このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


新たなITビジネスに次々と挑戦


--- 第7回・株式会社 ブイキューブ ---

 株式会社ブイキューブは、慶応大学の学生を中心に設立された大学発ベンチャーだ。慶応大学の大学院生でもある間下直晃社長は、まだ25歳。インターネット絡みのシステム構築とコンサルティングで収益を得ながら、「電子チケット」「学級新聞オンライン」など新しいビジネスを矢継ぎ早に手がける。「うまくいかないにしても、事業のノウハウはムダにはならない」と果敢な挑戦は続く。


「うまくいかないにしても、事業のノウハウはムダにはならない」と新しいビジネスに挑戦し続ける間下社長

■マーケットに適合したサービス

 「とりあえず、やってみろ」。学生で起業したいという後輩に、間下社長は、こう言葉を投げかける。「社会人よりも学生の方がリスクが少ない。失敗したとしても、まだまだやり直せる」。間下社長自身、ウェブサイト構築などの仕事を始めたのが大学1年の時。そして、大学3年、1998年に同社を設立している。「当時は格安で質の高いサービスを提供し、評価された。苦労したがスキルは磨けた。現在は技術力が認められ、かえって受注額が高くなっている」と自信をのぞかせる。

 ホームページ制作、ウェブサイトの運営、レンタルサーバー提供を中心に事業展開しているが、「マーケットに適合したサービスを提供できる」のが同社の強みだ。「例えば、大学のホームページの場合、それぞれの大学がもつ特徴をブランド化するためのマーケティング戦略をもとに、入学案内をみた人が必ず受験するような仕組みをつくることができる」と間下社長はいう。インターネットを活用して、顧客を囲い込み、会員登録や購買まで誘導する手法については、卓越したノウハウをもつ。

 新しい形態のビジネス展開にも意欲的だ。話題になったのは「学級新聞オンライン」。インターネットを使って、何人もが同時に1枚の学級新聞を制作できるシステムだ。ブラウザ(閲覧ソフト)を立ち上げたあと、4種類ある新聞の枠からひとつを選択する。あとは写真や見出しを割り付けたり、本文を入力する。できあがった新聞は同社のサーバにデータベース化され、参加している小学生らが検索するなどして、みることができる。

 学習指導要領改訂で、小中学校のパソコン教育が本格化する動きをみせているなか、自治体向けに売り込んでいる。楽しみながらパソコンの操作に慣れることができ、それぞれの学校の生徒が学級新聞を見ることで地域を越えた交流が図れる。

 このシステムのコアとなる多層的書き込み技術は、慶応大学に第三者割り当て増資を行い、株式6%と引き換えに同大学から技術移転された。特許申請には100万円近くの費用がかかるうえ、手続きも複雑だ。この技術はもともと、間下社長たちが発明したが、慶応大学に特許申請してもらうことで、その負担を免れることができた。そして、ライセンス料の代わりに、株式を譲渡したわけだ。慶応大学による大学発ベンチャー支援の新手法で、ブイキューブはその適用第1号となった。

■ 電子チケットの実証実験


▲携帯電話を利用した電子チケットの専用解読装置
 また、同社は携帯電話でコンサートチケットなどを配信できる3次元バーコードタイプの電子チケットシステムの実証実験を、3月に東京工科大学と共同で行う計画だ。バーコードを複数枚に増やして高速で切り替えることにより、インターネット系のセキュリティーレベルとしては最高水準の認証を実現した。2次元タイプの従来のバーコードのように、簡単に偽造されることがないという。

 この認証技術は、東京工科大学の松下温教授が開発し、ブイキューブに技術移転して実用化した。正方形のバーコード画面数枚を携帯電話にダウンロードし、画面上で高速に切り替えて認証する仕組み。光学式の専用解読装置に携帯電話の画面をかざして、バーコードを読みとり、個人認証やチケット金額などの情報を解析する。

■ 家電製品をコントロール

「大学に限らず、民間企業にも新規のビジネスにつながる技術シーズが、数多く埋もれている。これを、マーケットを念頭に入れた、インターネットサービスと絡めて事業化していく」と間下直晃社長は常に新事業の掘り起こしに余念がない。その次なるターゲットが情報家電分野。「ICチップを組み込んだコンセント用の電源タップを開発中だ。冷蔵庫などの白物家電やビデオ機器など、既存の家電製品を外部からコントロールすることができる」と目を輝かせる。

 いわば「賢いコンセント」ともいうもので、このタップに家電を複数接続することで、電源のオンオフはもちろん、様々な操作を外部からインターネットを通じて行うことができる。インターネット付き冷蔵庫など、遠隔操作が可能な家電や、それを制御するホームサーバーが話題になっているが、「これらが普及するのは5年から10年先。その間を埋める商品として市場が見込める」という。

 すでに大学研究室や企業と実用化を進めており、近く発表できる見通しだ。ブイキューブは、この事業のサービスを手がける方針で、「日本の4500万世帯の10%に、このサービスを月100円で提供したとしても大きな市場になる」と夢は膨らむ。

 ブイキューブの今期の売り上げは1億円以上になる見込み。間下社長にとっては、「なるべく早く、売り上げを10億円にして株式公開する」ことが当面の目標となる。新規ビジネスがブレイクしなくても、システムなどの受託事業で5年後には実現できるが、「ひとつでも大ブレイクすれば、一気に時期は早まる」と期待する。新しいビジネスに挑戦しながら、技術ノウハウを蓄積し、大きな事業展開を狙い続ける作戦だ

 
株式会社ブイキューブ http://www.vcube.com/
◇本社:〒152-0023 東京都目黒区上目黒2−9−1 中目黒GS第1ビル6F
◇設 立:1998年10月16日
◇代表取締役社長:間下 直晃
◇資本金:2500万円
◇従業員:約30人
◇事 業:(1)ホームページ制作、Webコンサルティング、Webシステム、Webサイト運営
     (2)レンタルサーバー提供
     (3)マルチメディアコンテンツ制作、携帯電話向けコンテンツ制作