◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2004/ 2/25 http://dndi.jp

東海岸からの報告、後編。ベンチャラスな稲坂令氏。

DND事務局の出口です。続編を受けて、今回は米国東海岸の後編の終章ですが、米国東海岸ばかりに目奪われてはいけませんので、やはり西海岸情報も欠かせませんから、DNDトップページに明日26日からJETROサンフランシスコ発情報として、JETRO駐在の中山亨さんによる「シリコンバレー最前線」がスタートします。ぐっと抑えの利いた秀逸な原稿が届いています。ご期待ください。さて、再び東へ。


ワシントンDCから西へ、日本からの初日に降りたダレス空港方向へ戻る形でバスに揺られて40分、バージニア州のやや南に位置するFairfax市、その郊外。周辺に葉を落としたクロポプラの原生林が天を突く。身を切るような冷気、吐く息が白い。


真新しく重厚な大理石で外壁を覆ったオフィスビルの一角、そのひとは、まず、視察最初の訪問企業でお目にかかりました。次世代IT市場を担うウエアラブル・コンピューター業界の雄・ザイブナー・コーポレーション本社(Xybernaut Corporation)で活躍する稲坂令さん。福岡出身の46歳。細身。松下電器産業からソニーを経て、そして3年前に転進。


肩書きは、「Senior Vice President、International Relations」。ノーネクタイのラフなスタイルで、同社の知財戦略の説明に立つ、創業者の実弟、ステーブ・ニューマン氏、創業時からの開発担当でCTOのマイク・ジェンキンス氏らの通訳に、時にチェックを入れ、また分かりやすい解説を加えて、限られた時間のなかで丹念に調整役をこなしてくれました。その席でのいくつかのメモを紹介します。


「起業、経営、あるいは人生にとってたった一つ重要なことは、頭がいいことでも、お金でも努力でも創造性でもなく、忍耐力です」(ニューマン氏)。


商品化を達成して現在の5号機までに投資額100億円、それは失敗の積み重ねでで、しかし、それが、現在の特許という知財戦略の確立へと実を結んだ−と稲坂さん、まさに忍従の歴史だったらしい。ニューマン氏はメディカルスクール(MD取得)を卒業しており、当時の学長(ノーベル受賞者)から教えられた医者として成功する要件を挙げて3つのA―


(1)Affable:人に好感を持たれること。

(2)Availble:いつでも役に立てる、用意ができている、その場にいること。

(3)Able:能力、実力。(1)と(2)がなければ(3)のチャンスがない。


 そして、社内からの指摘で、もうひとつのAとして(4)Accountability:責任をとること。社内の全員に通じることですーという。 ザイブナー社は、コンピューターの世界をギリシャ語でいうCyber、導く者の意のNaut から命名し、文字通り、身に着けるコンピューターに関しての取得済み基本特許42件(申請案件700以上)を武器に、創業24年目のベンチャーです。が、ドイツ、日本に会社をつくり、三菱重工や日立など日本の大手との提携や契約がすでに多く進んでいます。


稲坂さんは、日本政府の知財関係の要人との懇意で、たびたび日本に来ては情報交換を密にされています。今週も駆け足で来日し、昨晩、やや強引にスケジュールに割り込みをいれ、懇談の場を持ちました。強行軍らしく、デモ用を含めて4台のPCを抱えての登場、ずっしり重い。


なぜ、アメリカに?「以前在籍していた会社(ソニー)で、意見が合わない、上司ともぶつかったし、ザイブナーにはソニーの先輩がいらっしゃったことも動機になりました」といい、いま、職場環境としては、「7倍いい」と付け加えていました。


日本の企業、あるいは、日本人について、その実例。ある事業をめぐって、日本企業との交渉の席に何度か就くが、その後、進まない。「Yes、Yes!日本人のYesはOKじゃない。Just Laughing!ただ、笑っているだけじゃない−って、トップ周辺から冷やかされますね。物事の交渉案件の決定が遅い。決められない。日本を見限って中国にいくケースがでてきますね。惜しい−というか、チャンスを失うことは残念です」と嘆く。


決定の遅延。あ〜あ。投資を手がけるベンチャーキャピタルや米国の政府関係から、その度に、聞かされた耳に痛い話の典型的な話です。ニューヨーク中心に銀行、証券、保険、コンサルと外資畑を渡り歩いた金融ジャーナリストの友人、有澤沙徒志さん、稲坂さんとの懇談の場に駆けつけて、日本のエグゼクティブの特徴として、「やさしいところしか判断しない傾向が実に多い。例えば、就業規則みたいな側面で、遅れるな、連絡を欠かすな−みたいなことは執拗にマネージメントするが、経営の根幹、集中と選択における決定について、にわかに臆病になる。これは、受験戦争の弊害かもしれない。だって、やさしいところから手をつける。難解な問題は、後回しにするから…」と指摘していました。


この4月から業務を開始する小生の(株)デジタルニューディール研究所、このブランチとしてワシントンに拠点をつくりたい−そんな希望を述べたら、「うちにきてくださいよ」と即レスの稲坂さん、どこまでいっても、どこを切ってもベンチャラスでした。


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