このコーナーでは、大学の研究シーズを基盤とし
てビジネスで成功された企業を紹介いたします。


産学連携で生まれた鮮度保持シートがヒット

--- 第3回・有限会社 白鳥ナノテクノロジー ---


 白鳥ナノテクノロジーは、慶應大学理工学部の白鳥世明助教授が独自の薄膜技術の応用製品を開発するために設立した大学発ベンチャーだ。白鳥助教授が民間企業と考案した、ナノレベルの“超薄膜”を利用した野菜の鮮度保持シートはヒット商品となり、さらに薄い透明ラップフィルムも近く製品化する。市場のニーズを直接聞くことで、最先端のナノテクノロジーの研究成果が、身近な分野における高機能製品を次々と生み出し始めた。

基材の表面積を1000倍に

▲新商品となる鮮度保持カートリッジの開発を進める白鳥助教授

 白鳥助教授が研究しているのは、ナノレベルの微細構造をもった有機薄膜を連続生産する技術だ。従来のように高額な真空装置を使わずに、常温・常圧状態の電解質高分子の水溶液で薄膜を作る「交互吸着法」と呼ばれる次世代の薄膜製造技術で、厚さがより均一な“超薄膜”ができる。

 “超薄膜”には様々な機能的な特徴があるが、ガスなどの吸着力が格段に高くなるのがそのひとつ。「基材の表面積を1000倍にできるため、シックハウス症候群のような障害を起こすことがあるとされるホルムアルデヒド、アンモニアガスの吸着効果も活性炭よりも高くなる」と白鳥助教授は説明する。

 この技術を生かし、緩衝材会社のプラスト(神奈川県)と共同で青果物向け鮮度保持シートを製品化した。天然素材であるセルロースに、かにの甲羅からとったキトサンと、野菜や果物の熟成や腐敗を促進するエチレンガスの吸着機能がある竹の酵素を交互に積み重ねた。このシートを入れたケースの中であれば、室温でもリンゴなら50日間、メロンや花であれば2週間は腐敗することはない。

家庭向け透明ラップフィルムも
▲鮮度保持シートはヒット商品となった

 鮮度保持シートは「やさシート」の製品名で昨夏から販売を開始し、1年余りで100万個を超える売り上げを記録した。ヒット商品を出したことで企業からの引き合いも増えた。白鳥ナノテクノロジーは、このような企業向けの製品開発を扱うベンチャーとして、白鳥助教授が「日常生活の中でナノテクノロジーという新技術の実用化を強力に推進していく」ために、個人出資で今年3月に立ち上げた。。

 さらに、住友化学工業、山之内製薬と、ノックアウトマウス1000種類の遺伝子データを開示する契約を結んだ。ノックアウトマウスを用いて、特定の遺伝子が破壊されることによる変化を解析し、遺伝子の機能に関する情報を両社に提供する。これにより、資金調達とともにノックアウトマウスの世界最大の供給元となる戦略にメドがついた。井出社長は、「個々の遺伝子がどのような機能をもっているかという、この分野の情報や遺伝子に関する特許を、世界で一番保有する企業になる」と宣言する。

 会社設立とともに、横浜市にある慶應大学の矢上校舎(港北区)とは別に、川崎市のK2(ケイ・スクエア)タウンキャンパスにも研究室を設けた。K2タウンキャンパスは、川崎市と慶応大学が連携して開設した産学官の共同研究を行うための施設だ。ここに薄膜製造機を設置して各種シートの試験生産を行っている。白鳥助教授にとっては、この2つの研究室を往復する日々が続いている。

 鮮度保持シートについては、「色が茶色でなくて白いものがほしい」「魚や肉向けのシートの開発を」「鮮度保持機能を持った透明ラップフィルムのようにならないか」といった要望も舞い込んでいるという。白鳥助教授は、「最近ではダイレクトにこのような製品がほしいという注文がくるようになった。これまでに蓄積された技術シーズを、市場のニーズに生かせるように研究するうえで、たいへん参考になる」と民間企業との商談を楽しんでいる。

 白色の鮮度保持シートはすでにサンプル出荷、魚向けにトリメチルアミンを吸着する製品の開発も進んでいる。厚さ20ミクロンという透明ラップフィルムも年内には製品化のメドがつく予定だ。とくに、透明ラップフィルムは家庭向けとして大型商品に育つ可能性もあり、化学会社からも注目されている。

福沢諭吉の“実学”に通じる

▲薄膜連続生産装置で透明ラップフィルムを試作している

 超薄膜の応用製品は、その他にも白鳥ナノテクノロジーから、次々と商品化される予定だ。リン酸ジルコニウムの薄膜を塗布したアンモニアセンサーや、電動ファン付きの鮮度保持カートリッジの受注も開始する。「アンモニアセンサーは0.1ppmという高感度ながら、従来製品に比べ1ケタ安い30万円程度を実現した。鮮度保持カートリッジは宅配便に利用すれば、冷凍しなくても常温で食材を配送できる」と白鳥助教授は自信タップリだ。

 白鳥ナノテクノロジーは、数社の企業から出資を受け、来年4月には株式会社にする予定。また、慶応大学とは申請した20件の特許のうち5件に関してロイヤリティ契約を結んだ。同社が民間企業とライセンス契約した場合、慶応大学にも利益が入る。白鳥助教授にとって、こうした産学連携は「教授がベンチャーを設立するのは米国の大学ではよくあること。研究成果を社会に役立つものにするのには、産業界との連携は不可欠となる。ここで利益がでれば研究資金として還流できる」と当然の成り行きのようだ。福沢諭吉の“実学”の思想にも通じるとしている。

有限会社 白鳥ナノテクノロジー http://www.snt.jp/

◇所在地:〒272-0032 千葉市市川市大洲4-14-3
◇研究室:〒272-0054 川崎市幸区小倉144-8 K2タウンキャンパスO棟
◇設 立:2002年3月
◇代表取締役:白鳥 世明
◇資本金:300万円
◇従業員:3人(2002年 11月 1日 現在)
◇事 業:(1)薄膜の作製、評価に関する委託研究、共同研究、その技術の販売
      (2)ナノテクノロジーを用いた応用製品に関する委託研究
      (3)薄膜およびナノテクノロジーを用いた生鮮食品、生花の鮮度保持材の製造販売
      (4)薄膜製造装置の製造販売