◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2003/10/22 http://dndi.jp

産業再生への戦略

DND事務局の出口です。55。松井秀喜選手の背番号が、夢のワールドシリーズで踊っています。あの人は、どんな思いでTV観戦しているのでしょうか?昼なのに、街は薄暗く、陰気で重い。関東地方は朝から、泣き出したくなるような雨が降っています。


あの人は、この数日前、代表取締役社長を退きました。この春、松井選手がメジャーデビュー初日、初打席で初ヒットを放つと、「だろう。松井はやるよ。覚悟が違う」といい、栄光のジャイアンツを抜けて、単身、メジャーに挑戦したその姿勢を評価していました。


プロ野球オフのある日。東京・六本木の小料理屋。カウンターにいるあの人を見つけて、ペコリ「お世話になっています」と挨拶したのが、松井選手でした。あの人は、表情をくしゃくしゃにしながら、「どうだ!」とばかりに胸を張っていました。


経営責任。社長在任7年、今一歩、もう少し―と周辺に語り、自分にも言い聞かせての奮闘でしたが、売上の減少に歯止めがかからず、無念の幕引きでした。「もっと、前にこの状況がわかっていれば、打つ手があった」と漏らしたのは、破綻懸念が一気に噴出したこの夏のことでした。私にとって恩師のような存在でしたから、その苦衷は痛いほどです。


そうなる予感はありました。無邪気で、人が良く、闊達で、天を駆け抜けるような勢いのあの人とは、まるで、正反対のNO.2が番頭役を務めていました。冷酷、非情。「あの人に代わって悪役をやっている」と言いつつ、にやけた笑いが野卑でした。その番頭は、窮地に追い込まれた状況を尻目に、辞めて行きました。その後、数々の粉飾まがいの実態が浮かび上がっているらしい。


取締役という立場ながら、卑しくも、自己保身に走り、架空計上ごときのごまかしで、見せ掛けの実績をつくり、人事権を悪用し、子飼いのイエスマンを配置して、自らは常務に昇進―というストーリーを自作自演。危うくなったら、脱兎のごとく、姿をくらます。責任や恩義の微塵もありません。同時にそれは、あの人の責任でもあります。


番頭を見誤ると、うまくいきません。「組織は人事」の教訓です。人心一新、新たな体制での前途を期待したい。


事業再生。日本経済新聞は18日の紙面で、「始動する企業再生」で、9月に発足した「北海道企業再生ファンド」を詳細に伝えています。記事のおしまいの5行に「過剰債務などで経営が悪化した企業を再生できれば北海道経済にも明るい兆しが見えてくる」とあります。昨日からの夕刊では、やはり、日経。公的機関、民間を問わず企業再生を支援する働きが盛んになっているーとの書き出しで、「企業再生を支える人々」の企画が始まりました。


朝日監査法人の尾関純さんが経済産業省の事業再生人材育成講座で、法的再建手続きにおける破綻の事例をいくつか紹介していました。窮地に陥った原因として、A社「ワンマン経営とチェック体制の欠如」、B社「市場縮小による売上減少、創業家オーナーによるワンマン経営」、C社「関係会社を利用した取引の水増し、ワンマン経営と経営管理体制の欠如」−を指摘していました。この講義を受講していて、あれもこれもピタリ、あの時、進言できなかったことが、悔やまれます。遅参その意を得ず、ですね。


事業再生の現場では、「経営者への説得が一番、難しい。まだ、大丈夫、まだ、やれる、との未練が、再生のチャンスの芽を摘んでしまう」とは、弁護士の松島英機さん。


DND事業の提唱者で、経済産業省の産業再生課長兼新規事業室長の石黒憲彦さんが、「産業再生への戦略」(東洋経済新報社、1800円)を書き下しました。タイムリーです。


まあ、先日もDNDの運営会議で講演していただきましたが、早い。機関銃の連射に似た解説は、圧巻です。書いて、話して、動いて、よく働きます。その本では、産業再生を巡る現状の分析から、政策、関連法制度、そして、各種支援策、知って得する優遇措置を網羅しています。DNDの紹介もでています。


産業再生法の改正作業。それに、日夜、殉教的な時間を費やした石黒チーム、当事者の思いは軽くありません。「この一年はエキサイティングでした」との感想をあとがきに寄せています。


起業・創業を入り口とすれば、産業再生は出口でしょうか。石黒さんは、そのいずれも担当されています。ベンチャー支援の役回りに、事業再生への視点は重要です。


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