このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


DNA合成装置をパーソナル化

--- 第27回・ジーンワールド株式会社 ---


 ジーンワールドは、社員数がわずか9人のベンチャーながら、抜きんでた性能を持つ合成装置を開発する企業として業界では知られた存在だ。その力は、同社の装置がトップメーカーの4倍に相当する、最大192本のDNAを同時に合成できることでも分かる。


「再生医療分野の研究も進めていく」という林仲信・社長(右)と長尾洋昌・取締役

■抜きん出た性能

 生物の遺伝子情報(ゲノム)を解析し、医薬品開発などに役立てるゲノム解析。90年代後半から2000年にかけ、人間の遺伝子情報(ヒトゲノム)をいち早く読み解こうと、各国の政府機関や企業がしのぎを削ったのは記憶に新しい。

 このゲノム解析で欠かせないプロセスが、DNA(デオキシリボ核酸)の合成だ。DNA合成とは、特殊な装置を使ってDNAを構成するアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの塩基を人工的に並べることをさす。この合成DNAを基盤上に並べたものがDNAチップで、がんの臨床診断をはじめ幅広く応用されている。

 創業者の林仲信社長は日本大学医学部出身で、現在は早稲田大学の研究員を務めている。もともとは医師としてバイオ分野の研究をしていたが、まだ「学者が商売していいのかという風潮があった」(林社長)91年ごろ、DNAの合成作業を受託するビジネスに乗り出した。当時の合成装置はあくまで自社の合成作業に使うためのもので、社外には販売していなかったという。

 転機となったのは、米セレナ・ジェノミクスによってヒトゲノムの解析が完了した2000年。解析自体が目的だったそれまでのゲノム解析が、医薬品開発などの具体的成果をめざす本格的な段階に突入した。林社長はこの変化を敏感に感じ取り、すぐさまジーンワールドを設立してビジネスの主力を装置販売に切り替えた。

▲8本のDNAを同時合成できる「H-8」。世界最小のベンチトップタイプで、試薬消費量も現行の合成機より格段に低減できるという


■ 価格3分の1に

 この方針転換は、「(合成受託の)ビジネスが一番伸びた時期だった」(林社長)にもかかわらず行ったものだった。しかし、トレンドの波に乗り切れない企業が次々とつぶれていくのに対し、この思い切った転換は見事に成功。今や大手製薬会社や大学の多くを顧客に抱え、売り上げの8割を装置販売が占めている。

 その同社は今年、早くも第2の方針転換を図ろうとしている。キーワードは「パーソナル化」(林社長)。同時合成できるDNAの数は少なくても、小型かつ低価格で、使用する試薬の量が少ない装置を開発するのがねらいだ。

 実は、ひも状をしたDNAには長いものと短いものがあり、創薬に結びつくのはほとんどが長いタイプ。このDNAは短いものより合成に手間がかかるため、製薬会社や大学の多くはいまだに作業を外部委託している。しかし、それではコストが高くついてしまうし、何より企業秘密の漏洩(ろうえい)につながる恐れがある。

 そのため同社は昨年暮れ、8本のDNAを同時合成できる装置を従来の3分の1の価格で発売した。さらに今年中には、8〜10本の処理能力を持つ100万円程度の小型装置投入も視野に入れている。これを機に市場規模が日本(年間10億〜20億円)の2倍以上ある米国に進出する計画で、今年は忙しい年になりそうだ。

 業界のトレンドをいち早く見抜く洞察力と、ベンチャー企業ならではの機動力を武器に、同社は大企業顔負けのたくましさで競争の激しい業界を生き抜いている。

ジーンワールド株式会社 http://www.geneworld.co.jp/

◇本社:東京都新宿区早稲田鶴巻町513 早稲田大学研究開発センター120-4号館 204
◇設 立:2000年9月
◇代表取締役社長:林 仲信 氏
◇資本金:1億4575万円
◇事 業:(1)高感度、高精度プロテオーム解析技術を用いた受託サービス
(2)DNA合成機の開発・販売