DND事務局の出口です。あの福ちゃんのご加護なのでしょうか?福耳におちょぼ口、それに切れ長の大きな目、裃を着て行儀よく手を合わせた福助人形は存在感がありました。今流にいえば、ブランドイメージの強いキャラクターに違いない。
ご威光というのは大げさですが、この21日に民事再生法適用を申請した靴下の大手老舗、福助(本社・大阪府堺市)の翌日の新聞報道は、正直、ホッとしました。見比べてみると、「福助が再生法申請―営業は継続」(産経新聞)、「福助が再生法申請―新会社に営業譲渡」(毎日新聞)、「福助、民事再生手続き開始―新会社に営業譲渡」(読売新聞)、「民事再生手続き福助に開始決定」(朝日新聞)、「福助、民事再生法申請を発表―投資会社が160億円支援」(日経新聞)という具合で、朝日は「法的整理前に支援者と営業譲渡価格などをきめておくプレパッケージ方式を採用した。主要取引銀行のUFJ銀行やUFJつばさ証券が中心になってすすめたもので、(その方式は)まだ珍しい」と短いが署名で解説をつけていました。
24日の日経産業新聞もこの再建手法に言及し、「プリパッケージ型の企業再生は、米連邦破産法11条(いわゆるチャプター・イレブン)の適用例などで見受けられる」として、従来の法的整理は債権者への弁済が最大のポイントだったが、「弁済を考慮しながら事業の継続にも重点を置く」とのこの方法の狙いに大きく紙面をさいています。
朝日と日経産業には、それぞれ「プレパッケージ方式」、「プリパッケージ型」と微妙な表記の違いはあります。事業再生分野で活躍の弁護士の高木新二郎さんが座長となってこの2月にまとめた「早期事業再生研究会報告書」には、「プレパッケージ型」と表記してありますが、徐々に統一されて、進化していくでしょう。
冒頭のホッとした理由は、「破綻」、「倒産」の活字がどこにもみあたらず、逆に、「福助再建へ初速重視」(日経産業新聞)との見出しからも、再建に動きだしたという前向きのニュアンスが読み取れたからです。これも学習効果でしょうか。
新聞報道の慣例としての批判に、「破綻」、「倒産」の文字が先行して、本来、新聞があのように書かなければ、再建への筋書きがうまく運んだはずなのに…という経営者サイドからの怨念に近い指摘が多々あった。今回、実質的にファンドを運営し、福助をサポートしたMSKパートナーズの経験とその力量を評価したい。同代表の川島隆明さんは、事業再生実務者協会の要的存在であり、このかたの手腕に期待する声は多い。個人的関心から、明日、海外に出張という川島さんを捕まえて携帯に電話をいれました。「福助さんの件では、素晴らしい仕事をされましたね?」と水を向けると、「いやいや、これから株主総会を控えていますし、乗り越えなければならない山がいくつもあります。これからが本番です」との短いやりとりにもピリリとした緊張が伝わってきます。
そういえば、DND事業の提唱者で経済産業省の産業構造課の石黒課長や吉本補佐らは、産業再生法のとりまとめで、昨年秋以降、激烈な苦闘を展開し、鬼気迫る状態に、「気軽に声をかけられる状態はありませんでした」(事務局員)。
大学発ベンチャーの起業家も事業再生を手がけるターンアラウンド・マネージャーらも各種施策や法整備を立案する官僚も、周辺には涙ぐましいほど懸命な人ばかり目立ちます。ほの暗いトンネルからかすかながら出口が見えてきたのかもしれません。