このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。
テレビ放送並みの画質でネットワーク配信
--- 第20回・ファットウェア株式会社 ---
ファットウェア株式会社は、倉敷芸術科学大学の産業科学技術学部教授である小林和真社長が今年1月に設立した、同大学で初めての大学発ベンチャーだ。ホームビデオや業務用ビデオとして採用されているDV(デジタルビデオ)規格の映像と音声を、テレビ放送並みの画質でネットワーク配信できるソフト「DVcommXP」の普及を図る。ただし、常勤の社員はおらず、営業も行わない。「やる気のない会社と紹介してください」と小林社長は笑うが、ブロードバンド時代をにらんで、その実力はあなどれない。
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▲「市販のソフトを開発することで、私の研究室の学生は企業に行ってもすぐ即戦力となる」と小林社長
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■営業マンは不要
「楽して金を稼ぎたいという、学生の要望があって会社をつくった」と、小林社長はファットウェア設立の動機を語る。主力開発製品の「DVcommXP」も、倉敷芸術科学大学の小林研究室の学生たちが開発した。標準小売価格は9800円で、3月の発売以来、1000本以上出荷した。このため、ファットウェアの今期収支は、すでに黒字になったという。大学の研究が、いきなり実利に結びついたわけだ。
ソフトの営業全般は、共同開発先の電通国際情報サービスが担当する。インターネット上でのダウンロード販売が中心となる。小林社長は、「販売やサポートは外部に任せているので、営業マンは不要。大学で開発したソフトを、販売会社にライセンス供与するだけなので常駐の社員もいない。経費がかからないので、赤字の出しようがない」という。
小林研究室では、興味のあることが少しでもインターネットに関連していれば、学生は希望に合わせて企業と共同開発を進められる。「市販のソフトを開発するというのは、研究でプログラムをつくるより、はるかに完成度を求められる。これが技術力のアップにつながる」と小林社長は説く。総務省の認可法人、通信・放送機構の岡山IPv6検証評価センター長も兼務し、次世代ネットワーク技術に精通する小林社長ならではの実践講座といえる。
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▲「DVcommXP」を利用すれば高画質のテレビ会議が実現する
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■ 映像を圧縮せず配信
「DVcommXP」は、デジタルビデオカメラの映像をパソコンを介して、ネットワークでつながった、もう1台のパソコンに伝送するソフトだ。パソコンとデジタルビデオカメラとの接続は、IEEE1394、またはDV端子と呼ばれるインターフェースを利用する。1台のパソコンで送信と受信が同時にできるため、2台のパソコンそれぞれに「DVcommXP」をインストールしてデジタルビデオカメラを接続すれば、高画質の双方向通信が実現する。
もともと、慶應義塾大学の村井純教授が代表を務めるWIDE(大規模で広域におよぶ分散型コンピューティング環境)プロジェクトが開発し、フリーウェアとして提供されてきたソフトを再構成した。UNIX向けであったものを、ウィンドウズXP対応としたうえ、操作性を大幅に向上させている。
デジタルビデオ映像を圧縮することなく、そのままネットワーク上に配信するため、テレビ放送並≠フ画質で送信できる。また、画像変換処理に特別なハードウェアを必要とせず、家庭用ビデオカメラと高速回線に接続したパソコンがあれば利用できるのも、大きなメリットとなる。eラーニング、イベント中継、インターネットテレビ放送などのインフラや双方向性を生かしたテレビ電話、テレビ会議などに活用できるという。
約30Mbps以上の伝送がストレスなく可能なブロードバンドネットワークが必要にはなるが、光ファイバーによる最大100Mbpsのインターネット接続サービスであるFTTHは年内には利用者70万人を超える見通しで、「パソコンとデジタルビデオカメラがあれば、インターネット放送局が立ち上げられるという潜在市場は大きい」と小林社長は自信をみせる。
テレビ放送局各社が映像の転送向けに利用するなど、用途も広がってきた。また、1台のパソコンから32台以上のパソコンに一斉配信するマルチキャストに対応したソフトも近く発売する。続いて、「学生たちが描いたキャラクターの版権ビジネスも手がけたい」と小林社長は、ファットウェアの今後の展開を述べる。ただ、「株式公開は考えていない。学生の誰かがやりたいというのであれば代表も譲る」というあたり、ご本人はこれで金を稼ぐ≠ニいう野心はないようだ。
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ファットウェア株式会社 http://www.fatware.jp/
◇本社:東京都千代田区二番町12-13セブネスビル3階
◇設 立:2003年1月
◇代表取締役社長:小林 和真 氏
◇資本金:1230万円
◇事 業: (1)ソフトウエアのライセンス処理に関わる業務
(2)各種デザインに関する業務
(3)大学・企業間の共同研究、委託研究の実施・仲介に関わる業務
(4)その他、上記業務を遂行するために必要な一切の業務
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