バングデラシに行ってきました
俯瞰工学研究所の松島克守のメルマガです。第6号を送らせていただきます。
◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表としてこれまでに名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせていただいております。またこのようなMLはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出をくださるようお願いします。また、内容等についてもご遠慮なくご意見をいただければ幸いです。
皆様
◆季節のご挨拶◆
田植えが終わり、水が入った田んぼが広がる風景は、弥生以来の日本の原風景ですね。田の横を流れる細い水路も、長い水利権の歴史を持っています。また山からの冷たい水を使う地域では、山間の溜池で、水を太陽熱で少し温めて傾斜地の田に順々に流していく水利技術は、稲作技術が、本当に最先端技術であったことを再認識させます。そして数千年前、長江(揚子江)の流域から日本人の源流が北九州に渡来した歴史に思いを馳せます。ただその揚子江の流域では干ばつと洪水のニュースが絶えません。三峡ダムの影響による流域の気候変動という説もあります。色々な点で、科学技術をガムシャラに使う80億人の人類は、地球の容量を超え始めている事を改めて実感させます。
◆バングデラシに行ってきました◆
バングラデシにマイクロファイナンスの調査に行ってきました。マイクロファイナンスとは、貧しいがなんとか経済的に自立して家族の生活をより良くしたいという女性を支援する少額の資金の金融プログラムであり、世界最貧国のひとつと言われるバングラデシで約30年前(1983年)にチッタゴン大学教授であったムハマド・ユヌスによって、”発明”されました。この“発明”が重要で、現在我々が認識している銀行の融資プログラムの小口金融とは全く違います。金利は約20%で日本の消費者金融並ですが、現地個人金融のそれが100%に近く、またインフレもあるので、相対的には思っているより高金利ではないようです。しかも複利ではなく単利です。何よりも担保なしです。ただ驚異的な返済率は強力な連帯責任のくびきから来ています。5人ずつのグループで借り、借り手全体が村でセンターと呼ばれている組織を作ります。集会の開始と終了は起立と敬礼です。俯瞰工学研究所の「別な写真」に掲載してある写真は、そのセンターの集会です。手前にいる人は32年前に初めて借り、返済と借入を繰り返し、事業を成長させ今ではバスを2台所有するまでになっています。無論、光と影はあるでしょう。そのような批判的な評価もあります。2006年ムハマド・ユヌスとグラミン銀行はノーベル平和賞を受賞しました。ユヌスさんには直接お会いしましたが、温和な表情は多くの人にお釈迦様をイメージさせるでしょう。7月に来日して講演するとおっしゃっていました。 グラミン銀行は有名ですが、他に有力なBRACというマイクロファイナンスもあります。ここも訪問しました。一言で言えばグラミン銀行の進化型で、グラミン+αです。既に多くの事業を展開して一大企業集団になっています。フルタイムのスタッフは6万人弱いるそうです。マネージャークラスはグローバル企業のマネージメントに近い雰囲気で高い知性を感じさせました。マイクロファイナンスに加え、公立の小学校に行けない生徒の支援、奨学金、BRAC大学の経営など、教育事業を展開していると同時に、健康関係の事業も展開していますが、ほとんどはビジネスとして成立していることが特徴です。社会ビジネスのモデルです。例えばマイクロファイナンスで乳牛を購入した農家を組織化して、その牛乳を集荷・処理して都市で販売する市乳ビジネスの展開、飼料販売もしていて日本の農協のようなビジネスもやっています。海外展開も、アフリカや南米そして米国でもしている事に驚きました。日本でも社会ビジネスが話題になっていますが、極めて有効な研究対象でしょう。生活、教育、健康、環境、互助、自立・・を踏まえた活動は、日本の今後の社会ビジョンに多くの洞察や示唆を与えてくれます。また、この国は凄く親日的です。何しろ国旗が日章旗です。初代大統領が日本好きで同じデザインにしたとのことです。
◆福島のある市長さんと話しました◆
「話題のSPEEDIの情報は3月23日にもらいました。」「政府はすぐに県知事には流したという。県知事は不確定な情報は流せないと言って流さなかった。」という。「知っていればもっと適切に住民に避難を話せた」という。「その間、NHKの情報だけで住民の安全の意思決定をしなければならなった。」NHKのニュースと解説の重要さがわかりました。「死人が出ないのが不思議なほど小学校も壊れたが、児童無事だった。」そしていま「住民の不安に応えるため全児童に線量計を付けさせたい。」という。少しでも住民の不安心理を和らげることしか彼には出来ないのです。「多くの住民が上下水道をやられた。給水をすぐ始めた。他の地区はひとり3リットルと聞いたがうちは5リットルにした。」しかし「住民の一人が自宅まで来て、5リットルは少ないと文句を行ってきた。」それに対して「他の人は3リットルしか貰えたかったのに貴方は5リットル貰えましたね。」と謝らなかった。「水がないのです。市長に言って解決する問題ではないでしょう。」といったという。そのひとは黙って帰ったようです。人から「貴方は政治家ではない」と云われたという。「私は政治家ではない、地域の組長だ、政治家のようなリップサービスは出来ない」と答えたという。「今の最大の課題は?」と聞くと「ともかく除染だ。」この市長どう思いますか。注記:私(松島)は知事の判断は必ずしも間違っていないとも思います。後で議論しましょう。
◆今年も本郷で俯瞰経営塾◆
毎週木曜日13:00-16:00、2号館9階で「俯瞰経営学」やっています。今年も学生有志から、単位がなくても自主ゼミで同じ講義をして欲しい、という要望があり「俯瞰経営塾」を5月12日から本郷で開講したことは前報で報告しましたが、今年は、3.11を踏まえて「日本のSWOT」、その後「会計」、「マーケッティング」、企業価値」そして6月16日に「リーダーシップ」と進んでいます。そして、前報で、目的は、知性を磨くことで、ビジネスや経営の知識は結果として付いてくるもの、知性とは、課題を自分で発見する能力、それに関する情報を収集する能力、収集した情報を分析する能力、その分析結果を編集して行動の提案をする能力、そして、周囲や対象の人たちに「判った」と思わせる表現能力。と書きましたが、本報の書評にある「レトリック」を読みますとヨーロッパの指導者教育の「修辞学」と相通ずることに気が付きました。
◆集合知で日本新生の提案書を起草◆
今月もこのプロジェクトの準備を進めています。夏休み前にはサイトを立ち上げて、今年の長い夏休みを活用したいですね。以下は先月号日本復興、再生、再興の提案は、内閣の復興構想会議を始め様々な組織から提案されていて百家争鳴状態ですが、組織を超えた国民的議論の場が有りません。ネットでバラバラに、個人的に発言しています。千人万人の意見を構造化しないと行動、実践になりません。まず、「場」を設営しませんか。「日本新生 」の提案は、「…したい。」「…しない。」と簡潔に、しかし「…べきだ。」とか、「…べきでない。」「…やめろ。」「…やれ。」のような断定的で個人の価値観を押し出す表現は避けて共創的な提案文にしませんか。ネットの課題の一つは、顔が見えない事で、乱暴な表現が出てくることです。このプロジェクトでは、実名を求めませんが乱暴な表現は最終の処理には採用されないでしょう。「日本新生」 の提案が千、万と集積されると、自然言語処理や人工知能の技術でキーワード分析や関係性の抽出が出来るので、千人、万人が一つの提案書を起草する構造化が出来るでしょう。その提案の水準は個々の提案に依存しますが、大勢の人達が言う事は、少数の識者の提案よりは「正鵠(せいこく)を射る」でしょう。投稿サイトを用意したいと思います。このプロジェクトに参画して協力してくださる方は歓迎いたします。ネット上で実行委員会を組織したいですね。
◆近未来都市を作る実験Y◆
5月30日にコンソーシアムの総会を開催して、リランチ(再立ち上げ)しました。コンソーシアムの拠点、カタリストBAの活用が始まりました。真下に多摩川が見えます。200万尾以上の鮎が遡上するそうです。プラチナ構想の「プラチナスクール」4回目を6月18−19日、このカタリストBAで開催しました。今回は各地域のSWOT分析、新風土記の発表です。8月には26の自治体の、「我が街のプラチナ構想」が26件発表されます。多分これは公開できると思います。
◆ (社)俯瞰工学研究所の技術経営学講義始めました◆
本年度は開催が遅れましたが、5月18日の18:30からオリエンテーションを行い、6月16日に第1回目を開催しました。ゼミですね。参加は12−14名です。第1回目は「会計」でした。同じ課題の本郷での「俯瞰経営塾」の学生のプレゼンテーションを紹介しました。開催は基本的に月1回、第3水曜日の19:00-です。この場は会員同士の交流の場でもあります。毎回基本的に交流会をします。賛助法人会員として、会社の仲間とグループでの参加も大歓迎です。会費は原則4月―3月の年度の会費です。社会人の参加を考えて、場所は品川インターシティ8階の(株)森精機の会議室です。
◆時代と同期する情報装備3◆
今月は今密かなブームになりつつある「PCオーディオ」に挑戦しました。技術や製品が発展途上ですので挑戦的要素があります。特にネットワーク関係はトラブります。また、手持ちのCDをPCデータに変換するリッピングも、DSDやDVD-audioになるとソフトがまだこなれていません。数十万円もするDAC(デジタルアナログ変換器)が色々なベンチャー企業から発売されています。高音質のデジタル音源をネットで販売するビジネスもいくつも立ち上がってきました。シニアのエンジニアの起業のチャンスです。このPCオーディをブームにしたきっかけの一つは、スコットランドの有力オーディオ企業のLINNでしょう。日本でも既に数百台売ったたといいますが、CDプレーヤに代わるネットワークプレヤーは百数十万円です。私は日本のマランツのNA70004をAmazonで、7万円弱で購入しました。パソコンが有れば代用できますが、音楽を聞くたびにパソコンを立ち上げるのはいかにも不便ですから。マランツは、私が学生の頃は憧れを遥か超える高級ブランドでしたが、現在では極めて低価格で極めて高性能なオーディオ機器を提供してくれます。こんな安くて本当に良いの?と思います。パイオニアもそうですね。ネットワーク上のハードディスクとして、QNAPのNASを購入して、交換式のHDDは日立の2Tを入れました。この業界も激動ですね。駒場のクラスメートで、今日立製作所の社長をされている中西さんが、IBMからM&Aをした事業を、孤軍奮闘で再生していたサンノゼのオフィスに“陣中見舞い”にいった時を思い出します。凄いですねあの方は、IBMが打ち捨てたような事業を再生して、買った時よりずっと高く事業を売却しています。そしてハードディスクの業界は世界で3社に統合されました。ですからハードディスクはいつも日立製です。実はうまく動いていません。パソコンからはこのNASの内容が見えるのですが、肝心のネットワークプレイヤーのNA7004からホルダー内部が見えません。答えある方は教えてください。従ってこの続きは次回。
◆時代と同期する情報装備4◆
Facebook始めました。時代と同期するためです。一週間で約100名を“友人”にしました。長年ご無沙汰の方々と連絡が取れました。・・・・次回コメントします。FacebookとtwitterにprofFukanの名前で出ています?
◆書評◆
今月のご紹介は、次回予告した説得の技術としてのレトリックです。「レトリック」 オリヴィエ・ルブール 2000年 白水社 クセジュ文庫先月ご紹介した「レトリック感覚」はレトリックとして、言葉の「あや」、即ち芸術的表現技術の方を解説していますが、この本は、レトリックの体系の概説です。具体的なhow toを教えてくれるわけではありません。一般向けの概説書ですから難しい本ではありませんが、読み流すには適しませんね。と言っても文庫本ですから時間はかかりません。書評と言う前に、皆さん中身を知りたいでしょうから要約を書きましょう。「レトリック」とは弁論によって人を説得する技術である。「弁論」とは複数の文章のまとまりである。「説得する」とは、感情的かつ理性的方法を用いてある信条を他人の心に生じせしめる行為である。「技術」とはテクニックと美しさを含意する。この本は、この技術に関する理論体系を扱う。とまえがきにあります。第1章ではレトリックのギリシャ以来の歴史とその時代の修辞学の解説があります。レトリックはギリシャ以来、エリート教育でしたが、19世紀に衰退して、1960年代に復活したとあります。そのギリシャ修辞学の構成は、 発想 配置 修辞 表出、です。第2章はレトリックの核である、文彩に関する解説です。文彩には、語の文彩、意味の文構文の文彩、思考の文彩があります。其々、1−2例を挙げて置きます。語の文彩:(百年が何だ、千年がどうした)(飲むか、乗るのか、どちらかだ)意味の文彩: 換喩(一杯やる)、提喩(頭数百人)(全労働者の党)隠喩 (人生の黄昏)構文の文彩:省略法(フランス製を買おう)(白さが違います)反復法(時は行く、時は行く、愛しき貴女)対照法(唯一、気散じがあるが、この気散じこそが・・)統辞破綻法 (クレオパトラの鼻。それがもう少し低かったら・・・)漸層法(私は彼から離れた、彼を避け、彼を捨てて・・・)交差配語法(貧困の哲学なのか哲学の貧困なのか)思考の文彩:アレゴリー(耕さずにして収穫なし)(経験とは、背に負った、過去を照らす灯火である)アイロニー (師匠の画風に忠実でいらっしゃいますね)逆現法(私がした苦労については特にお話出来ませんが・・)類似謙遜法(それは当然ですよね)弁論的疑問 幾らかかったかご存知ですか)第3章は論法と説得の原理、これはご自身で読んでください!衒学的ですがそれが学者?第4章 レトリックの哲学、この章も読んで初めて理解できると思います。最後に、この本にある、「レトリックとは・・・・」の記述を拾っておきます。順不同ですが、洞察力ある方は 、レトリックが「判った」と思うかもしれませんね。レトリックは一つの武器である。レトリックは常にコードとして示されてきた。レトリックは役に立つ技術である。レトリックは「巧み」の塊である。レトリックは哲学が生まれながらにして持っていた方法である。レトリックはせいぜい自分の信ずる事を他人に納得させる方法である。レトリックは真理の道具ではなく、平和の、洞察の、文化の道具である。さあ皆さん「読むべきか、読まぬべきか、それが問題だ!」ですか。
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◆俯瞰 MAIL 0006号(2011年6月18日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行責任者:松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。
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