DND事務局の出口です。あれから1週間、まだ、その余韻を引きずったままです。後世に残る、産学官連携の歴史の1ページはこんな風に開かれていくのでしょうか−10月30日、札幌市の中心街の北海道大学、その北に続く北キャンパスの一角で開催された「第1回北キャンパス町内会フェア」に参加してきました。今回はそのルポです。ちょっと長めです。
町内会フェアというから、ちゃんちゃん焼き、ジャガバターなどの露店があり、なにやら学園祭の延長とおもいきや、看板も焼き物の臭いもなく、広大(30ヘクタール)な敷地には、先端的な研究施設群がその威容の外観を整えたばかりらしく、ふと見上げると、風にふるえるポプラ並木が黄葉を散らし、澄み切った空に虹。いやあ、都会の喧騒から逃れると実に別天地の趣きです。
会場は、ガラスの壁面を大きくとった「研究成果活用プラザ北海道」(独立行政法人科学技術振興機構)。ここが北大や道の関連施設が集積した、産学官の拠点になります。町内会は、エリア内13施設に、(財)北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)を加えた14機関で構成されています。詳細はURL http://www.kitacan.jp/で。
急ぎます。その入り口付近に赤い実をつけたナナカマド。周辺に黄色と白のコントラストがまばゆい白樺の木々。なんといっても北の大地、農場跡地だけに、のびやかです。出迎えてくれた事務局の高橋広文さん、道東の斜里町の出身、東京工大から地元の雄、北海道電力へ。「素晴らしい環境ですね」というと、「可能性は大です。ここから、時代が動いていきます」と柔和な笑みで屈託がない。
紙面が足りない。つづめます。テーマは、「北キャンパス・周辺エリアにおける融合科学の創成と事業創出」で、「知の創造から知の活用へ」の今日的かつ実践的な課題について、報告がありました。
講演は2題。「自立への挑戦を支えるヒューマンネットワーク」が小生。解説より、実践的な活動からの実感を「伝えた」つもりですが、反応はいまいち。やはり、産学連携学会の会長で、九州大学産学連携センター教授の湯本長伯さんは出色でした。「産学官連携による異種融合・事業創造」をテーマに、建築、デザインの専門家らしく、グローバル化はローカル化、それをグローカリと称して、世界を展望しつつ地域のあり方を問い、さらに「デザインは、この世にないものを描く、未来の姿を描く」と指摘していました。透明感のある涼やかな声とリズムある口調は、耳にやさしい。
続いて、シンポ、報告は6人。創世科学研究機構の高橋浩教授は三菱化学からの転進、北キャンパスの意義付けに触れて、各施設を横串にして繋ぎ、「5年後には自立、研究開発型のNPOを目指します。まず、創世科学が塁にでる」と決意表明。北大ナノテクノロジ研究センター長の下村政嗣教授は、日立グループとの包括提携で勢いづいています。「よく言えば学際、悪くは寄せ集め」といい、ナノテクでなにができるか、産業への応用、実現にむけてのアプローチに迷いは、見えない。次世代ポストゲノム研究者ネットワークの中心的存在の西村紳一郎教授は「次世代ポストゲノム」の言葉を産む。120人を超えるネットワーク。人柄からか、道内の病院から疾患データが集まるらしく、新しい創薬開発には、次世代ポストゲノムの命名同様、「先手必勝」。
シンポの後半に登場の3人は、それぞれにアゲインストの風が吹いていました。北海道TLOの取締役で、いまや要の末富弘さん、この人の奮闘ぶりには評価が高い。組織的に有名な大物がズラリ、茶目っ気たっぷりに、しかも恐縮しながら、「頭が重い」というから、後の講評で、小生が「それは、頭が痛いのでは?」。
実質的に差配を振るう立場の執行者が、トップとして動くべきですね。上にも下にも、そして、出身母体にも気配りの末富さん。う〜ん。「やんや、疲れるべさ」。
産学官連携に数々の実績がありながら、また、中小企業への支援で、頼りにされながら、ちょっと表舞台が遠い道立工業試験場の鈴木裕敏企画調整部長。どうも、「工業試験場」の名前が地味なのでは?と、勝手な指摘をさせていただいたら、「その予定はあります。まだ、いえませんけど‥」と。「バンバン、やればいっしょ」。
トリは、先端研の荒磯恒久教授。北キャンパスの最初の住人。平成10年だから、「風あたりが強かった」のは、決して、周辺の物理的環境のためばかりではなかったらしい。孤軍奮闘が代名詞になって、それが付きまとうのは、端で見ていて辛い。釧路出身。周辺に冷たい霧状のジリ。「いや、最初来た時、ここ北キャンは雪が横に吹き付けるんだよね。それでもどこかに落ちていくんだろうけど‥」と笑いをとって、最近訪問したばかりのフィンランド、ベンチャー起業がひしめくオウル大学を例に、「あるべき姿を鮮明に、イメージしてくことが必要なんですね。北キャンパスから産学官連携の、ベンチャー起業が続出するモデルを形にしたい」と言い切っていました。
会場は、立ち見がでるほどの盛況ぶりでした。その熱をそのまま移し替えたように、別棟の交流会場へ。
高橋知事に代わって、吉澤慶信副知事が冒頭、これまでの開発は、北海道開発庁が主役を担ってきたーと前置きして、北キャンパスの集積は「新たな主役の登場です。世界という舞台で存分に活躍していただきたい。その環境を用意するのが私どもの役割です」と期待を寄せた。司会は、ここでも奮闘の荒磯さん。会が進み、挨拶が一巡して、ひな壇から、降りて会場中央に。マイクを向けた先が、北海道財界の重鎮、前北海道電力会長でノースティック財団理事長の戸田一夫さん、登壇者ひとりひとりの、シンポの講評を仔細に述べた後、フィンランドの国際競争力の強さの背景を解説し、「北キャンは兼ねてからの夢、なんといっても人です。今後は人材育成が重要です、人をどう育てるか?志を高く努力し、力を合わせていただきたい」と声を絞っていらっしゃった。マイクを受けた荒磯さん、戸田さんへの謝辞が、声にならない。泣いていました。
参加者の多くが、渋めの戸田節に酔った。そばで、湯本さんが、「国に国士ありですなあ」。戸田さんは、近くに居合わせた北大の学生ら6人と握手しながら、激励し続けている。
締めは、町内会の会長役で、開会からずっと慈愛の眼差しを送っていた元北大学長の 廣重力さん、両手にマイクをはさんで礼をとり、「大変、感動的な夜をいただきました」と深く頭をさげて、ややあって、「大学の役割はあくまでアカデミア、そこから産学官の流れが生まれます。創意と熱意を忘れてはならない。北キャンのシステムを一環して提言された戸田先生のパイオニアスピリットに敬意と御礼を申し上げたい」とこれまた名スピーチを披露していました。
多彩な顔ぶれながら、広がる共感。随所に道庁、経済産業局、そして北海道電力の陰の支えが見て取れました。
散りばめられたいくつものキーワード、クローズアップされた幾人ものキーパーソン。あ〜こんな暖かい輪のなかにいて、こんな舞台があるなら、もう少し(勉強)頑張って、同窓の仲間に入りたかった。「光は北から」。