このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


天然型タンパク質を事業化

--- 第24回・株式会社ポストゲノム研究所 ---


 東京・本郷の東京大学から徒歩約5分のビルに本社と研究ラボを構えるポストゲノム研究所。東大などの研究成果を事業化している同社は、現在、生体内の機能と同等の「天然型タンパク質」を簡単に作るシステムづくりに取り組んでいる。研究者らのニーズに対応したシステムで、半年から1年後をめどに製品化される見通しだ。


「次々とバイオビジネスを立ち上げていきたい」という村井社長

■機能解析に威力

 村井深社長は「天然型タンパク質ができるようになれば、ゲノム(全遺伝情報)創薬研究で、遺伝子機能解析が速くなる」と述べ、例えばインフルエンザやエイズ(後天性免疫不全症候群)などに対するワクチンの開発も容易になるなど、同システムの有用性を強調する。

 同社の使命は、大学などに埋もれている研究成果を発掘し、共同研究やインキュベーション(ふ化)を行い、バイオビジネスを次々と立ち上げることだ。天然型タンパク質を作るシステムづくりもその一環で、「一つの技術をベースに起業するほかのベンチャー企業(VB)とはスタンスが違う」(村井社長)と説明する。

 同社はもともと、バイオ関連の事業化を支援する目的で2000年6月に設立された。三共の研究者だった村井社長が米カリフォルニア大学サンディエゴ校に遺伝子治療の研究で派遣された95年当時、現地でバイオVBの隆盛を目の当たりにしたことで、日本での支援機関立ち上げを決意した経緯をもつ。

 ただ、三共退職後は順風満帆にはいかなかった。日本の研究成果を事業化につなげる熱意は強かったものの、「実績がないVBがコンサルタントを始めても収入がなく、10万円を稼ぐのがこれほど大変だとは思わなかった」(同)と苦難の連続。そこで同社は、日本の研究成果の事業化を自ら実証する方向へと舵を切る。


▲転写、翻訳およびエネルギー再生に必要な約30の酵素類をそれぞれ高純度で精製後、再構成したキット「ピュアシステム」


■ 生産能力10倍に

 同社のバイオビジネスの第一弾は昨年6月、東大との共同研究によって製品化した高純度タンパク質の合成・精製キット。従来、3日間かかっていた同合成・精製が3時間に短縮できることから需要が拡大。経営的にも第三者割り当て増資を実施し、これをうけて生産力を来年から10倍にするという。また、大手試薬メーカーとの販売提携契約を締結、内外での販売強化にも乗り出す。

 「日本は欧米に負けない研究成果があるが、それを事業化できる経営者がいないのが問題。キット販売により、大学の基盤技術を製品化する仕組みが実証できたことで、第二弾の天然型タンパク質など次々とバイオビジネスを立ち上げていきたい」と村井社長は意欲をみせる。

 また、松島綱治・東大教授が中心となり、SARS(重症急性呼吸器症候群)のワクチンの開発を進める産学官プロジェクトにもポストゲノム研究所は参画し、蓄積したバイオ技術を提供する。化学及血清療法研究所や国立感染症研究所など国内の研究機関が、その技術力を集めて取り組むことで早期の臨床試験開始が望まれている。

 収益性向上への道筋をつけ、今年12月には東京証券取引所マザーズ市場での株式公開を計画しており、バイオビジネスで新産業を創出する新たな潮流をつくり出したい考えだ。

株式会社ポストゲノム研究所 http://www.postgenome.jp/

◇本社:東京都文京区本郷3-38-1 本郷イシワタビル6F
◇設 立:2000年6月
◇代表取締役社長:村井 深 氏
◇資本金:4億3375万円
◇事 業:(1)タンパク質合成・精製キットの製造・販売・タンパク質受託生産
(2)特許ライセンス・研究・開発
(3)大学技術の発掘と産業化