ロシアと米国の対立が尋常ではない


◆このメールマガジンは、松島克守が、東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々にお送りしています。このようなメールマガジンはご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。お時間があれば章末のURLの元情報を読んでください。
過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/
ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので添付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。
既に約5000人に配信していますので“小さなメディア”になりました。
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◆時候のご挨拶◆
すっかり秋になりました。黄金色の田圃が刈り取られていきます。黄金色の実りで埋め尽くされた田圃を見ると、日本は黄金の国という感じがします。紅葉が始まっていますが、田圃の景色が一番季節を感じます。田舎育ちのためでしょうか。
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● ロシアと米国の対立が尋常ではない
● 日ロ平和条約の落としどころ
● 中国外交の巻き返しが凄い
● カシミール情勢が危ない
● 第36回俯瞰サロン “インターネットの次に来るもの”
● 認知症の予兆を識る
● 俯瞰のクッキング“炒め物の方程式”
● 俯瞰の書棚 「ストラテジー・ルールズ」
● 編集後記

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◆ロシアと米国の対立が尋常ではない◆
ロシアのプーチン大統領が今月3日、米国とロシア両政府が結んだ核兵器用プルトニウムの処分に関する合意について、その履行を一方的に停止すると声明しました。この合意は、米ロの核軍縮の一環として2000年に結ばれました。核兵器の解体・廃棄によって生じる大量の余剰プルトニウムを原子力発電の原料に再利用する形で処分し、再び軍事転用しないようにするのが狙いでした。

この直前にアメリカはシリア停戦交渉の打ち切りを発表しています。
アメリカとロシアは近年になく鋭い対立関係になりました。オバマ政権末期の権力の空白と、アメリカ大統領選挙の醜態を見て、プーチン大統領は行動に出ています。

シリアの海軍基地を無期限使用し、拡張するとしています。とすれば東地中海はロシアの影響下に入ります。ロシア海軍は黒海から最も狭い地点ではわずか800m程というボスポラス海峡を通って地中海に出なくてはなりませんから、このシリアの海軍基地は戦略的に極めて重要な意味があります

またサイバー攻撃によって、アメリカ大統領選挙に大きく関与していると言われています。クリントン陣営のメールが何者かによってハッキングされ、リークされています。アメリカはロシア政府によるサイバー攻撃だと非難していますが、有効な対抗策が取れません。

停戦合意破棄を受けてシリアでは、ロシアはISではなく、アサド政権と対立するアメリカが支援する反体制派を爆撃しています。多数の民間人の犠牲が出ています。とりわけ女性や子供が犠牲者です。心が痛みますが、残虐さによって精神的に制圧しようする意図があるとみられています。国際政治は力ずくです。

話し合いによる平和を諦め、否定することはできませんが、現実の社会が軍事力で決まっていくことも受け入れる必要があります。オバマ政権下でアメリカの覇権が弱まり、世界各地で軍事的な新しい均衡に向けて、緊張が高まっています。

オバマ氏退任前にロシアが浴びせた痛烈パンチ
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/101200015/?rt=nocnt
ロシアのサイバー攻撃と米国のジレンマ
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO08351030U6A011C1000000/
ウィキリークスのメール暴露、ロシア関与の見方強まる 米当局
http://www.cnn.co.jp/usa/35090548.html
ロシア シリア北西部基地の無期限使用など協定批准
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161014/k10010730451000.html
ロシア、シリア・アレッポで空爆を再開
http://www.bbc.com/japanese/37627388
空爆で負傷したシリアの少女 胸に迫る泣き顔の映像が拡散
http://www.cnn.co.jp/world/35090360.html


◆日ロ平和条約の落としどころ◆◆
12月のプーチン大統領の日本訪問に向けて、北方領土に関する両国間の交渉の密度が上がっています。すでにいろいろな交渉が行われ、落としどころを探っている段階でしょう。憶測でしょうが、色々な人が着地点を解説しています。

悲観的な人は、結局北方領土の返還はなく経済協力の約束だけが残ると、また北方四島の領有権は認められるが、実効支配している国後、択捉は共同統治、もしくは返還されないとも、そして既に合意済みの歯舞、色丹だけが返還されるというのも落としどころの1つでしょう。

いずれにせよ、安倍首相とプーチン大統領という保守派の首脳同士が、今決めなければ70年後にも解決していないというのも正論です。国際政治は力と妥協です。国民も冷静に交渉の結果を受け止める必要があります。この機会に、何としても決着をつけてもらいたいと思います。

これまでのところ、アメリカはこの日ロ交渉に干渉しないようですが、先般のラオスでのASEAN首脳会議で、直前にオバマ大統領が安倍首相との首脳会談をキャンセルした事は、ある種のメッセージではないかという深読みもあります。アメリカは終戦の時、ロシアの千島占領を黙認し、70年間何もしていません。

ただ難しいのは、ロシアが返還後の北方領土は安保条約の適用内にしてくれと要求しているとありますが、日米安保条約は第5条で、適用地域を「日本国の施政の下にある領域」と定めていますので、アメリカとの難しい交渉が予想されます。尖閣列島は日米安保条約の適用内にしてくれ、北方領土は適用外にしてくれ、とアメリカにお願いすることは身勝手ですから。

日露次官、北方領土など3年8か月ぶり戦略対話
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20161013-OYT1T50135.html
プーチン氏の訪日に向け、岸田外相訪ロへ 日ロ外相会談
http://www.asahi.com/articles/ASJ9Q45GKJ9QUTFK001.html?ref=smartnews
北方領土交渉は12月に進展も 日露「引き分け」が現実的な解決か
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20160914/dms1609140830004-n1.htm
森元総理「2島返還」先行見通し 国後・択捉は共同
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000084420.html
北方領土「2島先行返還」は本当なのか 鈴木宗男氏、安倍首相「大きな決断」を明言
http://www.j-cast.com/2016/09/28279244.html
コラム:北方領土問題で急接近するロシアと日本
http://jp.reuters.com/article/column-russia-japan-idJPKCN128040
日米首脳会談調整つかず見送りに
http://mainichi.jp/articles/20160909/k00/00m/030/084000c
北方領土 日米安保適用外に 返還後想定 ロシア要求
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/international/international/1-0327096.html


◆中国外交の巻き返しが凄い◆
このところ中国外交の巻き返しが凄いですね。 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は7月12日、「中国が主張する主権に法的根拠はない」との判断を下しました。それを受けて、フィリピンは、中国が二国間で話し合いで解決しようという提案をきっぱりと断りましたが、その後、粘り強い交渉と経済援助のコミットメントで、ドゥテルテ大統領は親中反米に変わりました。一度は、ドゥテルテ大統領はアメリカとの軍事同盟を破棄するような発言をしましたが、最近では維持すると言っています。

ドゥテルテ大統領が進めている「麻薬撲滅戦争」で、多数の人間が警察に射殺されていることに対するアメリカの非難に対し、オバマ大統領を侮辱するような発言をし、ラオスでの会談をキャンセルされた時から方向が変わったような気がします。「麻薬撲滅戦争」について、中国はドゥテルテ大統領を支援する声明を出します。加えて強力な外交努力をしたのでしょう。今月の下旬に中国訪問が決まりました。調略が成功でしょうか。

日本にもドゥテルテ大統領は来ます。そして、天皇陛下にも拝謁します。ただフィリピンが中国と対立し、日本、アメリカと軍事的に連携するという前提で、そして多分アメリカから要求されたのでしょうが、日本は気前よく大型の新造巡視船およびその他の巡視船を供与することを決めています。完全に日本もこの大統領に振り回されています。

ドゥテルテ大統領の国民の人気は圧倒的です。またフィリピンは若い人口が多い、これから経済成長見込まれている国ですから、「麻薬撲滅運動」で社会が健全化していくのは良い話でもありますが。

もしドゥテルテ大統領が中国訪問で経済援助と引き換えに、国際司法の判断ではなく二国間交渉で南シナ海の問題を処理することになれば、ベトナムとインドネシアにも二国間交渉を持ち出すでしょう。中国に「大国として国際司法を遵守する」ことを約束させる貴重な機会が失われます。そして南シナ海における中国の覇権が強まります。

中国は、周辺国に猛烈な外交攻勢をかけています。北京を訪れたミャンマーのスー・チー氏を国賓待遇で大歓迎して、中国南部とインド洋をつなぐ回廊を建設することに合意しています。マラッカ海峡を経由せずに直接インド洋への輸送路が拓けます。すでに出口の港湾は押さえています。

習近平国家主席はカンボジアを訪問して国王と首相に会い、手厚い経済援助を約束する予定です。バングラデシュにも訪問してインフラ整備の経済支援を約束しています。

李首相も外交で大活躍です。モンゴルを訪問し、国連総会でアメリカを訪問し、オバマ大統領と会談し、その後カナダとキューバを訪問しています。パキスタンもラオスも訪問しています。

これまで、外交はすべて習近平主席だけが表舞台に出ていましたが、ここに来て李首相が華々しい外交成果を上げています。これについては、中国内部の権力構造の変化があるのではないかと言われています。

中国共産党の権力構造が変動すると、中国の対外的な動きが想定外の方向に動く危険があります。尖閣諸島の緊張が高まります。航空自衛隊の戦闘機が中国機に対して緊急発進した回数が407回に上り、前年度の上半期(231回)より176回増加したとあります。

ともあれ、このところの中国外交は、一時、孤立した状態でしたが、一気にこれを巻き返すことに成功したといえます。凄いです。これは元駐日大使の王毅外相の努力と能力だと、私は認識しています。

「これは戦争だ」比ドゥテルテ大統領の右腕、死者増加を予想
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/post-6009.php
国際刑事裁から警告!「麻薬容疑者の超法規的殺害は訴追対象だ」
http://www.sankei.com/world/news/161014/wor1610140050-n1.html
フィリピン、中国側の条件付き対話要請を拒否 南シナ海問題で
http://jp.reuters.com/article/philippines-southchinasea-idJPKCN0ZZ054
中国を選んだフィリピンのドゥテルテ大統領--訪中決定
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/post-6039.php
中国、ドゥテルテ大統領の「麻薬撲滅戦争」を支持
http://www.afpbb.com/articles/-/3104459?cx_part=txt_topics
[FT]米国を凍らせるフィリピンの「中国回帰」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO07282270V10C16A9000000/
フィリピンのドゥテルテ大統領、アメリカ軍との軍事同盟維持表明
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/post-6019.php
「暴言」大統領がやって来る…フィリピン・ドゥテルテ氏25日来日 
http://www.sankei.com/politics/news/161011/plt1610110027-n1.html
反米・親中の国、フィリピンに軍事援助をする日本の滑稽
http://diamond.jp/articles/-/104394
スー・チー外交、中国・インドを手玉 「建国の父」譲りか
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO06632080Z20C16A8000000/
中国、習近平国家主席がカンボジア訪問 ASEAN切り崩し狙いも
http://www.sankei.com/world/news/161013/wor1610130033-n1.html
オバマ大統領のラオス訪問を警戒せず、中国外務省
https://portal-worlds.com/news/laos/7863
中国、バングラデシュに240億ドル融資へ 習国家主席が14日訪問
http://diamond.jp/articles/-/104707
李首相、パキスタンの首相と会談
http://japanese.cri.cn/2021/2016/09/22/162s253813.htm
ラオス入りした中国首相
http://www.jiji.com/jc/p?id=20160906212124-0022276707
馬脚を現した習近平、反撃の李克強。激化し始めた中国最後の決戦
http://www.mag2.com/p/news/222813
中国機への緊急発進、407回…今年度上半期
http://www.yomiuri.co.jp/national/20161014-OYT1T50107.html


◆カシミール情勢が危ない◆
インドとパキスタンが、カシミール地方の帰属問題で何十年も争っています。過去に大規模な戦争を起こしています。しばらく小康状態にありましたが、ここにきて軍事的な応酬があります。インドと中国は強い敵対関係にあり、過去に戦争によりインドは領土を失っています。中国はパキスタンに経済支援を積極的に提案することで、インドを牽制しようとしています。中国もカシミールに一部進駐しています。

インドとパキスタンが核戦争になるという予言をしていた人がいます。「 22世紀から回顧する 21世紀全史」 2003年 ジェントリー・リー、マイケル・ホワイト、です。

「第2章 核の惨劇」では 2016年6月6日にインドとパキスタンが核戦争を起こすと予言しています。幸い外れましたが、依然として、その可能性があるということでしょうか。ちなみに「第4章 新世界秩序の構築」では、移民と人口移動の問題によるEUの崩壊や、ドイツの就業ビザの延長停止などを予言しています。2016年「現在」を理解するのに、この本は極めて有効です。ご一読をお勧めします。

話を戻すと、インドはパキスタンとの衝突の背後に中国を感じて、中国国境に巡航ミサイルを配備しました。そしてロシアから武器の輸入を進めています。ロシアは最新型のミサイルを提供します。

ともあれカシミールは、核保有国であるインド、パキスタン、中国が実効支配を分割しており、パキスタン側の北はアフガニスタンに接しています。わずかな誤解や行き違いで核戦争が勃発する可能性はゼロではありません。

無論このような南アジアの緊張は、日本の経済そして安全保障に関係してきます。幸いインドもパキスタンも親日的な国です。パキスタンは極めて危険な国ですが、なんとトヨタ自動車とマツダは自動車の生産をしています。そのトヨタの工場を見学しました。

一昨年パキスタンを訪問しましたが、カラチでは大規模なデモが発生し、やっと空港に脱出して帰国しましたが、カラチ脱出の直後に空港がテロ襲撃されたということをニュースで知りました。こういった肌感覚もニュースを読んでいるとき認識に効いてきます。

私はナショナリストではありませんが、 リアル感覚で国際情勢を認識しなければならないと心がけています。非武装中立という安住の場はありません。

近年最悪の緊張状態にあるカシミール紛争
https://news.nifty.com/article/magazine/12172-20161013-回顧する顧178629/
武装集団がインド軍基地を襲撃 カシミール、兵士17人死亡
http://www.sankei.com/world/news/160918/wor1609180039-n1.html
インド、カシミールで奇襲攻撃 パキスタン側は強く非難
http://www.afpbb.com/articles/-/3102652
印パ両軍、高まる緊張 カシミール、「越境攻撃」に応戦
http://www.asahi.com/articles/ASJ9Z5F1QJ9ZUHBI01R.html
インドが超音速巡航ミサイルを中印国境に配備へ
http://www.sankei.com/premium/news/160903/prm1609030012-n2.html
インドへロシアの最新鋭地対空ミサイルシステムS400の売却
http://mainichi.jp/articles/20161016/k00/00m/030/123000c



◆俯瞰サロン◆
俯瞰サロンはお陰様で36回目を迎えます。この度も告知から短時間で定員を上回る申込みを頂き、申し訳ございませんが、すでに申込み受付を締切らせていただいています。キャンセルなどにより状況が変わりましたら、ホームページでご案内してまいります。
また俯瞰サロンの開催情報をご希望の方は、webmaster@fukan.jpあて、その旨をご連絡ください。次回開催時よりメールでご案内申し上げます。よろしくお願いいたします。

 第36回 俯瞰サロン 2016年11月10日(木)
「『インターネットの次に来るもの』翻訳者、情報科学ジャーナリストの服部桂さんに聞く」 いま話題の『インターネットの次に来るもの 未来を決める12の法則』(WIRED創刊編集長ケヴィン・ケリー氏の最新作、NHK出版)の訳者であり、激動する情報科学分野のジャーナリストとして常に第一線におられる服部桂さんをお招きします。
日 時: 11月10日(木)18:30-20:00 (18:15 受付開始)
場 所: 品川インターシティフロント 6階(社)俯瞰工学研究所
URL:  http://www.fukan.jp/俯瞰サロン/


◆“認知症の予兆を識る”◆
ご縁あって、青森県のイノベーション・産業振興のプロジェクトを10年以上お手伝いしていますが、その一つが弘前大学のCOI です。センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムとは10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジング・ハイリスクな研究開発を、最長で9年間支援するJSTの(国立研究開発法人科学技術振興機構)のプログラムです。

弘前大学はその1つの拠点で認知症の予兆を研究しています。正式拠点名は『認知症・生活習慣病研究とビッグデータ解析の融合による画期的な疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発』です。

私はそこのアドバイザリーボードでお手伝いしています。先般中間評価が終わり、それを踏まえてアドバイザリーボードが開催されました。このプロジェクトは、弘前大学が12年間、約1,000人の600項目もの健康診断データを収集分析している岩木山コホートプロジェクトを基盤にしています。

認知症という、多くの人が自分のこととして興味を持っている課題ですから、少しご紹介しましょう。とにかく、ありとあらゆる健康データと認知症の関連を精査しています。腸内細菌も関連を調べています。まだ結果は十分出ていませんが、確実に関連があるのは年齢です。ミニメンタルステート検査という簡単な認知症診断テストがありますが、驚いたのは60歳過ぎると急速に点数が落ちていました。 30点満点の26 点以下が、認知症が疑われる人です。テスト用紙が公開されていますから試してみますか。

認知症でなくても、確実に加齢で認知能力は低下していますから、シニアの働き方でもこれを考慮する必要があります。何よりも自覚が必要です。意思決定に若い人の意見を積極的に取り入れていく必要があります。高齢でワンマンな経営者はリスクがありますね。

その他関連が深いのは、下半身の筋肉量、握力などです。ではこれを鍛えれば認知症になりにくいのか、と考えるのは私の素人考えですが意識して鍛えています。

研究グループの伊藤健教授のマウスを使ったアルツハイマー病の予防の研究では、ローズマリー抽出物とブロッコリーの抽出物スルフォラファンが効果あるという結果を見て、すぐにネットでサプリメントを買いました。笑ってやってください!

このプロジェクトでは認知症予防の学術研究の他に、青森県の平均寿命全国最下位という不名誉な状況を改善するために、県民の健康意識の向上と健康増進の社会実装プログラムも力を入れています。

また産学連携も進んでいて、13社が具体的な製品・サービス化を推進しています。
下記の弘前大学のURLで是非プロジェクトの活動をご覧ください。大規模な学術研究は必ずや認知症予防の手法を発見し、早期の治療や改善の方法を提案してくれるでしょう。
皆さん是非ご支援ください。

センター・オブピ・イノベーション(COI)プログラム
http://www.jst.go.jp/coi/outline/outline.html
弘前大学COI研究推進機構
http://coi.hirosaki-u.ac.jp/web/
ミニメンタルステート検査
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B
%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB
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◆俯瞰のクッキング“炒め物の方程式”◆

この夏、そして最近どんな料理を作ったか思い出してみると、夏野菜を使った炒め物が多かったようです。以前にご紹介したウー・ウェンの料理本の炒め料理をかなり作りました。この人の炒め物のレシピは方程式が確立しています。
1.材料を切る。
材料は水気を完全に切る。水気が残っていると油が跳ねる。水分があると炒める前に煮えてしまう。切り方も重要で白菜やきゅうり、セロリなど味の含みが悪い素材は斜めに切って切り口を大きくする。
2.あらかじめ火を通す。
プロは油通しをしますが、肉以外は湯通しで良い。湯通しで9割がた火を入れる。そして湯通しが済んだらザルに上げて水気をよく切る。
3.調味料を合わせる。
合わせ調味料、すなわち醤油や酢、オイスターソースです。最後に入れる水溶きの片栗粉も作っておく。基本は片栗粉1に対して水2。この片栗粉は“コーチェン”と呼ばれて調味料と材料を接着する糊です。すなわち、炒め物では調味料、味は材料に直接含ませません。含ませると浸透圧で水分が流れ出てきてしまう。ただ絡ませるだけ。炒めるとは水分を飛ばす事。強火でかき回す必要はありません。もやしでも約5分十分炒めます。
4.香辛料はニンニク、生姜、唐辛子、豆板醤、花椒、胡椒です。

炒める道具として、ウー・ウェンは自分が考案したフッ素加工の中華鍋を薦めています。大きさが大小ありますが、2人の場合は24センチの小型がぴったりです。この鍋で炒める、焼く、煮る、蒸す、ができます。次にレシピの例を挙げましょう。

<イカときのこの炒め物>
材料:イカ1ぱい、長ネギ10センチ、えのき1パック、しめじ1パック、エリンギ1パック。 合わせ調味料:酒大さじ1 、しょう油大さじ1 、黒酢大さじ1.5 、黒粒胡椒を挽いたもの小さじ1 、鶏ガラスープの素(顆粒)小さじ0.5、水0.5カップ、片栗粉大さじ0.5、水大さじ1.5。 1.イカは下ごしらえして輪切りにして湯通しする。ネギは斜めに薄切りする。きのこは石づきを取り、小分けする。
2.合わせ調味料を合わせておく。
片栗粉を溶いておく。
3.鍋にサラダオイル大さじ2杯を入れて、中火でネギの香が出るまで炒める。きのこを入れてじっくり炒め、しんなりしてきたらイカを加えて炒め、合わせ調味料入れて、強火にして絡ませて、水溶き片栗粉を回しいれ、とろみがついたら胡麻油で香りをつける。炒め時間は6分。

<茄子とひき肉の炒めもの>
材料:茄子4本、合いびき肉150g、生姜1かけ、長ネギ10cm、ニンニク1かけ。
合わせ調味料:醤油大さじ1、豆板醤大さじ1、黒酢大さじ1、鶏ガラスープの素小さじ1、水0.25カップ
片栗粉大さじ0.5、水大さじ1
1.茄子は所々皮をむき大きめの乱切りにする。油で揚げて油を切る。生姜、ネギ、ニンニクはみじん切りにする。
2.鍋にサラダオイルを大さじ1を入れ、生姜、ニンニク、ネギ、豆板醤を入れて香りを出す。合いびき肉を入れ、色が変わったら酒を振り、揚げた茄子と合わせ調味料を入れて煮立たたせ、水溶き片栗粉を回し入れてとろみをつける。以上で炒め時間は3分。

強火で炒めないと水っぽくなる!という常識は間違いで、炒めるとは水分を飛ばす事。調味料を混ぜ合わせたら、水溶き片栗粉でとろみをつける。これが、家庭の炒めものですね。


◆俯瞰の書棚 “ストラテジー・ルールズ”◆
今回の紹介は「ストラテジー・ルールズ」デイビッド・ヨッフィー, マイケル・クスマノ 2016 発行 パブラボ 販売 星雲社 です。

この本はIT業界で偉大な経営者として認められているマイクロソフトのビル・ゲイツ、インテルのアンディ・グローブ 、そしてアップルのスティーブ・ジョブスの3人の時系列的な経営分析から、成功要件として5つルールを導き出したものです。そのルールは。
ルール1 未来のビジョンを描き、逆算して今何をすべきかを導き出す。
ルール2 会社を危険にさらすことなく、大きな賭けをする。
ルール3 製品だけでなく、プラットホームとエコシステムを構築する。
ルール4 パワーとレバレッジを活用する、柔道と相撲の戦術。
ルール5 個人的な強みを核にして、組織を作る。
です。そしてその詳細を解説しています。彼らの失敗や過ちにも言及しています。いわゆるMBA的な戦略論とは異なる実証分析的な戦略論で、それを単純な5つのルールに抽象化したのは、著者の高いレベルの経営学の知性によると思います。 5つのルールについて第1章から第5章でそれぞれ分析結果を解説しています。記述も解りやすくご一読をお勧めします。

第1章では、まず未来の具体的なビジョンを描き、そこから今何をすべきか逆算するために過去を振り返る、とあります。歴史から未来を考えない!ビル・ゲイツもアンディ・グローブもそしてスティーブ・ジョブスも、将来の見込みを何度も間違ったことがありますが、それでも未来を予測し、新たな情報に基づいてそれを更新しています。そして「優れた戦略家とは、ビジョンが優れているのではなく、機会を逃さない」とあります。彼らは成長の兆しや、競合がまだ見つけていないわずかなギャップを見つけて、そこに行動を起こしています。
1.未来のビジョンを描き、次に境界線と優先度を設定する。
2.顧客のニーズを先取りし、次に必要な能力を取得する。
3.競合他社の動きを予測し、次に参入障壁の構築と顧客の囲い込みを行う。
4.業界の変曲点を予測し、すぐに変更と軌道修正を実施する。
第2章では、戦略は心臓の弱い人には向いていない。時には不確かで、非直感的な行動をとらなければならないことがあるからだ、とあります。

ビル・ゲイツはWindowsで巨人IBMと対決することを決断した、 アンディ・グローブはマイクロプロセッサーの圧倒的なシェアを確立するために数十億ドルの設備投資を決断した、 スティーブ・ジョブスはMacintoshのチップをIBMのPowerPCからインテルのチップに交換するという決断をした、この決断で彼らは大きな成功を掴んだとあります。つまり、彼らは大胆ではあるが無謀ではなかったとあります。この成功を促す4つの原則は。
1.ゲームを変える大きな賭けに出る。
2.会社を存続の危機にさらさない。
3.自社の事業を共食いする。
4.損失をカットする。
です。

第3章では、業界全体にまたがるプラットホームを構築し、補完的な製品やサービスの開発、販売、サービス、流通など幅広いパートナーからなるプラットホームとエコシステムを構築できたのが彼らの成功の要因であるとしています。これに1番早く気づいたのがビル・ゲイツで、 IBMパソコンのDOSを提供するにあたり、IBMは自由に搭載していいことにして、そのかわりマイクロソフトが他のメーカーに安く供給できる契約をしました。

その結果、Appleを除くほとんどのパソコンがマイクロソフトのソフトウェアを利用し、低価格のパソコンが個人に広がり、IT社会のプラットホームになりました。そしてその上に多くのソフトウェアベンダーがアプリケーションを開発し流通させることによって、エコシステムが完成しています。

アンディ・グローブは、 インテルのプロセッサーをすべてのパソコンのプロセッサーにするために、圧倒的な生産量を可能にする巨額の設備投資をしてこれを実現しています。結果としてマイクロソフトのソフトウェアとインテルのプロセッサーはパソコンの標準、すなわちプラットホームになりました。またインテルはムーアの法則を使いながらマイクロプロセッサーのテクノロジー・ロードマップを明示して、パソコンメーカー、アプリケーションソフトウェア開発者、半導体製造装置のメーカー、シリコンウェファーの生産者を含めたエコシステムを完成させました。

スティーブ・ジョブスは製品思考が強くて、プラットホームやエコシステムの構築が遅れました。 Appleのソフトウェアを他社に使わせる事はなく、市場のシェアを失っていきました。ある時ビル・ゲイツと提携して、 MacintoshでWindowsを動かすことができるようにし、それに対しビル・ゲイツは世界のデファクトスタンダートなっているオフィス製品を開発して提供しました。 Win Winの成功例です。 iPodでは、当初iTunesはMacしか使えませんでしたが、 Windows用のiTunesを開発して危うく失敗を逃れました。どうしても製品思考が強く、
iPhoneは部品や生産ではエコシステムを構築しています。ソフトウェアではGoogleのAndroidがスマートフォンのプラットホームとなって大きなシェアを獲得しています。当初iPhoneのアプリケーションはAppleだけでしたが、第三者のアプリケーションを厳格に管理し、Apple Storeで販売するというエコシステムを構築しています。それにしてもAndroidのアプリケーションの数に比べれば極めて少数でしょう。このルールの成功要件は。
1.製品だけではなく、プラットホームについても考える。
2.プラットホームだけではなく、エコシステムについても考える。
3.自ら補完製品を作る。
4.プラットホームの改善と新規構築によって、陳腐化を避ける。
です。

第4章では、戦略的に考えることと、具体的な成果を出す戦術を結びつけることの重要性を紹介しています。力とレバレッジですが、例えが面白いですね。力ずくで相手をねじ伏せるのを相撲として、相手の力を利用しながら倒す事を柔道としています。力ずくとはジャックウェルチの「競合は買収するか潰す」です。マイクロソフトもインテルもたくさんやってきました。この3人は相撲の戦術と柔道の戦術をうまく組み合わせて成功したとあります。具体的には。 1.目立たないようにする。
2.敵を近くにもつ。
3.競合他社の強みを取り込み、拡張する。
4.力に物言わせることを恐れない。
1から3が柔道の戦術で、 4が相撲の戦術ですね。

第5章では、 3人はいずれも正式な経営の教育を受けていないので、バランスをうまくとるジェネラルマネージャではなかったが、それぞれに独自の強みがあり、それが彼らの会社に大きな影響を与えているとあります。ビル・ゲイツは当時としては誰よりもプログラムのコードを書く能力が優れていた、アンディローブは化学工学のエンジニアリングの知識があり、スティーブ・ジョブスはデザインの才能に優れていました。ただこのような個人的な強みは、新しい市場や技術、そしてビジネスモデルに企業が向かう時にそれを引きとめるというジレンマがありますが、彼らは自己を克服してスタッフを活用しながら変革を成し遂げています。地位や年齢に係わりなく、社内でその問題について最高の知識を持っている人間を探して任せています。具体的には。
1.ありのままの自分を知る。
2.厳選した対象の細部に注目する。
3.大局を見失わない。
4.知識を持つ人に力を与える。
です。
この後の終章では、彼らの次の世代すなわちGoogleのラリー・ペイジ 、 Facebookのマーク・ザッカーバーグ、 Amazonのジェフ・ベゾス、そして中国テンセントの馬化謄を分析すると3人との類似性が見えてくるとあります。

最後の後継者問題の記述の中で「補完は代替にはならない」が印象的です。 3人とも後継者として、自分の片腕として自分を補完してくれた人を指名しましたが結果として成功できていないと評価しています。たぶん取締役会も事業の継続を重視してこの選択をしたと思いますが、 3人を補完した3人は、引き継いだビジネスモデルを継続的に維持拡大する事しかできないのでしょう。ビジネスモデルは変えていませんが5年間で売り上げを2倍にしたアップルのジム・クックは評価しても良いと思います。

偉大な経営者の後継者問題は、日本の大企業でも重要な課題です。多くの失敗があります。最近の成功例は、日立製作所の川村さんから中西さんへのバトンですか。
ここまで読むと読んだ気がするかと思いますが、本書を読めば、ここで紹介できなかった、そして私が感じた以外のものを感じとることができると思います。

◆編集後記◆
●アメリカの大統領選挙はあまりに酷いので書く気がしません。といっても世界中が大きな影響を受けます。ヒラリークリントンでしょうが、TPPどうするのでしょう。
●原稿を書き終わったところで、北方領土の共同統治の新聞記事が出ましたが、書き変える必要はないとしました。
●今月行われた米韓軍事演習は凄かったですね。事あればそのまま平壌、核施設、ミサイル発射場を急襲する感じでした。
●李克強首相の活躍は中国内部の権力構造の変化を感じさせますね。王外相との連携かもしれません。ともかく中国のTOPは有能です。
●“2020年以降の世界は”は今回お休みです。
●弘前大学の認知症予兆と予防の研究プロジェクトはかなり大型で、世界一の疫学研究といわれる九州大学の久山コホート、京都府立大の認知症サポートをサテライト拠点として内包しています。結果が少しずつ公開されるでしょう。
●秋から冬にかけては、鋳物鍋でポットローストで手間かからずの料理の出番でしょうか。


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◆俯瞰 MAIL 0062号(2016年10月17日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
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編集長:   松島克守
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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