DNA解析技術を核に「予防診断」の確立を目指す
--- 第15回・株式会社ジェネティックラボ ---
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遺伝子研究を医療に活かせ
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▲DNAアレイによる遺伝子探索
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日本工業新聞が主催する『第2回バイオベンチャー大賞』で、文部科学大臣賞を受賞した株式会社ジェネティックラボ(本社札幌市、西村訓弘社長)は、DNA解析技術を核に、特定の遺伝子配列を検出するDNAアレイの開発や遺伝子探索などを行っている。
彼らが目指すのは「予防診断」の確立。高齢化社会においては、ガンや各種の慢性疾患の予兆や進行状況を把握し、適切な対策を講じることがとくに重要な意味を持ってくる。また、体質に合わせた治療メニューの組み立て、創薬など「テーラーメイド医療」への道を拓くカギともなる。
遺伝子情報をベースに、さまざまな物質がどう生体に働きかけるかを知ることで、ある疾患に対する最適な薬品を見つけ出す「ファーマコ・ジェノミクス」の武器を、製薬メーカーに提供するのが、彼らの仕事である。
同社は03年4月に病理検査会社を2社買収し、遺伝子レベルでの病理解析サービスを行う体制を整えた。事業部隊を保有したことで戦略ステップを1歩進め、具体的なビジネス化に向けて加速を始める。
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最先端の知見を社会に
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▲G−LAB本社
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もともと、同社が設立されるキッカケは「偶然とも言える人の縁」。挑戦は、同社創業メンバーで免疫学のスペシャリスト、橋本易周北大先端研客員教授、株式会社ラボの杉田一憲社長、北大医学部の吉木敬教授、そして西村訓弘現社長らの夢から始まった。
「ジェネティックラボ創業者の橋本易周(現・同社取締役)と杉田一憲(現・同)、北大医学部教授の吉木敬(現・同社会長)は、長年の友人同士。私も杉田の部下として、彼らの酒宴にもよく顔を出していました」と西村社長は言う。続けて、「ベンチャー設立のビジョンはありましたが、大学発ベンチャーとして出発したのも、全くの偶然」とも言う。
この輪の中では、常に「医療にとって最先端の知識を還元することは急務であり、そのためにはベンチャー企業の設立も方策のひとつ」という話題が酒宴にのぼっていた。たまたま、ベンチャー論の研究をしていた小樽商科大学の瀬戸篤助教授が橋本氏の講演を聞き、この人びとが持つ“夢”に意気投合した。
当時の瀬戸助教授は、国立大の独立行政法人化に伴なう課題のひとつとして商科大ならではのスキーム、つまりベンチャー企業の創出支援を視野に入れた研究活動を行っていた。「国公立大学の教官が会社役員を兼務できる」。兼業規定が緩和されるとともに、国立大学発ベンチャー第1号プロジェクトとして具体化していったという。
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緻密な戦略と適材適所
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彼らの中で、誰がトップに立つかという議論は出なかった。
「企業を構成する全員がしっかり議論し、創業のコンセプトを共有しているため、業務分担を決めるのは非常に楽でした」また、コンセプトが明確であるため、それぞれの発展段階での戦略目標と現状分析をしっかり把握できていたことも重要だ。
戦略策定部門には橋本氏と杉田氏、財務・業務遂行部門には堀川武晴取締役、経営判断は西村社長が務め、吉木敬教授や守内哲也教授など、大学教官と兼務している役員陣は研究開発を担当している。コンセプトが確立しており、戦略、開発、財務、経営、執行の各部門にプロフェッショナルがいた。それで大学教官陣が研究開発に徹することが出来た。
西村社長は、同社の設立準備段階から主任研究員として関わってきた専任スタッフ第1号でもある。大学教官や企業経営者らによる兼業というスタイルで、頭脳の集積度は抜群だったがマンパワーが割けないという悩みを抱えていた同社にとって、創業期は西村社長ただ1人の肩に全ての業務が支えられてきた。
ベンチャー企業に設立から携わり、いろいろと見えてきた点が多いと西村社長は言う。「フルタイム、その企業のために活動できる人間が必要になる。できれば全方向を見られる人間、最低1人。必要な人員は揃えること」考えるだけでは、企業は前に進まないのだ。
「個人の限界と会社の限界がイコールになりがちなのも、ベンチャー企業のひとつの特性と思う。最初は1人が仕事を集約していてもよいが、企業がステージを進めるごとに、必要に応じて業務を分岐させていかなければならない」
同社は戦略ステップを、第一段階として技術の確立、第二段階に技術開発、第三段階に開発ドライブ、そして第四段階にビジネス化というスケジュール表がしっかり出来あがっていた。
最初の研究成果、DNAアレイは北大先端研と共同研究し、技術確立後は東洋紡に技術供与、製品化してもらった。これが最初のステップとなったわけだが、ステップを考えれば、この段階では研究開発をしているに過ぎず、この段階で事業収益を得る方法としては最も有益な方法を選んだと言える。
研究開発の開始からドライブをかけるまでも、各種助成や補助を得、機関投資家などによる第三者割当増資も順調に進んだことで、好調なペースで進めることが出来た。
「決して妥協はなく、討論の果てにしっかりと全員が納得できるコンセンサスを得ることができる。そういった実のある議論が出来る大人が集まったからこそ、国公立大学初の大学発ベンチャーとして起業できたのだと思います」
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いま、ビジネスステージへ
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▲カスタムDNAアレイ
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いまはDNAアレイのカスタム化や、得られたデータの解析などを、検体数などの規模や、病理解析、創薬研究などの用途に応じて提供するサービスのほか、これらの技術を自社で用い、直接病理解析を受注できる体制を整えつつある。
「これからがやっと、本当の意味でのビジネスです」と、西村社長は気を引き締める。
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