DND事務局の出口です。デジタル・レボリューションは、ひとりひとりが自由 自在にコンテンツを操り楽しむ世界、それは見方を変えればデジタルによって、 人々が自由を手に入れるデジタル・デモクラシーの実現ということになるでしょ う‥これは、新春早々、ラスベガスで開催の国際家電見本市「CES」でのヒュー レット・パッカード社(HP)のカリー・フィオリーナ会長の冒頭の挨拶でした。
スレンダーな美人ながら、やることは大胆で凄腕の評。HPの最高責任者という 立場にあって、業績不振の同社を再建し、現在、シリコンバレーを代表する女性 エグゼクティブとして家電業界でも有名で、その人気ぶりはマイクロソフト社の ビル・ゲイツ会長に引けを取らないらしい。その講演の前には長蛇の列ができて いたそうです。
それにしてもレボリューション、革命という大仰な言葉遣い、デジタル・デモ クラシーという表現力、う〜む。これらデジタルなコンテンツ産業は、日本のお 家芸と認識はしていましたが、カリー・フィオリーナ会長のような強烈なメッ セージは、そうそう見当たらない。その意味するところが、よ〜く伝わってきま す。本年は、デジタル・レボリューションが一気に爆発しそうな予感がしてきま した。
そのCESの開幕に合せて、ソニーはその5日、携帯型ゲーム機のプレイステー ションポータブル、そうです、あのPSPを米国で初公開した‐というニュース が目に留まりました。巨大な展示会場での戦略説明会、その様子を日経産業新聞 の藤原豊秋記者が伝えていました。〜前夜祭までの段階で地元記者らが最も注目 したのは、PSPだった。「単なるゲーム機ではなく、音楽配信や映像再生の新 たな基盤になる」との触れ込みに、「アップルの携帯音楽機器iPodの強力な挑戦 者が現れた」と見る向きもある。〜その会場では、日本人を捕まえて、先行発売 された日本での評価をただす人の姿も見られた‐という。
日本での評価をただすって?風評じゃしょうがない。実際にPSPを試してみ ないといけない。いつもそうなのですが、この手のニュース、アニメやゲームと いった好き嫌いのはっきり分かれるジャンルの評価って、実際に楽しんいるユー ザーの声が反映されにくいし、使って遊んでみなければ読者を納得させられない のに、案外、やらない。しかし、この分野は、やる人とそうじゃない人の落差が 大きく、やる人は、まさに病的なほどのマニア、いわばオタク系、やらない人は、 まったくその動向すら感心がないから、一般的な評価が難しいんですね。
経済産業省の新産業創造戦略で打ち出した「世界を勝ち抜く先端産業群」の4 分野の中に、@燃料電池A情報家電BロボットCコンテンツ‐と位置づけており、 ものづくりと同様にコンテンツ分野は、「情報家電と一体となって今後、大きな 成長が期待できる分野であり、企画、原画、動画、撮影など多段階の工程の擦り 合わせといった強みを併せ持つ」と指摘していました。まあ、資金調達などの課 題も多いんですが、最も深刻なのは、手にとって遊んだことのない人たちが、あ れやこれや一般論で、コンテンツ産業をいじくることなのかもしれません。並ん でチケットを買い、時間を待ってネットで予約し、日本のコンテンツビジネスを、 お金に多少余裕のある大人がもっと楽しんで、サポーターになることかもしれま せん。日本のゲームは、アメリカの映画産業なのですから‥。
そのPSP、昨年12月12日の発売初日には、出荷の20万台が売り切れ、 翌13日正午、ネット販売の予約受付を開始し、3分で締め切ったというほどの 超人気商品というより、品薄感が広がっていますが、優秀な我がDND事務局のス タッフは、ネット予約で見事にゲットしました。本体価格19,800円。
さっそく、「みんなのGOLF」で腕試し。黒のボディーの左右に簡単なコント ローラー、なにより中央の液晶画面が鮮明で、遂にここまで‥と恐れ入るほどパ ノラミックなワイド感が爽快な気分にさせてくれます。ひとりでも複数人でもプ レーができるから、ひょっとして、これは革命かもしれない。
そして、続いて購入したソフトは、なんとゲームセンターでコナミ(株)が展開 するマージャンゲーム機「麻雀格闘倶楽部3」のPSP版。ゲーセンにいけば、 最近は、どこでも設置してあります。ICカードとネットワークを生かして、全国 のゲーセンで客同士がリアルな対戦が可能で、対戦成績の詳細なデータが保存さ れます。勝ち進めば、10級から8段の昇進があり、そして称号の最高位は「黄 龍」なんです‥どうして詳しい?って、実は、1昨年からその対戦ゲームに参加 し、本年正月に、ついに「黄龍」の位をゲットしたからでした。いやはや、その 段位昇進の際の、画面の音響、演出のすごいことといったら、これはたまりませ ん。まあ、ゲームを長い時間かけてクリアする快感は、まだ見ぬエンディングの 隠された演出の驚きと興奮からかもしれません。「ファイナルファンタジー」も 「ゼルダの伝説」も、パチスロの人気機種「北斗の拳」でさえも、いやはやそこ はクリエーターの腕の見せ所なんでしょうけれど、凝ってますね。そのエンディ ングを見るためにやっているのかもしれないと錯覚することもしばしばです。き っと、クリエーターらも、「ついにここまで完成したぞ、あとは‥」って凝りに 凝っていくのかもしれません。
酒を控えて、ゴルフを辞めて、仕事帰りのささやかな楽しみが、200円から 500円で遊べるゲーセンでの麻雀でした。暗〜い、感じですね。でも、すっご くエキサイティングなんですって!しかし、PSP版ソフトの登場で、それが、 今度はいつでもどこでも可能なんです。そして、いくら遊んでもお金がかからな い〜。
デジタルによって自由を手に入れる‐その通りかもしれません。ゴルフも麻雀 もいままで、ひとりじゃできない、やってもつまらない‥しかし、ひとりでも遊 んで楽しめる、そんなゲーム機が、ソフトが続々登場しています。任天堂の「ニ ンテンドーDS」も好調で、まだ手元にはありませんが、是非、試してみたい。
初代ゲーマーといえばいささかオーバーかもしれませんが、振り返れば、昭和 50年当初のインベーダーゲームから始まって、任天堂のファミリーコンピュー ター、いわばファミコンから、そのソフトのマリオへと移って、ゲーム機の購入 は、任天堂がファミコン、ディスクシステム、スーパーファミコン、ゲームボー イ、ニンテンドー64、SEGAがゲームギア、セガサターン、ドリームキャスト、 ソニーがプレイステーション、プレイステーション2、そしてPSP、NECがP CエンジンDUO‥と、ひととおり網羅してきました。今後もそれらの次世代の ゲーム機が続々、誕生してくるようです。
「ファミコンやプレステが登場し、ゲームソフトは日本の一大産業へと成長し ていました。ゲーム機の世代交代は、ゲームクリエーターに大きなチャンスとチ ャレンジを与えてくれます」(日経新聞)と語っていたのは、コーエーの最高顧 問の襟川陽一さん(54)でした。そして、プレステ2の次世代機向けゲームの 開発を宣言し、新ゲームは「故・黒澤明監督の遺稿基にした映画『鬼(仮称)』を 題材に開発します。出版、音楽、携帯電話向けコンテンツなども同時に展開しま す」といい、今後のコンテンツ産業の流れは、「複合化」と断じていました。P SP版のソフトも年末から正月に「決戦V」のソフトのCMを盛んにうってい ました。買わなくっちゃ。
襟川さん、懐かしい名前です。襟川さんが栃木県足利市で起業し、光栄と称し ていた当時、そのいきさつを取材したことがありました。連載企画シリーズ「U ターンの軌跡」でした。ゲームメーカーとして成功する、そのきっかけは、歴史 ある実家の繊維問屋の倒産からで、その失意の陽一さんの誕生日に、奥様で現会 長の恵子さんがプレゼントした8ビットのパソコンでした。取材の当時、32歳 でしたから、もう22年前、僕も30前だったんですね。その後の活躍は、業界 トップ10の上位に常にランクインしていますから、すごいことです。「信長の 野望」−知っていますか?昨年、それこそ20年ぶりに、小生の大学の恩師の パーティーでご夫妻と偶然、ご一緒しました。おしゃれで、お似合いのベストカ ップルは、ひときわ輝いていました。
襟川さんときたら、もうこの人を取り上げないわけにはいきません。天才ゲー ムクリエーターの広井王子さん。もう50歳になっちゃったんですね。浅草出身。 ナイスな人柄です。もう15年前くらいに、現役から一線を退いた感のNECア ベニュー相談役、村上隆一さんが、小生の浅草支局(下町支局)赴任に伴って、 「大切な人を紹介します」と、その穏やかな語り口で、わざわざご一緒してくれ た先が、広井さんのオフィス、浅草・千束の秘密基地「レッドカンパニー」でし た。パソコンの画面から、試作の動画が動き出し、雷門あたりから地割れして浮 かび上がるロボット‥あれが、伝説の「サクラ大戦」だったんですね。以来、広 井さんや番頭格の小林正樹さんらとは、いい仕事をご一緒させていただきました。
そのクリエターとしての才能は、並みじゃありません。意識を宙に置けば、そ こからどんどんイメージが広がり、ストーリーが構築され、付随する舞台、音楽 などの演出も一緒に、それも団体で登場するから、メモを取る手が忙しい。
その「サクラ大戦」。原作が広井さん、脚本が超人気のあかほりさとるさん、 キャラクターデザインが藤島康介さん、そして音楽は田中公平さん‥と豪華な顔 ぶれで、セガサターン用のゲームソフトとしてミリオンセラーを記録しました。 その続編も好調で、ゲーム機は、セガサターンからドリームキャスト、最近は メーンをプレステーション2としていますが、シリーズがそれぞれ4から5本を 数えており、まだまだ続行中です。広井さん風にいえば、ゲームは眠らない、シ リーズは止まらない〜。
ゲームの中で展開される劇中劇を、今度はそれを舞台にしたらどうだろう?と の問いかけを受けたことがありました。まあ、広井さんの空想の世界は、夢想に 近くて、凡人には理解が困難ですが、分かる人にはちゃんとわかるし、それがた ちまち、きちんと現実になって仕上がるから不思議です。
「サクラ大戦歌謡ショウ」、夏は新宿の厚生年金会館で、新春歌謡ショウは、 東京・渋谷の青山劇場で開催続けています。
この新春。久しぶりに行ってきました。サクラ大戦帝国歌劇団・2005年新 春歌謡ショウ・笑え!花組、作・総合プロデューサーが広井さん、音楽監督は田 中さんの名コンビ、それに舞台には、当初から馴染みの横山智佐さん、折笠愛さ ん、高乃麗さん、西原久美子さんらアニメで人気の声優さんが、踊りに歌に、コ ントにと舞台狭しと走り回っていました。舞台の演習が進化し、声優さんらの歌 が、ほれぼれするくらい聴かせてくれます。会場は、コスプレの十代から親子で の観劇とさまざまでした。役者さんらのセリフの随所に広井節が光ってました。
「切ないときも悲しいときも歌を口ずさもう〜」、「ひとりよりみんなの方が いいよ。仲間なんだから」、「新しい事をするとき、新しい人に古い人の支えが 必要だよね」、「人生辛いこともあります。生きていくことは大変です。だから 笑いが必要です」。
ぱ〜っと華やかなんですが、情があるんですね。ゲームでも舞台でも、そして ラジオのパーソナリティーとしても、いつも若い人への激励のメッセージを忘れ ない。それが、広井ワールドなんですね。
日本のコンテンツ産業は、モノづくりと一緒で、製作のあちこちで、多くの職 人っぽい極め技術が息づいているようです。ゲームは、文化です。日本特有の文 化ならば、みんなで楽しむことがなによりの施策かもしれません。みなさん、P SPやニンテンドーDSを手にとって遊んでみましょう。海外に出張の際は、持 参して、海外の要人から「それ!何?」って聞かれたら、ちゃんと操作して見せ てあげて、「これが、デジタル・デモクラシーです」と得意げに胸を張れば、成 功です。それこそ、生きた戦略です。