DND事務局の出口です。頭のなかの映像が次第に揺らぎ、記憶の断片が、時間を追うごとに消えていく。その成り行きにまかせて、どうしても消え去らない、あるいは捨てがたい、いくつか残った実感を反芻しながら、それも「WHY(なぜ?)」をベースに綴っていきます。米国東海岸からの報告、その1。
経済産業省とアメリカ商務省の交流事業の一環として企画された「米国起業支援環境実態調査」。その一員として、ワシントン、ボストン、ニューヨーク周辺を2月1日から1週間、足早に駆け回ってきました。現地での視察スケジュールは、分刻みでタイトでした。が、時差ボケを吹き飛ばすような「知られざる特ダネ」が随所に眠っていました。
初日。ワシントンDCの中心街。ホワイトハウスと向き合う対のワシントン記念塔、東に威容の国会議事堂、南にペンダゴン。広大な敷地にスミソニアン国立博物館の一群、あたりの公園は、冬枯れの木々の間に、赤、緑、黄の色の帽子やコート姿の人影が米粒に見え隠れしていました。スケールが違います。目線の先が、遥かに遠い。そこにはヒロ・ヤマガタのリトグラフの世界が映し出されていました。
早朝。一行を乗せたバスは、凍てつくポトマック川を渡って一路、西へ。あの桜は、どの辺かな〜ってぼんやり窓外の景色を眺めていたら、案内役の、それもJETROニューヨークの藤井真也さんの口から出た、「日本になかなか伝わっていない事実があります」−との一言で、我に返り慌ててペンをとりました。 その引き写し。西海岸VS東海岸。ハイテク産業を支えるベンチャー企業のメッカは、西海岸のシリコンバレーとは耳タコでしたが、いやはや、ここグレーターワシントン周辺への企業の集積がにわかに進み、バイオ、ネットワーク関連企業が、すでにシリコンバレーを越えたーというのは初耳でした。
藤井さんが紹介した、いくつかのデータや参考文献の一つに「ITビジネスモデル日米ウォーズ」(今村勝征著、実業之日本社刊)の一文、そのなかで取り上げられていた「ビジネスウィーク誌」の1998年11月9日号の「世界10大急成長ハイテク都市の特集」の記事と各種統計のグラフ。要点をかいつまんでみると−。
「The Hottest Tech Cities :Watch Out Silicon Valley. They're Coming on You」。このタイトルの訳は、最もホットなハイテク都市:シリコンバレーよ、気をつけろ。追い抜かれるぞーの意ですが、かなり挑発的ですね。
10都市は、テキサス州オースチン、アイダホ州ボイス、ボストン、イリノイ州シャンペーン・アーバナ地区、ユタ州ソルトレーク・シティー、シアトル、インドのバンガロール、イギリスのケンブリッジ、イスラエルのテルアビブ、そしてワシントン首都圏、これらがシリコンバレーを追いかけるハイテク都市なのだが、その根拠となるハイテク企業数はワシントン首都圏が3000プラス(3000社以上)、オースチンが1750社、ボストンが3600社、シアトルが2500社などで、ワシントンの「プラス」とは、新規ベンチャー企業、それもスタートアップの企業が毎日生まれてきて、正確な数字がつかめない状況らしい。
2000年の春の、米国の大手コンサル会社のデータをベースに地元の有力経済団体で構成する「ワシントン首都圏イニシアティブ」がまとめたハイテク産業報告書(IT、バイオ、航空宇宙など主要8分野が対象)の発表では、ワシントン首都圏のハイテク企業数は1万2364社、1万1937社のシリコンバレーを抜いた。
特に、ノーザン・バージニア地区には2300万人の会員を擁するアメリカ・オンライン(AOL)、企業顧客数で抜群のPSInet、UUnet、ワールドコムなどの情報化時代の原動力となるインターネット・サービス業者がひしめく。産学連携路線の核になるジョージ・メーソン大学のフラー教授の解説を引用して、この地域のハイテク企業の80パーセント以上が従業員50人以下で、2から5人の会社が最も多く、アメリカン・ドリームを求めて集まってくるーのだそうだ。その勢いは止まらないそうだ。
まあ、どの分野でもその優劣を示すデータの取り方次第で、いかようにも理屈付けできるものですから、東海岸にいけばその優を、西に行けばまた、そのそれをクローズアップするものなのでしょうから、幾分割り引いて捉えなくては、見間違う心配もありますが…。 藤井さんによると、軍事関係システムや政府関連の納入にはワシントンに地の利があり、不況時こそ強いマーケットになりうるという事情もあるのではないかーと指摘、また、日本のバイオベンチャーや製薬会社、医療機器メーカーも近年目立って多く、日本の厚生省で製薬の認可をとるプロセス、ステップより、アメリカのまず、認可をとりお墨付きをもらって日本の認可を急ぐーという戦略が背景にあるらしい。
厳寒の東海岸より、陽光の西海岸がいいなあ、なんて当初、この企画の視察先の選定には「なぜ?」でしたが、充分に納得できました。ミッションの調整役の経済産業省の米州課、新規産業室の皆さんのご尽力に敬意を表したい。感謝の限りです。さて、その世界を揺るがすハイテク企業などの訪問の様子は次回、それらで活躍する日本人にフォーカスしていきます。