■「目立て」を自動化する究極の研削技術■
新世代加工システムの基礎技術は、同社取締役であり独立行政法人理化学研究所の大森素形材工学研究室の主任研究員である大森整氏が発明したELID鏡面研削法。ELIDは、電解インプロセスドレッシング研削(Electric In-process Dressing)から名づけられ、シリコン、セラミック、ガラス、フェライト、高硬度鋼材、複合材料など、硬質で難加工性を持つ機能性材料の鏡面加工において、高品質と高作業効率とを両立させる高度な技術だ。
近年、半導体基板、磁気ヘッド、内視鏡レンズ、プリズム、ハードディスク基板、光ファイバ、デジカメレンズ、金型の超精密加工など、電子部品や光デバイスを中心に、高い性能を実現するために、加工精度の超精密化、スケールの超微細化、形状の多様化、加工表面の高品位などが求められている。
こうした製品の研削加工は、通常、砥石(硬質砥粒を結合剤で固めた工具)を被加工物に接触させて行う。従来の研削加工では、微細砥粒を用いると砥石の目つぶれや目づまりが起こりやすいために切れ味が悪くなり、それを修正するドレッシング(目立て、目直し)が難しく、作業効率が極めて悪い、という大きな課題があった。
これに対しELIDは、砥石を陽極、砥石の作業面に対向する電極を陰極として極間に電流を流すことで、通電性のある砥石結合剤が電解されて砥粒が突出し、加工中に自動的なドレッシングが行なわれ、常に切れ味が良い状態が保たれるという画期的な手法だ。また、電解された結合剤の一部は不導体となって砥石表面を覆い、過度なドレッシングを防ぐ。このメカニズムにより、ドレッシングは常に最適な状況に保たれる(ELIDサイクル)。ELIDは、「加工中に常にドレッシングが行なわれる究極の原理(大森氏)」ということができる。
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■理研ベンチャー制度で起業■
大森氏は、1987〜88年にかけてELID研削法を開発後、ELID研究会を主催して研削技術の普及をめざした。ところが、研究会では「研削機械はどこで買えるのか?」、「技術面のサポートをしてくれる先はないのか?」といった、製品開発など企業の現場からの要望が予想以上に集まっていった。そこで、「こうしたユーザーからの声に応えるためには企業化する必要がある(大森氏)」との発想から、理化学研究所が設置した理研ベンチャー支援制度を活用、1998年に新世代加工システムが設立された。現在までに、ELID研削法を搭載した工作機械は累計出荷700台に達しているという。
大森氏とELIDの知名度と、製品への高い信頼性が確立していたため、マーケティング活動は学会発表とHPからの情報発信を柱とした。この営業体制は創業以来変わっておらず、現在でも営業要員はゼロ。とはいえ「HP経由だけで問い合わせが月10件以上ある(大森氏)」と順調な引き合いが続いている。
■都心一等地での研究開発も■
現在、同社の主力事業は、ELID技術を搭載した工作機械とマイクロ・ナノプレシジョン加工システム。工作機械は、研削加工のほか、最小外径30μm以下の加工ができるマイクロツール加工機、マイクロ射出成形機などがあり、いずれも縦横50-60cm、大人が1-2名で持ち運びできる卓上型で、いったん設置したら容易に動かすことができないという、一般的な工作機械のイメージを覆す。メンテナンスも宅配便等で可能だという。「小型、低消費電力、クリーンな環境の工作機械で、高性能でも環境負荷やコスト負担が非常に小さいことが特徴です。都心の一等地でも研究開発はもちろん、製造もできますし、ベンチャー企業での利用やものづくりの教育にも向きます(大森氏)」。CAD/CADやLANと接続し、様々なデータのやりとりも可能だ。
すでに、光学機器メーカー、精密部品メーカー、金型メーカーやアルミサッシ加工メーカーなどで、設計者が自分の隣の机に設置して試作品を加工しながら設計修正、地理的に離れた設計センターからのデータをマイクロ加工機に送っての生産・出荷、ユーザーごとにオーダーされたデザインデータを取り込んでの加工、そして本格的なマイクロ加工機をセル型生産に対応・配備するなど、様々な新しいスタイルによる実用・利用が進んでいる。
また、マイクロツール、マイクロ加工、マイクロ射出成形機を組み合わせた縦横10cmのマイクロワークショップ(マイクロ工房)も完成している。今後は、加工作業と同時に測定も行なうことができるシステムにより、作業効率と精度を一段と改善させていく方向だ。
さらに、高い精度を求めるユーザーのためには、ナノプレシジョン加工システムの研究開発や販売・導入に関して、コンサルティング、コーディネートや受託加工業務を行なっている。今後、ナノレベルの高精度や微細化への需要が高まるものと考えられ、将来への期待も大きい。
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■日本の「ものづくり」を支援■
平成15年度「ものづくり白書」では、ELID研削法が加工表面の凹凸を3ナノメートル以下に抑えることができる高精度加工技術として取り上げられ、「ものづくり基盤技術に関する研究開発の推進策」としてナノレベルELID加工機の性能評価も行なわれた。ELID研削法は日本の製造業の競争力向上に大きく貢献する可能性を秘めていると言えよう。日本のものづくり復権に向け、新世代加工システムが果たす役割にはますます大きくなっている。
ものづくり白書 http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g40601b210j.pdf
ELID研究会 http://www.elid.ne.jp/contents/index.html
理研ベンチャー支援制度http://www.riken.jp/r-world/utility/10.html
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