欧州、中近東、アジアで続く世界秩序の激動


◆工学研究所の 代表として名刺交換やメール交換をさせて頂いた方々に送らせて頂いております。 またこのようなメールマガジンはメールボックスのご迷惑と感じられる方もあるかと思います。 ご遠慮なく不要のお申し出を下さるようお願いします。 また、内容等についてもご遠慮なくご意見を頂ければ幸いです。 過去の俯瞰メールは俯瞰工学研究所のHPの「俯瞰メールのアーカイブ」にあります。http://www.fukan.jp/ ご友人、ご家族に転送して頂くことは大歓迎です。このマガジンは長いので、 添付のpdfファイルを保存しておいてタブレット等でゆっくりお読み頂くこともできます。 また、このメールマガジンに記事の投稿をご希望の方は是非原稿をお寄せください。




皆様

◆時候ご挨拶◆
秋ですね。田園には黄金の稲田が広がります。すでに色づいている枝もあります。 田植えや若葉の季節がほんの昨日のようですが、時は凄い速さで流れて行きます。 “少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず・・・・”、 キッチンの扉に貼って絶えず見ますが、最近では最後の“階前の梧葉すでに秋声”が気になります。

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・欧州、中近東、アジアで続く世界秩序の激動
・中国をどう見るか
・ソニーの苦悩と新生は国民的課題
・米国俯瞰の旅
・俯瞰のクッキング --健康寿命--
・ニューウェーブの俯瞰 -- デジタル企業の手首の激戦--
・俯瞰の書棚 「月の裏側」 クロード・レヴィ=ストロース
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◆欧州、中近東、アジアで続く世界秩序の激動◆

依然として世界各地の騒乱が続いています。ウクライナも不思議な妥協の結果、 停戦には持ち込みましたがこの後の落とし所が微妙です。事の起こりも変ですが、 ロシアが軍事力を使って第二次世界大戦後の国境を変更した事は欧州の緊張関係を高め 経済交流を制限することになります。

スコットランドの独立投票も欧州の緊張感を高めました。
結果は否決ですが、各地の独立を要求している地域への影響は今後も残るでしょう。 EUという超国家がこれまでの国家の概念に影響与えています。
しかもこの後、英国はEU離脱の可否を問う国民投票を予定しています。 ただ経済的にはロンドンという世界屈指の巨大都市国家の外延部でしかないスコットランドが 自立した経済成長を維持できるとは考えられません。
ロンドンには最高の人材が能力を発揮できる場を求めて集り、結果、最高の人材を独占しているのです。

日本でも地方分権という議論がありますが、既に日本は東京という超大型の都市国家と その周辺の地域経済という構造ができています。
東京に大企業の本社が集中し、人材と情報を独占している状態を改めて認識する必要があります。 新幹線と高速道路そして空港の整備は、東京圏というメガ地域と 地方の中堅都市という衛星都市のネットワークを強化し、 このネットワークにつながらない地域は経済的に衰退し消滅へ向かうでしょう。 ですから単なる地方分権や権限委譲のような単純な議論で日本の将来はすみません。 新しい日本の国家モデルを作り出していく必要があります。
その意味でも自治権を拡大するスコットランド、北アイルランド、ウェールズと ロンドンというイギリスの国家体制の今後の動向が興味深いですね。
また、EU離脱であればその後のイギリスの動きも興味深いですね。
中近東は依然としてシリア、イラクのイスラム国との戦い、イスラエルとハマスのにらみ合いが続きます。
とりわけ欧米によるイスラム国勢力への空爆、今後のシリア空爆と戦乱は激しさを増しますが、 腰が座らないオバマ政権の対応に国内外に苛立ちがあります。
すでにイラクとアフガニスタンの戦争で懲りて、この地域での戦闘に参加を避けたい米国ですが、 それがイスラム国の台頭を招いたことも事実です。
さらに驚く事は、アラブの革命以来ほとんど無政府状態のリビアについて、欧米は全く関与を諦めているようです。 したがってエジプト、サウジアラビアや首長国連邦が米国に事前通報しないまま勝手に空爆しています。 この状態はこの地域の混乱をさらに深めそうです。
すなわちこの地域におけるアメリカの影響力は驚くほど小さくなってしまいました。 その結果さらに不安定になるという悪循環です。
難産だったアフガニスタンの大統領選挙もなんとか妥協ができたようですが、 米軍完全撤退後の展望は全く見えていません。
ある意味ブッシュのアメリカが掻き回して後は知らん、ですか。

アジアでは中国が周辺国との関係を改善する努力を見せています。
モンゴルから東南アジア、そしてスリランカ、インドと習近平主席が訪問外交しています。
11月の北京でのAPECで地域のリーダーとしての姿を見せたいのでしょうが、 インド中国国境の睨み合いなど現場ではなかなかことがうまく運んでいないようです。
そして予断は許しませんが、中国の国内事情から日中関係は改善の方向に向かいそうです。


実体のないNATOの決定にロシアが反発し、ウクライナ危機が深まった
http://mainichi.jp/select/news/20140921k0000e030123000c.html
リビア「空爆」なぜ? UAE・エジプト、イスラム過激派伸長に危機感
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140831/mds14083120240010-n1.htm
中国が新たな世界秩序をゆっくりと構築中―米メディア
http://www.xinhuaxia.jp/social/47305



◆中国をどう見るか◆

中国経済に関しては、絶えず悲観的な記事が目に付きます。
いろいろな課題がある事は事実でしょうが、中国経済が「フェーズ2」に入ったと私は認識しています。
これは日本経済の過去の経緯を分析した結果から言えます。
日本経済はオリンピックと万国博と10%を超す経済成長してきましたが オイルショックいうハードランディングで6?5%の成長という「フェーズ2」の段階になりました。
オイルショック時は国家存亡の危機であったのです。
全量を輸入に依存していた原油が3ドルから12ドルと4倍にも跳ね上がり、 消費者物価は23%上昇して、トイレットペーパーを奪い合うような狂乱物価で高度成長は終焉しました。
これを日本人は乗り切って80年代の黄金時代を築きました。
さらに第二次オイルショックを産業構造改革でのりきり、バブル崩壊まで内部的な充実を図りつつ10数年成長してきました。
そして91年のバブル崩壊からは「フェーズ3 」の段階になり、その後は今日まで2?0%の低成長がですが2%は悪くない数字だと思います。
この間リーマンショックというハードランニングも乗り切りました。
この日本の経済発展のモデルを中国に当てはめると、中国経済が「フェーズ2」の段階になったと私は考えるわけです。
ですからそれほど悲観的な認識をしていませんがハードランニングです。
これからは7?5%の成長が現実的でしょう。
まさに中国首脳陣が繰り返し言っている安定成長への経済改革は間違ってないと思います。
習近平は「新常態」という言葉を使い、予想されるハードランニングに対して 国民が一致してこれを乗り切るように求めています。

ただ当時の日本との違いは政治の安定性です。当時日本は日米安保改定が済み、 学生運動も終焉、自民党の絶対多数単独政権と政治体制は最も安定していた時代でした。
一方現在の中国は共産党独裁とはいえ、党内に元老を頭とする派閥があり、軍部も政府の指揮下にありません。
加えて、ウィグル、チベットのような内陸部に不安定要因があります。
ハードランニングに伴い国内が政治的に混乱するリスクはかなりあります。
ですから「フェーズ2」への移行における混乱のリスクがあり、成長が減速しますから 中国市場の急成長を想定した企業判断はできないと思います。
すでに海外からの中国投資は減少しています。日本の場合は過去の事件の件もあり、 他国に比べるとASEANへの投資の傾斜が強く大幅な減少となっています。
一方政治的にも新しいフェーズに入ったように思います。
もともと習近平は胡錦濤の推す李克強に対して、江沢民に代表される共産党の古い勢力の支持で政権を獲得した経緯から、 権力基盤が脆弱でその強化にこれまで時間をかけたと思います。
この権力闘争も共産党の古い勢力を汚職絶滅という錦の御旗で次々と粛清し、 最大の政敵である石油閥の周永康の摘発でほぼ完成したのではないでしょうか。
胡錦濤の共青団に対しても一定の威圧をかけています。
従ってこの自信から軍の改革に着手し権力を絶対的なものにしつつあると思います。

ですから日本に対する政策もこの余裕から変化が出てきているのでしょうし、
今後の国内情勢を考えれば周辺諸国と事を構える余裕はありません。
領土拡張の強硬な外交路線も周辺国のモンゴルやアジアへの歴訪の中で少しずつ平和的な言動をするようになっています。
最大の宿敵であるインドも訪問し連携と投資を約束しています。
まだまだ予断は許しませんが、国内政治の求心力のために反日カードを使う必要がなくなった
とすると日中関係は改善の方向に向かうかもしれません。
日中経済連携はハードランニングにおいても最重要のカードですから。

そして、これまで反日と中国シフトを進めた韓国もこの状況では日韓関係を改善する必要が出てきます。
ただ経済的には韓国はあまりにも中国市場に依存すぎていますから対応が微妙でしょうが。
とにかく国内政治が旅客船セウォル号の沈没事故以来、機能不全状態のようです。

さらに中国シフトの外交政策の影響は韓国の国防にも影を落としています。
ソウルの北部に駐屯していた最前線の米軍はソウル南部に移動することになりました。
米軍の本音は陸軍の韓国撤退で、有事はイラクの様に空爆で対応でしょうか。
元々冷戦の始めアメリカは、アリューシャン列島、日本列島、沖縄、フィリピンを太平洋の反共防衛線とし、 韓国はその外にあったため、それを見たスターリンが北朝鮮に侵攻を命じて朝鮮戦争が始まった歴史があります。

前の政権から米韓連合軍司令部の指揮権の返還を要求し、日本との軍事情報の共有の協定を拒否するなど 中国に気遣う外交もこの米軍の退却に関係しているのでしょうし、 仮に米軍が韓国から撤退すれば北を勇気づけ、中国を喜ばせます。

現在の対日外交も深く考えられたものではない感情的なものでしょう。
米軍と自衛隊の支援なしに韓国の国防はありえない事は分かっていても複雑な国民感情があるでしょう。
日本でも国防に関しては集団自衛権の議論のように国民感情は複雑です。 この次元に民主党政権は落ちて普天間基地問題をグチャグチャにしました。 沖縄の海兵隊のグアム島への後退は米軍も歓迎でしょう。経費は日本持ちですから。


中国の悲惨な統計、実体経済悪化の「予兆」
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0HB0AT20140916
中国経済に「ハードランディング」の恐れも
http://biz.searchina.net/id/1535027
オイルショックhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%A
B%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF
中国経済構造急転換、新興産業急成長
http://www.xinhuaxia.jp/social/47196
中国経済の減速は安定成長へ向けたステップ=大和総研が前向き評価
http://biz.searchina.net/id/1543857
中国への直接投資 減少傾向続く
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140916/k10014633801000.html
冷え込む中国の不動産市場、バブル臨界点を突破か 世界が注目
http://www.epochtimes.jp/jp/2014/09/html/d24375.html
中国権力構造の変化
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/195106.html
周永康は「500日かけて煮込まれた」
http://blogos.com/article/91863/
中国における反腐敗キャンペーンと経済構造改革
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0405.html
中国山西省で腐敗摘発強化 習近平氏の共青団潰しの狙いあり
http://www.news-postseven.com/archives/20140903_274147.html
習近平国家主席、軍改革のトップに 権力集中が鮮明
http://www.asahi.com/articles/ASG3H5QRHG3HUHBI01P.html
中国が刺激したロシア海軍の復活
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2014/08/post-3354.php
習主席「好戦的でない」、国境問題が対インド外交に影
http://jp.reuters.com/article/jpchina/idJPKBN0HD0V820140918
「中国共産党2.0」を目指す習近平の闘い
http://www.huffingtonpost.jp/toshiya-tsugami/chinese-communist-party_b_5706465.html
韓国国会マヒ、法案1件も処理できず…沈没余波
http://www.yomiuri.co.jp/world/20140918-OYT1T50009.html?from=hochi
韓国から静かに離れる米国
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140916/271306/?n_cid=nbpnbo_bv_ru&rt=nocnt
太平洋防共防衛線アチソン・ライン
http://chuka123.hatenablog.com/entry/2014/04/16/050248
韓国軍「離米」に最後の抵抗「作戦統制権」で岐路に立った韓国(重要)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130730/251726/?rt=nocnt



◆ソニーの苦悩と新生は国民的課題か◆

ソニーがスマホ事業減損で初の無配 というニュースは多くの人に少なからず衝撃を与えました。
またかよ!という感じもあるでしょう。業績の下方修正はこのところ頻繁ですから。
構造改革という名の人員削減が続いている環境で、業績が回復できない事はむろん経営責任です。
ともかくストリンガー体制以降、世の中を驚かせ、業界を震撼させる製品はソニーから生まれていません。
ソニーの不振の根本原因は組織の深いところにあるのでしょう。
多くの記事がリストラによる人材の流出や、ソニーの原点ともいうべき自由闊達な文化の消失、 構造改革の遅れ、コスト管理の甘さを指摘していますが、こんな発想ではソニーは生まれ変わる事は出来ないでしょう。
まだファンドの提案のほうが検討に値します。結論から言えば過去を捨てて生まれ変わるしかありません。

私も考えてみると、トランジスタラジオから始めてベータマックスやデジカメやオーディオ、パソコンなど、 ほとんどすべてのソニー製品は買ってきました。技術が好きな人はソニーの製品を買ってきたと思います。
ですからソニーの不振は人ごとのようには思っていません。まさに国民的課題です。
と同時に凋落していた日本の電子産業に対する追想です。なぜ追想か、それはすでに諦めの境地になっていますので。
電子産業の凋落について、責任は経営者だけではないと思います。エンジニアです。
特に技術系出身のマネジメントの責任は大きいと思います。
トレンドがわかっていても過去の経緯に拘泥して革新と変革の芽を摘み、抑えてきたことがあるはずです。

現場のエンジニアにも驕りと未熟さがあります。
私もほとんどすべてのソニー製品買ってきました。最近も10万円近いウォークマンを買いました。
率直にいうと、どの製品にもいつも不満が残りました。商品としての完成度がいまひとつです。
加えて品質に問題があることがよくあります。 組み込みソフトウェアの更新も非常に不十分です。
買うといつも裏切られた感じがしました。
それでも買い続けるのはやはりソニー頑張ってもらいたいという気持ちが強いのでしょう。むろん離れていったソニーファンは多いでしょう。
新しいソニーがどんな形に生まれ変わるべきか、国民的な議論をしたがどうでしょうか。
エレクトロニクス事業のOBが再建に乗り出してくるシナリオは最悪です。
ソニーを離れたエンジニアは二段ロケットに着火して新しい惑星に夢を託すべきです。
ところで、今や日本に残る最後のパソコンメーカーである東芝の事業も疑問符が3つくらいつきます。
1994年から7年間世界一であったようですが、それは2000年で終わっていますそれから15年何を考えてきたのでしょうか。
粘り強い!日本的な美徳でありますが電子産業凋落の共通因子でもあります。


「アップルにソニーが2度目の大敗」の重み
http://toyokeizai.net/articles/-/48395
消せないソニー首脳の責任論
http://diamond.jp/articles/-/59459
ソニー、広がる平井社長退任観測、後任は吉田CFOを軸に調整か
http://biz-journal.jp/2014/09/post_6094.html
ソニーは4Kテレビで復活できるのか?
http://thepage.jp/detail/20140417-00000017-wordleaf
トリニトロン、ウォークマン……ソニーが生み出した名品たち
http://thepage.jp/detail/20140224-00000007-wordleaf
なぜソニーだけが復活できないのか?
http://thepage.jp/detail/20140920-00000004-wordleaf
米ヘッジファンド提案はソニーにとって「良いこと」=平井社長
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424127887324353404579085783328878944
東芝 個人向けPC事業を縮小し法人向けへのシフトを強化
http://economic.jp/?p=40470
東芝、パソコン事業縮小 個人向け新興国撤退へ
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ1804Z_Y4A910C1TI0000/



◆米国俯瞰の旅◆

ボストンからシカゴそしてシリコンバレーと、米国俯瞰の旅をしてきました。 ある企業の次世代リーダー育成研修の修学旅行のようなものです。
中国も重要ですがアメリカとどう付き合うかが日本の国、企業にとって依然として最重要課題ですから。

まずボストンに行き1620年にメイフラワー号上陸のプリマスに行きました。 私は30数年ぶりです。 ここから現在のアメリカがスタートしたのです。 今回知ったのですが、メイフラワー号以降十年ほどで約2万人以上の移民が このニューイングランドに上陸して開拓を進め東部13州を形成しました。 北大西洋にシャトル便のような移民船が運行されていたのです。

当時のプランテーションが再現されていますが、小さな土間の家です。 そしてその近くに原住民の当時の集落が再現されていますが、
驚いたのは二つの住戸遺跡は縄文集落の三内丸山遺跡の住居よりずっと原始的で、 いかに一万年前の縄文時代の文化が高い水準にあったかを再認識しました。
ちなみに三内丸山遺跡は縄文の“集落”というよりも都市国家そのものです。
木と石という素材と、形は違いますがマチュピチの都市国家以上です。
そして、最初友好的な関係にあった原住民を虐殺し土地を奪って開拓を進めたわけです。
ボストンで1775年の独立戦争当時の遺跡を回るフリーダムトレイルを歩きました。
これも30数年ぶりです。プリマス上陸から約150年で独立です。
そのアメリカが飛躍的な発展を遂げプリマスから300年、独立から150年後の第一次世界大戦で、世界の覇者となったのです。
北米の豊かな天然資源を肥やしにして大きく羽ばたいたわけです。
しかしその過程で先住民族の浄化を行い、土地を奪っていったことも歴史的事実です。
第 2時世界大戦では日系市民を全て強制収容所に収容したことも、アメリカの歴史文化でしょう。 日米同盟に甘い期待は禁物です。

ハーバード大学、 MIT 、 Harvard ビジネススクールのキャンパスを見学しました。
研修生はこれまで見たこともありませんから。
天然資源に加えこの強力なリーダー人材の育成もアメリカの成功のもとです。
それが全て寄付で賄われていることのもアメリカの歴史文化です。
むろん西海岸ではスタンフォード大学の広大なキャンパスも見学に連れて行きました。
実はボストンではロボット企業いくつか見学したいと思ったのですが、すべて断わられました。
ほとんどロボット企業は軍関係の資金を受けているでしょう。
軍事利用が最大のロボット需要かもしれません。地上軍として人的損害を出しませんから。

シカゴでは国際工作機械見本市に行きました。
世界最大級の工作機械見本市で最先端の工作機械が展示されていました。
ただ来るべき電気自動車の時代にこの業界が受ける衝撃を考えると見え方が変わります。
この見本市はアメリカの製造業の伝統的な雰囲気を再認識する場でもあります。
私事ですが、日頃お付き合いが金融関係やIT関係そしてコンサルティング関係ですので その世界のアメリカ人とは違う、純朴で人懐っこい感じの人々を見るとほっとします。
これもアメリカです。

いつもの事ですが、私はメイン会場ではなくロボットや新興企業が展示している物を見て回りました。
これは次の時代のテクノロジーがベンチャーによって展示されているからです。
“すでに起こっている未来”を見つける、これが重要です。
次にシカゴ博物館にあるものを見に行きました。
受胎後8週間から37週間までの胎児の標本がずらっと並んでいます。
この世界に生れ出る前の人間です。これも30数年前に見ました衝撃を受けました。
命の尊さを確認する聖地です。人体のスライスした標本も衝撃的です。

そしてシリコンバレーに入りました。研究室のOBが何人か仕事しています。その一つのGoogleに行きました。
いつ行ってもものすごい活気があり大学のキャンパスのようです。まさに自由闊達の雰囲気です。
シリコンバレーは多様な才能と情報の巨大なるつぼで、これがイノベーションを生んでいるのです。
古典的なイノベーションの定義では新結合がイノベーションされていますが、 まさに出会いと混淆の場がイノベーションを生むプラットホームだと再確認しました。
この規模のプラットホームはここ以外無理でしょう。
世界中から才能が集まり、企業から企業へ転職することによって、巨大なるつぼが形成されているわけです。
シリコンバレーは世界の才能と人財を独占しています。
一人一人の能力は決して日本人は負けることありません。
ただ巨大都市東京でも才能の数と多様性が小さすぎます。

日本にイノベーションのプラットホームをどう作るか、これが日本の成長戦略の本質です。


シカゴ科学産業博物館の強烈な展示: 夢にまで出てきそう
http://blog.chase-dream.com/2011/01/25/1173



◆俯瞰のクッキング◆

社会的には高齢化が大きな課題ですが、これは寿命が伸びれば必然的にどの国でも起こることです。
問題は寿命が延びた高齢者が社会的な負担となることです。
とりわけ生きていながら自律的な生活ができないと家族や社会の負担が大きくなります。
ですから寿命延伸もさることながら自律的な生活が出来る健康寿命延伸が極めて重要です。

最近の調査では静岡県の浜松市が健康寿命で日本一です。
浜松市のある静岡県など健康寿命が長いところは食材が豊かで、就業率が高く、 喫煙率は低い傾向があったとあります。
平均寿命と健康寿命の差はじつに男性では10年、女性では12年です。
浜松市の場合は最短の健康寿命に対し実に5年も長いのです。財政的なインパクトも大きいでしょう。

平均寿命では長野県が1位です。長野県の調査では理由として就業率が女性4位、男性5位、 65歳以上の男性の就業率が全国1位(いずれも2007年)の特徴がみられたとしています。
さらに研究チームは「高い就業意欲や積極的な社会活動参加により生きがいを持って暮らしている」 ことが健康長寿の要因の一つとの見方を示しています。
他にも男性の習慣喫煙率が全国で44位(06年?10年)、女性の野菜摂取量が全国1位(同)と 「健康に対する意識の高さ」も特徴的だったとしています。
ではその野菜の摂取ですが、ロンドン大学の研究では野菜果物を毎日5品目とると死亡率が16%下がるということです。
あくまで新鮮な野菜と果物で、フルーツジュースのようなものではありません。
私は毎朝、人参、セロリ、レモンのジュースを作って飲んでいます。
オメガ3のエゴマオイルも入れていますが、加えてミニトマト、 ブルーベリー(ただし冷凍) 、さらにリンゴとかミカン、プラムなど季節によって食べます。
したがってここまでで5品目になります。そして少なくとも夕食には野菜料理を1ないし2品取りますから合格点ですね。

さらに踏み込んで、食すべき野菜は何かということになります。
ネットの記事では、スイスチャード、ルッコラ、コラードグリーン、チンゲンサイ、ケール とありましたが馴染みがない野菜が多いです。
前回は同様の記事として紹介した紹介した“最強の野菜は何?”の記事の方が判りやすいでしょう。
いつも食べている野菜をちょっと変えると強力野菜になるという記事もあります。


健康寿命、浜松市が1位
http://digital.asahi.com/articles/ASG5R56TQG5RULBJ00M.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG5R56TQG5RULBJ00M
平均寿命と健康寿命との差
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/chiiki-gyousei_03_02.pdf
長野県が平均寿命1位の要因
http://digital.asahi.com/articles/ASG525QFMG52UOOB00R.html?_requestur
l=articles%2FASG525QFMG52UOOB00R.html&iref=comkiji_txt_end_s
_kjid_ASG525QFMG52UOOB00R
野菜果物は5品目取れば死亡率が下がる
http://irorio.jp/daikohkai/20140805/153122/
病気知らずの体をつくる5つの最強野菜
http://irorio.jp/asteroid-b-612/20140826/157786/
最強の野菜は何?栄養素密度ランキングで1位に輝いたのは「クレソン」
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52168562.html
いつもの食材に置き換えるべき健康的な食べ物6選
http://irorio.jp/manamisgmt/20140611/138705/



◆ニューウェーブの俯瞰 手首の激戦◆

9月9日の新型iPhoneの発表で世界が湧きましたがその時同時に、アップルがウェアラブル、Apple Watchを発表しました。
久しぶりの新製品です。ウェアラブルについては、サムスン、ソニー、モトローラなどが先に発売しており、 アップルが出遅れていましたがこれで遅れを挽回できるでしょうか。
デザイン的にはアップルらしいユニークな製品ですが、機能としては先行する製品と大差なくやや失望感があるようです。
ただこのアップルのスマートウォッチで、単なるスマートフォンとつながる情報機器から 毎日腕につけるオシャレな新型の時計の市場が広がっていくのでしょう。

といっても先行する健康情報を主体としたリストバンドからは進歩しています。
Jawbone UpやFitbitといった多くのシンプルなフィットネス・トラッカーは、 いわば加速度計の万歩計の延長でしたが、腕で心拍数が計測できるとのことです。 加えてiPhoneのような情報端末としての機能がありますから、これまでのリストバンドの製品は脅威を感じるはずです。

宿命のライバルとも言えるGoogleも、同社の基本ソフト「アンドロイド・ウエア」を搭載した 新しいスマートウォッチを発表しましたが市場ではまだまだ新参者として見られています。 AppleのスマートウォッチがiPhoneとの強い連携を想定しているのに対し、 GoogleはBluetoothを使って各社の各種のウェアラブル機器を連携させることを考えているようですが すべてはこれからでしょう。

各社がこの腕につけるウェアラブル機器に熱いのは、この市場が急成長すると見込まれているためです。
調査会社によると2015年には世界中で5,000万台近い出荷が予想されています。
そしてこの市場はまずアップルが牽引すると見ています。
従って当座は、先行メーカーはAppleが開く市場の成長の恩恵を受けることになる と思いますが、すでにスマートフォンで見えている構図である、高機能で高価格のアップルと 低価格の中国メーカーの挟み撃ちに苦しむことが予想されます。
もしかしたらいきなり低価格端末に強いXiaomi(小米科技)が市場を席巻する可能性もあります。

今はナイキやアディダスというスポーツ企業がフィットネス用に新製品を投入して頑張っています。
私も2?3試しましたがフィットネスと睡眠だけでは飽きてしまいました。
いつもの事ですが、ソニーも当初自社独自のプラットホームに固執しましたが、 Androidの新型を発表しています。
スマートフォンの惨敗の印象が強いですから成功をあまり期待できません。
むろんサムソンとLGという韓国勢も新製品を投入してきています。
ここでサムソンはあくまで独自OSの製品を発表し、大きな賭けに出ています。
LGはAndroidベースです。

ウォッチといえば本家はスイスです。
潜在的市場価値が930億ドル(約9兆7,000億円)とも言われるウェアラブル市場に対し スウォッチグループは他社と提携せず、同社単独で参入するとのことです。
きっとデジタル企業やネット企業のセンスは全く違う新しい分野のスマートウォッチを市場に投入してくるでしょう。
最後に画期的というか極めてユニークなウォッチが、 戦乱に揺れるウクライナの企業から発表されています。文字盤がないのです。
リストバンドに付いている小型のプロジェクターで手の甲に情報を投影するというのです。
いかにもベンチャー企業らしいイノベーションです。

それにしてもこういった近未来の市場に対する日本企業の存在感が寂しいですね。
東芝もリストバンドを発表していますよ!
以下、発表文から:
---本商品は、加速度センサーで測定した情報を分析し、歩数・移動距離・消費カロリーなどの「活動量」と 睡眠時間・睡眠サイクルなどの「睡眠」を推定するリストバンド型の活動量計。 算出されたデータはBluetoothでスマートフォンへ転送され、専用アプリ上にグラフ等で表示される。
「食事」については専用アプリ上で写真を記録でき、活動量・睡眠・食事をトータルで管理することが可能---

これイノベーション?これで新市場へ参入?ビジネスモデルはどうなっているの? いつから日本の企業は突破力を失ってしまったのでしょう。
企業文化、統治機能、人材育成すべての面で時代の変化に遅れてしまったのでしょう。
時代に同期できない経営者が権力にしがみ付いていては、企業は衰退します。
企業トップの定年をあえて60歳にすることを提案したいですね。
経験知は他社の社外役員で社会に還元するとか、まだ仕事したい人はベンチャー立ち上げたらどうでしょうか、 もしくは社会貢献活動で健康維持を図られたいいと思います。


Apple Watchの登場で始まるこの冬のスマートウォッチの進化競争
http://news.livedoor.com/article/detail/9241767/
アップルウォッチに見るイノベーション力
http://www.newsweekjapan.jp/column/takiguchi/2014/09/post-880.php
アップルの「Apple Watch」、ライバル他社を青ざめさせる
http://news.livedoor.com/article/detail/9251846/
グーグルのスマートウォッチ まだ産声を上げたばかり
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304057704579649272961603760?tesla=y
グーグルの「Android Wear」、Bluetoothヘッドセットとの連携やGPSに対応
http://japan.cnet.com/news/service/35053233/
ウエアラブルバンド市場はAppleがけん引、2015年の出荷台数2.3倍に
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/14/091200861/
アディダスやナイキが開発するスマートウォッチが進化している
http://matome.naver.jp/odai/2138259316889164401
ソニー「SmartWatch 3」がAndroid Wear
http://k-tai.impress.co.jp/docs/event/ifa2014/20140903_665052.html
サムスン Gear S発表、3G対応スマートウォッチ
http://japanese.engadget.com/2014/08/28/gear-s-3g-os-tizen/
Android Wearの第1弾、スマートウォッチ「LG G Watch」
http://gigazine.net/news/20140707-lg-g-watch/
スウォッチグループは他社と提携せず、同社単独で参入
http://wired.jp/2014/09/04/swatch-touch-smartwatch/
文字盤がないブレスレット型腕時計「Ritot」が凄い!
http://matome.naver.jp/odai/2140816880282594601
東芝:2週間充電不要のリストバンド型活動量計を8/20に発売
http://www.sakurafinancialnews.com/news/6502/20140811_9



◆俯瞰の書棚◆

今回のご紹介は「月の裏側」クロード・レヴィ=ストロース 中央公論新社 2014です。
この本は「悲しき熱帯」で有名な文化人類学者のレヴィ=ストロースの比較的最近の講演や対話集を編集したものです。

レヴィ=ストロースは2009年に100歳でこの世を去っています。
間違いなく20世紀の「知の巨人」でです。この本は最近新聞の書評欄で見つけて読みましたが、是非ご一読をお勧めします。
また訳者の川田順三教授は「悲しき熱帯」の翻訳者であり生涯友人関係であったようです。
最良の翻訳者だと思います。
この本は九つの記事から構成されていますが、最初の「世界における日本文化の位置」と 次の「月の隠れた面」が特に興味深いですね。

レヴィ=ストロースは幼少の時、画家であった父親から勉強のご褒美に浮世絵をもらって これを大切にしていた関係でしょうか。日本に対する興味と深い愛情が滲みでています。
彼は人類学者の仕事は、「土着の人たちが近すぎて知ることができなかった全体の眺めを消化して輪郭に還元された眺めを提供することである」としています。
まさに俯瞰的視座です。その視座から日本についていくつか含蓄の深い認識を述べています。

まず西洋人は神話と歴史をはっきりと分けているのに対し、 日本では神話と歴史の相互が親密につながっているとしています。
この本を読んで初めて知りましたが1876年にはイギリス人によって「古事記」と「日本書紀」が西欧に紹介され 1880年と1890年になんと英語訳とドイツ語訳が出版されているのです。

当時開国したばかりの日本に対する西欧の関心と研究熱心さに驚きます。
そしてさらに興味深いのはこの翻訳も出ていない1755年に、あのジャン=ジャック・ルソーは 「あまりに僅かしか知らされていない文化を、現地に行って研究することが緊急に必要であろう」と 北半球では15ほどの国を挙げそして「特に日本は」と日本に対し特別な地位を与えています。

レヴィ=ストロースは文化人類学者の立場から日本の神話に独自のものはなく、 アメリカ先住民と日本とインドネシア三地域の神話は細部に至るまで一致していると言っています。
では日本文化の独自性は何かというと、大陸の東の端という地理的環境と断続的に孤立していた状況が、 日本を出会いと混淆の場にし、一種のフィルターや蒸留器のような機能を持たせたと言います。
そして日本の旧跡時代は他に類を見ない豊かな時代であったと同時にそれに続く縄文の時代こそが日本的美意識の変わることのない特徴を与えているとしています。
そして構造主義の視座からは日本は「分割主義」であり絵画でも料理でも音楽でも共通しているというのです。

絵画の大和絵は、描線をはっきりさせその部分、部分に鮮明な彩色をしている、 料理においては素材や味を混ぜ合わせることを避け、素材を盛り、食べる時に各自が主体的に組み合わせをして食する、 そして音楽でも和音の体型がなく楽音と虫の声のような噪音が巧みに組み合わされているというのです。
そして日本人については「日本では一人一人が熱心に自分の勤めをよく果たそうとしている事に心打たれる」としています。

さらに日本はヨーロッパからそしてアメリカから多くのものを受け取りましたが それらを入念に濾過し最上の部分だけを上手に同化したので、現在でも日本文化は その独自性を失っていない、即ち明治時代の初めに日本が西洋と対等になろうとしたのは 西洋に同化するためではなく、西洋から自分をよりよく守るための手段を見つけるためだった、 としています。まさに慧眼ですね。

日本らしさとして挙げているのが、音楽、グラフィック・アート、そして料理です。
ちなみに晩年の好物は炊飯器で炊いたご飯と海苔だったそうです。それで100歳!
この本を一読すると日本に対する認識が深まり俯瞰的な理解が深かまると思います。
別な本の 「レヴィ=ストロースの庭」港千尋 NTT出版、 は写真集ですがレヴィ=ストロースの世界を理解するのに良い本だと思います。





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◆俯瞰 MAIL 0042号(2014年9月24日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
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編集長:   松島克守
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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