不安定な国際秩序


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皆様

◆時候ご挨拶◆
爽やかな新緑の春を楽しむ季節は短く、梅雨入りで豪雨、多分梅雨明け猛暑でしょう。 日本以外でも天候の大荒れが報告されるでしょう。 地球温暖化による気象構造が変わってしまっていると思います。 これを前提に生活、農業そして産業全体が変革を迫られていると思います。

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・不安定な国際秩序
・少し動き出したか規制緩和
・パキスタンに行ってきました
・俯瞰のクッキング
・デジタル世界の俯瞰
・俯瞰の書棚
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◆不安定な国際秩序◆

国際関係に関するいくつかの重要なイベントが6月初めにありました。 まず6日にベルギーでロシア抜きのG7が開かれました。 むろんG7には中国は入っていません。日本が唯一のアジア・アフリカからの参加国です。

声明は、「力による領土の変更を認めない」という共同宣言でしたが、 どうも実態は各国首脳の思惑の違いから「呉越同舟」状態だったようです。 欧州の金融と経済はロシアと切っても切れない関係です。 これ以上のロシア制裁に踏み込めません。 ですからさらに強いロシア制裁を求めるオバマ大統領の話を素直に聞くわけがありません。

一方オバマ大統領は、これまでの優柔不断な外交が現在の混乱の基であるという 国内の批判を払しょくするために、ロシア制裁を強く主張するしかありません。 国際的な孤独感は有っても、このようなG7の状況を見ながら プーチン大統領はクリミア問題の既成事実化を着々と進めているでしょう。 東ウクライナでの一定程度の譲歩と引き換えにウクライナが一定以上に EUに連携しないことを強要してくるでしょう。

力による領土の変更を認めない、という声明の文章も欧州はウクライナ情勢を指し、 東シナ海や南シナ海の中国の進出も意識していないようです。 日本のメディアは、G7で中国の海洋進出を懸念すると報道していますが。 可哀想ですがこれまでのように日本の首相はG7では孤独な“お客さん”のようです。

ウクライナの新しい大統領が就任し、就任式にはロシアも外務大臣を送り、 中国の習主席も祝電を送ったということで、ここで国際世界から認知された安定政権が 発足することになります。 むろん新大統領は、「クリミアはあくまでウクライナの領土で妥協はしない」と 力強く政治家らしい立場を言明しています。
現実的には、依然続く東部ウクライナの戦闘をどう収束させるかです。大量の武装勢力が ロシア国境から依然流入していると報道されていますし、ウクライナ軍の輸送機が撃墜さ れていますから、手持ち式の対空ミサイルがロシアから供与されている可能性があります。 東シナ海と南シナ海の問題に対しても同様な欧米の足並みの乱れが想定されます。ヨーロ ッパとくにドイツは中国との経済関係の拡大を意図しています。従って公式的には中国の 海洋進出に対する批判をしながらも一方ではそれ以上の厳しい批判を避けるでしょう。 ただ清代の古い地図をドイツを訪問した習主席に贈ってやんわりと 欧州人の東アジアの状況に対する歴史的な認識を示しました。

アメリカはここアジアでも難しい立場に立たされています。日本、台湾、フィリピン といういわば軍事同盟を結んでいる国々の脅威に対し、これまでのような曖昧な姿勢と 行動を取り続ければアメリカの国際的な信頼感はさらに落ちます。 一方ではイラク戦争、アフガン戦争と戦争に疲れた米国民は海外での紛争に巻き込まれる のはごめんだと言う気持ちでしょうから、ネオコンのブッシュ大統領のような 無茶な行動はとてもできません。どうするオバマ大統領!


G7首脳会議、ロシア批判展開し閉幕 制裁には温度差

きしみ目立つ首脳外交 指導者に「自国本位」の誘惑

空回りするG7の安倍首相

ノルマンディー式典で首脳外交

欧米、危うい対話路線 露、クリミア「不問」に自信

米大統領「ロシアの孤立深まる」 プーチン氏との対話で

ウクライナで、ポロシェンコ大統領の就任式

中国主席、ウクライナ新大統領に祝意

ウクライナ親ロ派勢力が軍輸送機撃墜

習近平氏への贈り物は「尖閣もチベットも領土ではない中国古地図」



◆少し動き出したか規制緩和◆

久しぶりに東証株価が1万5,000円台を回復しました。アベノミクスというかアベノマジ ックの効果でしょうか。世界最大といわれているわが国の年金基金も株式投資の部分を増 やすというリップサービスをしています。欧米の株価も好調の上、円安傾向もあり、 このままぐっと上昇するという感情の高まりが株価を上げているのでしょうか。 ともかくこれは悪くありませんね。昨年の5月、安倍首相が成長戦略を発表している最中 に、内容に対する失望から株価が急落したという苦い過去があります。

1年経った今、少しずつ具体的な政策が見えてきたからでしょう。まず女性の登用を義務化 する法律を整備するとか、企業に女性役員の登用を働きかけるとか、共働き家庭などの小 学生の放課後児童クラブの整備、そして待機児童解消に向けた支援などを年度内に行いた いという明確なコミットは市場が当然評価したと思います。

いわれて久しい法人税率低減ですが、やっとこれも動き出す気配です。 13年度の納税額で 法人税が最大1兆円上振れし、大企業は5割の増収という結果も背中を押したのか、与党 の税制部会も法人税減税の方向に舵を切りました。むろん財政再建の大命題がありますか らそれに代わる課税の拡大という条件付きですが。確かに法人税を払っていない企業の方 が多く、本来納税すべき企業に対し単なる会計上の数字で所得税を減免するのではなく実 質的な付加価値に対して一定程度課税すべきだと私も強く思っていました。
次は農業改革です。政府はJA全中と言う中央会制度の廃止や、 JA全農の株式会社化を与 党と協議に入りました。当然これはJAを支持基盤とする自民党議員から猛烈な反発があり ますが今回はある程度前進するのではないかという期待値を持たせています。企業の農業 参入についても農地所有を認めないが農業法人への出資比率を50%未満までに緩めること を検討しています。

抵抗勢力といわれている農業族議員ですが、農業のGDP比率は1.2%もしくは1.4%で す。この数字と農業族議員%の不公平性の解消こそ、いわゆる議員定数是正が必達要件で す。定数削減に反対する議員と農業改革反対の議員は多くは重なるでしょう。ですから憲 法違反状態の議員定数の是正こそが真の成長戦略なのです。
次は長い議論が続いている混合医療です。これもやっと少し前進するようです。混合医療 とは、いまは保険診療に自由診療を組み合わせると、本来なら保険が使える部分も含めて 全額自己負担になると言う不思議な規制です。簡単な例ですと健康診断と治療を同じ日に、 同じ病院で受けられないのです。自費負担の人間ドックは自由診療で、ついでにいつもの 診療科で治療を受けると保険の対象から外されます。東大病院で体験しました!
対応策として、医師と患者の合意を条件に大幅に広げる「選択療養」という新しい枠組み を導入しようとしているようです。ただこれも混合診療の審査をこれまで数カ月かかって いた審査期間を6週間に短縮するということですが、その間に患者は生きてないかもしれ ません。

各規制緩和に共通するのは既成勢力に譲歩してなんとか前に進めようとする努力、これは 認めますが、この例では肝心な患者の命という事は二次的になってしまいます。
むろんこの「選択医療」という混合医療についても強力な反対勢力があります。医師会で す。この医師会も実態以上に政治権力を振り回しすぎます。これも東京、名古屋、大阪と それ以外の議員定数の不公平な割り振りが根本にあると思います。都市部以外では開業医 の影響力は社会的に強いものがあります。彼は地域の有力者で、議員の有力な後援者です。 反対の建前は国民皆保険と言う理念の追求です。国民皆保険はそれ自体日本が誇るべき社 会制度で、長年にわたってアメリカの民主党政権がその実現を試みながらも挫折している 社会課題です。国民皆保険は日本国民に平等に高い水準の医療を提供していることを認め ますが、これが混合医療と相容れない訳ではありません。考えられないような医療法人に 対する税制上の優遇措置の上に築かれた利権の維持が目的でしょう。小泉元首相は「抵抗 勢力はビジョンを熱く語る」と言ったそうです。

しかし上に述べた懸案の規制が少し取れるだけでも、日本経済は活性化します。そして消 費税率を上げても2-3%程度の経済成長は実現し維持できると思います。 ただし2-3%の成 長率は現在の日本の実力であって、活性化してもゆめゆめ昔の高い成長に戻る事はありま せん。それ以上の成長は大胆な“出生改革”次第です。3人産む人をもっと優遇しないとい けません。


東証2カ月ぶり1万5000円台回復 成長戦略に高まる期待

成長戦略:女性登用義務化

与党 課税ベース拡大を前提に法人税減税へ

法人税最大1兆円上振れ 13年度納税額、大企業5割増

中央会制度廃止や全農株式会社化 JAは反発

JA全農に株式会社化促す 農政改革、政府が骨格1

JA全農に株式会社化促す 農政改革、政府が骨格2

農業改革:政府 JA全中の廃止容認 5年後

自民、政府の農協改革案に批判続出 月内にも対案

混合診療、2016年度にも拡大 全国の病院で実施

混合診療、審査を6週間に短縮

規制改革会議が提言している「選択療養制度(仮称)」への反対決議が全会一致で採択



◆パキスタンに行ってきました◆

ビジネスモデル学会の定例の海外視察でパキスタンに行ってきました。パキスタンはあま り日本人には馴染みがありませんが、人口が約1億8,000万人で、数少ない日本より人口 の多い国です。面積は約日本の2.1倍です。主要産業は、基本は農業ですが、輸出産業は 繊維産業や食品産業の割合が大きく、また天然ガス等の天然資源も豊富とは言われていま す。インドとの3度にわたる戦争で負け、そのため1998年に核実験を成功させ今は核保有 国です。また保守的なイスラム文化に支配され、特に女性差別は目に余ります。
なぜパキスタンか、ですがビジネスモデル学会には大使館プログラムがあります。その第1 回目が東京のパキスタン大使館でした。大使や公使にお会いすると「インドまでは多くの 日本人がきて多大な投資をしていますが、パキスタンには極めて少ないのです。しかしパ キスタンには大きなビジネスチャンスがありますから是非日本との関係を深め投資を呼び 込みたい」ということでした。学会として何かできることがあれば支援したいということ になりましたが如何せんパキスタンに関してほとんど知識がありません。で、ビジネスモ デル学会の会員有志で視察団を編成して訪問したわけです。

まずカラチに入りました。かなり熱い、埃っぽい、そして喧噪の街です。訪問前に大使か ら、「カラチは危険という印象ありますがカラチで死んだ日本人ビジネスマンはいません」 と言われてきましたが、町中に銃が氾濫しています。我々のチャーターしたバスにも抜き 身の拳銃を右手に持ったガードマンが同乗します。ショッピングセンターや主要な施設お よび企業にはライフル銃を肩に掛け所持しているガードマンが2、3人警備しています。あ る意味では強盗などに襲われるリスクは少ないです 。

最初の訪問企業はカラチ郊外のインダスモーター、すなわちトヨタ自動車です。現地との 合弁で小規模に主としてカローラを組み立てています。ボディー溶接以外は大半が輸入か 現地調達です。溶接作業はすべて手作業です。重労働です。合弁のためもあって完全なTPS すなわちトヨタ生産システムは出来ていないとのことです。それでも5Sと小集団活動は行 われていました。

この厳しいカラチに赴任され、ほぼ一から自動車生産の立ち上げでご苦労されている最前 線の企業戦士にお会いして改めて日本人のポテンシャルを再認識しました。先頭に立って 自動車産業を立ち上げたトヨタ、ホンダ、日野、スズキの努力の結果、パキスタンでは日 本車が市場をほぼ独占しています。東南アジアの自動車産業も日本勢の先行戦略で市場の リーダーシップを握り欧米は手が出ない状態です。

次にカラチ市内の三菱東京UFJ銀行のカラチ支店に伺いました。そこで非常に良く纏まっ た、パキスタンの概要とビジネス機会そして課題を説明して頂きました。
名目GDPは世界45位240億ドルですが、一人当たりの名目GDPは世界147位の1,304 ドルです。ただかなり大きい裏経済の存在があります。その規模はGDPの36%と推定さ れています。また出稼ぎから140億ドルというGDPの36%に相当する大量の送金があり ます。これは全輸出額240億ドルに近い額です。そのためかショッピングセンターや高級 住宅地の商店やレストランはかなり繁盛しています。格差が相当大きい国です。なにしろ 富裕層は力を使って納税しない国だそうです。したがって税収が少なく国は貧困です。そ のため社会インフラは貧弱で、驚いたことに現在でも義務教育の制度はありません。結果 として識字率は男性69% 、女性45%です。これに敢然と挑戦し、女性の教育を世界に訴 えた若い女性がイスラム―タリバーン運動(TPP)に頭を銃撃され重傷を負いました。そ れでも要求を続ける勇気に対し彼女はノーベル平和賞の候補にノミネートされました。一 方連邦予算の18%が軍事費です。戦前の日本もこんなものだったのでしょう。

日本にとって良いこともあります。日本という国が好きか、日本人が好きか、日本製品は 好きかという調査では100%大好き、好きでアジアで最も親日的な国です。ちなみにこの調 査におけるアジア各国の評価ですが、韓国が最悪で次に中国です。パキスタンでは幾度か 日本人はリスペクトされているという言葉を聞きました。仕事がパーフェクトであるとの ことです。これは日本製品の品質と技術力、最前線にいる企業戦士やジェトロ、 JICAな どの方々の献身的な仕事ぶりが高く評価され、それが日本という国、日本人の評価に繋が っているに違いありません。改めて国際関係における個人の責任を再認識しました。

一方アメリカは18億ドルともいわれる援助をしているにも拘らず、アメリカ人は嫌いとい うことです。隣国のアフガニスタン、イラン制裁、イラク戦争を目の当たり見てくれば同 じイスラム教徒として嫌悪感を持つのは当然でしょう。ただ結構ショッピングモールには お馴染みのアメリカ系企業が出店していますから製品として好きなものは好きでもあるよ うです。
パキスタンに入って初めて体感できたことですが、人種的にはインド人よりもずっと欧米 系の感じの人達です。服装は、富裕層は女性を含め殆ど完全な欧米スタイルですが庶民の 女性は殆ど伝統衣装です。パキスタンの企業にも何社か訪問しました。いずれも国内市場 が小さいため輸出志向です。マネジメントと話すと驚くほど欧米スタイルで水準が高い人 たちです。失礼ですがビジネスリテラシーという面では、日本の通常の企業経営陣より洗 練されています。殆どが欧米で教育を受け欧米のビジネスを経験している富裕層でしょう。 パキスタンはアパレルが主要産業です。欧米のH&M等のジーンズは殆どパキスタンで作 られているようです。また皮革業も盛んでヨーロッパの多くのブランドの製品を製造して います。特にサッカーボールは世界の大半を供給しているようです。これがヨーロッパか ら日本に輸入されます。

パキスタンの社会はまだよく理解できませんが、どの企業も社会的課題を解決する事業に きわめて積極的に取り組んでいることが印象的でした。この辺は日本企業より進んでいま す。個々の個人は友人を大切にし、周囲の人々との間では固い信頼で結ばれた強いコミュ ニティを形成している事が、目にした幾つかの事例から判りました。実はカラチ滞在中は 例外的な緊張状態にあり街中の道路は大混乱でした。理由はイギリスに逃亡している野党 指導者がマネーロンダリングで英国当局に逮捕され、その抗議のデモが荒れ狂っていまし た。カラチからラホールに移動する日も渋滞で車は殆ど進めません。GoogleMapで動いて いそうなルートを探索しながらの移動です。予約していた空港近くのレストランをキャン セルしました。するとレストランの主人は動かないような渋滞の中をオートバイでバスに 駆けつけ、空港近くの地点に予定していた食事を電話で指示して、テイクアウトのパッケ ージで届けさせました。とてもそんな事が出来るような状態ではないにも関わらず。そし て暫く行くと道路で人々が渋滞中の車の中の人たちに水を差し入れています。聞くとその 地域のボランティアが行っているとのことです。さらに空港出発前に企業訪問したジーン ズ企業の人が、危険で大渋滞の中を空港までプレゼント(Give Away)を届けに来ていまし た。これまで行った新興国では見られないコミットメントと信頼の絆を強く持っている 人々でした。この人々達と仕事をすることは他の国の人たちとよりもリスクがないかもし れないと思わされました。

ラホールはかつてのムガール帝国が城を築き根拠地とした地ですが、緑豊かで相対的に平 和な街です。これはカラチが歴史的な民族の吹き溜まりに対して、ここは殆ど単一民族で 構成されている事によるようです。高級住宅地には高級ブランドを売る店や洒落たレスト ランが軒を並べています。ただ気温が昼は47度、夜でも40度以上という酷暑の街で焼け たフライパンの底にいる感じです。デング熱もあります。トヨタとスズキそして今度進出 するヤマハ発動機はカラチですがホンダはラホールが拠点です。
ここまでパキスタンの負な面を幾つか書きましたが、最大の要因は貧富の格差であり、過 激派の内ゲバに似た部族間、私的な権力争いが原因です。この地域の多くの国は部族分断 の英国植民地経営からいきなり人工的な国境線が策定され宗教・民族問題を抱えたまま建 国したため、国家の規範よりも部族の規範を優先する前近代的な社会のままです。さらに カラチなどは狭い地域に多くの部族・民族がひしめき合って居住しているため、互いに“シ マ”を作り小競り合いをして治安を悪化させています。“シマ”の掟が国家より優先されま す。

そしてテロの構図は富裕層に支配されたパキスタン軍と、TPPと呼ばれる過激派がイスラ ム教という宗教を楯に、未来に救いのない貧困の中に苦しむ下層階級の若者を煽り利用し ている構図ではないでしょうか。

長くなりますので詳しい報告はビジネスモデル学会のサイトに後で上げたいと思います。 これを書いている間にカラチ空港が武装集団に襲撃されたニュースが入って来ました! このパキスタン視察も「現地に行って、現物を見て、初めて現状を理解できる」という日 本の行動原理に基づいて決行されました。


パキスタン

印パ戦争

銃撃されたパキスタン少女がノーベル平和賞候補に

パキスタンで頻発する「名誉殺人」とは一体なにか?

タリバーン系過激派が分裂、内紛で幹部暗殺も

パキスタン・タリバーン運動

カラチの国際空港に襲撃、21人死亡



◆俯瞰のクッキング◆

創刊号から「頭が良くなるクッキング」と言う連載記事を書いてきましたが今回からコラ ムのタイトルを表記に変えたいと思います。内容はほとんど変わらないと思いますが、気 分を新たにするためです。実践が難しくない健康な食習慣の追及をしていきます。 このところ、出汁、鍋、包丁と、書いてきましたが今回はこれからの季節に私がちょくち ょく作るお気に入りのレシピを紹介します。夏野菜が豊富に出回る季節になります。トマ ト、ナス、きゅうり、ズッキーニ、ピーマンなどです。この季節に、つい作ってしまうのがガスパチョです。材料を入れてミキサーでよく攪拌して冷蔵庫で一晩冷やせば出来上が りです。野菜ジュースではなくサラダのような野菜料理の一品です。
次はラタトゥイユです。これはナス、ズッキーニ、ピーマン、玉ねぎ、ニンニクをオリー ブ油で炒め、湯むきトマトと一緒に水を加えずに煮込みます。味付けは塩こしょうだけで す。あったかくても冷めていても美味しいです。ガスパチョはもともと好物ですが、以前 スペインを旅行した時、行く先々の土地でガスパチョを注文しました。一緒にパエリアも 注文して味を比べてきました。結論から言うとガスパチョもいろいろありますがスペイン レストランのガスパチョは日本のレストランのガスパチョに比べるとかなり水っぽい感じ でした。ちなみにパエリアも日本で食べるパエリアの方がずっとおいしいと思います。た ぶん日本人好みに仕上げてあるのでしょう。この2つの料理は自宅で、自分で作るものが 最高だと自負しています。

ガスパチョとラタトゥイユのレシピは料理本やネットに数多くあります。もともと簡単な 料理ですからお手軽をアピールするレシピよりも本格的レシピの方をお勧めします。たぶ ん自分流のガスパチョのレシピができてくるでしょう。地中海式料理はラテン風にアバウ トで良いのです。


ガスパチョのレシピ1

ガスパチョのレシピ2

ガスパチョのレシピ3

ラタトゥイユのレシピ1

ラタトゥイユのレシピ2



◆ニューウェーブの俯瞰◆

このコラムも長らく「デジタル書斎」というタイトルで連載してきましたが、 デジタルのニューウェーブを俯瞰的に理解するという視点を強くしたいと思います。 AppleやGoogleそしてAmazonが仕掛けている新しいプロジェクトを俯瞰的に見るだけで 近未来が大きく変わることが認識できます。ただあまりにも革新的でかつ具体的そして実 現可能性が高いので社会に対し大きなインパクトを与え、産業構造を大きく変革していく ことは間違いありません。この波は単にデジタル機器や音楽配信のサービスを変えるのではなく、 社会インフラに関する産業や自動車産業といった現在の基幹産業に大きな変革を迫ると思 いますが、これに改善志向の日本の企業や産業がついていけず取り残されていくことを恐 れています。手がけていますが何か時代感覚がずれています。それは近未来を俯瞰的に理 解できていないのではないかというのが私の仮説です。

今回は詳しく書きませんが、 Appleはこの秋に発表される新しいOSの機能として健康を 志向した機能を盛り込む発表をしています。これに呼応して新しいサービスが、アプリが 開発されて発表されるでしょう。 Googleの最近の買収攻勢は尋常ではありません。ロボッ ト関係、人工知能関係、自動車、人工衛星等々、創業から15年で143社、総額2兆6,800 億円と言う巨額です。これらを俯瞰してみれば、取分け最近の買収案件を俯瞰してみれば Googleが目指している世界、野望が見えてくるでしょう。

Appleも最近技術Beatsという高級ヘッドホンと無料音楽配信のベンチャーを3,000億円 と言う高額で買収しています。 Apple自身が時代の流れ、市場の変化に必死で対応しよう としているからでしょう。

この視点からの情報の俯瞰はまだできませんので今回はこれまでにします。


シリコンバレーで1番企業買収を行っている企業はGoogle

過去の企業買収から読み解くグーグルの投資戦略

アップル、ビーツ買収はリスクはらむ賭け云々

iPhone発売以来Appleが買収した21社



◆俯瞰の書棚◆

今回のご紹介は 「日本語練習帳」 大野晋 岩波新書1999と、「文章のみがき方」  辰濃和男 2007 岩波新書 です。

読むこと、書くことは人間だけに与えられた特別な能力です。識字率と言う言葉がありま すが、読み、書きの能力です。人は健康体である限り母国語の会話には不自由しません。 外国語の場合は、読み、書く、話す、聞く、はそれぞれ訓練を受けます。日本語は不思議 なことに小学校以来国語の教育を受けてきましたが、この4つの特別な訓練は無かったよ うに思います。

実は本郷で授業を長年持っていますが、日本語の読み、書く、話す、聞く、が完全な学生 は殆どいません。入試に現代文がありますから、読むことについてはほぼ問題有りません が、書く、話す、聞く、については結構問題があります。ですから開講している俯瞰ゼミ ではこの日本語の4つの能力を磨くことを意識し、そのことを学生に伝えて、磨く必要が あることを話します。何故ならば彼らは日本の次世代のリーダーに成るべき人材だからで す。そしてリーダーには明快で、簡潔で、論理的な言語コミュニケーション能力が必須で あることを再認識してもらいます。ですから日本語については120%の能力を目指して磨き をかけるように言います。

話す、聞くという訓練は質疑応答で行います。ゼミでは毎回それぞれチームに分かれて課 題に対する発表をします。まずここできちんとした日本語で話すことを訓練します。 4月 初めに酷い日本語を話していた学生たちも日本語120%を意識しているので5月末にな ればかなり水準が上がります。話し方が長たらしい、くどい、論理的な構成のない日本語 を話さないようにするためにはもう少し時間がかかります。

質疑応答はどれだけ意味的な内容を聞いて吸収しているかのチェックです。質問自体が日 本人特有の言いたいことがはっきりしない、言いたいことが判らないダラダラした場合に は、注意して質問をやり直させます。質問がプレゼンテーションに対してポイントがずれ ていると、それは音響的に聞いていても意味的に聞くことが出来ていない、隠されている 意味構造を認識出来ていない、そして話者の論理的な主張を聞くことが出来ていないわけ です。次に質問の答えですが、もともと構造が崩れた質問の日本語から質問する人が何を 知りたいのかを抽出し場合よっては一部を推定する「聞く」という訓練です。質問を簡潔 にかつ判り易く投げかける能力、それに対しビシッとボールを撃ち返すように簡潔に応え る能力、これを質疑応答で磨きます。

読む能力は相対的に高いと言いましたがそれをさらに磨くために、ビジネスに関する論文 を読みその要点を抽出し、それに対して自分の、グループの認識・評価と対案を纏めさせ て発表します。今年はリーダーシップに関する論文を9本読んで、リーダーシップのモデ ルの分類とこれからどういう風に自己研鑽をしてリーダーシップの能力を磨くのかを発表 しもらいました。この課題はリーダーシップに関する知識を得ると同時に日本語の読解力 の訓練です。論文読解の課題はほかにもあります。

このゼミの中では文章を書くと言う訓練はしません。研究室に学部学生を持っていたとき は卒論を仕上げる過程を「日本語を書く」訓練としました。そして論文とは論理的な文章 であり、エッセーではないと強く言います。論文は長文ですから、文章の論理的な骨格が 必要です。これはワードのアウトラインという機能で作るのです。多くの人はワードを単 なるテキストエディタとしてしか使っていません。であればあのワードを使う必要はあり ません。アウトラインの機能使って文章の骨格を論理的にデザインし、それに文章をつけ ていくのが論文の書き方です。

かくいう私も日本語の能力について不十分だと自覚しています。取分けこの俯瞰メールの ように文章を綴り、人様に読んでもらう以上、より良い日本語を書く努力をしなければな らないと自戒して日本語に関する本を何冊か読んでいます。今回取り上げた2冊は比較的 最近読んだ本です。
まず「日本語練習帳」は私が購入したものが実に56刷ですから大ベストセラーです。もう 読んだ方も多いかと思います。この本の要点は、「単語一つ一つを丁寧に選択すること」、 文法について言えば「ハとガを正しく使い分ける事」、夏目漱石が多用したという「のであ る」 「のだ」を使わない、そして「ガを使うな」というアドバイスです。そして国語力を 磨くために「縮約」という、要約や要点を取るのではなく、文章全体をぐっと圧縮する、 訓練を勧めています。

「ガを使うな」という事は何十年か前に読んだ同じ岩波新書の清水幾太郎の「論文の書き 方」にもあって他の内容はほとんど忘れましたが以来「ガを使うな」という教えはずっと 気にしています。

「文章のみがき方」は朝日新聞の記者として職業的に日本語を書いてきた著者の助言です。 文字通り磨き方が書いてあります。そしてこの本は非常によく纏められています。ですか ら著者の言わんとするところは誰にも理解できると思います。この本をもっと早く読んで おけばよかった、と思わせてくれました。
要点そのものが目次になっていますからその一部をご紹介しておきましょう。

1 毎日書く、2書き抜く、3繰り返し読む、4乱読を楽しむ、5歩く、6現場感覚を鍛える、 7小さな発見を重ねる。以上が基本的なことで、辞書を手元に置く、借り物でない言葉で書 く、単純簡潔に書く、具体性を大切にして書く、推敲する、落語に学ぶ、動詞を中心に据 える、渾身の力で取り組む、など具体的なアドバイスが簡潔に数多く紹介されています。 自分が知的価値を創出する職業人であることを意識している人であれば、日本語を書く能 力は職業人として生涯磨いていかなければなりません。 洒落たスライドのプレゼンテーションだけで仕事になっていると勘違いしている人も少なくありませんが。
仕事の中に「書く」という仕事がある人、「書く」という知的価値を付加価値としようとす る人はこの本を読むと少しキャリアをアップ出来るかもしれませんね。




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◆俯瞰 MAIL 0041号(2014年6月12日)
発行元: 一般社団法人 俯瞰工学研究所
発行人:   松島克守
編集長:   松島克守
URL: http://fukan.jp
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※本記事は松島克守氏の許諾を得て、再録したものです。


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