封印されたメルトダウン


◆このメールマガジンは、松島克守が東京大学教授、そして(社)俯瞰工学研究所の代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いております。このようなメールマガジンはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。お時間があれば章末のURLの元情報を読んでください。
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また、このメールマガジンに記事の投稿をご希望の方は是非原稿をお寄せください。既に約5000人に配信していますので“小さなメディア”になりました。




皆様

◆時候ご挨拶◆
北日本では厳しい寒さが続いているようですが、東京では梅の花も咲き、あと3週間もすれば桜の季節になりそうです。そして花粉症の季節になりましたね。時の流れは年々早く感じます。今年こそはと考えていた事をすぐに実行しないと、何もしないで1年が過ぎそうです

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・ 封印されたメルトダウン
・ 同一労働同一賃金は日本の構造改革
・ 行動しないオバマを見越すプーチンと習近平の行動
・ ベトナムに行ってきました
・ 眩しい人生
・ プラチナセミナー
・ 俯瞰のクッキング -ロートレックのレシピ-
・ ニューウェーブの俯瞰 -アイディア最前線-
・ 俯瞰の書棚 「WORK RULES!」ラズロ・ボック
   ・ 編集後記
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◆封印されたメルトダウン◆

全く奇怪というか理解できない話です。東京電力の原子力発電所に関するマニュアルが5年ぶりに見つかったということです。情報が共有されていなかった?こんなことがよく言えますね。マニュアルは、関係者がきちっと情報共有するためのツールです。マニュアルも見ることもなく、原子炉運転しているのでしょうか。社内で作られたマニュアルですから、書いた本人は内容を熟知しているはずです。そして津波で電源消失は大事件ですから、マニュアルを思い出すことがないとは、全く不可思議な話です。

 炉心溶融という言葉を使いたくなかった、炉心損傷で押し通したかったという意志が透けて見えます。これには当時の首相官邸の意向も働いていたとの話もあります。炉心溶融という言葉で国民が、外国人がパニックを起こすリスクを考えて、あえて炉心溶融の言葉を封印したとも言われています。確かに当時政権にあった民主党幹部からも、これに対して何のコメントもありません。国民に真実を語る、これが政治の神髄ではないでしょうか。不都合な真実を隠蔽する、これでは国民は国家を信じなくなります。これでは一億総活性化は、夢のまた夢です。これでまた、国際的な日本の信用は大きく傷つきます。公が平気で嘘をつくわけですから。

 最近でも、東京電力柏崎原発では規格違反のケーブルが使用されていて問題になっています。東京電力の原子力関係者はあまりにも職業倫理に欠けています。これでは一定程度原子力発電所の再稼働を容認する立場の人々も、ノーというしかなくなります。

 津波対策を怠ったことで多数の命が失われ、 10万人を超える人たちが帰る家を失いました。検察は不起訴にしましたが、当時の東京電力の最高幹部が傷害致死罪で強制起訴されました。当然でしょう。ただ強制起訴はほとんど無罪になっています。国民感情からすれば実刑判決が期待されているのではないでしょうか。

 メディアを含めた日本社会も歪んでいる気がします。明らかな東芝の粉飾決算を、不適切な会計処理などいう言葉でごまかしているわけです。誰に対して何を隠そうとしているのか、意図がよく見えません。できるだけ穏便に、ことを荒立てずに処理したい、という日本の文化は、社会に対する不正を隠すためならば、これは封印すべきです。


東電 炉心溶融の判断基準見逃す

東京電力、福島県に陳謝 第1原発の炉心溶融で

東電、「メルトダウン」社内マニュアルを5年経って「発掘」

柏崎刈羽原発のケーブル「違反」 規制委、全国の原発に点検を指示

東京電力元会長の勝俣氏ら旧経営陣3人を強制起訴

東電旧経営陣3人強制起訴へ 勝俣元会長「有罪」の現実味は



◆同一労働同一賃金は日本の構造改革◆

安倍政権が、同一労働同一賃金を推進しようとしています。これは日本の社会を大きく改革することになると思います。格差の問題を本質的に改善するには、これは必須です。久しく議論されてきた、そして先送りになってきた構造改革です。 TPPよりもこの方が本質的な日本社会の構造改革になると思います。それだけに経済界も労働側も厳しい決心をする必要があります。

すでに終身雇用制は幻想です。 一つの仕事、 一つの会社に人生を預ける働き方は、産業や社会構造があまり変化しない時代では可能ですが、激しいテクノロジーの進歩で、産業構造が速い速度で変化している時代では、社会もそれに応じて変化しなければなりません。終身雇用制では雇用と仕事のミスマッチを吸収できません。一人一人が人生を会社に預けるのではなく、自分で考えなくてはならない時代になり、働き方も自分で考えなければならないという厳しい時代になりました。

また、企業が非正規雇用という低コスト労働力で収益を上げるビジネスモデルを採用しているのでは、世界経済の中で日本経済は力強く成長できません。日本は大企業と中小企業、そして正社員と派遣社員という二重構造で経済成長を維持してきましたが、すでにこのモデルが破綻している事は自明です。特に正社員を減らし、派遣社員を増やすことで企業の収益を上げていることが格差を生んでいます。ですから安倍政権にはこの政策を強力に推進してもらいたいです。

フルタイム労働者に対するパート労働者の時間当たりの賃金水準は、日本は57%、ヨーロッパではフランスは9割、ドイツは8割です。まずはドイツの水準にする必要があります。ドイツ経済はこれで経済が成り立っているのですから。

年功序列を軸に残業や転勤、異動、出向が伴う正社員の日本型賃金体系との兼ね合いは課題ですが、これを理由に現状を維持することはできないでしょう。そして中小企業はどうするという議論が出てきますが、中小企業が低賃金でないと産業が成り立たないのでは、先進国とはいえないでしょう。

「働き方改革」これこそがアベノニクスのまともな政策です。


「同一労働同一賃金」実現へ首相が法改正方針

「同一労働同一賃金」経済界は賛同表明も本音は困惑

生産性の視点が要る「同一労働同一賃金」

同一労働同一賃金の論点は(Q&A)

同一労働同一賃金/成否は社会の根幹にも及ぶ



◆行動しないオバマを見越すプーチンと習近平の行動◆

岩礁を埋め立てて人工的に作った島にレーダーや戦闘機を配置するまでに、中国の南シナ海の実効支配に対する行動はエスカレートしました。もともとアメリカの口先の介入はするが軍事的な介入はしないという外交が、中国の強硬な南シナ海の実効支配を許しています。この後、防空識別圏を設定して通過する航空機の事前登録を要求するまでに行くかもしれません。

かつて、シリアが毒ガス兵器を使用した場合には断固たる軍事介入をすると言っておきながら、突然それを反故にしたオバマ大統領です。ブッシュ大統領が始めたイラン戦争とアフガン戦争から米軍を撤退させたという、感傷的なレジェンドに固執していると誰もが思っています。

ですからプーチン大統領もシリアに軍事的な介入を行い、アサド政権によるシリアの統治を通じてあの地域にロシアの影響力を維持し、このカードを使ってウクライナ紛争を有利な形で処理し、欧米のロシアに対する経済制裁を終結させようと目論んでいるのでしょう。

オバマ大統領は最近、そのシリアについて“シリアは確かに地獄に落ちたが、たとえ可能であったとしても、戦火を消すのは米国の役目ではない”と重ねてアメリカは介入しないというメッセージを、中国とロシアに送りました。冷静に考えればこれは正しい判断でしょう。もともとブッシュが安易な気合でイラク、アフガンンに地上戦を仕掛けたのが、事の始まりですから。

これを見て、自ら動くしかないと、サウジアラビアとトルコは地上兵力をシリアに送ることを検討しているといわれていますが、これはスンニ派とシーア派の激突になります。

中近東、アフリカ、アジア、中南米のすべての地域でアメリカの影響力は激減です。だから感情的にアメリカ国民を鼓舞しているのが、トランプ大統領候補です。声高に支援しているのは貧しい白人ですが、中間層の白人も本音では共感していると思います。となると、ますます世界は不安定な状態になります。本戦でトランプ候補が勝利するとは思いませんが、このアメリカ国民の感情を、仮にヒラリークリントンが政権を担当しても無視できません。なにしろ議会の上院も下院も共和党が過半数ですから。

オバマ大統領は安倍首相に対して、日本がロシアと接近しないように牽制をかけているようですが、ここはアメリカの言いなりでなく独自のポジションを取るべきです。


「中国は東アジアの覇権を追求し南シナ海を軍事拠点化」米太平洋軍司令官

米国防総省、中国には南シナ海の実効支配は可能

ASEAN、南シナ海情勢「深刻な懸念」声明発表

[FT]シリア混迷 ロシアの非情

シリア停戦に向けてアメリカとロシアが共同声明。反体制派の懸念は?

シリア停戦監視に無人機70機が使われる-ロシア国防省

ロシア、シリアに最新型のスパイ機派遣 空爆強化と関連か

首相訪露にオバマ氏懸念…電話会談で延期求める



◆ベトナムに行ってきました◆

ホーチミンシティに20年ぶりに行ってきました。 20年前のホーチミンはベトナムが経済開放を始めた直後でした。街はゴミ箱をまき散らしたような状態でした。むろん近代的なビルはほとんどなく、自動車もほとんど見かけませんでした。ただいくつか新しいホテルが出来ていて私たちはそこに泊まりました。

20年ぶりのホーチミンは道路にゴミ一つなく、近代的なビルが立ち並び、ピカピカの自動車が渋滞するほど走り回っていました。人々は笑顔に満ちて、輝きがあります。なにしろ国民の平均年齢が29歳という国ですから、若々しくたくましい成長を感じさせます。

ベトナム戦争当時の大統領官邸が、観光の目玉です。実はここは3回目です。中にはベトナム戦争の作戦本部や閣議の会議室がありますが、私にとっての見所は、屋上にあるヘリポートです。ベトナム戦争の終結のとき、アメリカ軍の最後のヘリコプターが飛び立つ瞬間の映像が今でも鮮明に蘇ります。一緒に連れて行ってほしいという泣き叫ぶ人人たちが、人の鎖のようにヘリコプターにしがみつき、そしてバラバラと落ちていった悲惨な光景です。

私達の年代は大学生の時にベトナム戦争をリアルタイムのニュースとして繰り返し、毎日のように見てきました。ですから頭の中に様々な悲惨なイメージが蘇ります。近くの戦争博物館に回ると、庭にはその当時のヘリコプターや戦闘機そして機関銃や大砲が展示されています。そして館内には悲惨なベトナム戦争の写真が所狭しと、展示されています。これを見ていると頭の中が40年前の世界になってきました。

サイゴン陥落の後、北ベトナム軍が粛々と進駐し大統領官邸に向かう情景は、当時の産経新聞の支局長だった近藤 紘一氏の『サイゴンから来た妻と娘』 に描写された世界として私の頭の中で広がっていきます。サイゴンの全市民が緊張し固唾を飲む中を粛々と北ベトナム軍が町の中に進駐する緊張感は、この小説の中でもクライマックスで、素晴らしいドキュメンタリーです。

そして再びホーチミンシティの街を見ると、明るくて活動的でたくましい経済成長を実感させる風景が眩しいような情景として戻ってきます。

ホーチミンシティでレストランを経営している日本人の、眩しいような人生に出会いました。


https://www.youtube.com/watch?v=dqshKMuMnKo http://mickeymouseclub.ifdef.jp/html/vietnam_rekishi_saigon01.htm



◆眩しい人生◆

ホーチミンでトレーニングレストラン“フーンライ(HuongLai)”を経営している白井尋さんです。このレストランはストリートチルドレンや貧困で学校に行けない若い人達をレストランのウェイター/ウェイトレスとして雇い学校に通わせ、そしてレストランで最高レベルの接客業務ができるように訓練します。そしてその人たちは、市内の高級レストランに就職してきちっとした社会生活を送るようになります。なかにはさらに五つ星のホテルに転職してキャリアアップしていく人たちもいます。

この方は若い時ベトナムに留学経験があり、貧しいベトナム人をなんとか支援したいとこのレストランを経営してきたとのことです。驚くことに、寄付でこのレストランを経営するのではなく、きちんとしたビジネスとして持続的に経営されていることに感銘を受けました。これがソーシャルビジネスのあるべき姿だと思いました。寄付でこのようなレストランを経営する例はあるようですが。

店の奥で背筋を伸ばして若い人達の動きを見守り、それぞれのテーブルに目配りをしている姿は、私にとって眩しいような姿でした。凛としたオーラが眩しかったのです。一度しかない人生をこのように自己実現する方がいるのです。



◆プラチナセミナー◆

元東大総長の小宮山宏先生が主宰するプラチナ構想ネットワークの活動について、深く理解していただくためにプラチナセミナーを企画しました。第一回目は、私が知る限り日本で最も成功している地域プロジェクト“グランドワーク三島”の20年以上にわたる活動をご紹介します。

日 時:2016年4月8日(金) 19:00 - 20:20(18:40受付開始)
場 所:東急キャピトルタワー4階会議室又は霞ヶ関ナレッジスクエア
講師:渡辺豊博氏(グランドワーク三島 専務理事)

渡辺氏は、現職地方公務員時代から地域起こしの活動を精力的に行い、どぶ川の清掃を一人で始めるところから、多くの市民を巻き込んで“水の都 三島”を再生させました。その道のりを中心に、真の協働と真の地域再生について伺う貴重な機会となっております。
なお、講演終了後、60分程度の懇親会がございます(参加費2000円)。講師の先生、また参加者相互の貴重な交流の機会ですので、あわせてご参加いただければ幸いです。
お申込みアドレス:register@platinum-network.jp



◆俯瞰のクッキング -ロートレックのレシピ-◆

前回ロートレックの「カスレ」のレシピを紹介しましたが、ロートレックの料理本を買ってみました。まさにロートレックは本物のシュフです。たくさんのレシピが紹介されていますが、手が出るレシピは限られています。貴族階級であったロートレックですので狩りの獲物料理、いわゆるジビエ料理のレシピがありますがこれは手が出ません。

最初にいろんなソースのレシピがありますが、かなり手が込んでいて家庭で作るには重いですね。現在のフランス料理はヌーベル・キュイジーヌですが、この本のレシピはオートキュイジーヌと呼ばれる伝統的な料理です。

魚料理はいくつもありますが、川マスのレシピが多いです。冷蔵・冷凍設備のない時代には、海岸近く以外では川マスが手に入る魚だったのでしょう。うなぎのレシピがありますが、いずれも皮をむくとあります。焼いた魚の皮はヨーロッパでは食べないのでしょう。

ブイヤーベースのレシピもいくつかありますが、興味深いのは沸騰すると一旦火を止め、また火を戻して3回ほど煮ることによってスープが美味しくなるというレシピです。また また最初に魚と野菜を炒める時に使うオリーブ油の量がかなり多いですね。

レシピの中によく登場するのはバター、クリーム、卵黄そしてルーをかく、という言葉です。また陶製の大きなシチュー鍋、がよくでてきます。オーブンは400度とありますが、家庭のオーブンではとても無理ですね。

家畜料理のレシピはジビエ料理とは別の章になっていますが、これもなかなかレベルが高く、われわれが家庭で作るレシピは限られています。その中で手が出そうなレシピはこんなところでしょうか。

“ベシャメルソース”、これは、いわゆるホワイトソースです。問題ありませんね。

“貧乏人と呼ばれるソース”、これは赤ワインビネガーにみじん切りのパセリ、玉ねぎ、エシャロット、そして胡椒だけを加えてカキや貝類に使うということです。オイスターバーに行くとこれがでてきますね。

“ボルドー風の魚のスープ”、“地中海風の魚のスープ”、は地中海産の魚を使うか北大西洋で取れる魚を使う違いがありますが、基本的にはブイヤーベースです。

“マスのクリーム煮”、これは内臓を取ったマスの腹に粒胡椒を2、3粒入れ、外側にバターを塗り、塩胡椒をして焼き網で焼きます。そしてバターを塗った耐熱性の皿にのせ、クリームをかけてオーブンでゆっくり煮るとあります。

“マスの水煮”、これは、内臓を取ったマスを、酢と少々の塩を入れて煮たてた鍋に(クールブイヨン)、生きたままのマスを放り込むとあります。ニジマスは頭を叩いて気絶させてから内臓をとるので、生きたままというのでしょう。そして、煮上げた魚に溶かしバターをかけます。これはニジマスで何回かやったことがあります。クールブイヨンは、本には数字はありませんが、水カップ3杯に酢を1/3カップ塩を小さじ2杯です。

“ブイヤーベース”、 かなりの好物であったようで、いくつもレシピがあります。その一つ、6人前で地中海産の魚を3 kg用意するとあります。上質のオリーブ油を3/4リツトル、みじん切りのタマネギを2個、ニンニクを5かけら、パセリ1束、タイム少々、カイエンペッパーひとつまみ、新鮮なトマト5個、サフラン小さじ1/2杯、荒塩大さじ1杯。
油がクリーム状になるまで野菜と調味料を鍋で絶えずかき混ぜながら、そして魚を入れる。そして30分ほど置く。ここまでは火にかけないとのことです。具にする魚を取り分けておき、一人当たり水を大きなコップに1杯すなわち6杯加える。 10分ぐらいグラグラ煮たたせ、コップ1杯の冷水を入れ沸騰を鎮める。取り分けておいた魚を戻して、再び3分間沸き立たせ、またコップ1杯加え沸騰を静まらせて、また沸騰させ、またコップ1杯加え、さらに5分煮立てて、全体として18から20分間煮る。結局全部でコップ8杯の水を加えることになる。3度沸騰させ2度沸騰を鎮めるプロセスで乳化した油は煮汁と混じり全体が完全に溶け合いとろみが出る、とあります。このほかに英仏海峡風ブイヤーベースもありますが、これは地中海産の魚を用いないことだということです。すぐに炒めるレシピもありました。

“ビーフシチュー”、面白いことに、ポトフで煮た後の牛肉を使うとあります。バターを塗った陶製の皿に肉を並べて塩胡椒し、ブラウンソースをかけ、バターを乗せて、パセリのみじん切りを混ぜたパン粉をかけて、オーブンで焼くとありますが、我々のビーフシチューとはかなり違っていますね。この昔ながらの料理法はすたれつつあるともあります。
“肉と白インゲンの煮込み(カスレ)” 、これは野菜や様々な肉のスープを用意し、陶製の皿に煮込んだ白インゲンを敷き、その上にソテーした羊肉と鵞鳥の切り身を置きスープをかけてパセリを混ぜたパン粉をかけてオーブンで焼くとあります。このレシピもトマト仕立てのスープを作る部分に力が入っています。

この本は、各ページにロートレックが書いたデッサンがありますので、これを見ているだけでも結構楽しいです。

wikipedia:ヌーベルキュイジーヌ
wikipedia:オートキュイジーヌ

◆ニューウェーブの俯瞰 -アイディア最前線-◆

毎日の様にアイディアに満ちた面白いものが発売されています。その中でちょっと触ってみたいな、買ってもいいかな、と感じたものをいくつかご紹介しましょう。 どれも買っていませんが。

・オリンパスの「OLYMPUS AIR A01」
一眼レフカメラの交換レンズのような円筒型のスタイルで、“レンズ型カメラ”です。一見して普通のデジタルカメラらしくはないが、有効1,605万画素のマイクロフォーサーズセンサーを搭載する、れっきとしたミラーレスカメラです。液晶ディスプレイや光学ファインダーを持たずに、撮影時の映像はスマートフォンのアプリで確認するスタイルです。スマートフォンとの接続には、Bluetoothと無線LANを利用。ドローンやロボット、機器、壁などに装着すると面白いことができそうです。

・水中ドローンOpenROV
潜水可能な深度は100メートルまで、動作可能時間は2時間。OpenROVは自分で組み立てるなら、11万8800円(税込)という驚異的な低価格です。そして購入してすぐに使える水中ドローンOpenROV v2.8 水中観測キット【組立調整済】は37万8000円(税込)。

・株式会社ドスパラUSBハブ付きOTGカードリーダー
スマホでマウスが使える!上海問屋がUSBハブ付きOTGカードリーダーを発売しました。Androidスマートフォンやタブレット、PCなどで使用できるカードリーダーとハブ機能を持った変換アダプター。OTG機能に対応しているスマートフォンやタブレットに接続することにより、フラッシュメモリやマウス、キーボードなどを使用できます。

・アルカテル、本体が入っている箱がVRのヘッドセット
日本ではそれほど見かけない「アルカテル」のスマホですが、注目を浴びているのがその最新機種。本体のスペックも良いですが、本体が入っている箱がVR(バーチャルリアリティ)のヘッドセットになります!

・日産INTELLIGENT PARKING CHAIR
会議などで使ったあと、てんでんばらばらの場所に置いても、手を叩くだけで、もとあった場所に戻っていく。イスの形をした、ちょっとしたロボットですね。駐車アシスト技術から着想を得たとのことです。

・GPSをインチレベル(約2.5cm)まで正確にする技術
GPS受信機は、地上2万 kmを飛行する衛星が発射している電波をとらえて、地球上の自分の位置情報を出力してくれます。それ自体だとだいたい30フィート単位(約9m)で位置を特定してくれます。最近の技術である、DGPSは、位置の分かっている基準局が発信するFM放送の電波を利用して、GPSの計測結果の誤差を修正して精度を高めてくれるので、3フィート(約90cm)単位まで精度が上がりました。

そして、カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが、センサーから慣性測定で定期的にGPSデータを増強する技術と、数桁のオーダーで計算の複雑さを軽減するという新しいアルゴリズムを開発しました。この技術がモバイルデバイスに搭載されるGPSシステムは、インチレベルの精度で位置を計算することができるようになります。まだ製品になっていませんが、この技術を何に使いましょうか。

オリンパスの「OLYMPUS AIR A01」

価格破壊な水中ドローン「OpenROV」

スマホでマウスが使える!

スマホの箱がそのままVRヘッドセットになる

日産がつくった「すごいイス」-使ったあと自分で元の場所にもどる

位置情報がセンチ単位で正確になる、新しいGPSテクノロジー1

位置情報がセンチ単位で正確になる、新しいGPSテクノロジー2

◆俯瞰の書棚◆

今回のご紹介は「WORK RULES!」ラズロ・ボック 東洋経済新報社 2015 です。

この本はGoogleの人事システムの紹介の本ですが、まさにGoogle発展の秘密を解き明かしています。著者は、秘密主義と嘘と恐怖が蔓延していた共産主義政権下のルーマニアからの移民ですが、その職歴が凄いです。デリカテッセンやレストラン、図書館、高校生の家庭教師、日本で小学生に英語を教え、テレビ俳優、そしてコンサルタントなどの多様な仕事を経験した後、“あらゆる企業の人材の使い方に変化をもたらす方法を見つける”ことを目指し人事部の仕事を始めたとあります。マッキンゼーのコンサルタントからGEの人事部に、そしてGoogleの人事部に移りました。

そして半分以上の時間を人事問題に費やしていたジャック・ウェルチの下で、業績に基づいて社員を厳格にランク付けする人事システムを作り上げ、ニューヨークのクロトンビルにグローバル研修センターをつくるという仕事をしています。GEの人事システムはトップ20%ミドル70%ボトム10%に社員を振り分けるシステムです。トップの社員は特別扱いを受けリーダーシップ研修、ストックオプションといった報奨を手に入れ、ボトム10%は解雇されます。

ジャック・ウェルチとジェフ・イメルトとの違いも述べています。ジャック・ウェルチはsix sigma と人材を重視した、イメルトは売り上げとマーケティングを重視したとあります。すなわち「エコマジネーション」です。そしてこの後Googleに移ります。上場から2年後のことです。

Googleは毎年約200万通の就職申請を受けるとのことです。そして雇う人数は数千人ですからものすごい難関です。

全体で14章から成り立っていますが、第1章は創業者になろう(創業者のように振る舞う)、第2章は文化が戦略を食う、です。戦略の基底にある文化が大切だということですが、これはピーター・ドッカーの言葉で、フォードの戦略会議室に貼ってあるそうです。

Googleの文化の基底は、“ミッション”、“透明性”、“社員の発言権”です。そして第14章に、いわばこの本のエッセンスが集められています。“チームと職場を変える10のステップ”です。
 1.仕事に意味を持たせる。
 2.人を信用する。
 3.自分より優秀な人だけを採用する。
 4.発展的な対話とパフォーマンスマネジメントを混同しない。
 5.「2本のテール」に注目する。
 6.金を使うべきときには惜しみなく使う。
 7.報酬は不公平に払う。
 8.「ナッジ」きっかけ作り。
 9.高まる期待をマネージメントする。
10.楽しもう!

この本読んでない人には、少し説明がいるでしょう。発展的な対話とは、どうしたらもっと成長できるかというカウンセリングで、この会話と業績評価の話を一緒にするな、です。 「2本のテール」というのは、すばらしい業績を上げている優秀な社員と業績が上がらない社員のことです。すばらしい業績を上げている社員を丁寧に観察し、そこから有効な情報を学び、業績が上がらない社員は能力が無いのではなく、与えられている役割が不適切だと考えて、それを正すことです。

「ナッジ」とは、相手に気づかせて人生を良い方向に導いてあげることです。例えば浪費をしないで、少しでも年金の積立金を増やしたほうが将来幸せになるとか、健康についての習慣などを助言することです。

金を使うということは、Googleでは社員が死亡した場合、パートナーに未行使のストックオプションに相当する金額を払い、さらに社員のパートナーに10年間 給与の60%支給し、子供がいる場合は19歳なるまで1人につき月1,000ドルを加算するという手厚い、驚くようなお金の使い方です。

採用について興味深い記述があります。マネージャーに面接を任せると自分より優秀な人を取らないから、専門のリクルーターが科学的なインタビューで面接します。そして自分より優秀な人だけを採るとあります。もっと採用に時間とお金をかけろということです。しかも心理学や社会学の博士の学位を持つような専門家を雇い、採用というプロセスに科学を導入しています。またアイヴィーリーグの有名大学よりも州立大学のトップクラスの人材をねらえということも面白いですね。ともかく驚くような人材を世界中から発掘して採用するというのがGoogleの採用政策です。

採用に関するルールは、
1.求める人材の質の基準を高く設定する。
2.自分自身で採用候補者を見つける。
3.採用候補者を客観的に評価する。
4.採用候補者に採用の理由を伝える。
そして膨大な時間をかけた採用プロセスの開発で、最適な面接回数は4回、が結論です。ただし直感を信じるな、第一印象に囚われるなとあります。凡庸な面接者は最初の5分間の印象で評価を行うとも言われていますし、さらに研究によれば面接の結果は、最初の10秒で下された判断から予測できるともあります。Googleは、訓練された面接者が複数で丁寧に面接するのです。そして確立された科学的な面接の手法は、構造的行動面接と構造的状況面接を認識能力、誠実さ、リーダーシップの評価と組み合わせるものです。この詳細は、本書を読まないとわからないと思いますが。

面接での質問の仕方についても興味深いGoogleのノウハウがあります。候補者がGoogleで成功するかどうかを予測できる4つの明確な属性があります。
1.一般認識能力、頭の良い人材です。
2.リーダーシップ。
3.Google的であること、ゆかいなことを楽しむ、従業員ではなくオーナーであってほしい、曖昧さを楽しむ。
4.職務関連知識、 Googleではコンピュータ・サイエンスに関する専門知識を重視するようです。

また良いマネージャーの条件として、
1.良いコーチであること、
2.チームに権限を委譲しマイクロマネジメントをしないこと、
3.チームメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと、
4.生産性・成果志向であること、
5.話を聞き情報を共有すること、
6.チームメンバーのキャリア開発を支援すること、
7.チームに対して明確な構想と戦略を持つ事、
8.チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
この本は、著者が作ったGoogleの最強の人事システムの紹介であり、その結果を披瀝する本でもあります。

本書は人事関係者、部下を持つ管理職はもとより、経営トップが読むべき本です。そして人事と採用にもっともっと時間を割くべきだという自覚することになるでしょう。精鋭を集めることです。業績に悩んでいるであればGoogleに学ぶことです。

Google成長の秘密は、“社員に自由を与えれば驚くようなことをしてくれる、社員に与える責任、自由、権力の程度は安心して与えられるよりもやや大きくしよう、あなたが不安を感じないとすれば十分に与えていないということだ。”です。

◆編集後記◆

●アメリカ大統領選挙もクリントンとトランプの対決の様相になってきましたが、土壇場で元ニューヨーク市長のブルンバーグの線もあるのでしょうか。
●日本の野党連合も進みつつありますが、国民の期待感はありません。政策のヴィジョンがない人たちの野合でも、与党と対峙する勢力は牽制の意味で必要ですが。
●格差、貧困をなくす努力は、この国を風格ある国にして次世代に引き継ぐために必要です。無論、各自が自分で努力する必要がありますが、努力をする場、働き場所が必須です。
●英国のEU離脱で揺れる欧州ですが、軸となるドイツのメルケル首相が選挙で勝利したことでホッとした感じです。日本、米国、ドイツで国際社会の安定を担わないといけませんから。英国はAIIBやイラン戦争の様に当てになりませんから。
●Googleの人事システムは凄いですね。知り合いがいますが、内部の競争は凄くて、本書に書いてあるように楽しんでいる人ばかりではない様です。ジョブセキュリティが全くないと、こぼしていましたから。創業者も移民で、逞しい自立心が日本人と違います。逞しい移民が、米国社会を活性化しています。そんな逞しい移民を、日本社会は受け入れられるのでしょうか。



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◆俯瞰 MAIL 0056号(2016年3月4日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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