めていました。世相百話は、足利 在任中の3年余り、30回ほど続きました。コラムを担当した記者に朝日新聞の林 秀起さんがいました。得意の行政ネタもっぱら題材にし、ベテランの味をだして いました。タイトルが「ここだけの話し」でした。ずっと、ボランティアでした。
地方都市の部数1万部の小さなミニコミ誌です。地域コミュニティの創出とい っても、疲弊した地方都市の現状からは、その先は暗い。人口流出や地場産業の 低迷などで広告や協賛に依存する、タウン誌の経営は大きな曲がり角にきている 感じがしてなりません。300号の節目に贈る言葉は、「さてもう一度、原点に還 って、もうひとひねりが必要です。楽しみながら、次の妙手を考えて欲しいと思 います」というものでした。
次の妙手?その隠し玉は、地域経済活性化への提言を意図して発刊された「地 域新生のデザイン」(東大総研刊)でした。新生へのヒントや具体的な事例が紹介 されていました。著者は3人、内閣府「動け!日本」プロジェクト主査で、東京大 学大学院教授(俯瞰工学部門担当)の松島克守さん、経済産業省大臣官房会計課企 画調査官で九州大学客員助教授、それに経済産業研究所コンサルティングフ ェローといくつもの顔を持つ坂田一郎さん、そして三井物産の論客の一人で、建 機・産業システム部生産設備システム営業部の濱本正明さん。
記者として地方都市を経験した立場からすれば、本文の第1章「地域経済の苦 悩と挑戦」は、ドキリとさせられました。このままの状況を放置しておくと、地 域経済圏は時間の経過とともに次第に空疎なものとなり、再生へのハードルが高 くなって行く可能性が高い‐と指摘しています。
「たまたま事業所や工場が互いに隣接して立地し、物理的な集合体があるよう に見えるだけであって、実態は、個が近い場所に散在しているだけに過ぎない。 (中略)知識化経済の下では、知識の生産や濃縮が効率的に行えない地域は、付加 価値の高い事業を惹き付けるだけの競争力を持たない」という。
成長する都市、街に活力がみなぎっている都市の例としては、産学官連携が日 常化し、大学発ベンチャーの創出に勢いがある京都市、静岡大学、浜松医科大学 を核としたクラスターづくりに挑む浜松市などを調査、分析していますから、一 読するだけで、わが市、わがエリアに欠けている視点、取組などが浮かび上がっ てきます。
あとがきには、「地域新生への提言」が箇条書きにしてありますから、これも わかりやすい。坂田さん持論の「壁(縦の仕切り)」と松島さんが実践する「横の 連携」がキーワードです。大学発ベンチャー、そして大学の役割が明確になって きます。産学官連携の各種支援、経済産業省などの新たな取組みなども紹介して います。これは必携です。
そうなんです。地方記者は、事件や市役所を専門に回りますが、新技術へのア プローチ、先端的な会社の取材はなかったし、大学の研究室には一度も足を運び ませんでした。ネットワーク構築といいながら、気分の合う、自分の都合のいい 仲間づくりばかりで、新たな人の参加を妨げ、流入を防ぎ、知識の交流を阻むな ど、それが知らず知らずに城砦のような「壁」を築いていたかもしれません。い やはや、目からウロコでした。
地方記者の取材回りも最近は、徐々に変化しつつあります。北海道の北端、・ 稚内支局長の盟友は、風力発電の新技術がらみで足利工業大学で開催のセミナー の取材に飛んできていました。だから、タウン誌もこれまでのようなサロン風の 情報から、地域クラスター形成への参画、そして地域を見る確かな視点、「地域 新生のデザイン」感覚が求められるような気がしてなりません。
さ〜て、いよいよ来週25日は「愛・地球博2005」開幕です。地域新生の ヒントに、名古屋ブームの仕掛け人、岩中祥史さんの近著「名古屋人と日本人」 (草思社刊)があります。
名古屋の企業の売上は上昇一途、リストラなしで経常利益も史上最高を毎年更 新、工場はフル稼働、有効求人倍率も下がらない。デパートは盛況、個人消費は 伸び、高級ブランドがどんどん売れる‐この名古屋の元気の秘密はどこに?なぜ、 いま名古屋?といった思いを、他の地域の人たちは抱いているにちがいない‐と 指摘して、その取っておきの秘策は?その難題を解き明かしていました。