日本を取り巻く国際情勢は目が離せません


俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第9号を送らせていただきます。


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。


皆様

◆季節のご挨拶◆
9月も中旬になり、秋刀魚がおいしくなりました。魚屋に行って太った秋刀魚を見るとつい買ってしまいます。桃も最盛期です。ネクタリンは特に好物ですが高いですね。暑い日がありますが、もうすぐ彼岸ですから日は短くなりました。政権も交替して出直しですが、なぜ大臣になると口が軽くなるのでしょうか。民主党には軽い人しかいないのか、という話になりかねません。無理して国会議員を大臣にする必要ありますか。

この秋からは、冷静なエネルギーの議論を始めたいですが、それにしてもフクシマ原発の情報が小出しで、全貌がいまだ解りません。議論のために調査委員会は中間報告を出してほしいですね。


◆日本経済新聞の「交遊抄」に寄稿しました◆
日本経済新聞9月5日朝刊の「交遊抄」に寄稿しました。(社)俯瞰工学研究所のサイトの「特別な写真」に載せてあります。多くの方々からフィードバックを頂きましたが、最後のくだり「良い仕事をすることが良い友人をつくる」が好評でした。


◆プラチナ構想スクールの第一期生卒業しました◆
プラチナ構想ネットワークの理念を理解して、各地域で実践する、地域のリーダーを育成する、プラチナ構想スクールは2月から開講して、26の自治体から次世代を担う人材が参加しましたが、8月27-28日、いわば卒業論文の「わが街のプラチナ構想」の発表を全員が行い、小宮山宏校長から修了証書を授与されました。この「わが街のプラチナ構想」は多くの人に参考になると思いますので早い段階に公開したいですね。第二期は18自治体が申し込んでいます。この秋からの開講です。


◆日本を取り巻く国際情勢は目が離せません◆
前回は韓国が「日本海」の名称を「東海」とするよう主張していることについて「日本海」が国際的に認知された表記だ、と米国が断った記事を紹介しました。

今回は事もあろうに野田新首相のフクシマ視察の8日に、ロシア軍は爆撃機2機を日本列島上空で周回飛行させ、10日には海軍艦艇24隻が宗谷海峡を通過させたと報道されました。

ここまでやるか?考えるのが日本人の国際情勢の鈍感度でしょう。ここまでやるのです。反応を見てもっとやるでしょう。中国はマカオがカジノに使うと言って、ロシアから購入した中古の空母を改装して、南シナ海で演習です。そして日本海に面した北朝鮮の羅津(ラジン)港を50年租借したという報道もある。日本海の波高しですね。

さらに気になるのは、イスラエルと隣接のトルコ、エジプトが大使をそれぞれ引き上げるほどの緊張状態になり、ヒラリークリントン国務長官が電話をかけて冷静な対応を求めるまでになっていることです。

リビアはNATOのごり押しでカダフィ独裁体制を倒しましたが、今後はむしろ不安定な政情が続かないかと心配です。イラクやアフガニスタンの例もあります。パキスタンからアフガニスタン、イラン、シリア、イエメン、エジプト、チュニジア、リビアで戦乱が続いている。これは明らかに第3次世界大戦です。9.11以前に始まったと言っていいですが、9.11からも10年継続しています。

9.11追悼の式典で、オバマ大統領は式典のあいさつで、「神はわれらの隠れ家、また力なり。悩めるときのいと近き助けなり。されば、たとえ地は変はり山は海の真中(まなか)に移るとも、われらは恐れじ」という旧約聖書の「詩篇」の一節を読み上げ、犠牲者を悼んだ、とありますがこれはあくまでキリスト教徒の立場であり、イスラムの貧困な若者には更なるエネルギーを与えることになるでしょう。

イラクではアメリカ軍の撤退が計画されていますが、「終結宣言」以降に死亡した民間人は自爆テロ等で2600人にのぼります。米国人の戦死は約1000名に上ります。戦費もベトナム戦争を超えています。しかし最近では治安上の懸念から、米軍の一部駐留延長の必要性も指摘され始めました。混乱が続くイラクの現状は、軍事力による体制転換の「限界」を露呈したものです。アフガンも米軍の撤退計画を受け、タリバンの攻勢が続いていいます。

重大な問題は、一連のアラブ民主化?の政変の後です。民主化という政変の後、多くの国がどれほど不安定になっているかは、ホメイニ師のイラン革命が一つの例です。皮肉なことにエジプトのムバラク政権は極めて親欧米政権でしたし、核放棄後の、リビアのカダフィ政権も親欧米政権でした。

パキスタンからアルジェリアに至る、反ではないまでも親欧米でない不安定なアラブ情勢は、イスラエルにとっては生存を脅かされる重大情勢です。ヨルダンとシリアの今後も気になります。ここからこの第3次世界大戦が核まで巻き込んだ大戦争に発展する危機感が、私はあります。

http://japanese.joins.com/article/688/143688.html?servcode=A00&sectcode=A00
http://www.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/html/210909008.html
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2011090900971
http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nobu/iraq/casualty.htm


◆地域振興の力を女性からもらう◆
地域振興のプロジェクトにいくつか関わっていますが、これに関する委員会のメンバーが小職を含めてシニアの男性が多すぎるのが気になります。確かに社会経験も豊富で、人脈を含め影響力がありますが、行動力に欠けます。成功した人ほどめぐまれている故、子育ての真最中の人の感覚と乖離します。

ある県で、「xxxx活性化女性会議」を立ち上げたいと思っています。核となってくれそうな人にお願いしましたし、県庁のスタッフにも支援をお願いしましたが、結果はこれからです。地元の活動家の組織化とその行動に対する自治体の支援に加え、首都圏における強力な応援団の組織化を考えています。コミュニティーといいますが、地縁がどこまで力になるかが挑戦です。結果は報告します。


◆俯瞰経営塾を二つの企業と始めました◆
二つの企業の次世代経営者の教育を依頼され、俯瞰経営塾を二つ始めました。出発点をマネージャーとリーダーの差異の認識、目的をリーダーの教育におきました。

http://www.booknest.jp/detail/00004358


◆デジタル書斎の構築1◆
書斎を持つ、これは男(女)の夢かもしれません。私も40歳くらいの時家を新築して4畳ほどの書斎をつくりそこで数冊の本を執筆しました。執筆はパソコンでしたが資料はすべて紙でした。それから20年以上たってICTの発達がやっとデジタル書斎の実現の水準に到達しました。今は、技術とコストに制限はありません。やる気だけになりました。これから数回に分けて、私のデジタル書斎の技法について紹介したいと思います。

○基本的なハードウェア
1.高性能パソコン
今、殆どのパソコンはとんでもない高性能ですか、今時はマルチコアのWindows7かそれに相当するMACです。ただ書斎のパソコンはノートブックでなくデスクトップの方がいいと思います。書斎での仕事は長時間です。ノートパソコンは俯き加減になり、首と肩がこります。長時間の仕事は高性能のディスプレイが要ります。大容量の外付けHDDも要ります。各種の拡張機能のインターフェイスも要ります。

ポイントは、ディスプレイは液晶で大き目、21インチ以上でピボット機能、即ち画面を90度回転して縦長にできるディスプレイがお勧めです。WEB、メール、A4文書すべて縦型です。スクロール無しで仕事出来ます。A4が原寸以上の大きさで見られます。安ければ3万円くらいからありますが、これも長時間見ますからプロ仕様のものが好いと思います。例えばFlexScan EV2335Wなど。デスクトップパソコンは安いです。パソコンもマウスコンピュータなど最先端でもとんでもないほど安いです。

2.スキャナー
富士通のS1500
これは必須です。付属のソフトウェア、ScanSnap Organizer、名刺ファイリングOCR、そしてAdobe Acrobat 9 Standardが重要です。これが書斎の紙をpdfにしてくれ、pdfファイルを編集するツールになります。名刺をデータベースにしてくれます。

3.裁断機
CARL DC-210Nは雑誌の記事など端面が不ぞろいな紙資料の端をきれいに切りそろえS1500でスムーズな読み取りができます。安全です。

4.プリンターはWifi付の複合機が便利ですが、A4のレーザープリンターもあるといいです。原稿を書く人は途中打ち出して推敲、校正する時に時間がかからないから。HP製品はAppleのiPhone、iPadと連携できます。

5.iPhone、iPad
外出先で威力を発揮します。パソコンを持ち歩いてもいいですが。

○基本的なソフトウェア
1.基本ハードウェアに付随するソフトウェアが核ですが、パソコンでpdfの電子書籍を管理、読むにはAdobe Digital Exditions(無料)が必要です。クラウドサービスの、DropBox、Evernoteも必要です。有料会員になっておいた方がいいでしょう。これがあればどこでもどのパソコンでも仕事出来ます。メールもGメールで見られるようにしておきましょう。Google Chromeもブラウザーとして入れて置くとEvernoteとの連携が絶妙です。

2.マイクロソフトのオフィスは2010に出来ればしたいですね。最低でも2007にしたいですね。拡張子が変わりましたから。例えばppt→pptx、doc→docxのように。

3.ユーティリティーは数多くありますが、下記はあった方が格段便利です。以下すべて無料:
圧縮解凍ツール 例えばLhaplus
ファイルの同期 MSのSyncToy
iPhone、iPadの利用ではiTunesは必須
スパイウエア対策に Spybot
レジストリーやパソコンの掃除に CCcleaner

○紙資料の電子化と整理
1.まず書斎にある紙資料は殆ど不要ですからこの際思い切って廃却する、これが大事で後の作業量が激減します。

2.それでもとっておきたい資料で端面が綺麗な資料は、個別にS1500で読み取り、pdf化する。あくまで資料単位で、一枚でも別にスキャンする事。スキャン後はデータがScan organizerに入るので、スキャンの度に的確な名前を入力しておく。これが大切です。しないと日付だけになり後で判別できません。複数のpdfファイルを1つに統合することや、分割はAdobe Acrobat 9 Standardで出来ます。ただ分割は紙の段階でやって置いた方が手間が掛かりません。

3.雑誌の記事は必要部分だけ切り取る。カッターをうまく使うといいですが、これは記事ごとに、CARLの裁断機で端を最小幅切り落とし、S1500で読み取り、pdf化します。Scan organizerに入るので前後の不要ページや途中の広告のページを削除して、これもすぐ適切な名称を入力します。

4.閉じられた資料は裁断してpdf化することも出来ますが、思い切って捨てるかそのままで保存する?業者にpdf化を依頼もできます。

5.pdf化した資料はパソコンのAdobe Digital Exditionsのライブラリーに登録します。この時分野別、例えば、旅、食、アート、ファッション、人・・・別にブックシェルフを作成し分類して入れると後で見やすいです。電子書籍として読む事が出来ます。

6.iPhone、かiPadでこの資料を電子書籍として読むには、iTunesでファイル→ライブラリーにファイルを登録する、でします。デバイスをiTunesで同期すればiBookで見る事が出来ます。

○名刺・・・以下次に続く。


◆書評◆
先月はバエンボエムの「バレンボエム音楽論―対話と共存のフーガ」の書評でしたが、その主題がパレスチナの平和でしたので、この問題の核であるイスラエルの内情を書いた、モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」エフライム・ハレヴィ 著 河野純治 訳 光文社 2007
を今月は、紹介します。

本書はイスラエルの諜報機関として有名のモサド(Mossard)の長官であったエフライム・ハレヴィの回想録です。著者は、「自叙伝でも、モサドの功績を綴ったものではないがその要素は多分に含まれる」とあとがきで述べています。今現在、パキスタン、イラン、アフガニスタン、イラク、シリア、ヨルダン、イスラエル、エジプト、スーダン、リビア、チュニジアと戦火の中にあります。著者は1998年のアフリカの二つの都市でアメリカ大使館が爆破された時から「第三次世界大戦」が始まったという認識をしていますが、我々日本人はその情勢に極めて疎いですね。本書はそのイスラム系国際テロ組織と真っ向から戦い、周辺のアラブ諸国から国家の生存を認知されていないイスラエルのモサドの活動を通じて、歴史的な変革の意味と、日本の統治機能を再認識する知識をくれます、一読をお勧めします。

イラン・イラク戦争、湾岸戦争、ユーゴ紛争・・・の内幕やイスラエルの行動について興味深い話がありますが、本書のハイライトは著者が全身全霊を込めて纏め上げたイスラエル・ヨルダン和平条約の内幕の部分で、詳細かつ鮮明に記述されたドラマには引き込まれます。エジプトとの和平条約に次ぐ、中東情勢の安定化を推進する条約を、ヨルダン国王との個人的信頼関係、またはモサドの組織的な活動で、そして、イスラエル国内の抵抗と妨害を粘り強く解きながら纏め上げていった歴史の証言です。交渉とは何かという事の非常に貴重な教材でもあります。時のラビン首相に仕え、彼の政敵であるペレス外相との確執を凌ぎながら、調印寸前まで条約文書細かな表現の対立を解決していくプロセスは息をのむ迫力があります。イスラエルは「交戦状態」の終結という表現にこだわり、ヨルダンは「戦争状態」の終結という表現を譲らない。纏めたくない人がいる。破断寸前に国王は賢くも「戦争状態」も、「交戦状態」もアラビヤ語に翻訳すれば同じ「kharb」だから式典の演説で一言付け加えるからと、イスラエルの「交戦状態」

の表現に歩み寄り、演説ではアラビヤ語で「戦争状態―kharb―は終わった」と述べ出席者の割れんばかりの拍手を得たという。

正式調印までの三か月間にも両国政府内の様々な妨害がありその中で彼が改めて実感したことは、「…それが人間の弱さ、政治家・権力家者のあくなき野心、対抗意識、妬み、国民・有識者から認められたい、尊敬されたいという底なしの渇望といったものが非常によく表れた・・」、と言う下りは印象的でした。

この章で興味深いエピソードを一つ紹介しましょう。首相以下の多数の高官、軍幹部を入れた徹夜の最終交渉で明け方近く全ての協議が終わった時、ヨルダン国王は休憩を求めトイレに立った時、ラビン首相はエフラエルを呼び「一緒に行け。国王を一人にするな。考え直す時間を与えてはならん。もし国王の気が変わったら面倒なことになる!」と。国王の後を追い近くのトイレに入り数分間二人きりになった。深く一息ついてから、国王は「どう思うかと訊ねた・・・・」あとは読んでください。

この後両首脳はクリントン大統領に電話をかけて両国が最終合意に達したことを報告して、調印式に出席するよう要請した、と。

アラファトに評価は酷いものですが取分け国際関係のルールが判っていないと言っています。そのルールはなんと、第一は、政治指導者はメリカ大統領に嘘をついてならない。第二はアメリカ大統領を自己の利益の為に利用しようとした者は誰も生き延びることはできない、です!日本の普天間問題どうでしょうか。

後は印象に残ったフレーズを紹介しておきます。

「歴史的な責任を自覚して、一般大衆に迎合しない指導者でなければ、国民に新たな夜明けをもたらすことは出来ない」
「ラビン首相は部下からの支援や支持がなければやっていけないと、いつも考えていた」
「ラビンは自分がかかわる事項のどんな小さな点も非常に重視する…『悪魔は細部に潜む』を厳格に守る信条だった・・・・・詳細な部分についても責任を負う姿勢を示す」
「ラビンはクラウゼヴィッツの言う『摩擦の力』の危険性をよく知っていた。力と力が接触することでそれぞれの力の方向が変わってしまう事である」
「ヨーロッパ人は領域外の事柄には熱心に取り組むが、領域内の事に関しては、あまり真剣に取り組もうとしない」
「公職にあるイスラエル人は、ナチスドイツによってユダヤ人コミュニティー全体の三分の一が抹殺されたという事実を持ち出すことを避ける」
「EU諸国では『農業ロビー』からの要望が政治的最優先事項の上位に位置している」
「官僚が提案するときは匿名性が尊重・保護されなければならない。でないと正しいという事を提案できなくなってしまう」
「ネタニヤス首相は、ありとあらゆる詳細情報と多岐にわたる考慮事項を瞬時に理解し、事態を統率するという恐るべき才能の持ち主である」
「自分が蚊帳の外に置かれていたというのが気に入らなくて反対、と言う人もいた」
「何人もの指導者、政治家、官僚、補佐官たちと顔を合わせたが、・・彼らが心の中で繰り返し自問する声が聞こえてきそうだった。『自分にどんな影響があるのか』、『同僚や部下、交渉相手からどう見られるのか』、友人や同僚たちが離れたところで、私が始末をつけるのを待っていた、私が失敗したらいつでも逃げだせるように、成功が確実になったら駆け寄って勝利と喚起を分かち合えるように」
「先見性がなければ民族は崩壊する」
「いかなる決断も、常に不確実な状況下で下される、勝利の美酒に酔いしれたいなら失敗の責任を取る覚悟が必要である」
「首相といえども、人間関係、しかも非常に個人的な人間関係にがんじがらめになり、必要なときその特権を行使できない状況になっていた」
「戦略とは何か、十分な定義がほとんどされていない。戦略には学術と技術に基づいた計画立案が必要である」
「国が思い切った手段をとることに一般国民が同意するのは、テロ直後から2-3か月と言う短い期間に限られている」
「作戦計画には明確な開始日と終了日がある。だからこそみんな一致団結して、全力を尽くすのである」

巻末の佐藤優氏の解説も興味深いですね。


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◆俯瞰 MAIL 0009号(2011年9月14日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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